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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第1章 始まり
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第4話

                   4

 日曜日は、1週間分の洗濯をして、部屋の掃除を少しだけした。

 洗濯と言っても、衣類を洗濯機に放りこんで、洗剤や漂白剤と柔軟剤を規定量の大体の目安分だけ突っ込むだけなので、手間とか働いているといった感覚はない。


 今の主流は、乾燥機能付きの物で、乾燥にも熱を使わない冷風乾燥と、ヒーターなどの熱を使用する温風乾燥のタイプがあるが、晴れていればベランダに干しておけばいいだけなので、俺はそう言った機能が付いていない洗濯機を愛用している。


 洗濯はいいのだが、掃除は苦手だ。

 いや、床のごみをきれいにするという意味の掃除は、ロボット掃除機が勝手にやってくれる。

 苦手なのは後片付けだ。


 俺は、会社へ持っていく鞄とか、家で検討した資料や本などを、その辺に放っておく癖がある。

 その為、床に置いたそれらが邪魔になってロボット掃除機が入り込めない隙間ができると、その部分に埃が溜まる。


 ソファや棚など、床以外の部分に関しても、室内ヘリコプターのような飛行機能が付いた掃除ロボットが埃を払い落してくれるのだが、これもきちんと並べられていないと隙間部分の埃が溜まって行く。


 要するに、整理整頓と言ったことが出来ないのだ。

 嫌いというより出来ないと言った方がいい。


 すぐにまたつかうと分かっているものを、わざわざ棚の奥の定位置にしまい直すのはおっくうだし、かといって使う頻度で棚の配置を並び替えるのも、意外と手間だ。

 なぜなら、使う頻度はしょっちゅう変更になるからだ。


 俺は、とりあえず今良く使っているものを組み立て式の箱に詰め、当面使用しないであろうベッドの上に置いた。

 勿論、布団は外で干しているので、あとで取り込んで仕舞うつもりだ。

 何時になく、掃除ロボットが軽快に動いているようだ、邪魔物が無くなってうれしいとでもいうかのように。


 俺は、掃除の邪魔にならないように、外出することにした。

 外出と言っても、特に用事もない。

 俺は、学生時代からの友人を呼びだして、ファミレスで昼飯を一緒にすることにした。


 人見知りの俺が、現実世界では唯一気楽に話せる、ありがたい存在だ。

 こいつも、結構なゲームマニアだが、今回のゲーム機は購入していないらしい。

 それで、俺の感想をしきりに聞きたがっていた。


 と言っても、まだ初日を過ごしたばかりなので、さほど話すこともないのだが、まあ、現実世界と見まがうような立体的な情景と、操作していないのに、勝手に話しが進んで行く事を話した。


「おお、そうだろう、なんか俺は怪しいと思っていたんだよ。

 性格診断なんて言っていて、実は適当に作ったムービーを組み立てて、見せているだけなんじゃないか?

