第47話
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すぐに、炎の剣を俺の肩を掴んでいる足に突き刺すが、何の反応も感じない。
そう言えば、フェニックスは火の鳥だから、炎の剣では何のダメージも与えられないのか?
遥か上空へ持ち上げられるかと思っていたら、足のロープがピーンと張って、上昇が止まった。
そうか、このためのロープだったのか。
チャンスとばかり、俺は急いで氷の刃に持ち替えて、掴まれている両足を切断する。
「ぎゃーっ」
足を失ったフェニックスは、錐もみ状態で落ちて行く。
俺はロープのおかげで途中で止まり、何とかそれを辿って巣の上に戻ってこられた。
向こうの木の上では、すでに卵を落とし終えたツバサが、もう1羽の親鳥と戦っていた。
「ツバサ、氷の爪を使え!」
俺がそう叫び、ツバサもうなずくと、フェニックスに蹴りを入れながら袋をまさぐり装備を変え、親鳥の腹に一撃・・・、哀れ親鳥はそのまま落下して行った。
木から降りて来たら、レイと源五郎が止めを刺したフェニックスの羽根をむしっていた。
「卵がクエストアイテムですけど、この羽って虹色に輝いていてきれいだから、採っておくと何かに使えないですかね。」
とは、源五郎の言葉だが、まあ、どうせ親鳥は丸焼きにして食ってしまうんだからいいでしょう。
スタッフと共に焼き鳥で昼飯を済ませ、更に砂漠を進む。
砂漠の中にある、オアシスとも言える水場に、そいつらは生息していた。
ザリガニのハサミ部分が、コブラの頭という、無茶苦茶な生き物だ。
毒のあるハサミにかまれると命はなさそうなので、ツバサには下がってもらい、源五郎とレイも離れた位置でバックアップ、鎧で身を固めた俺だけが、そいつらの巣へ向かう。
「源五郎、レーザーで奴らの目を狙ってくれ。」
俺はそう叫ぶと、マグマの剣を手に駆けだす。
甲殻類だから、マグマの剣の高熱が有効だろう。
「ぐっぎゃー!」
目を焼かれたコブラザリは暴れ出し、やみくもにコブラの腕を振り回す。
それを躱しながら、懐へ飛び込もうとするが、もう一方のコブラに弾かれてしまう。
目は見えなくても、音は聞こえるからか、簡単にはいきそうもない。
「とぅーっ」
すると、コブラザリの頭にツバサが飛来して、キックをかます。
コブラザリは、両方のコブラのハサミでツバサを捕まえようとするが、すぐに大跳躍して遥か上空へ消える。
両手が上ずり、腹が開いた隙に、俺はマグマの剣を下から腹へと突き刺した。
「ぎゃぉーすっ」
コブラザリは、悲鳴のような叫び声と共に、ひっくり返って動かなくなった。
別のコブラザリにはレイのマグマの杖で強化された炎の玉が炸裂し、その身を焼いていた。
更にもう一匹のコブラザリも源五郎が目を焼き、ツバサが気を惹く隙に俺が脇腹を突き刺し止めを刺す。
最後はレイの豪炎の魔法で巣を焼き尽くして、このクエストは終了だ。
「おめでとうございます、サグル様、源五郎様はレベルQになりました。」
町へ戻って清算を済ませると、ギルド内にファンファーレが鳴り響く。
やった、ようやく北へ向かうクエストが引き受けられる。
持っている武器を全て研ぎに出し、矢を補充すると、道具屋でありったけの弁当を買い込み、宿へ向かう。
明日からは、暫く野宿生活だ。
翌日、はれて北へ向かうべくクエストを選択しようとギルドを訪ねたら、その入り口でこの星の住民らしき人たちが、待ちかねていた。
「ツバサちゃん・・・。」
「母さん、父さん・・・。」
ツバサが呆然と立ち尽くす。
どうやら、ツバサの両親らしい。
「ペレンからアレヘスへ向かう時に、アンズ村に立ち寄るのかと思っていたら、ペレヘス湖へ迂回してしまった。
その時は、前のグループに追いつくために仕方がないとあきらめた。
その後も、火山の噴火を止めなければならないので、寄り道などできないとも考えた。
しかし、事が済んでの帰り道には、家へ寄ることぐらいは出来たのではないのか?
