第46話
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「シメンズのリーダーレベルはSですので、本来であればRレベルのクエストを受けることは出来ないのですが、既に片付けてしまったので特例としてそのまま経験値を付与します。
これにより、サグル様、源五郎様、レイ様はRへレベルアップされました。
ツバサ様は、レベルUにアップされました。
リーダーレベルより上のクエストを行うのは、本当は禁止事項ですので、ファンファーレは鳴りません。
今回だけの特例とさせていただきます。
ご自分の強さを過信されて、高度のダンジョンへ入ることは、全滅の危険性が高まります。
お持ちのレベルに見合ったクエストで、安全な冒険をお続けください。」
最後の方は、受付嬢が随分と小声で告げてきた。
周りには、俺達以外の冒険者などいはしないと言うのに。
大体、レベルを合わせようが、絶対に安全な冒険などありはしない、最早リセットなど効きはしないのだ。
まあしかし、次回もレベルを逸脱したダンジョンを攻略した時、禁止事項だからと取得したアイテムを没収されては困る。
折角の苦労が、水の泡になってしまう。
だから、今後は気を付けよう。
それはそうと・・・ほうそうか、ようやく俺達も1段階レベルアップだ。
ツバサの場合は、毎回アップしているから追いつく日もそう遠くはないだろう。
レベルアップと共に、大量のGを受け取る。
それから、武器屋へ行って武器を研ぎに出す。
武器や防具は、クエスト攻略時に出現するアイテムを利用することにして、購入することはやめておく。
それでなくても高額なので、はやての剣など欲しいと思うが、購入すればいっぺんに無一文に近くなってしまう。
次元が移って来てからは、クエストも発生数が限定されていることだし、ある程度の蓄えは必要だろう。
剣の研ぎ代や矢の補充代も馬鹿に出来ないし、武器を持たないレイですら、宿泊をこの星の宿で行う限り魔力回復用に道具屋の弁当が必須となってくる。
Gがなければ冒険もままならないのだ。
源五郎は、矢の補充と共に、レーザー光線銃を充電に出した。
それから宿へ行き、夕食後にいつものように番組の終わりのお祈りをする。
その後、テレビ局スタッフとは別れ、宿の食堂でコバンザメ野郎たちの冒険の様子を見る。
相変わらず、平原での特訓風景が映し出されているだけで終わった。
テレビ局スタッフは、こちらにあるテレビ局の支社で今までの映像の編集や、今後の打ち合わせをするらしい。
彼らに寝る時間はあるのだろうか。
その後、各自の部屋へ戻ってしばらくしてから、ドアをノックする音が・・・、ドアを開けた先に居たのは、待ちに待ったレイの姿だった。
思いっきり抱きしめ、本当に久々の欲情の時を過ごし、翌日は上機嫌で朝食を摂りに食堂へ。
「よう。」
「おはようございます。」
食堂では、既にゲンゴロウとツバサが朝食を摂っていた。
「おはよう。」
遅れてレイも登場。
「これから、どうします?」
「どうするって・・・、船が出るまでに時間があるから、この辺りのクエストをこなして行こう。
まだ、北側のクエストが残っているはずだ。
見せてもらった地図では、小さいけど町もあったはずだしね。」
そう言って朝食後、ギルドへ向かう。
「シメンズの方たちですね。リーダーの変更はございませんか・・・。
では、ヨースル港の停泊船の底に貼りついた、フジツボンの除去とコバンザメウオの駆除のクエスト、頑張ってきてください。」
かわいらしい受付嬢の言葉に後押しされて、ギルドを後にする。
本当なら北へ向かうクエストを選びたかったのだが、クエストのレベルがQ以上のものばかりで、Rの俺達では受けることができなかった。
仕方がないので、Rレベルの近場のクエストで経験値を稼いで、レベルアップを狙うしかなさそうだ。
やはり裏口とも言える、ショートカットでこの町に来ているため、クエストへの支障が出るのはやむを得ないと言ったところだろう。
道具屋で薬草と毒消し草に弁当の補充をして、武器屋で研ぎに出しておいた武器を受け取り出発だ。
中継車に乗り込み港へ向かうと、漁業関係者らしき人が港で待ち受けていた。
