第49話
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「いかがでしたか、我々の冒険の様子は。
毎日放送されている内容のように、決して楽に勝てる相手ばかりではありません。
苦労して、作戦を立て、様々な手を試しながら、何とか打ち倒していくのです。
そうした中で、彼女は本当に大切なメンバーです。
ご理解頂けましたでしょうか?」
俺が、待ち構えていたカナリさんに、まじめな顔で告げる。
最後はツバサのおかげで危機を脱出したようなものだ。
いかに彼女が、我々のグループの中で中心的存在なのかが、伝わったのではないかと考える。
「・・・・・・・・・・・。」
カナリさんは、厳しい顔をしたまま無言の様子だ。
いや・・・、でも我々の方が、カナリさんのお眼鏡にかなわなかっただろうか・・・、少々不安な気まずい空気が流れる。
「もう少し、我々家族だけで話をさせてください。」
この日は、ツバサの両親ともども、宿の部屋を取ることになった。
重苦しい雰囲気の中、明日の為に、とりあえず剣や爪を研ぎに出して、早々に宿に向かう。
放送終了後のお祈りの時間にも、またヤンキーパーティの放送の時間にも、ツバサは姿を見せることなく、ずっと両親と共に過ごしていた。
翌朝、多少の不安を抱えながら、宿の外でツバサを待つ。
「じゃあ、北へ向かいましょう。」
ツバサが元気よく、宿の玄関から出てきた。
よかった・・・、何とか両親を説得できたのだろう。
「昨日、あなたたちの冒険の様子の一部始終を、拝見させていただきました。
テレビで放送される、魔物たちを打ち倒す瞬間だけの映像とは違い、皆さんの戦いの様子が良く判りました。
はっきり申し上げまして、皆さん個々の強さは、ツバサと比較すると何段階もレベルが落ちるでしょう。
これは、決して親の欲目ではなく、格闘家としての感想です。
しかし、戦闘時の連係プレーや、お互いをかばって戦う姿勢は、その未熟さを補って余りあるものであると考えます。
私は、あなたたちの仲間である別のチームの方たちが、別の番組でコメントしていた通り、ツバサの力を利用して、冒険を楽に続けて行こうと画策しているとばかり考えておりました。
ツバサはうまい事、言いくるめられて利用されているのだろうと。
そんな不憫な我が子を、悪魔の手から救い出すつもりで迎えに来た訳でしたが、どうやら我々の勘違いだと分りました。
あなたたちは、ツバサなどがいなくても、十分に冒険を続けて行ける実力がおありなのに、ツバサの我儘というか、冒険者になりたいという夢をかなえてあげるために、一緒に付き合って下さっているという事が、本当に理解できました。
もし、ご迷惑でなければ、ツバサをこのまま、チームのメンバーとして置いてやってください。
ふつつかな娘ですが、末永くよろしくお願いいたします。」
すぐ後に出てきたカナリさんが、娘を嫁に出す時のような挨拶をしながら頭を下げる。
「そ・・・それはもう・・・、我々の力など微々たるもので・・・。
今までに、彼女のおかげで、どれだけ助けられたか・・・。
一緒に冒険を続けることを許可していただいて、本当にありがとうございます。」
俺は、カナリさんに負けじと、深く頭を下げる。
よかったー・・・、ツバサをこのまま連れ戻されてしまったら、今後の冒険はどうしようかと、あれこれ悩んで昨日は寝不足だ。
彼女がいなくなれば、シメンズ全体としてのレベルは、恐らく2つは下がるだろう。
それぐらい重要なメンバーなのだ・・・いや・・・別にレイや源五郎のレベルが低いと思っている訳ではない。
俺も含めて、彼女の強さにぶら下がっているだけなのだ。
彼女がいるからこそ、ダンジョンを危なげなくクリアーできるのであって、我々だけでは本当に毎回命がけの、生きるか死ぬかのクエストになってしまうだろう。
それこそ、有り金叩いて常に最新の装備を揃えなければ、やって行けないような。
恐らく、一晩中話し合ったのだろう、ツバサもカナリさんも目が真っ赤に充血しているようだ。
まあ、完全に納得した訳ではないのだろうが、ある程度のわだかまりはとれたであろう。
俺達とは違い、彼女の場合はこの星が生まれ故郷なのだから、家族に冒険を続けることを理解してもらうに越したことはない。
それでも、旅館から出てきたのはカナリさんだけで、母親のテスタさんは見送りには出てこなかった。
多少後ろ髪を引かれる気持ちはあるのだが、ツバサが急かせるので、ギルドへ向かう。
「身代わりの指輪を指にはめていると、一度だけですが致命傷を負った場合に、その人の身代わりとなって砕け散ります。
