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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第3章 ツバサ
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第40話

                      12

『ゴゴゴゴゴゴゴォッ』ものすごい轟音と共に、地鳴りがしたかと思うと、建物が少し揺れた。

 地震というほどでもないが、衝撃を感じた。

 急いでギルドの建物から、外へ出て見ると・・・


「雪?」

 レイが差し出した手のひらには、何やら小さな白いものが、しかし、それは掌の体温で溶けることもなかった。


「火山灰だ。」

 灰色の粉は、時折大きな粒も交じりながら、空から降ってくる。


「どうやら、火山が爆発したようですね。」

 源五郎が指す方向には、山々が連なっており、そのうちのひときわ高い山の頂上近くから、モクモクと真っ黒な噴煙が上がっているのが見える。

 煙の中には、時折真っ赤な火柱ものぞき、噴火のスケールを物語っている。


「うっわあ・・・大変だ。

 富士が爆発したぞ。」

 住民の1人が大声で叫びながら駆けて行く。


「富士・・・、富士というのか、あの山は?」


「はい、あの山自体は、元々は名もない連峰の中の一つだったのですが、ある方が買い上げて、あのようにひときわ高い山となったのです。

 そうして、その方があの山を名づけました、富士と。


 ご存じのように、ギルドや武器屋などが出現した土地の所有者でもあります。」

 ギルドの前で待っている、テレビスタッフが話してくれた。

 と言われても、ご存じな訳ないって・・・、俺たちには見も知らぬ人だよ。


 だが、これでこの噴火もイベントの一つであることは分った。

 ヤンキーパーティの奴らが、宝箱の中を抜き取った行為が正当な物かどうかは別として、ともかく無敵に近い中ボスに、一旦は叩きのめされ、なんらかの怒りを買って火山を噴火させられるのだろう。


 恐らく、一旦はダンジョンから出て、回復したのちに再度チャレンジする仕組みなのだろう。

 攻略が遅くなると、火山の噴火の影響が大きくなると言った、時間的な焦りを生み出させるような。


 そうすると、瀕死になった奴らを救い出して回復させるようなイベントが・・・、これはまずい、奴らは絶対に危険な真似をするはずがないから、全滅しそうになることはありえない。

 仲間であるはずの、レッドマンですら平然と置き去りにすることだろう。

 これでは、ますます中ボスの怒りがエスカレートしてしまう。


『ズドーン!ズドーン!』地鳴りのような大きな音がして、噴石が落ちてくる。

 中には、人の頭程度の大きさのものもある様子だ。


「まずい、早いところクエストを見つけて奴らがいたダンジョンへ向かおう。」

 俺は急いで、ギルドの中へ入り直す。


「おい、ヤンキーパーティの奴らが向かった、ダンジョンに関するクエストはあるか?」

 俺は、受付嬢に聞いてみた。

 いつもなら、柱の所まで行ってクエストを物色するのだが、今はそんな事を言っていられる余裕はない。


「は・・・はい・・・、たった今、クエストが発生しました。

 どうやら、クエスト中のパーティが、クエスト票を破いたか若しくは捨てた様です。


 今回のクエストは特殊で、一旦ギルドへ戻ってから再発行されるクエストのはずでしたが、先着パーティにクエスト継続の意思なしとみなされて無効となり、新たなクエストが発生いたします。」

 受付嬢は、手元の装置を眺めていたが、やがて笑顔で答える。


「そうか、ヤンキーパーティの奴ら、このまま逃げる気だな。

 クエスト票を持っていれば、冒険者としてあの魔物に追われる可能性があるから、早々とクエスト票を捨てたか何かしたのだろう。


 だが、クエストが無効になれば、アイテムは消えてしまうのだったな。

 そうなれば、奴らの思惑通りには、事は進んで行かないと言う事だ。」

 俺は少しほっとしていた。


「いえ、クエスト対象のアイテムは、クエスト期間内に清算しなければ無効となって消えてしまいますが、ダンジョンの宝箱などから得た品物は、クエストの攻略いかんにかかわらず、その冒険者の所有物となります。


