第53話
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「光の玉の入手の際の注意事項は、突然現れては消える。
強烈な打撃攻撃、怪力とある。
攻撃力が強そうだから、レイや源五郎は特に気を付けてくれ。
じゃ行くぞ。」
ツバサを先頭に俺と源五郎が続き、最後はレイが螺旋階段を昇って行く。
着いた先は、先ほどまでと変わらない10階部分だった。
但し、ここには中央部の太い柱は見当たらない。
ただひたすら、向こうの壁まで見通せるくらいの広い空間が広がっている。
所々に支柱が立っている以外は何もない。
違いといえば入口がないと言う事と、中央部の柱があった辺りは、柵で囲まれているくらいか。
そいつは、その中央部に浮かんでいた。
先ほどまで出現していた、お化けを巨大にした奴で、半透明で向こう側が透けて見えるような姿をしていて、いきなり長い腕を振り回してきた。
「きゃあ!」
「わっ!」
俺はすぐに身を屈めて攻撃を避けたが、源五郎とレイは後方へ弾き飛ばされた。
ツバサはジャンプ一番腕を避け、そのまま駆け寄り、相手に蹴りを入れようとする。
『スカッ』と音がする訳はないが、巨大お化けは瞬時に姿を消し、ツバサの攻撃は空振りに終わる。
『ドゴーン!』石で出来た床が砕け散るくらいの大きな衝撃音がして、レイの飛ばされた辺りに強烈な一撃が見舞われる。
「きゃっ」
寸でのところで彼女は身をかわしたが、今度は別方向から飛んできた腕にカウンター気味の打撃を食らい、床に倒れ伏す。
どうやら、防御力の弱いレイや源五郎を集中的に痛めつける作戦のようだ。
「うおー!」
俺は光の剣で巨大お化けに切りつけるが、すぐに姿を消して攻撃は空振りに終わる。
「源五郎、レイを連れて9階へ降りて、傷を回復させてくれ。」
俺はレイの体を抱き上げると、源五郎に引き渡した。
すぐに、転がり落ちるように螺旋階段を駆け下りて行く。
「おりゃぁー」
ツバサが飛び上がって巨大お化けに蹴りを入れようとするが、またも姿を消して躱される。
少し離れた場所へ現れた巨大お化けに向かって、ツバサは空中で体勢を切り返すと、壁を蹴って飛んだ。
『シュパッ』ようやく光の爪が炸裂し、切り裂いた部分から光が漏れる。
しかし、すぐにその部分は塞がれてしまった。
弱い攻撃を一度きりでは、相手にダメージを与えることも出来ないようだ。
俺は、巨大お化けの腰部分目がけて剣を振り下ろすが、その瞬間姿を消して、今度は俺の背後に出現する。
『ズゴーン!』俺の体は、突然背後から蹴りを入れられて、数メートルは飛ばされ、そのまま床を滑って行き壁に激突して止まった。
「あいたたた・・・」
鎧のおかげでダメージは少なかったが、それでも目から火花が散った。
鎧の上から頭を撫でて、剣を握り直して構えると、目の前ではツバサが巨大お化けに捕まっていた。
蹴りに行ったところを捕まったのだろう、右足を掴まれて、逆さ吊りの状態だ。
「うぉー!」
駆け出して間合いを詰めると、すぐに水平に剣を振る。
ツバサを持ったままでは、姿を消せないのではないかと考え、すぐさま攻撃に転じたのだ。
しかし、目の前のその姿は一瞬で消え去り、背後に気配が・・・次の瞬間、頭に激痛が走りそのまま掴みあげられた。
兜が変形するほどの強烈な握力で掴まれ、俺の体は宙に浮く。
剣を振り回して見るが、奴の腕に傷もつけられない。
隣では、ツバサがじたばたと、何とか掴まれた足を振りほどこうと必死な様子だ。
「強光弾!」
その時、前方からレイの声がして、次の瞬間床に落とされた。
振り向いてみると、巨大お化けの腹部分に大きな穴が開いている。
レイの光の魔法だ。