お前がどう思っているのかは分らないが、私たちはお前の親なんだぞ。
しかも、アンズ村はお前の生まれ故郷のはずだ。
その地を避けて通るなんて・・・。」
父親らしき男性が、悲しそうな目つきでツバサを見つめる。
母親らしき女の人は、すでに泣き顔で話す事すら難しそうだ。
外観は、この星の住民そのものであり、青黒い皮膚に黒目だけの大きな目をしている。
ツバサの両親というより、兄妹といってもいいくらいの若い美男美女だ。
しかし、ツバサの見た目を考えると、この両親と共にこの星で暮らしてきたツバサの苦労が、なんとなく分りそうな気がした。
確かに、愛情を注いで育ててくれたのだろう、ツバサの性格の良さからも、それは判る。
しかし、この星の人たちとは異なる見かけで、友達ができにくかったりしたのではないだろうか・・・。
「話す事など、何もありません。」
ツバサはそう言うと、そのままギルドの中へ駆け込んでしまった。
名前の事ばかりが理由ではないが、両親とは疎遠だった俺は、ツバサの態度も何とはなしに理解出来た。
アレヘスへ向かう際に、アンズ村に立ち寄らずに北へのルートを選択したのは、ツバサの希望によるものだったからだ。
両親の反対を押し切って、無理やり出てきたと言っていたような気が・・・。
「つ・・・ツバサ・・・。」
父親とおぼしき男性が、悲しそうな顔で彼女の後姿を目で追う。
「まあまあ、ようこそいらっしゃいました、ツバサちゃんのお父様、お母様。
私はシメンズメンバーのレイと申します。」
そこへ、すかさずレイが、フォローに入る。
「ああ、レイさんとおっしゃるのか。
たしか、魔法を使う女の人だったね。
ツバサがいつもお世話になっております。
ツバサの父のカナリと申します。」
我々の冒険の様子を、毎日テレビで見ているのだろう。
レイの横に居る姿を見ると、かなり体格の良い、大柄な男性だ。
「ツバサさんにはいつもお世話になっております。
僕は、シメンズメンバーの源五郎と申します。
ツバサさんは、格闘技に秀でていて、頼りになる素晴らしいメンバーです。」
源五郎も、すかさず母親らしき女性の元へ歩み寄る。
「源五郎さん・・・、いつも娘がお世話になっております。
ツバサの母のテスタと申します。」
母親は、随分ときゃしゃな体つきをしている。
いわゆる、かわいらしい女性の典型的な体型だ。
源五郎にしても、レイにしても、ツバサがこの両親に連れ戻されるかもという、危機感はないのだろうか。
いや、それならそれで仕方がないと考えているのか、所詮は他人様の家族内のわだかまりだから、身内で解決すべきという気持ちなのだろうか。
うーん・・・、まあでも、それがツバサの為なら仕方がないのか・・・分った、俺も挨拶に行こうと一歩前に踏み出す。
「彼が、シメンズリーダーのサグルです。」
それよりも前に、レイが紹介してくれた。
「い・・・いやあ、ど、どうも、お父さんお母さん・・・、サグルです、よろしくお願いします。」
不意にこちらに注目されてしまい、初めて恋人の両親に挨拶するような感じで、すごく緊張してぎこちなくなってしまった。
「ああ、リーダーの・・・・どうも・・・、ツバサがいつも、本当にお世話になっております。」
カナリさんが俺の両手を自分の両手で包み込んで、上下に大きく振る。
暖かく、大きな力強い掌だ。
「それにしても、今では魔物が出現する荒野を、よくぞご無事で・・・、危ない目にも何度か合われたのではないですか?」
よく考えてみれば、アンズ村からここまでは相当な距離があるはずだ。
川向うは他の冒険者たちが、握手券欲しさに魔物退治をしているが、こちら側ではまだまだ俺達の取りこぼした魔物たちが、旅人に襲いかかってくることもあったはずだ。
俺たちは冒険者で、しかも車という高速の移動手段まで備えているのだが、彼らは恐らく歩きだろう。
「いえ、平原の魔物たちなど、我々にしてみれば、道端の小石程度でしかありませんよ。」
おおそうだった・・・、彼らはともに世界一の武術家なのだった。
ツバサの強さから推察するに、このご両親の強さは、我々冒険者のレベルで表す事が出来ないほどの強さであるだろう。
「それはそうと、本日はどういったご用向きで?」