 現実世界だっていうのも怪しいもんだ、オールCGだったりしてな。

 いやあ、参加しなくて良かった。」


 学生時代と変わらず、無精ひげのままの友人は、俺の話を聞いてほっとした表情だ。

 理由は判らないが、今回のゲームの初回応募を見送っておいて、実は心中穏やかではなかったのだろう。

 と言っても、俺は別にゲームをつまらないと言った覚えはない。


 勝手に進むようでいて、実は俺自身が考えて行動しているようにも感じるし、要は操作パネルを使って右だ左だとか、コメントを入力していなくても、物語が進んで行くだけだ。

 行動も、俺が実際に行うだろうというものに、近い感覚があるので、不満はない・・・と言っても、あくまでも今のところは・・・であるのだが。


 奴は、ひとしきり笑った後、つまらなかったら、俺が下取りをしてやってもいいと言い出した。

 実は参加したかったのだが、何かの理由で出来なかったのだろう。

 まあ、ありがたい申し出なので、そうなったらお願いすると言っておいた。


 飲まないのかと、居酒屋で何度もグラスを勧められたが、夜はすることがあると頑として断り、いつものコースめぐりをして、夜の早い時間に帰宅した。

 部屋へ戻ると、掃除は終わっているようなので、窓を開けて空気を入れ替える。


 シャワーを浴びるとスウェットに着替え、ゲーム機に入り込む。

 ちなみに、昨日のクエストでの経験値は、最低レベルの1で、まあ屋根づくりと草むしりで経験値が付くだけましと言ったところか。


 次のレベルに達するには、経験値が50必要なので、まだ48足りない。

 当面は簡単なクエストをこなして、経験値よりも金を稼いだ方がいい。

 今日は、少し操作してみる。と言っても簡単な選択だ。


 経験値の配分の項目で、力を50で腕力と体力を25づつ設定し、技を30で剣技を指定、魔法を20で治癒魔法を指定する。

 他にも素早さや足の速さに加え、動体視力など様々な項目が細かく分類されていて、何もしなければ、等分されるようだが、自分がのばしたい部分を強調できるようだ。


 当面は、戦える強い体の育成といった感じだ。

 そうして、改めてパーティメンバーを4人に指定し、クエストの場所に始まりの村を指定し、目を閉じた。



 俺はギルドの中に居た。

 当然だ、昨日ギルドの中で記録をしたのだから、ここから今日も始まるのだ。

 隣には、源五郎がいる。

 パーティを解散しない限りは、そのまま連れ立って行動するようだ。


「今日はどうします?」

「ああ、当面はこの村で簡単な仕事をこなして、せめて武器だけでも手に入れたい。

 銅の剣でも100Gだろ?


 昨日の仕事はどちらも10Gだから、薬草代にしかならん。

 もう少し稼いで薬草と毒消し草に加えて、剣が買えるようにならんとね。

 ただ、一緒に回るメンバーも見つけておきたい。」


 源五郎の問いかけに、俺は設定どおりの言葉を返す。

 何も設定しなくても、俺ならそう行動しそうなのだが、まあ、決めておいて損はないだろう。

 いずれ何も設定しない場合、どう進んで行くのか、俺の考え方と似ているのかも確かめてみようとは考えている。


「そう言えば、今日は少し多めにクエストの事なんか設定したのだが、設定できなかった項目がある。

 職業に関してなのだが、冒険者とか剣豪や魔法使いなんて、職業選択がこういったゲームの醍醐味のように感じるのだが、それらはどこで設定するのか分かるかい?


 もしかすると、レベルをある程度まで上げて、特別な町へ行かないと職業が選択できないのかも知れないが、その辺りは知っているかい?」

 俺は、少し疑問に感じていることを源五郎に聞いてみた。


 まあ、さすがのゲンゴロウも、知らないこともあるだろう。

 俺だって、今回は説明書を繰り返し読んだのだ。


 そこに書いていない項目もあるだろうが、今日操作した方法だって正しい方法のはずだし、それでできないのだから、今後ゲームを進めていくにしたがって、発生するイベントである可能性は高い。

 しかも、そういった事を知らせずに、突然どこかで起こる可能性だってあり得るのだ。


「ああ、職業に関してですか。

 RPGにはつきものですが、そう言った職業は普段は特別設定しないじゃないですか。


 そりゃ、職業としてサラリーマンや公務員に加えて、警察官や消防士、医者などありますが、その職業に就いたからと言って、突然能力的に差が出来る訳ではないでしょう?

