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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第1章 始まり
5/213

第5話

                  5

 仕事もゲームも大きな展開はなく、黙々とルーチンワークをこなし、週末だ。

 日曜日は、いつもの友人と会い、近況報告をする。

 近況と言っても、もちろんゲーム内の活動報告だ。


 進展がほとんどないので、奴もご満悦の様子。

 つまらんゲームに高い金を払わなくても済んだと思っていることだろうが、俺は結構気に入っている。

 いつものコースを俺だけ酒を飲まずに過ごし、早めに帰宅するとゲーム機に潜り込む。



 つまらん仕事を重ねた結果、140G稼ぎ最初からの持ち金100Gと合わせて240Gとなった。

 経験値はほとんど稼げなかったが、それでも武器や防具をそろえられるのは大きい。

 先日聞いた東の森というのは、デモの時に転送された中央に広場がある森の事だろう。

 西へ行ったら村だったのだから、当然だ。


 どうやら、仕事の最中に得られる情報というのは限られているようで、様々な仕事をこなしたが、教えられる情報は同じものが繰り返されるだけだった。

 恐らく、2〜3つも仕事をすれば、必要な情報は得られるようになっているのだろう。


 俺は、パーティ人数は4人で成り行きのままにして、クエストを宝探しにしてみた。

 当たり前だが、レベルはZレベルしか選択できないのでそのままだ。

 宝探しを選択すると、地域の指定画面が出た。

 そこで、東の森を選択する。


 弱い魔物しか出ないと聞いたところだ。そうして、武器として剣を買う事にした。

 銅の剣は100Gだが、先週結構稼いだので、まあいいだろう。

 死んでしまうと、どうせ金は半分になってしまうのだから、薬草を10こと毒消し草を4つ買う事にした。

 これで、残り0Gだ。

 ここまで入力すると、操作パネルをたたんで、眠りにつく。



 いつものようにギルドの中で目覚め、源五郎が隣に居る。


「そろそろ、普通のクエストをしませんか?

 結構金も溜まっているので、武器や防具も買えるでしょう。」

 開口一番、源五郎は俺が考えていたことと同じことを言ってきた。


「ああ、俺もそろそろいいかなと思っていた。

 但し、武器にしたってそう何でもってわけではないけどな。


 先日、草むしりしていた時に、東の森は比較的安全だって言っていただろう?

 その森は、デモの時に最初に見た森の事だと思う。

 だから、その森に関するクエストをしたいと思っている。」


 源五郎の問いかけに、いつものように設定どおりの言葉を返す。 

 そうして部屋の中央にある柱へ行って、宝探しの面を見る。

 勿論、東の森限定だ。


 すると、洞窟奥に自生している光コケの採集というのと、森中央部の平原に自生している吹き出し草の採集というのがあった。

 他にもあったのかも知れないが、今目につくのはこれだけだ。

 後は、他の誰かがすでに引き受けたのかも知れないしね。


 他の面に目をやると、人助けの項目の所に、東の森で行方不明になった、かわいいわが子を見つけてきてくれというのがある。

 どれも、4人パーティで半日程度となっているが、行き帰りの移動時間も考慮されているのだろうから、3つこなすことは出来るだろう。


 俺は、その3枚をはがすと、周りを見回す。

 そうして、先週パーティを組んだ魔法使いと拳法家の男を見つけた。


「どうだい、金は稼げたかい?

