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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第3章 ツバサ
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第43話

                        1

 他の冒険者たちにも、復活の木の葉の効用を説明し、万一に備えるために一旦中央諸島へ戻ってでも、各人が手に入れて置くよう、毎日の放送を通じて呼びかける事にした。

 幸いにも、アレヘスまで達していた冒険者たちは数名しかおらず、彼らは準備よく復活の木の葉は手に入れていたようだから安心だ。


 それはそうだろう、ある程度クエストをこなしてさえいれば、復活の木の葉を入手すると言うクエストを引き受けただろうし、その効能を知れば、自分達も所持しようと考えるはずだ。

 呼びかけは、あくまでも念のための、安全確認のようなものだ。


 ボスクラスの魔物は片づけたとはいえ、北部大陸東部の魔物一掃を図るのであれば、それなりに危険も伴う事だろう。

 レッドマンの協力を得られるようにはなったが、今となってはお互い一つしかない命、どれだけ念には念を入れたとしても、大げさな事は一つもない。


 なにせ、命がけの冒険であるのだから、復活やリセットが効くゲームの世界だからこそ、誰もがビビらずに出来ていただけなのだ。

 以前は攻撃を受けても痛みはなかったが、今ではダメージによっては心臓が止まるかと思える位の激痛が走る時もある。


 ではなぜ、人一倍臆病な俺が、このような命がけの冒険を率先してやっているのかというと、何としてでも元のゲームの世界へ戻って・・・つまり地球の生活に戻って、元の生活をしたいという気持ちが強い事と、ただ何となくではあるのだが、このままゲームをクリアーするまで進めれば、本当に元の次元へ帰ることも夢ではないと、真剣に信じているからだ。


 そのような夢物語をどうしても信じることが出来なければ、命がけの冒険などとてもやる気にはなれないだろう。

 仮に最終ダンジョンまでクリアーして見て、何も起こらなかったとしたら、それまでの苦労は誰が償ってくれるのか。


 いや、最終ダンジョンまで行きつければまだいい、つまりはその時点まで命があると言う事だから・・・、命がけの冒険をして、夢半ばで果てた場合、その夢が叶うものであったならばまだいいが、最初から望みのないものであったとしたならば、命を掛けたことがむなしくなる。


 そんな彼らに、俺達というか俺のただの推定でしかない夢物語に協力してもらい、命の危険も顧みずにこの地に残った魔物たちの一掃をお願いするのだ。

 多少、申し訳ない気持ちになりながらも、受付嬢との握手券欲しさの気持ちに付け込んで、北部大陸東部の魔物退治は全てお任せすることにして、俺達はペレンの町まで戻ってきた。


 目指すは、北部大陸西部のヨースルという町だ。

 本来であれば、まだ1ヶ月半以上は行く事の出来ない場所のはずなのだが、それまでの時間つなぎとなる、北東部山脈中央の宮殿で手に入れるべき賢者のトンネルの鍵を、ヤンキーパーティに先取され、先へ進むことができなくなったため、多少フライング気味だが地元の渡し船を利用して川を渡ってみようと思いついたのだ。


 レベル的には、1つや2つは上のレベルで挑むべき地域だろうから、緊張するが仕方がない。

 北東部にまだ残っている魔物退治でレベルを積み上げてから行ってもいいのだが、余りヤンキーパーティに先行されると追いつくことが困難になってしまう危険性があるため、強硬策に踏み切った。