『シュッシュッシュッ』すかさず、銀の矢が雨のように降り注ぐ。
巨大お化けは姿を消そうとしている様子だが、腹に開いた穴から漏れ出る光のせいか、消えない。
俺はすかさず剣を振り回す。
当たった・・・、水平に斬り付けた腹部分から光が漏れる・・・。
「強光弾!」
尚も発せられるレイの魔法で、今度は左肩口が消し飛んだ。
『ジュパッ』ツバサも光の爪で、右半身を攻撃する。
「強光弾!強光弾!強光弾!」
最後はレイの集中攻撃で、巨大お化けはようやく、その姿を消し去った。
お化けがいた辺りから、暗黒の兜に暗黒の髪飾り、暗黒の鉢金と暗黒の帽子が現れた。
漆黒の色合いから、呪われているかもという懸念はあったが、俺の兜は握りつぶされて使えそうもない。
危険を承知でかぶってみたが、何ともない。
闇の魔法に耐性があり、物理攻撃にも強力な防御性能を持つ武具のようだ。
それぞれ、ありがたく頂戴し、装備した。
中央部の柵には大きな宝石のように光り輝く玉が乗っていた。
これが、太陽の玉か・・・、俺はその玉を袋の中に納める。
すると、真ん中にあった柵が消えてなくなり、そこには深い深い穴が・・・、中央部にあった巨大な柱というのは、どうやら巨大な吹き抜けのようだ。
下を見ても、底が見えないくらいに深そうだ。
「どうします、これから。」
源五郎が穴を覗き込みながら、心配そうに尋ねてくる。
「とりあえず、今日の所は下へ戻って体力を回復してから、明日考えよう。」
そうなのだ、もう少しで放送が始まる時間だ。
そのまま螺旋階段を下ると、スロープまで出てスタッフたちと打ち合わせ、今日の分はここまでとして、続きは明日という事で了承を得た。
この日も、昨晩冷凍しておいた蟹尽くし料理だ。
ヒーリングゾーンがあるので、レイも弁当を食べる必要性はないため、嬉しそうだ。
ヤンキーパーティの奴らは、ようやく本格的なクエストに移った様子だ。
相変わらずグリーンマンを先頭に、洞窟のダンジョンへ入っていくが、取りこぼした魔物など、自分達でも倒し始めた。
多少腰は引けてはいるが、何とか戦っている様子だ。
やはり、いつでもグリーンマンが助けてくれると言う気持ちがある、平原での魔物退治と違って、狭い洞窟などで、不意に襲い掛かってくる魔物たちは、それなりに脅威なのだろう。
あいつらが身に着けている防具の防御力を考えれば、グリーンマンが痛めつけて弱っている雑魚キャラなど、ダメージを与えられるはずもないと考えるのだが、それでもビビりまくりながら、何とか打ち倒している様子だ。
いかにあいつらが、まともな戦闘を行っていなかったのかが、如実に表れている。
それでも俺は、この放送はそれなりに良い影響を与えそうだと考えていた。
なにせ、ギルドにたむろっている冒険者たちの中になら、もう少しはましに戦える奴らが沢山いるはずだ。
俺達が特別だと思っている訳ではないが、幸いにもこの次元へ飛ばされてからいち早くダンジョンをクリアーして来ただけに、他の冒険者たちよりは高いレベルで戦っていると思っている。
更に、世界最強の空手家であるツバサが仲間になってくれている。
どうせ自分達なんかじゃ・・・と思ってあきらめてしまいそうだが、それでも、あんなやつらでも冒険をしているのだから、俺達も・・と思って追随してくれる奴らが少しでも出ることが期待できそうだ。
奴らの放送が終わると、スタッフは9階へ乗り入れた中継車の中で眠ることとして、俺達はヒーリングゾーンの中で眠った。
翌朝には、体力全快、元気モリモリだ。
「どうするのこれから。」
レイが聞いてくる。この城にはこれ以上、上の階はない。
城の外周を回るらせん状のスロープも9階までだし、内部の螺旋階段も10階までしかない。
となると、後にできることは知れている。
