第41話
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『ズドーン』大きな音がして、凧が落ちたすぐ目の前には、真っ黒な外壁の大きなお城があった。
「みんな無事か?」
俺は、凧の周りに飛び散った人影に声を掛ける。
「いたたたた・・・、これが、無事といえるのならね・・・。」
レイは、大きな青たんをおでこにこさえていた。
「あたしは平気です。」
流石はツバサだ、難なく着地を決めた様子だ。
「僕は、ちょっと足をひねってしまいました。」
源五郎が左足首に、薬草を当てている。
俺は、謝りがてら、レイのおでこに薬草を当ててやる。
「ま、なんとかすぐに、目的地へつけたんだから、怒るのは勘弁してくれ。
恐らく、ゲームのシナリオ通りなんだと思う。」
俺は、大きな城を見上げながら、辺りの様子をうかがう。
レイのたんこぶも、すぐに治まり、源五郎の足も回復した様子だ。
じゃあ、出発だ。
俺は、リュックに詰めた中継箱を、まずは城の正面入り口に付けた。
大きな木の扉を開けて中へ入ると、城の中は、恐ろしいほど静かだった。
しばらく歩いても、魔物の影も見えない・・・、いや、影どころか、死骸はたくさん見るのだが、動いている魔物を見ないだけだ。
恐らく、レッドマンが昨日あらかた倒して回ったのだろう。
討ち漏らしがあれば、離れて撮影しているスタッフ達の身に危険が迫る場合があるので、綺麗に片づけたという事か。
それにしても、ヤンキーパーティの奴ら、死骸は置きっぱなしかよ・・・、あと始末はきちんとするのが、冒険者としての礼儀だろうに・・・。
魔物との戦いはレッドマン任せなのだから、せめて後始末くらいはとか考えないのだろうか。
あとで、リアカーを持ってこなければならないなとか考えながら、奥へ進んで行く。
宝箱は全て開けられ、何の楽しみもないのだが、最深部へ行くまでの仕掛けが分らないので、部屋という部屋は全て隅まで確認しながら進む。
一度2階へ上がって、それからまた降りて、地下まで進み、更に1階へ戻ってから3階へ上がって行くと言う、複雑な経路を辿って行き、分岐のたびに中継箱をセットする。
そうこうするうちに、昨日見た中ボスとの決戦の間に出た。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ・・・、愚かな人間どもよ、我が怒りをかったことを後悔して、懺悔しに戻って来たか。
だが許しはせん、お主たちの悪行、万死に値する、その命で償え。」
昨日から、ずっとその体制で待っていたのか、中ボスの富士さんは決戦の間の中央にただ立ったままでいた。
身長は3メートルを越えているであろう、鎧武者だ。
「あっ、レッドマンさん・・。」
ツバサが指すその先は、富士さんの足元で、そこには真っ赤な足置きが・・・いや、足置きではない、レッドマンが富士さんの足に敷かれているのだ。
「俺が気を惹くから、ツバサはレッドマンを救ってくれ、恐らく命まで奪われてはいないはずだ。
レイ、源五郎、援護を頼む。」
俺はそう言って、雷の剣を大上段に振りかぶって、突っ込んで行った。
「強雷撃、強雷撃、強雷撃!」
『シュッシュッシュッシュッ・・・バチバチバチバチッ』
レイの魔法と、源五郎の雷の矢が炸裂する。
鎧系の魔物には、効果的なはずだ。
『グヮキッ!』俺の渾身の一撃は、最上段の腕の剣で簡単に受け止められてしまう。
更に、2段目の腕が水平に切りつけてくるのを、俺は後方へ飛びのいて躱す。
その瞬間、富士さんの体重が移動したのを確認して、ツバサが足で押さえつけられていたレッドマンの体をひきだして抱えると、ダッシュで元居た入口まで駆け戻る。
その様子を見た俺も、一目散に逃げ出して、そのまま階下へと階段を転がるようにして降りてきた。