 北部大陸西部を分ける様にして流れる大河は、ペレンの町から車で3時間ほどの場所にあった。


「送ってもらって申し訳ないが、ここで一旦はお別れのようだね。」

 俺は、中継車から降りて渡し船の小屋が運航を再開しているのを確認すると、スタッフに頭を下げた。


 大きな橋が架かるまでは、車でこの川を渡ることは出来ないだろう。

 一緒に行きたがっているスタッフには申し訳ないが、ここでお別れだ。

 いや、彼らの事だ、向こうの支社から車を回してもらえばいいからと、一緒に乗船するだろうか・・・。


「いえ、車も大丈夫ですよ。」

 スタッフが、渡し船の小屋に入って行って、何か交渉しているようだ。


 暫くすると、平たい筏のようなタグボートがやって来た。

 新しく作られた桟橋に接岸し、その上に中継車ごと乗船する。

 どうやら、車の行き来も問題はなさそうだ。


 それはそうだ、以前から橋はかかっていない大きな川なのだ、車での行き来を希望する客もいたはずだ。

 川幅は結構広く、エンジン付きのボートだったが、それでも30分以上かかってようやく向こう岸へ着いた。


「あんたたちが、久しぶりの客だ。

 川の魔物はいなくなったっていうから、渡し船を再開したのはいいが、ペレン側の魔物は一掃されたが、こちら側は依然として魔物たちが多く生息している。


 だから川を渡ったところで、この先には行けないぞ。」

 渡し船の船頭のおじさんが、接岸した後に教えてくれた。


 なんでも、スタッフが小屋で交渉していたのは、対岸へ渡っても命の保証は出来かねると言うのを、無理やり船を出してもらうよう説得していたらしい。


「大丈夫ですよ、その魔物達を退治するために、我々が渡って来た訳ですから。

 後からも、続々と冒険者たちがやってくるはずです。

 すぐに安全に行き来できるようになりますよ。」


 おじさんに安心するように告げると、中継車は対岸に上陸し、さあ出発だ

 走り出した途端に、緑色の巨大な蟹の魔物に襲われる。

 体長2mはありそうな巨大な蟹だ。


『シュッシュッシュッ』源五郎が矢を放つが、厚い甲羅のせいか、全て弾かれてしまう。

強火炎弾(パチ)強火炎弾(パチ)!」

 レイの炎の魔法ですらも、甲羅に焦げ目をつけることもなく、弾かれる。


『しゅたっ』ツバサが跳躍し、頭めがけてキックをお見舞いする。

『ズゴッ!』鈍い音がして、決まったかに見えたが、すぐにツバサは大きなハサミに捕まってしまった。


「きゃあっ」

 掴まれた腹部分を、ハサミで締め上げられ、ツバサは苦しそうだ。


「おりゃっ!」『バチバチバチバチッ』

 俺が雷の剣を、ツバサを掴んだハサミの肘関節部分目がけて突き刺す。


『ブクブクブクブクブクッ』巨大蟹は、口から大量の泡を撒きながら、ツバサをようやく放した。


「関節部分を狙うんだ。」

 といったところで、いくら巨大とはいえ、細い蟹の足の関節部分の的は、そうも大きくはない。

 素早く動く相手に対して、矢や魔法で正確に射ぬけるとは到底思えない。

 こうなると、地道に剣で切り裂いて行く以外は、方法はなさそうだ。


「えいっ!」

 レイが、やけくそ気味にマグマの杖を巨大蟹目がけて投げつける。

 おいおい・・・、それは飛び道具ではなくて、魔法の補助道具だろ?とか思って見ていると・・・、空中で赤熱化した杖は、蟹の甲羅に突き刺さり尚も温度を上げ続け、見る見るうちに焼き蟹が出来上がった。


「ほう、炎系のアイテムとマグマ系のアイテムの違いが判らなかったが、密度が違うのか。

 マグマの方が、高温で重いから、硬い甲羅も突き抜けて効果を表したという事だな。」


 俺は、おいしそうな匂いが立ち上ってくる焼き蟹の出来具合を確認しながら呟く。

 後で食べられるものか確認してみようと、足を1本切り取っておいた。


 攻略方法が分ってしまえば、後は楽だった。

 マグマ系アイテムを装備して、巨大蟹に立ち向かっていく。

 海岸近くでは、巨大蟹や巨大ヤドカリの襲撃を受けたが、マグマ系のアイテムで何なく撃退して行った。


 そうして、食事の際のおかずに困ることもなかった。

 最初は気味悪がっていた、テレビスタッフたちも、ひとたび焼き蟹の味を覚えると、すぐにヤドカリですらも好んで食するようになって行った。


 魔物たちの密度が濃く、遅々として進んで行かないので、食料の現地調達は実にありがたかった。

 目的地であるヨースルまでの道のりのうち、1/3も進んでいないのに、既に1週間が経過しようとしていた。

 毎日毎日、巨大蟹や巨大ヤドカリとの戦いばかりで、目新しい変化もなく番組編集上行き詰ってきたところで、目の前に大きな洞窟が口を開けて待っていた。


「どうします、攻略しますか?」

 インカムを付けたテレビスタッフが、聞いてくる。


 確認というより、どちらかというとやってくれとでも言いたげな雰囲気だ。

 それはそうだろう、見ている側では面白くもない、蟹とヤドカリ系の魔物たちとの戦いばかり、しかも最近では俺達冒険者が身の危険を感じることもなく、ただひたすらマグマ系のアイテムで、魔物たちを焼き殺して行っている・・・というより、調理していると見ている側には映っているかも知れない。


 刺激を求めている視聴者たちには、少し物足りないだろう。

 いや、視聴者たちは刺激を求めているとは言っても、別に俺たちが傷つくことを願っている訳ではない、テレビ局へ送られてくる励ましのお便りを読んでもらっても、それは判る。