 そうでないと、ダンジョン攻略を途中であきらめた場合、それまで取得したアイテムが消えてなくなってしまいます。

 例えば薬草などを手に入れて、それで回復されていた場合は、その薬草自体を消し去ることはもうできませんし、後から効果を無効にするわけにも参りません。


 その為、得られたアイテムは、死んでその冒険の記録をリセットしない限りは、冒険者のものです。」

 受付嬢は、冷静に説明してくれる。


「分った、その新たに発生したというクエスト票を出してくれ。」

 俺は、クエスト票を貼りだすのを待っている時間も惜しいので、少し強引だが直接クエスト票を発行してもらうつもりでいた。


「はい、これになります。」

 意外にも素直に彼女はクエスト票を渡してくれた。


 クエストは、富士さんの怒りを静めて噴火を止める。もしくは富士さんを倒す。というものだ。

 あの魔物は富士というのか。

 富士が潜んでいる山で富士山か・・・、オヤジだな。


「何か赤字で書いてありますね、注意事項ですか?」

 源五郎がクエスト票を覗き込んできた。


「おお、その様だな・・・、ふうむ、条件として瀕死の仲間を助けて復活させるとある。

 つまり、この中の誰かが瀕死の状態にならなければいかんという事だ。

 やはり、一旦は全滅に近い状態となる必要性があるという事だな。」

 読み通りだが、手順を踏まなければならないところが、ある意味面倒くさい。


「まあいい、Sレベルだから受けることは出来るね。」

 俺はそう言ってクエストを引き受けることにした。


 恐らく、このクエストは一旦全滅して、ギルドへ戻ってから復活するが、通常の場合と異なり記録のリセットをしなくても、金が半分になることはないのだろう。

 そのまま、今度は噴火を止めに向かうのだ。

 そうして、ようやくあの魔物が倒せる状態になるという事だろう。



「この、富士さんの宮殿というのは、どこか分るかい?」

 ギルドを出てから、テレビスタッフに目的の場所を聞いてみた。


「はい・・・、北東部山脈に巨大な城が出現したという話は伝わっております。

 この位置になります。」


 地図を広げて、場所を教えてくれるスタッフの示すところは、折れ曲がった山脈の、丁度頂点の内側に位置していた。

 北東部山脈は大陸の南端を発して逆V字に折れているため、アレヘスからだと一旦北上して大きく南東へ回り込むように迂回して山脈の端まで達し、更に北西へ戻ると言う、大きく山脈を迂回する必要性がある。


「直線距離ではさほどの距離はないのですが、山を迂回しますと、車で片道4日間はかかるでしょう。」

 そう言う訳か、あいつらの放送では、毎日移動を続けていたようだったが、アレヘスの町から車で移動しながら放送していたのだろう。


 そうすると、移動時間の都合もあって、生放送でしかダンジョン攻略できなかっただけなのかもしれない。

 道中のクエストなどは、連中にとってはどうでも良くて、宮殿へ着くための移動が優先だったのだろう。


「ふうむ・・・、しかし弱ったな・・・、噴火を止めるにも、移動だけで4日もかかるのではな。」

 何か方法はないものか・・・、全滅して一旦はギルドへ戻るはずだったと言っていたから、ここから、最短で宮殿へ向かう方法があるはずだ。


 テレビスタッフに取材ヘリがあるかどうかを聞いてみるか?