 もうそろそろ、普通のクエストを引き受けようと思うんだが、武器や道具を買い揃えるだけの金はあるかい?」

 村の中での仕事は2人で行うものが多いので、2組に分かれて仕事を受けていたのだ。


「ああ、俺は魔法使いを目指しているので、初級の攻撃魔法の教本と、薬草ではなく少し高いが弁当を購入しておくつもりだ。その分くらいは稼げたぜ。」


 薬草は戦闘で受けた傷の治癒と体力回復だが、弁当というのは、体力と魔法力の両方を回復してくれるらしい。

 また、弁当には松竹梅とランクがあり、それぞれ回復する量が異なるが、その分値段も変わる。

 まあ、途中の休憩で飯を食って体力回復といったところだろう。

 面白い事を聞いたので、俺も余裕ができれば弁当も購入してみることにした。


「僕は拳法家の手袋と薬草と毒消し草を買うつもりだよ。」

「ああ、そうか、俺は銅剣と薬草と毒消し草を買う予定だ。」

「僕は、弓は初心者用が80Gで、矢が40本で20Gです。

 その他は薬草と毒消し草を買うつもりです。」


 俺に続いて源五郎が答える。

 弓矢だと、いちいち矢を購入しなければならないようだが、剣だって数回使えば研がなければならないようなので、メンテナンス費用はどちらもかかる。


「じゃあ、受付で申し込んで来よう。」

 俺たちは、カウンターへ向かった。


「サグル様と源五郎様のパーティに、チョボ様とタンク様が追加ですね。

 リーダーはサグル様のままでよろしいでしょうか?」


 いつもと同じ受付嬢が窓口で応対に出て来た。

 やはりこの地の住民に合わせているのか、肌の色は青黒いし、目も黒目だけだ。

 しかし顔立ちは整っていて、どちらかというと美人系よりはかわいいという感じだが、好みのタイプではある。


 この村での作業現場で対応してくれた人たちも、結構男前の顔立ちをしていたし、ゲームのわき役だからなのか美男美女ばかりだ。

 そう言えば、直接かかわり合う事は出来ないのだが、すれ違う村人たちも美男美女ばかりだったような気もする。

 だとすると、ゲーム用に準備したのだとも思えないのだが・・。


 俺たちは、ゲームのキャラクターとして用意されたパーツを自分なりに組み合わせて、自分の分身の容姿を作り上げている。

 俺は、初期パーツを用いているが、それでもそれなりにいい男だし、スタイルも均整がとれている。

 しかし、この星の住民たちは、そんなゲームキャラクターの俺達よりもはるかに美しい。

 これでは、どっちが主人公というか、ヒーロー、ヒロインか分らないくらいだ。


「俺たちは、特に希望もないし、お任せするよ。」

 そんな余計な事を考えていると、後ろの方から声がかかってきた。


 チョボかタンクかは知らないが、新メンバーの声だ。

 どうやら、リーダー選出で悩んでいると思われたらしく、気を聞かせてくれた様子だ。

 2人組で仕事を分担している時にでも、あらかじめ決めていたのかも知れない。

 まあ、何のメリットもないリーダーだ、お引き受けするとしよう。


「チーム名も決めることができます。どうなさいますか?」

「後で相談して決めます。」

 そう答えておいた。


 3枚のクエスト票を受け取り、ギルドを後にした。


「どうやら、チーム名を付けることができるようだから、みんなで考えておいて、明日にでも相談しよう。

 一人、最低でも1つ以上は候補の名前を考えてきてほしい。」

 俺は、村を出るまでの道中で、皆に告げた。


「それはいいけど、いくつか候補が出たところで、それをまた持ち帰って、ゲームしている本人が再検討して入力するのかい?

 まだるっこしくて、なかなか決まらないんじゃないのか?」

 魔法使いを目指していると言っていた男が、めんどうくさそうに答える。


「いや、今チーム編成したことでも判る様に、ある程度決めておけば勝手に、ゲーム内の我々が判断するのだろう。

 つまり、勝手にゲーム内で判断していくようだが、今の所俺自身の考えに近いようだから、違和感は湧かないし、誰かが本人はリーダーになりたいと思っていれば、そう設定してくれれば俺はいつでもリーダーを降りるつもりでいる。(本気で降りたいのだが・・・)