「はぁはぁ・・・、今までの経験から、奴は3階から降りては来ないだろう。
そりゃ、俺たちがこの城から逃げ出したらどうかわからんが、ここに居て、戦う姿勢を見せているうちは、追ってこないはずだ。
それよりも、まずはレッドマンだ。」
俺は、レッドマンの傍へ行くと、呼吸や心音を確かめた。
どれも切れ切れで弱い、瀕死の状態だ。
俺は自分の袋から、復活の木の葉を取り出すと、レッドマンの口の中に詰め込んだ。
レッドマンは弱々しく口を動かして、時間を掛けながらそれをようやく呑み込む。
「う・・・うん?君たちは、冒険者シメンズ・・・。
それと、アンズ村のツバサちゃんじゃないか・・・、一体どうしたんだい?」
レッドマンは息を吹き返した。
「よかったぁー・・・、我々の側のおバカの為に、この星の住人が犠牲になっては大変だと思い、助けに来た。
まだ、傷なども癒えてはいないから、レッドマンはここでおとなしく待機していてくれ。」
俺たちは、傷だらけのレッドマンの体中に薬草を貼ってやり、弁当を手に持たせると、決戦の場へと向かった。
「どうせ、一旦は全滅しなければならないようだ、華々しく散ろう。」
そう言って、俺は剣を構えて富士さん目がけて突進した。
「最初からやられるために戦うと言うのは、好みません。
あくまでも全力で戦います。」
ツバサがすぐに追いついてきて、更に追い越した後、華麗な跳躍を見せて、富士さんの顔面へ蹴りをお見舞いした。
富士さんがぐらつくのを見た俺は、分厚い装甲のすきを突くべく、ひざ部分の装甲の合わせ目の隙間目がけて、剣を突き刺す。
『バチバチバチバチッ』装甲から火花が上がり、巨体が膝をつく。
富士さんと目線があった俺は、すかさず剣を抜き、装甲の薄い顔面に突き刺そうとする。
しかし、がっちりと上側4本の腕に捕まり、持ち上げられてしまった。
『ギシギシギシギシギシッ』俺の鎧が軋む音が聞こえてくる、長くは持ちそうもない。
『シュタッシュタッシュタッ・・・、バチバチバチバチッ』肩やひじの鎧の隙間目がけて、正確に矢が撃ち込まれ、耐え切れず富士さんは、掴んでいた俺の体を落とす。
「爆裂雷撃!」
『ドーン!』と大きな稲光が富士さんの頭上から落ち、鎧の隙間から、煙が上がる。
その煙が出てくる隙間目がけて、俺がさらに雷の剣を突き刺す。
ツバサが顔面に膝蹴りをくらわす・・・、いける、なんだかわからないが、全滅する必要はなさそうだ。
これで倒せるのなら、頑張ってみよう。
俺は、突き刺した剣に力を込める。
「うぉーうぉー・・・!」
富士さんは、突然雄叫びのような叫び声をあげると、両手を広げつま先立ち、コマのように回転し始めた。
その勢いで、俺は弾き飛ばされ、蹴りを入れようとしたツバサも弾かれる。
更に回転はスピードを上げ、源五郎が投じた矢も全て抜けてしまった。
回転する巨大コマは、俺たちの所へ猛スピードで迫って来る。
間一髪で躱すが、壁やドアなど、当たった個所は粉々だ、恐ろしいほどの破壊力だ。
「どうします、矢を射ても弾かれて貫けませんよ。」
源五郎も打つ手なしとばかりに、振り向いてくる。
そうこうしている間にも、巨大ゴマは迫ってくる。
段々と、避けているだけでも、結構きつい状況となって来た。
しかも、階下へ降りる階段付近を最初に攻められ回り込まれたので、2階へ逃げることも叶わなくなってしまった。
「レイ、コマは高速回転しているが、1点だけ動きが緩いところがある。
それはコマの中心だ。
そこを狙って、雷を落とせないか?」
頼みの綱は、レイだけの状況だ。
「無理よ、あんなに動き回るのだもの、正確に体の中心なんか狙えないわよ。
止まっているのなら別だけど。」
レイは、そう言って首を振る。
やはりそうですか・・・、
「だったら源五郎、足元の中心、つまり軸を狙って矢を射たらどうだ?