 俺たちの冒険に応援はしてくれている人たちが多いのだ、ただ、余り安易な旅ではなく、やはり冒険なのだから、多少の危険とスリルを求めているのだ。

 目の前には、その先の見えないスリルの対象である洞窟が、大きく口を開けて待ち構えている。

 スタッフが、ぜひ入ってくれと言いたげな気持ちも、分ろうというものだ。


「うーむ・・・、しかし、この洞窟でのクエストをギルドから引き受けたわけではない。

 ましてや、クエストの対象物が分らないから、うまい事ダンジョンを攻略したところで、クエスト用の対象物をキープできるかどうかも分からない。


 ここは先を急いで、ヨースルの町のギルドでクエストを引き受けてから、出直した方が良いような気がする。」

 俺は、申し訳ないとは感じながら、首を横に振る。


「し・・・しかし・・・、目の前に冒険のダンジョンがあるのですよ。

 折角傍まで来ているのに・・・、ここからヨースルまでは、まだ相当な距離があります。

 一度ヨースルまで行ってしまえば、戻って来るにも相当な手間となってしまいます。


 前に言っていたではないですか、クエストを引き受けてもらう経験値と、その積み重ねであるレベルは、あくまでもクエストを引き受ける際の指標でしかないと。

 実際には、クエスト遂行の際にダンジョン攻略の為に知恵を絞ったり、強敵を何とか連係プレーで打ち倒したりする経験こそが重要だって。


 そうであれば、わざわざヨースルまで行ってクエストを引き受けてから舞い戻ってくるようなことをしなくても、いいのではないのですか?」

 スタッフは、何とかダンジョン攻略に向かうよう、しつこく説得をしてくる。


 俺だって、彼の言っていることが正しい事は分っている。

 本来であれば、この場所に関するクエストであるならば、ペレンのギルドでクエストが発生していて、それを受けてから、こちらに来ているはずだったのだろう。


 ところが、正式に橋が架かる前に、ローカルの渡し船を利用して、いわゆる裏口を使って来てしまったがために、クエストが発生していなかったのだ。

 その為、わざわざはるか先のヨースルまで行って、俺達がこちらへ足を踏み入れたことにより発生しているであろうクエストを、引き受けてから戻ってこなければならなくなってしまったのだ。


 それもこれも、正規のルートで進むべき手だてを奪われてしまったのが原因だが、だからといってわざわざ非効率的な事をしなくてもいいはずだ。


「分ったよ、この先にどれだけダンジョンがあるのか分からないが、確かにここまでの距離を引き戻してきて、クエストをやり直すのは効率が悪い。

 ここはひとつ、経験値を捨てるつもりで、アイテム取得目的でダンジョン攻略をするとしよう。


 勿論、ダンジョン内の魔物一掃が主たる目的だけどね。

 みんなもいいかな?」

 俺は、そう言って源五郎たちの顔を見回す。


 彼らが経験値重視で、正式にクエストを引き受けてからダンジョン攻略したいと思っているのであれば、それはそれで仕方がないと考えていた。


「はい、どうせだからダンジョンは攻略しながら進みましょう。

 いずれは戻ってくるのかも知れませんが、もしかしてこの先に賢者のトンネルがあったら、癪ですからね。」

 源五郎が、真っ先に賛成してくれた。


「あたしもいいわよ、いちいち戻って来るの面倒くさいし・・・。」

 レイも賛成な様子だ。


「あたしは、いつどこで、どんなダンジョンだって、最高の力を発揮するつもりです。」

 ツバサもやる気満々だ。


 では、行きましょう。

 ヘッドカメラと、インカムを装着してもらって、洞窟の入り口に立つ。

 とりあえず、周辺の魔物たちは一掃したつもりなので、スタッフたちに危険は及ばないだろう。


「じゃあ、行くよ。」

 いつものように、リアカーをひいて洞窟内へ入って行く。


 このところ変わったことといえば、先頭はツバサが専任だ。

 接近戦が得意で、不意を突かれても対処できるツバサは、先鋒には最適だ。

 次に源五郎が続き、レイに続いてリアカーを引いた俺が続く。


 俺が最後の理由は、後ろは任せておけという訳でもなく、ただ単に鎧と盾のおかげで防御力だけは高いので、魔物たちに背後に回られても何とか皆まで被害が及ばないように、守れるだろうと言う配慮からだ。


「うん?先に誰かが・・・」

 先頭で入ったツバサが、すぐに立ち止まり身構える。

 すると、その先の影も身構える。


「あ・・・あれ?あたしだ・・」

 すぐにツバサが構えを解くが、すると相手も同様に構えを崩す。


「どういう事?」

 レイが少し伸びをして、先の様子を見通そうとする。


「どうやら、鏡が洞窟の内壁に貼り付けられているようですね。」

 源五郎が言うとおり、そこは壁一面、総鏡張りだった・・・なんかのパーティ会場か?それとも踊るとこ?


「少しの明かりでも反射するから、中が明るくて見通しがいいわね。」

 レイの言うとおりだった。

 手持ちのハンディライトの明かりでも、洞窟のはるか先まで、見通せるくらい明るい。


「まあ、これだけ明るければ、魔物が出ればすぐに判るだろう。

 ダンジョンのレベルも分からずに入って来てしまったが、不意打ちさえ食らわなければ、頑張れるとは思う。

 まあ、ゆっくりと進んで行こう。」

 ツバサを先頭に、慎重に進んで行く。



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