 だから、チーム名も候補をいくつか出しておけば、明日にでも決まるだろうし、本人が不満を持てばそれなりに入力することにより、後から見直せるだろう。


 それはそうと、俺はいま受付で呼ばれた様に、サグルだ。

 そして、彼が源五郎君。」

 俺はそう言って自己紹介と源五郎の紹介をした。


「そうか、まあいちいち細かく入力し続けなくてもいいってところが気に入って、このゲームに参加したんだ。

 俺はチョボだ、よろしく。」

「僕はタンク、よろしく。」


 どうやら、魔法使いがチョボで格闘家がタンクのようだ。

 知り合ってようやく1週間で自己紹介なのも、分担して仕事をしていたのだから、仕方がないだろう。

 彼ら二人の間では、それなりに自己紹介など済んでいるのだろうが・・・。


「基本的に、個人ゲームだから、薬草や弁当などの体力回復は、それぞれで行ってくれ。

 しかし、敵の攻撃でどうしても間に合いそうもない場合は、死ぬ前に叫んでくれ。

 その時は、お互いに助け合おう、薬草だって戦いの最中でさえあれば、他の人にも使える。

 パーティなのだから当然だ。


 いずれ、戦闘技術や魔法力が向上して来たら、前衛後衛などの役割分担も出来るだろうが、今のところは全員が何のとりえもないので、それぞれ助け合いながら死なないように戦って経験値を稼いでいこう。

 では、お願いします。」


 朝礼のような挨拶を済ませると、道具屋と武器屋に寄って各自支度を整え、村の東側の出口から森へと向かう。



 森へ向かう道中、魔物には一切出くわすことはなかった。

 さすが、初心者向けのクエストだ。

 そうして、森の中へと入り、中央の平原へ向かう。

 ここは、デモの時に居たところだ。


 うっそうと空を覆い隠すように、伸びている木立が途切れた平原に生えているのは、まあるい葉をした草ばかりだ。

 しかし、よく見るとまあるい葉だけではなく、角が丸い長方形の一端がすぼまって、茎へとつながっている草を見つけた。


 例えて言うなら、漫画主人公たちが話す時の吹き出しに似ている葉っぱだ。

 それなので吹き出し草と命名されているのだろう。

 俺たちは、吹き出し草を袋一杯摘んだ。

 これで、クエストの一つはクリアである、簡単なものだ。


 そうして今度は洞窟を探す。

 探す方角は、更に東側だ。

 西から来たので、残るは3方向だが、森の東側の奥に小高い丘があり、そこに洞窟らしく穴がある。


 現実世界なら、いい年してそんな穴に入って行くはずもないのだが、ここは冒険世界だ、俺はギルドで支給された松明を手に、洞窟の中へと入って行った。

 洞窟の壁中を覆い尽くすかのように、ヤモリのような爬虫類なのか両生類なのか分らないが、体の表面にいぼのようなごつごつした皮膚をもつ魔物たちに囲まれた。


 中には、サソリのような甲殻類っぽく体の大きいのもいるようだが、ハサミのような手はなく、代わりに牙の生えた大きな口を持っている。

 細い足がいくつも胴体の下側に生えているようだが、ちょっと見はずんぐりとした円錐状の体型で、言うならば、チョココロネパンに牙を付けたような形である。


 魔物と言えば、最初のうちはトンガリ頭のスラ○ムとかじゃないのか!