そうして、その人の受けたダメージは解消されます。
この指輪は清算アイテムですが、同時に褒章でもあります。
同じ指輪は、この後も何回かクエストとして登場いたします。」
そう言えば、昨日のクエストの清算を忘れていたことを思い出して、クエストアイテムである指輪を受け付けに出した。
すると指輪の説明と共に、それをくれた。
ほう、一度だけなら命が助かる訳か、これは復活の木の葉よりも強力なアイテムだ。
何度も登場するのなら、何としてでも人数分集めなければ・・・、いや、予備も含めて持っていたいくらいだ。
「じゃあ、最初の指輪はツバサが指にはめていてくれ。」
「ええっ・・・だってあたしより、レイさんの方が・・・。」
嫌がるツバサの指に無理やり指輪をはめる。
レイも、満足そうに頷いているようだ。
やはり、この星の住民であるツバサの身を案じるのが先だ。
さて、これでようやく北へと向かう事が出来る。
「・・・・・・・・・・・・および、チコリ村北東のチコリン城最深部に存在する、暗黒の玉と最上階に存在する太陽の玉の採取、頑張ってきてください。」
かわいらしい受付嬢が、クエスト票の内容を読み上げてから、最後は応援の言葉を掛けてくれる。
北部大陸の北西部関係のクエスト、12個をまとめて申し込んだのだ。
距離が遠いせいか、一つのクエスト期間が2週間程度のものが多く、期限はどれも1ヶ月ほどだ。
だから、まとめて引き受けても、清算には十分間に合うつもりだ。
レベルはどれもQレベルなので、恐らく簡単には攻略できないものばかりだろう。
ついでに受付嬢には、これから来るであろう冒険者たちのやる気を起こさせるために、握手券なるものを発行するよう依頼する。
すると、やはりここでも握手券の効果が評判になっている様子で、それにより冒険者が冒険に参加してくれると言うのなら協力しますと言ってくれた。
これで、周辺の雑魚魔物に関しては、取りこぼしても後続の冒険者たちに任せておけばいいだろう。
そのうちにメインのクエスト以外は、残しておいてもいいようになってくれることを願いながら、ギルドを後にする。
ギルドを出ると、武器屋で研ぎに出しておいた武器を引き取り、中継車に乗り込む。
そうして町の外へ向かうと、針路を北へと向ける。
草原のダンジョンや森のダンジョンをこなしながら、少しずつ北へと向かって行く。
コバンザメ野郎たちは未だに平原の雑魚魔物たち相手に苦戦しているので、進行的には安心している。
こちらの方が、頭一つ抜け出ているだろう。
そうして、最北の村チコリへとやって来た。
古びた木製の塀で囲まれた小さな村は、魔物たちの襲撃にあって、すぐにつぶれてしまいそうな印象も受けるが、さすがにこの辺りには、魔物の影も薄いのか、村の中も平穏そのものだ。
武器屋や道具屋を探すが、そのような施設は一切ない。
ギルドもないので、清算が出来ないと思っていたら、唯一の冒険者用の施設として、温泉旅館があった。
そこで、クエストの清算ができるらしい。
冒険者用の宿は高額なのでめったに使わなかったのだが、他に施設もないし、何かイベントでも起きるかもしれないので、ここは清算がてら温泉旅館に宿泊することにした。
武器は売っていなかったが、刀や爪などの武器は研ぎに出すことも出来たし、充電や矢の補充ができたのはありがたかった。
「おめでとうございます。
レイ様はQにレベルアップされました。
ツバサ様はTにレベルアップされました。」
女性メンバーがレベルアップだ。
温泉旅館といいながら、やはり部屋にはテレビも何もなく、ただベッドが一つあるだけの簡素な部屋である。
唯一、大きなプールのような浴室があり、驚いたことに混浴の様で、男女の区別はなくはいれた。
もちろん、レイもツバサも一緒に入浴・・・といっても、全員が水着着用での入浴だ。
裸の付き合いを重んじる、日本の温泉文化はどこへ行ってしまったのか・・・、がっかりだと思っていたが、よく考えればここは日本ではないし、地球ですらなかった。
その夜・・・
(霧がくれの湖を見つけるには、霞の笛を吹け。
一人が吹けば湖は姿を現し、二人が吹けば行く道を示すだろう・・・)
「うん・・・?夢か・・・」
ハッとして、ベッドから上半身を起こして辺りを見回す。
なにか、小人のようなものが、枕もとをうろちょろして、何かを囁いて行ったような・・・
「ふあー、おはよう。
なんか、耳元が騒がしくて、余り寝た気がしなかったよ。」
翌朝、旅館の食堂に行くと、既にレイたちは朝食を摂っていた。
温泉旅館らしく、朝食のおかずは納豆とアジの開きに卵焼きだ。
久々の和食に、うれしくなってくる。
「ツバサは、こういった朝食は食べたことがないだろ?