「下まで落ちる。」
俺は、10階への螺旋階段を昇りながら答える。
「えっ・・・降りる・・でしょ?」
レイが不思議そうな顔をする。
そうして10階へ着いて、中央の吹き抜けを覗き込む。
「まさか・・、ここへ飛び込むっていうんじゃないでしょうね。」
レイは不安そうに一歩下がる。
「そのまさかさ、ほら、こうやって・・・。」
俺はレイの手を引っ張ると、有無を言わさずに穴の中へ放り投げた。
「あーれー・・・・」
レイの悲鳴がこだまとなって響いてくる。
「大丈夫だから、源五郎も続け。」
俺は、尻込みしている源五郎に、真剣な眼差しを向ける。
「い・・・いや・・・で・・・でも・・・、命は一つですし・・・。」
源五郎はブンブンと首を振る。
「大丈夫だから・・・ねっ?」
俺は源五郎の背後に居るツバサに向かってウインクをする。
ツバサは、俺の考えが分ったのか、小さく頷くと源五郎の背中を押して突き落とした。
そうして、自分も穴の中へ飛び込む。
それに続いて、俺も飛び込む。
『ひゅー・・・・・』風切音が耳元を通り過ぎて行く・・、加速して落下していくが、暫くすると下からの強い風にあおられ、体がふわっと浮いたような感じになり、落下スピードが和らいだような気持ちになる。
徐々に下からの風が強くなり、終いには落下しているというような感じは無くなった。
そうして、体勢を整えると、足から軟着陸できた。
ふと見ると、床には源五郎とレイが転がっている。
ツバサは平然と立っているようだ。
「な・・・何なのよ、一体・・・。はぁはぁはぁはぁ」
レイが、荒い息を整えながら、何とか両手で体を起き上がらせようとする。
落下の衝撃というより、恐怖で腰が抜けたという感じだ。
「こういうダンジョンで穴があったら、とりあえず落ちて見ると言うのが、攻略法の一つだろ?
そりゃ、たまには怖い魔物の目の前に落ちる事や、ダメージの床や毒の池に落ちることもあるが、強力なアイテムが手に入ることもある。」
俺は、自慢げに胸を張る。
「そ・・・それは・・・、ゲームのキャラであればでしょ、キャラなら体重はないし、落ちても死なないから。
今のあたしたちは、生身の人間なのよ、こんな高いところから落ちたら、死んじゃうのよ。」
レイは、あきれた様子で、俺の事を睨みつける。
「だがしかし、この高さから落ちても平気だったろ?
下から強風で吹きあげられて、落下スピードが緩和された。
この城には、他に行く道がなかったからね。
クエストにあった、この城の最深部にある暗黒の玉というのを手に入れるには、他に方法はないという訳さ。
それに、賢者のトンネルの鍵も、まだ見つかっていないしね。」
そう言いながら手を貸してやって、未だに四つん這いのレイを何とか立ち上がらせる。
「でも、ここからどうやって出るのですか?
こんな高い吹き抜け、飛べなければ城を出ることも出来ませんよ。」
源五郎に言われて気が付いた。
ここへ来ることにだけ頭が向いていて、暗黒の玉を手に入れた後の事を考えていなかった。
剃刀の刃が入る隙間もないほどに、ピシッと積み上げられた石積みには、指や足がかかるとっかかりなど一切存在しない。
俺は言うに及ばず、身の軽いツバサだって登って行く事は難しいだろう。
しかも、ヒーリングゾーンは遥か上の9階だ。
これでは、戦況が悪化した時に一旦引くことも出来やしない。
まさに、死への一本道とも言える。
「あはははは・・・、まあ何とかなるんじゃないか?
クエストを完了したら、扉が現れるとか・・・。」
俺の頬を、冷や汗が伝って落ちるのが分る。
うーん・・・中継車の中に、ながーいローブでもあっただろうか・・・。
俺は必死で車中の状況を思い出していた。