 どちらかというと、その職業になるための努力をして、勉強をして熟練して行くのが普通の社会だそうです。


 その為、このゲームの中では職業と言った区分はある意味希薄で、誰もが好きなように名乗ればいいそうです。

 剣を携えていれば剣士で、魔法を使うのであれば魔法使いと言った風で、自由だそうです。

 但し、設定されたかもしれませんが、経験値の配分で、自分がなりたい職業が持つべき能力を選択できるそうです。


 だから、攻撃魔法の配分を多くしていても、剣士を名乗ることも出来ますし、逆も可能なのだそうです。

 こういった話は、そう言えばゲーム機と一緒に同梱されていた説明書には書いてなかったですよね。

 ゲーム機の発表会の時の説明書に書いてあっただけです。


 皆さんご存知だと思って、あえて記載しなかったのではないでしょうか。

 僕なんか、こういった辺りがよりリアルなので良いと感じて、参加を決めたくらいですから。」


 ほう、そうですか。

 さすが・・・、俺は改めて源五郎という青年に感謝した。

 こういった、重要な情報でも惜しげもなく、しかも自慢げに振る舞うでもなく、普通に話してくれる、大変ありがたい事だ。


「おお、そうか、全然知らんかった・・・、但し、設定はしておいた。

 当面は、体力作りにしておいたのだが・・・。」


「ああ、僕もそうしておきました。

 一応、攻撃魔法も欲しいので、魔法を少しと、弓矢の技術と体力を大目にしておきました。」

 源五郎は、明るく笑いかけてきた。


「おお、ちょうどいい、俺は剣技にしておいた。」


 こいつとなら、互いに補い合える関係になりそうだ。

 俺は、唯一の知り合いと言ってもいい、彼と巡り合えた事に感謝した。

 そうして、部屋中央の柱の所へと近寄って行く。


「どなたか、我々と一緒に冒険をしようという方はいませんか?

 俺は、剣技を主体に取得しようとしていて、ここに居る彼は弓矢を主体にしようとしています。

 なので、格闘技とか魔法とかを主体に取得しようとしている方、2名募集いたします。」


 俺は柱に貼られた紙に見入っている人たちに向けて、少し大きめの声で呼びかけて見た。

 喧騒の中、それでも興味があれば、食いついてくるだろう。


「俺は、攻撃魔法主体で、残りは体力に当てている。

 しかも初仕事だがそれでもいいか?」


 一人の体格のいい、ひげ面の男が声をかけてきた。

 魔道士を目指すなら、それなりの外観があるだろうに。


「ああ、構わないよ。俺たちは昨日2仕事こなしたが、村の中の仕事で経験値はどちらも最低だから、なにもやっていないのと大差はない。」


「僕もいいかなあ、僕は武闘家を目指していて、体力と腕力と素早さを選択した。

 昨日は、これと言って何もしないで、村中を見物していた。」


 もう一人の細身の男も声をかけてきた。

 とりあえず、これでパーティメンバーは揃った訳だ。

 とりわけ、どの職業の人が有利とかも判らないので、このまま行くことにした。


 そうして、人助けの面の中で、ペットの散歩や買い物など簡単なクエストを、手分けして受けることにした。

 今週中は、こうやって地道に金を稼ごうと決め、設定を継続しておいた。



 目が覚めると、俺は上機嫌だった。

 月曜の朝から元気いっぱいに、張り切って電車に乗り込む。

 いつものバーガーショップで朝食を済ませ、出社するとすぐに準備に取り掛かる。


 今日は得意先へ注文の品を納品する約束なのだ。

 段ボール箱をワゴン車に詰め込み終わると、朝礼の時間になっていた。

 すぐにエレベーターに乗り込み、10階フロアの自分の部署の部屋へ駆け込む。


 IDカードは既に通してあり、別に遅刻ギリギリという事はないのだが、やはり焦ってしまう。

 ひと通りの連絡事項が告げられ、俺も本日は納品の為に外出予定であることを告げる。

 そうして、朝礼が終わった後で、俺の席に加納がやってきた。


「おう、今日は納品だって?