「いやあ、魔物のおかげで漁に出ることも出来やしない。
船を港に泊めておくしかないんだが、そうすると今度は、フジツボのような魔物やサメのような魔物が船底に貼りついて、重さで船が沈んでしまうんだ。
全くたちが悪いよ。
少なくとも、港の中だけは安全なように、魔物を退治してくれ。」
その人は、真ん丸いガラスの玉の、底を1/3ほどカットしたようなものを人数分手渡してくれた。
底の部分が開いていて、脳天部分には細長いホースがついている。
ホースの先には自転車の空気入れのようなものがついていて、漁師さんたちだろうか、真っ黒に日に焼けて逞しい体つきをした男たちが、立っている。
恐らく、酸素マスク代わりに、このガラス玉をかぶって、海に潜れと言う事なのだろう。
空気は、漁師さんたちが空気入れで送るから、安心しろという無言の指示という事のようだ。
「ヘッドカメラの、防水仕様のものはあるかい?」
俺は、テレビスタッフに、カメラの取り換えをお願いし、透明なプラスチックケースに梱包されたカメラに変更してもらい、それを酸素ボンベ代わりのガラス球の両サイドに貼り付けてもらった。
そのままでは沈まないので、腰に重りの鉛を付けてもらい、足には大きなフィンを装着し、海の中へいざ出陣だ。
ガラス球の中には、常に空気が満たされていて、息苦しさは感じられない。
これなら声も出るから、レイの魔法も大丈夫だろう。
では、源五郎の矢はどうか?と思って振り向くと、奴はレーザー光線銃を構えていた。
水の中でも光線だから大丈夫ということなのか・・・。
船底を見上げると、いるわいるわ、うじゃうじゃとフジツボの巨大化したような貝殻が、ごまんと船底にびっしり貼りついている。
2重3重に貼りつこうとしているようで、確かに重さで船が沈んでも不思議ではなさそうだ。
鋼の剣でフジツボンをはがそうと手を伸ばすと、ウニョウニョと真っ赤な細長い何本もの触手が、その頂点から出てきて、剣を包み込んで離さない。
思い切り力を込めて、引き抜こうとするが、なにせ水中での事、足場もなく漂っているため力が入らない。
仕方がないので、鋼の剣をあきらめ袋から氷の刃を取り出す。
そうして、氷の刃に力を込めて触手の出ているフジツボンの頂点に突き刺すと、ピキーンと瞬時に凍りついた。
後は、鋼の剣を回収して、凍ったフジツボンを殻ごと船底から引きはがす。
それを何度か繰り返し、ようやく一層目のフジツボンの除去が終わった。
他の連中はどうしているか見てみると、源五郎はレーザー光線銃でコバンザメウオの駆除を行っているようだ。
殻に籠っている、フジツボンの除去はあきらめたのだろう。
レイは、氷の杖を用いて、フジツボンの大群を一気に凍りつかせていた。
それを、タイミングよくツバサが氷の爪ではぎ取っているようだ。
連係プレーは、大変効率が良いようで、すぐに2隻3隻と片付けて行く。
俺も負けてはいられない、氷の刃を振り回し、一気にフジツボン達をこおりつかせては、はぎ取って行く。
暫くすると、レイが何やら自分の足元を指さし始めた。
何だろうと覗いてみると、海底に何やら活火山のようなものが・・・いや、どうやらフジツボンの親玉のようだ。
火山噴火よろしく、真っ赤な触手を何本も頂点部分からウニョウニョと出している。
こんなのがいるんじゃ、船底のフジツボンをいくら除去しても無駄な努力だ。
元を絶たなくてはいけない。
すかさず、ツバサが急潜航して巨大フジツボンの所へ向かう。
しかし、無数に伸びるフジツボンの触手に、あえなく捕まってしまう。
世界最強の空手家と言えども、水中での戦いは得意とは言えないようだ。
触手が体中にまとわりついて、胸や腰のふくらみが露わになる。
普段は、生地の厚い拳法着を着ているので分らないが、かなり均整のとれた美しい体型をしているようで、その悩ましい姿に一瞬見とれてしまった。
すぐに気を取り直して、彼女の救出に向かうが、まだ残っている触手がすぐに攻撃を仕掛けてきて、なかなか近づけない。
なにせ巨大なフジツボン、触手も長く、思いもかけない方向から攻撃を仕掛けられるので、油断ならない。