「数が多いから、矢は無駄打ちしないよう、体の大きな奴を狙ってくれ。

 小物は、俺と格闘家で倒そう。」

 リーダーらしく指示を出すと、俺は剣を抜き、こぶヤモリ目がけて振るった。


「ギャー!」

 と、叫び声なのか吠えているのかは分らないが、意外と手ごたえもなく、こぶヤモリたちは切られていく。


 格闘家は気持ち悪くないのか、平気でグローブひとつでこぶヤモリを打ち砕いて行っているようだ。

 源五郎がコロネサソリの大きなのに狙いを定め、遠目から矢を射ると、命中したコロネサソリはのたうちながら、地面に落ちてきて動かなくなった。


 しかし、3本に1本は的を外すようで、命中精度を上げる必要性があるように見える。

 魔法使いはというと、さっきから何事か呟いているのだが、これと言って何もするわけでもない。

 俺たち3人の影に隠れているといった感じだ。


 洞窟入口の魔物はあらかた片づけたので、奥へと進む。

 松明も燃え尽きる可能性があるので、急がなければならない。

 先へと進むたびにこぶヤモリや、サソリが居たが、それらを振り払いながら尚も進んで行く。


 洞窟内には、それ以外の罠や分岐もなく、ひたすらまっすぐ進んで行く。

 暫く進むと、洞窟の壁一面が光っている場所へと辿りついた。 これが光コケなのだろう。

 俺たちは早足に、その場へと向かったが、そこには主とも言える体の大きな奴がいた。


 カメのような甲羅を持ち、顔はライオンを思い起こすようにたてがみがある。

 後ろ足2本ですっと立ち上がり、2本の腕は太く力も強そうだ。

 ライオン亀とでも名付けようか。


「俺とタンクで前衛を務めて攻撃するから、源五郎とチョボは後ろから援護してくれ。」

 俺はそう言うと、タンクと2人でライオン亀に向かって行った。


 普段の俺なら尻込みする場面だが、ここでの俺は勇敢だ。

 銅の剣で袈裟がけに切りつけると、ライオン亀は右手でそれを振り払う。

 俺はその勢いで右に跳ね飛ばされる。


 間髪を容れずに、タンクが下腹目がけて蹴りを入れる。

 同時に、源五郎の矢が頭を襲う。

 ライオン亀は左手で矢を払いのけたが、下腹に蹴りをくらう。

 おれは、すかさず立ち上がり、開いた左わき目がけ、剣を構え突進する。


火炎弾(チリ)!」

 そんな言葉が聞こえ、目の前を炎の玉が走りライオン亀に命中した。

 チョボの魔法のようだ。


 怯んだ相手に、俺の剣が左わき腹に突き刺さった。

 ライオン亀の致命傷となったようで、そのまま消えて行った。

 やったのだ、奴の居たところには、矢袋と剣と道着と魔法の薬が置かれていた。


 なんと申し合わせたみたいだが、恐らくクエストに参加した奴の、経験値配分から目標とするアイテムが自動的に選択されて、宝箱的に出現するのだろう。

 それぞれ、自分の望むアイテムをありがたく貰う事にした。


 早速俺は鉄の剣に持ち替え、銅の剣は村へ帰ったら売ってしまおうと考えた。

 チョボにあげてもいいのだが、おねだり防止のために、仲間内でもアイテムの交換や贈呈は今の所認めていないらしい。

 この先、レベルが上がって行けばどうなるか分らないらしいが、今のところは完全個人で金も物も管理して行かなければならない。


 源五郎の矢は一気に百本増え、当面は余裕ができそうだし、道着はプロテクターが入っていて、動きが良くなることに加えて、防御機能が働くようで、すぐに着替えている。

 俺たちの服装は、何も購入していないから裸かというとそうではなく、作務衣のような上下を着ている。

 初期仕様のままだが、まあこれでもそんなに不自由はないが、より良いアイテムがあればすぐに変えた方が得策だ。


 魔法の薬というのは、魔法力を一気に回復するための薬のようで、いざという時に使えそうだ。

 チョボが先ほどから戦闘時に何かつぶやいていたのは、魔法の呪文の様で、戦闘時に何度も唱えて使える様に練習していたらしい。


 魔法は呪文を唱えればそのまま使えるのではなく、練習して自分の物にして行かなければならないのだそうだ。

 しかも、普通時に練習するよりも、実践時が一番効果的で上達が早いらしい。

 俺も、そのうちに治癒魔法の呪文ぐらいは教えてもらおうと考えた。


 とりあえず、死にそうなわけでもないが、この後何が起きるか分らないので、薬草で今の戦いの治療をすることにした。

 よく見ると、タンクも源五郎も少しだが怪我をしていて、薬草で治療している。


 チョボは何ともないが弁当を食べていた。

 腹が空いたのか、あるいは魔法力を回復しているのか・・・。


 光ゴケを袋一杯詰め、まだ奥があるようだが、受けてもいないクエストで時間をつぶすこともないからと、洞窟を後にした。

 残るは、誰の子かは分らんが、行方不明になった子探しだ。

 森の西から来たのだし、東は洞窟があったから、残るは北か南だ。



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