バランスを崩せば、コマだって倒れてしまうことだってあるだろう?」
「無理だと思いますよ、あんなに高速回転しているのだから、ちょっとやそっとじゃ・・・。」
源五郎は、それでもとりあえず弓を構えて低く狙って撃ってみる。
『ヒュン、ヒュン、シュタッ』撃った矢が弾かれて、こちらへ戻ってきて後方の壁に突き刺さった。
これはかなり危険だ。
「つ・・・ツバサは・・・。」
ツバサも、申し訳なさそうに首を振る。
仕方がない、こうなればやけくそで、足元狙いで攻撃を仕掛けて見て・・・、復活の木の葉は1枚使ってしまったけど、まだ1枚源五郎が持っているはずだし・・・。
俺は意を決して前へ出た。
『シュタッ』すると、富士さんの背後から黒い・・・いや、赤い影が飛び出しスライディングすると、狙い澄ませたようにコマの足元をすくった。
『ズドーン!』地響きとも取れる振動と共に、高速回転するコマは、床に転がる。
レッドマンだ、レッドマンが駆けつけてくれた。
おとなしくしていろって言っておいたのに・・・とか思いながら、なぜか頬が緩む。
「いやー・・・」
ツバサが、チャンスとばかりに駆け出して、床を蹴って宙高く舞う。
俺も、雷の剣を振りかぶって駆け出す。
「爆裂雷撃!」
まずは、レイの魔法で強烈な一撃をお見舞いする。
『シュッシュッシュッシュッ』俺の脇をかすめる様に、幾本もの矢が富士さんの体めがけて飛んでいく。
「ぐぉおー・・・」
富士さんは、転がりながらも、その何本もある手を振り回して、攻撃を仕掛けてくる。
しかし、レッドマンもツバサも、そのような攻撃はものともせずに、的確にキックやパンチや膝蹴りを敵の急所にお見舞いしていているようだ。
俺も、関節の隙間目がけて雷の剣を突き刺していく。
立っている時は無理だったが、転がっているので、腰の隙間にも突き刺すことが出来た。
「みんな、離れて・・・爆裂雷撃!」
最後は俺が突き刺した銅剣を、避雷針代わりにしたレイのとどめの一撃で、富士さんは微動だにしなくなった。
ようやく倒せたのだ。
しかし、一度全滅しなくても良かったのだろうか、瀕死の仲間を救うという条件も満たしてはいないのだが・・・、と考えていて、ふと思った。
今回だけは、レッドマンも仲間としてみなしてくれたのかも知れない。
だから、レッドマンが戦いに参加した時点で、富士さんの無敵状態は消滅したという事ではないのか。
それとも、やはり世界最強のレッドマンと世界最強の空手家であるツバサがいたから倒せたのか。
どちらにしても、レッドマンに感謝せねば。
富士さんの体からは、マグマの杖と、マグマの剣にマグマの爪、マグマの弓が出現した。
「いやあ、ありがとう・・・、不覚を取った。」
レッドマンは、恥ずかしそうに顔を赤くして、後頭部を掻きながら頭を下げた。
「とんでもない、あれは、ヤンキーパーティの奴らが悪いんだ。
魔物は全てレッドマンにお任せで、自分たちは何もしないばかりか、レッドマンの戦いの邪魔になっても平気でいた。
あれじゃ、いくら世界最強でも、ハンデを背負って戦っているようなものだから、ダメージは溜まって行ってしまうよ。
もう、あんな奴らの付き合いをする必要はない。
なにせ、冒険者というのは危険を顧みず、自らの力で突き進んで行く者をいうのだからね。
人頼みでようやく先へ進むのは、冒険者とは言えないし、冒険者でなければダンジョンへ向かうクエストを引き受けてはいけない、その資格がないのだから。
そんな奴の身を守ってやるのが、住民の安全を守るヒーローの仕事ではないよ。」
俺は、レッドマンにあいつらのガードを取り止める様に、説得をする。
ずっと伝えようと考えていた、俺なりの解釈だ。
「ああ、僕は君たちと一緒にクエストというものに参加して、その戦いぶりを見ていたから、彼らもそのような力を持っていると思っていたんだ。
現に、彼らは自分たちは十分に強いから、自分の身は自分で守れるけど、今のところは戦う気がないので、お願いすると言っていたからね。
ところが、いつまで待っても戦いだそうとはしない、冒険というものをはき違えていると説得しようと考えていたんだが、最後にこの宮殿だけは付き合ってくれと言われてしまった。
最初からの計画だったからね。
ところが、あの有様さ、彼らは援護どころか、戦うそぶりも見せてはくれなかったね。
ヒーローとして見返りを求めてはいけないのだが、少し悲しかったよ。」
レッドマンは、悲しそうに肩を落とした。
そんなレッドマンを、顔見知りのツバサが慰めている。
「まあ、なんにしてもみんな無事でよかった。
一度全滅しなければいけないと考えていたんだが、ゲームの世界を飛び出した身の上・・・、本当に復活できるかどうか、心配していたからね。
とりあえず、このダンジョンは終了だ。
魔物たちの死骸を片付けるとしよう。」
手分けして、魔物たちの死骸を城の外へ運び出す。
流石に世界最強だけあってレッドマンは怪力なので、巨大な富士さんも一度に運ぶことができた。
申し訳ないが、死骸は3階や2階の窓から地面へ落とした。
いちいち地下を経由して運ぶのは、骨が折れるからだ。
そうして、1時間程度で、城の中は片付いた。
外に大きな穴を掘って、死骸を埋めて、クエスト終了だ




