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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第3章 ツバサ
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第38話

                      10

「今までの戦いを鑑みると、戦いや宝箱で得るアイテムが意外と中ボス対策となる場合が多い。

 しかも、クエスト票には炎とか高温と記載されている。

 それぞれ、今手に入れた武器を装着し直した方が良いだろう。」


 そう言いながら、俺は氷の刃を構え、他のメンバーも装備を変える。

 その先に居たのは・・・


「きゃぁっ・・・、なにこれ、かわいい・・。」

 真ん丸の大きな頭に、小さな目が二つ。


 よくこれで体を支えられるなと思うほど、小さく細い楕円形の体に同じく細い手足が2本ずつ、まるでゆるキャラのような外観に、思わず頬ずりしようとレイが無防備に近づく。


 ところが、パカッと開いた口は、かわいさなど無縁の頭が半分裂けたほどの大きさで、レイを体ごとひと飲みにできそうだった。


「危ないっ」

 ツバサが瞬間的に横っ飛びから岩壁を蹴り、魔物の顔を側面から蹴り込む。

『ズドーン』魔物は、勢いよく反対側の岩壁に吹き飛んだ。


「ギャオースッ!」

 魔物は雄たけびをあげると、大きな口を開いて極太の火炎を吐き出した。


氷壁(アイガ)!」

 レイが唱えると、分厚い氷の壁が俺たちの目の前に出現して炎を遮断した。

 氷の杖の効果だ。


『シュッシュッシュッ』源五郎が、氷の壁の上を通して矢を射かける。

 数本の矢が脳天へ突き刺さり、刺さった付近を凍りつかせた。


「今だ!」

 俺はレイに壁を消すよう目で合図すると、そのまま一直線に駆け寄って、袈裟懸けに切りつける。

 その時、ツバサも横っ飛びで飛んできて、氷の爪を左ほほをえぐるように繰り出す。

『ピッキーン』見た目によらず狂暴な魔物ガローンは、瞬時に氷ついて動かなくなった。


「おお、これがガローンの牙か。」

 俺は、大きく開いたガローンの口から、ペンチで牙を抜いた。

 上下に2本ずつ、計4本あったが、念のため全部抜いておいた。


「さあ、先へ進むか。」

 その先はまだまだ続く下り坂だったが、先ほどまでと違い、分岐の細い通路はなかった。


 当分は直線が続きそうで、中継箱は不要な様子だ。

 リュックの中身も乏しくなってきていたので、少し安心した。

 代わりに、大ガラスや巨大ワームがいたるところで襲い掛かってくる。


「シュッシュッシュッ」

爆裂雷撃(ビカ)

 広い空間でようやく活躍できるとばかり、源五郎の矢と、レイの雷撃で大ガラスは瞬時に撃退され、地中から飛び出すワームですらも、土が盛り上がると同時に待ち構えて退治する。