邪魔なものを取り払うかのように、フジツボンの触手はツバサのかぶっていたガラス球を取り外し、更に着ている拳法着をびりびりと引き裂いて行く。
まずい、このままでは彼女は脱がされて・・・もとい・・・食われてしまう。
「爆裂冷凍!」
レイの魔法で、巨大フジツボンの触手の一部がこおりつく。
やはり水中では、効果が薄い様子だ。
それでも俺は、その隙をついて口元まで近づくことができたので、残った触手を躱しながら、氷の刃を巨大フジツボンの頂点部分に突き刺して見る。
『ピッキーン』巨大フジツボンはゆっくりと凍りついて行き、ツバサにまとわりついていた触手も力を失った。
すぐにツバサの戒めを解いてやり、呼吸ができない彼女は、急いで海面へと浮上する。
最後は、凍りついて動けなくなったフジツボンにマグマの剣を突き刺してやり、フジツボ煮の出来上がりだ。(食べる気にはなれないが・・・)
ふと目を向けると、やはりボスキャラなのだろうか、大きなコバンザメウオを源五郎が仕留めたところだった。
たった一人で・・・ご苦労様、源五郎。
浮上して防波堤へ上がると、レイが自分の袋の中から着替えの上着を取り出して、ツバサにかけてやっていた。
拳法着はボロボロで、買い替えなければならないだろう。
漁業関係者に報告後、港を後にして町へ戻る。
防具屋でツバサの拳法着を調達する。
見ると上級者用の拳法着というのが売っていたので、それを購入させた。
それで持ち金は尽きたようだが、まあ、金なら回せるから問題はないだろう、なにせ、最早おねだり禁止も何も関係ないからだ。
上級者用の拳法着というのは、生地が薄くて体にフィットする様で、それでいて丈夫で機動性もあり、ツバサもすっかり気に入った様子だ。
こちらとしては、体の線が見えすぎで、少しドギマギしてしまうのだが、まあ、いずれ慣れるだろう??
港で受け取ったフジツボンとコバンザメウオの駆除券を清算したが、レベルは更新されず、明日もまたこの町近辺のクエストを引き受けることになりそうだ。
とりあえず、報奨金の全額をツバサに渡す。
この日も、コバンザメ野郎たちの放送は、平原の魔物駆除だった。
戦いの大半をレッドマンにまかせっきりで、レベルだけ上げて行ったために、彼らはSだが、その戦いぶりを見ている限り、強さのレベルはせいぜいXかWといったところだろう。
このレベル差を詰めるには、平原クラスの魔物をどれだけ退治して行かなければならないのか。
「シメンズの方たちですね、リーダーの変更はございませんか?
では、ソテツの木に巣を作るフェニックスの駆除と卵の採取及び、砂漠に巣食うコブラザリの駆除、頑張ってきてください。」
翌日もギルドを出ると、行き先を告げて中継車に乗り込む。
今日は昨日とは反対方向の東の砂漠地帯へ向かう。
砂漠といっても、砂地ばかりという訳でもなく、土は見えるが草木はほとんど生えていない、乾燥した地域だ。
そこに、見上げるほどの高さにまでそびえ立つ、2本の木があった。
この木のてっぺんに巣食うフェニックスの駆除と卵の採取だが、身の軽いツバサと、木登りが得意と自己申告カードに記入した俺が登って行く。
ソテツの木には途中に枝はなく、まっすぐに伸びているだけだが、俺はスルスルと登って行く。
ツバサも、木登りは得意な様子で、俺とほぼ同時にてっぺんへと辿りついた。
ここで、なぜかギルドで受け取った、足に付けたロープの先のフックを、横に伸びた枝に引っ掛ける。
それから、樹上の巣に鳥がいない側のツバサが、その巣の上に立つ。
すると、俺の頭上に居た親鳥たちが、すかさずツバサの方の巣に向かって飛び立つ。
フェニックスは、2本の木の上に2つの巣を持ち、それぞれで繁殖を行うらしい。
片方の巣が開いているうちに、もう片方を襲うのが攻略の手順という事のようだ。
その隙に、俺が樹上へよじ登り巣の上の卵を、下で待ち受けるレイに向けて一つずつ落とす。
異変に気付いた親鳥たちが、すぐに取って返してくるが、こちらの巣にあった卵は既にレイの手元だ。
俺はすかさず炎の剣を抜いて構える。
ところが、不意に両肩を掴まれて吊り上げられた。
しまった、親鳥は2羽いたのだった。
1羽に気を取られ、油断していた。