 丁度いいから、ついでに俺の分も納品してきてくれよ。」

 加納は、ついで仕事とでも言いたげに、伝票を俺に渡してくる。


「だ・・・だめだよ、この住所じゃ俺が行く会社と全然方角が違うじゃないか。

 納期もあるだろうから、自分が行けよ、まだ車は残っていたから大丈夫だ。」


 伝票の宛先を見ながら、俺はそういって、つき返す。

 普段の俺には珍しい行動だ。

 大抵は、加納の言いなりなのだが、それにしても今回はひどすぎる、ついでという言葉に当てはまらない場所だ。


「いや、俺はまだ今回の大口契約の詰めが残っているから、ここを離れるわけにはいかないんだ。

 部長の許可も取ってある、だから頼むよ。」

 加納は強引に伝票を押し付けてくる。


 課長の顔に視線を移してみたが、申し訳ないとばかりに手を合わせられてしまった。

 これでは断れない、朝からの楽しい気分が台無しだ。


 どうしてこいつは、人に迷惑をかけても平気なのだろうか。

 先週末だって、結構余裕で1日中事務所でぶらぶらしていただけなのに、だったらその時に納品できたはずなのだ。


 わざわざギリギリのタイミングで、他に用事が出来るのを理由に、人におっつけ様という考えが見え見えなのだ。

 仕方がないので、奴の分も車に積み込み、急いで会社を出た。

 今や車も自走運転なので、行き先住所をナビに入力するだけだ。


 簡単だが、万一の危険防止のために勿論運転免許を持った人間でなければ、操作は出来ない。

 また、当たり前の事だが、制限速度は守るので、急いでいてもスピードを出して早く着くと言ったことはやりたくても出来ない。


 おかげで、事故率は格段に下がっているらしい。

 天候不順の時の、出会いがしら以外の事故は無くなったし、渋滞もなくなったと聞いた。

 それでも帰って来たのは、既に9時を回っていた。


 それはそうだろう、遥か遠くの会社を2社もまわったのだ。

 しかも加納の奴は、納期を早める約束を勝手にしていたらしく、俺が伺った時には相手の社長はかんかんに怒っていて、俺はただひたすら頭を下げるしかなかった。


 驚いて、加納に確認の電話を入れたのだが、まあ、何とか間に合うだろうと思って了解したと軽く流されてしまった。

 俺は我慢できずに、相手先に謝れと怒鳴りつけ、社長さんに頭を下げながら電話を手渡した。

 少しやり取りをしていたようだが、あいつの事だ何も解決できないだろう。


 今の携帯電話は、眼鏡型が主流だ。

 電話機以外にも、テレビ放送や映画などの配信を受けられるという事で人気がある。

 いつもの友人などは、目が悪くもないのに眼鏡型を使用していて、電車の中でもエロ映画が堪能できると豪語している。

 画像はレンズ部分に投影され、音声は骨伝導で、周りに漏れることがないからだ。


 しかし独身の俺は、別に通勤時間を利用してエロ映画を見ようとは思わない。

 別に自宅で観賞することは可能だからだ。

 それは、独身のそいつも同じはずで、なぜ、電車内でそのような事をしたいのか俺には理解しかねる事柄だ。


 俺は乱視で眼鏡をかけているが、携帯電話は昔からの箱型だ。

 どれだけ小型化技術が進んでも、耳と口をカバーする大きさは変えられないので、細身でペンサイズになっても長さは変わらない。


 邪魔にならないのかと良く聞かれるが、このように得意先に電話を代わってもらい、こちらの事情を直接担当者や上司から説明してもらう場合は、眼鏡型では困難というより不可能だ。

 その為、箱型の携帯電話は、営業の必須アイテムだと俺は思って愛用している。


「君も、あんな同僚を持って、大変だね。」

 電話を返されながら、逆に客先に慰められる形になってしまったくらいだ。


 急いで、伝票を整理して会社を後にする。

 せめて加納が申し訳なかったと、残業でもして待っていれば可愛げもあったのだが、あろうことか定時で帰ったらしい。


 どうやら、電話した時には既に退社後だったのだろう、本当に信じられない。

 俺は、急いで帰宅してシャワーもそこそこに、弁当の夕飯を平らげ、ゲーム機に横たわった。

 既に10時を回っていたので、焦っていた、みんなが待っているだろう。



 ところがそんな心配をよそに、始まりは実に平穏なものだった。

 ギルドの中で目覚め、普通に村の中での仕事を請け負いこなしていく。


 この日は、家の日よけの修理・・・というより、日よけを作るための足場作り、とペット(大きな図体をしている割におとなしい、毛の長いサイのような動物)の散歩をした。

 ギルドへ戻って清算をし、記録をする。



 翌日、出社後に加納に前日の文句を言う。


「へっ?あの社長そんなこと言っていた?

 俺は納期を早める約束なんかしちゃいない。

 何とか努力してみて、やってみましょうとだけ言ったんだ。」

 との、答えだった。


 世間一般では、そう言うのを“承知した”というんだ。

 俺は悪くないと言わんばかりの態度に、腹を立てたが何を言っても馬耳東風の奴では仕方がない。

 課長に昨日のいきさつを報告して、機会があったらお詫びに行った方がいいかも知れないと、付け加えて置いた。


 加納の態度を改めさせるには、上から小言でも言ってもらうしか方法はないだろう。

 今の所、加納は何もしそうもないので、改めてお詫びのメールを送付して、加納の担当の納品分まで伝票整理を済ませておいた。

 ゲームの世界同様、今週は、地道な金稼ぎだ。



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