 いや、そんな方法であるはずもない、何か別の手が・・・。


 なにせ、車での移動ですら、俺たちの冒険では想定していないだろう。

 せいぜい馬車だ。

 それか歩きだが、地図で見る限りだと、歩いたら半月とかひと月とかかってしまうような距離だ。


 恐らくは、途中でクエストをこなしながら、ヒーリングゾーンなども経由して行くのだろうが、火山が噴火し始めてからは、時間的な余裕はない。

 なにか、画期的な方法があるはずだ。


「きゃあきゃあ、もっと早く走らないと、凧が落ちちゃうよ。」

 子供が、糸を持って凧を上げようと必死で駆けていく。

 そう言えば、先ほどまで降って来ていた火山灰や噴石は既に止んでいる様子だ。

 風向きが変わったのだろうか。


「そう言えば、今日から凧祭りのはずです。

 うちの番組でもニュースで取り上げると言っていました。」

 スタッフがその様子を目で追いながら呟く。


「凧祭り?それは昔から行われている行事なのか?」


「いえ、何でも今年初めて行われるのですが、場所の手配から何から何まで準備されていて、運営委員会に引き渡されたのだそうです。

 突然の事でしたが、決定事項であれば従うしかないと、急遽、地域の行事として行われることになったようです。」

 凧祭り・・・?恐らくこれだ。


「その会場まで連れて行ってくれ。」

 俺はスタッフの手を引いて、車に向かう。


「いいですが・・・、富士山へ向かうには方向が違いますよ。

 凧祭りの会場は北東部山脈のふもとですが、この町の真東で、富士山へ向かうには北へ進まなければなりません。

 山に囲まれて、ルートがありませんから、そこから大曲で行かなければなりませんよ。」


 スタッフは渋々ながらも、会場へ案内してくれた。

 そこは、アレヘスの町から東へ4時間ほど車で移動した場所にあった。

 車での移動中に、ヘッドカメラやインカムなどを各自にセットしてもらう。


 着いたのは、北東部山脈の山裾の広大な平地で、富士山から立ち上る噴煙が間近に見える場所だ。

 火山灰や噴石が落ちてくるだろうに、のんきに会場では、連凧や巨大凧が上げられていた。


「火山の影響?そりゃ、ある訳ねえべ。

 見りゃわかるだろう、風は山の方に吹いているんだから、山でいくら噴煙が上がっていても、みんな向こう側へ流されちまっているさ。」


 祭りの実行委員なのか、半被姿のおじさんが空を見上げながら教えてくれた。

 なるほど、風向きが逆なのか・・・、しかし、もっと西のアレヘスの町では、火山灰が降ったり噴石も落下してきたりしていたはずだが・・・。


「恐らく、低空と上空では風の向きが逆なのでしょうね。

 地表では東へ向かって風が吹いていますが、もっと遥か上空では西へ風が吹いているのでしょう。

 その風に乗って、アレヘスの町へ火山灰が・・・。」


 源五郎が、更に上空を見透かすように、手を翳して空を見上げる。

 そういう事なのだろう、だが、好都合だ。


「あの大きな凧、あれなら人が乗っても上げられそうですね。

 すみませんが、我々を乗せて飛ばせてもらえませんか?」

 俺は、ひときわ大きな凧を指して、おじさんに聞いてみた。


「ありゃお前、この大会のメインの凧だ。

 たかーく上げて、富士山よりも高く上げる予定で、ロープも太くて長いのを用意してあっだ。


 乗せて欲しいと言うのなら、のせねぇことはねぇんだけんど、いくらお前さんたちが冒険者だからといって、ちっと冒険が過ぎるんじゃねぇのか?」

 おじさんは、信じられないと言った顔をして、首を振る。


「そこを何とか・・・、お願いしますよ。」

 俺は拝み倒すように、顔の前で両手を合わせる。


「分っただよ・・・、でも、何があっても自己責任、わしらは知ったっちゃねぇかんな。」

 そう言って、おじさんは了解してくれた。


「こ・・・この凧に掴まって、上空へと向かうのですか?

 正気の沙汰ではありませんね。」


「あ・・・あたしは・・・いやよ、こんなの死んじゃうわ。」


「あたしは、恐らく上空から急速に落下したとしても、うまく着地する自信はありますが・・・。」

 源五郎もレイも、俺の行動を信じられないとばかりに批判する。


「まあまあいいから、絶対に大丈夫だって。」

 俺は、二人を無理やり、白影号と描かれた巨大凧へと押して行く。


「結構丈夫そうだから、ちょっとその横の竹を握って見て。」

 俺は二人に骨組みの竹を掴むように言ってみた。

 そうして、二人が掴んだ瞬間・・・


「はい、OK・・・、思いっきり引っ張ってくださーい。」

 大声で叫ぶと『オォーシ』とばかりに、太い縄がぴんと張る。


「えっえっ、なになに・・・、どうしたの?」

 レイが戸惑う瞬間にも、凧は引きずられそうして宙へ舞い上がる。


 俺とツバサも急いで骨組みを掴む。

 瞬く間に、地上は遥か下に・・・


「ちょっと、ひどいんじゃない?だまし討ちのようなものよ。」

 レイが怒ろうが、しがみついているだけで何もできない。今、手を離せばまっさかさまだ。

 地上の人間が、米粒みたいになった頃、俺は剣でロープを切った。


「あーれー・・・」

 哀れ、引き綱を失った凧は、くるくると回りながら北東へ飛んで行った。



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