俺たちの国じゃあ、一般的な朝食・・・といっても過去の話かな。
まあ、いまじゃ旅館に泊まったときくらいかな。
普通の家の朝食はパンだったり、シリアルだったりが多いからね。」
ツバサに納豆の食べ方でもレクチャーしてやろうと張り切っていると・・・
「いえ、この星でも普通の朝食メニューですよ。
特に、納豆は健康にいいので毎朝食べていました。」
とは、拍子抜けした。
やはり、この星に来たのであろう、地球からの訪問者の影響であろうか。
「それはそうと、耳元が騒がしかったと言っていましたよね、実は僕もなにか寝ている時に、声が聞こえてきて、なかなか熟睡ができませんでした。」
源五郎が、ねむそうな顔をしながら俺に話しかけてくる。
「へえ、あたしは何ともなかったわよ。」
レイが首をかしげる。
「あっ・・・あたしも・・・、何もなくぐっすりと・・・えへへ」
ツバサも平気だった様子だ。
とすると、男だけに聞こえる声という事か・・・?
(まさか・・・あたしを待っていて、眠れなかったという訳じゃないでしょうね?)
レイが、バツが悪そうに小声で囁きかける。
レイの問いかけに対し、その思いがなかったわけではないが、とりあえず直接的には関係がないため、小さく首を振って否定する。
「なんか、霧がくれの湖がどうのこうのと言っていたような気が・・・。」
俺が、昨夜の記憶を辿りながら呟く。
「そうそう・・・、霧がくれの湖を見つけるには、霞の笛を吹け・・・でしたよ。
あとは・・・、一人だと湖が見つかって、二人だと道が開けるみたいな・・・、そんな感じでした。」
源五郎が、嬉しそうに相槌を打つ。
やはり、自分だけが異常ではないとわかって、うれしいのだろう。
しかし、これは何かクエストに関係するヒントのように感じる。
恐らく、この宿に泊まるとそのヒントが聞こえてきて、それを頼りにクエストを進めるのだろう。
今、俺の手持ちの残りクエスト票は6つあるが、この村の北東にあるチコリン城に関するものは3つだ。
チコリン城に関する事なのだろうか・・・。
温泉旅館を出ると、既に中継車が待ち構えていた。
彼らは、一般のこの星の宿を使った様子だ。
さすがに、この村まではテレビ局の支局はないらしく、ようやく自分たちの時間が持てると、昨晩嬉しそうにしていたのを思い出した。
中継車で、とりあえず北へ向かう。
すると、道の奥の雑木林の向こうに何やら白い建物が・・・
「運転手さん、停めてくれ。」
俺は、中継車を飛び出して、その建物へ駆けて行く。
やはり、その建物は賢者のトンネルのようだ。
真っ白なコンクリート製の飾り気のない建物が、雑木林の中に鎮座している。
北部大陸には、三つも賢者のトンネルがあると言う事か。
しかし、当たり前だが建物のドアには鍵がかかっていて開かない。
それでもこの近くに、鍵を手に入れられるダンジョンがあると言う事であり、恐らくこれから向かうチコリン城がそのダンジョンであると見て、間違いがないだろう。
そのまま道を北へ向かうと海岸へ到達し、それらしい洞窟も建物も見当たらない。
海岸線を東へ進むと高い山々に、道を阻まれてしまった。
どうやら山脈のようだ、チコリン城はチコリ村の北東と言っていたが、もう少し南側という事だろうか。
その後も辺りをさまよい続けるが、クエストに関係しそうな施設どころか、魔物にさえ遭遇しない。
そうしてようやく連峰の隙間というか、山間を抜ける細い道をスタッフが見つけた。
「どうします?行ってみますか?」
「ああ、この先に何があるか不明だが、他に行けそうな道もないし、山脈の手前側では魔物に出くわす事さえない。
ここを通って、山の向こう側へ出るしかなさそうだ。」
スタッフに見せてもらった地図によると、北部大陸の北西部にある、山脈に囲まれたデルタ地帯に繋がっている道だろう。
北側の海岸線とV字型の山脈に囲まれて、地図上でも行き方が分らなかった場所だ。