レイが、いきなり核心を突いた問いかけをする。
「それは・・、ツバサがなれない土地で・・・不自由をしていないか・・・、様子を見て・・・」
テスタさんが、長い髪を掻きあげながら、少し言いづらそうに答える。
「いえ、ツバサは私たちの大切な娘です。
危険な冒険の地に向かわすわけには参りません。
本日は、ツバサを連れ・・・」
「帰らないわよ、あたしは・・・。」
カナリさんの言葉を遮るように、突然、ギルドの扉が開いて、ツバサが叫んだ。
恐らく、扉の向こう側で、様子をうかがっていたのだろう、厳しい目つきで両親を睨みつける。
「まあまあ、落ち着いて。
プラーベートな事だから、この様子は撮影しないでね。」
レイがカメラを構えるスタッフに、真剣なまなざしで告げる。
渋々、構えていたカメラを下ろすカメラスタッフたち。
冒険者たちの日常生活、なんてことのエピソードにでも使いたかったのだろうが、少々不謹慎だ。
「そうですよ、こんなところで立ち話もなんですから、落ち着くところでお話合いを・・・。」
レイがツバサの所へ寄って行くのと同時に、源五郎も両親の所へ歩み寄り、お互いの気持ちを落ち着かせようと、話し合いの場を提案する。
そのまま邪魔の入らない、ギルドの中へ場所を変えたかったのだが、ギルドというのは冒険者か冒険者を目指すもの以外は立ち入ることができないとして、両親の入館を断られてしまった。
別に、この場だけの冒険者登録をしてもらっても、彼らの強さであれば十分に通用するのだろうが、こちらの都合で変な履歴が加わるのも迷惑な事だろう。
仕方がないので、近くの食堂へ向かった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
食堂へ入り、とりあえずテーブル席にツバサと両親をそれぞれ向い合せに座らせる。
勿論、テレビスタッフには遠慮していただいた。
前を見ようともせずに、頬を膨らませたまま顔をそむけるツバサに、カナリさんはツバサの方を見つめて無言のままだ。
テスタさんが、そんな二人の顔を交互に見ながら、何か言いたげにしている。
そのテーブルの脇で、俺たち3人が立会人のように整列している。
ここはひとつ、会話のきっかけを俺が・・・
「えーっと・・・つ」
「しっ。」
何とか声を絞り出すように、話しだす俺をレイが制する。
黙って見ていろと言う事だろうか。
丁度そこへ、店員が注文された料理を運んできた。
さすがに食堂へ入って、何も注文せずに居座るわけにもいくまいと、頼んだ料理だ。
「あたしは、シメンズのメンバーとして、冒険を続けて行くわ。
お互いに助け合って、ダンジョンをクリアーするの、誰か一人でも欠けるわけにはいかないのよ。」
ツバサが、運ばれてきた見た目は麻婆飯のような食べ物を、匙で口に運びながら切り出した。
「お前なんかがいなくたって、彼らはずっと冒険を続けていたんだ。
それよりもお前が負担になってはいないか、心配なくらいだ。
お前なんかがいたところで、彼らに迷惑を掛けているだけだぞ。」
父親のカナリさんは、見た目が中華飯のような食べ物を、同じく匙で口に運びながら切り返す。
「そ・・・ごほっ」
そんなことはございませんと、ツバサのフォローを入れようとしたら、レイに肘鉄を食らってしまった。
彼らだけに話し合いをさせろと言う事だろうか。
「お母さんは、あなたの事が心配で心配で・・・、ちゃんと食べているの?
怪我とかは、していないの?」
母親のテスタさんも、キーマカレーのようなものを口に運びながら、ツバサに視線を合わせようとする。
そのまま見ている訳にもいかず、彼らが食べているのを見て、朝食は済ませて来たのだが、ちょっとつまんでみたくなって来た。
少し離れたテーブル席へつき、注文をする。
ここは定食屋さんの様で、丼物や定食などメニューは豊富なようだ。
『ガタガタガタッ』暫くして、とんかつ風の、何かの肉の揚げ物定食を平らげたころ、ツバサ達が立ち上がった。
こちらもつられて立ち上がる。
「今日一日、あなたたちの冒険に立ち会わせてください。
ツバサをここに置いて行くかどうかは、その様子で判断します。」
カナリさんが近寄ってきて、いきなり告げる。
え・・・えーっ・・・・、どういうこと?