 よほどストレスが溜まっていたのだろう、俺もツバサも出番のない状況が続いた。

 金色の瞳は、洞窟の最深部のトカゲ系の魔物が持っていた。


『シュッ!』しなやかな鞭のように、長く伸びる舌を避けながら距離を詰めると、氷の刃を振り下ろす。

『ガキッ!』しかし、硬い皮膚に傷一つつかない。


『シュッシュッシュッ!』源五郎が射掛ける矢も突き刺さることもなく、弾かれて全て地に落ちてしまう。


爆裂冷凍(カッチ)!」

『ピキーン・・・ガラガラガラガラッ』レイの魔法は、氷の杖で強化されているはずだが、表面を凍らせた程度で、動きを封じこむことも出来ない。


『シュタッ』ツバサが低く潜り込むと、魔物の顎を蹴り上げ伸びきった腹に、氷の爪を突き刺すが、3本の筋がついた程度で、血も流れなかった。


「キュルーン」

 それでも腹への攻撃は効いたのか、魔物は蹲るように低く身を伏せる。


「よし、少しは柔らかそうな、腹が弱点のようだ。

 腹を狙って攻撃を仕掛けよう。」

 といっても、ただでも四足で重心の低いトカゲ系の魔物、蹲るように身構えられたら、腹など狙えない。


「一寸暑くないですか?」

 腹が見えずに攻撃を躊躇していると、源五郎が汗を拭いながら話しかけてくる。


 地下の最深部であり、先ほどまでは肌寒い感じはしたが、暑いどころか暖かいと感じることもなかった。

 しかし、確かに気温は上昇しているようだ、というより気温がどうとか言っていられる状況ではない、目の前の魔物の体が、赤から白へ変化して白熱化してきているようだ。


「うわっ・・・こりゃ堪らん。」

 俺たちは直ちに後方へ下がり距離を取る。

 まるで、大きなストーブが目の前で轟々と音を立てて、炎を上げている様な光景だ。


「どうするの?」

 レイもなすすべもないようで、汗を拭いながらお手上げ状態だ。


「トゥー!・・・きゃあっ」

 ツバサが果敢に高く舞い上がって踵落としのように蹴りを落とすが、当たった瞬間に、余りの高熱のためか悲鳴を上げる。


「だ・・・大丈夫?」

 源五郎がすぐに駆け寄って介抱するが、運動靴のゴム底は溶けて露出した踵は水ぶくれ状態だ。

 すぐに薬草を当ててやっている。


「レイ、水だ。少しじゃだめだ、思いっきり大量の水を奴にお見舞いしてやれ。」

 俺は、レイに魔法攻撃を指示する。


「分ったわ、爆裂水流弾(ドボ)爆裂水流弾(ドボ)爆裂水流弾(ドボ)爆裂水流弾(ドボ)!」

 レイの両手から放たれた、巨大な水流は一気に魔物の体に達する。


『ジュワ、ドッカーン』一瞬なのが起きたのか分からなかった、爆風にあおられ、俺たちの体も洞窟の壁へ叩きつけられる。

 奇しくもレイの体が俺の近くへ飛んできたので、引き寄せてかばう事が出来た。


 鎧で身を固めた俺は、ダメージは少なかったが、源五郎が頭をしたたかに打ったようで、後頭部に出来た大きなたんこぶに薬草を当てていた。

 ツバサは、強風をものともせずに、体勢を保ったようで、源五郎に手当てしてもらった右足も回復した様子だ。


「一体何が起こったっていうの?」

 レイが、惨劇のありさまを見ながら呟くように尋ねる。


「高温の魔物の体に水を掛けたものだから、水が一気に蒸発して膨張・・・いわゆる水蒸気爆発だな、しかも狭い洞窟の通路の中だから、威力は大きかったわけだ。

 まさか、ここまでの高温とは、思わなかった、いや、申し訳ない。」


 俺は、すまなかったと頭を下げた。

 下手をしたら、俺たちも全滅していたかもしれないのだ。


「まあいいわよ、魔物は倒せた・・・、というより、粉々ね・・・。」

 レイの言うとおり、高温の魔物の体は急激に冷やされ、ひび割れ砕けてしまったようだ。


「これじゃないですか?」

 ツバサが、魔物の死骸と土と岩の破片の中から、金色に輝く宝石のような塊を見つけ出した。


「こっちにもありましたよ。」

 たんこぶを直した源五郎も、一つ見つけたようだ。


 これで、この洞窟のクエストは終了だ。

 帰りは元来た道を、中継箱を回収しながら戻って行く。


 勿論、帰りは昇りなので、魔物たちの死骸を積んだリアカーは重く、4人で押したり引いたりしながら、何とか進んで行った。


「ご苦労様でした、中継車で映像を受け取っていたので、そのまま編集しながらまとめることができました。

 すぐに放送できます。」

 洞窟から出た時には、既に日も暮れて、というか太陽はとっくに一つになっていた。


 昼間の日差しが強烈なせいか、夜の一つだけの太陽が暗く感じるのは、この星での生活に慣れてしまったせいだろうか。

 すぐに放送開始の時間の様子だ。


 スタッフが忙しそうに動いて、映像を切り替えたり、提供のCMを入れたりしている間中、俺たちは湖畔に大きな穴を掘って、魔物たちの死骸を埋めた。

 テレビ放送も終わりに近づき、今日の祈りの時間で黙とうする。


 当然のことながら、俺たちは元の次元へ戻ることもなく、そのままだ。

 テレビスタッフは、俺たちが戻るのを望むことは当面ないだろうと思っていたが、それよりも、なぜか俺たちを敵視している、ヤンキーパーティの奴らは、元の次元へ戻るようには祈っていないだろう。


 俺たちに賛同する気があるのなら、あのように対抗しているような放送は、始めないだろうから。

 彼らは、この星へ帰化したという事からも、この星に残るつもりでいるのだろう。


 それはそれとして、他の元の次元へ、つまりゲームの世界へ戻りたがっている者達を、戻すように願って欲しいものだが、どうにもあの言動からは、こちらの願いをかなえるような協力は望めそうもない。

 イエローマンに捕まって牢獄へ入れられた時に、助けてやらなかったのが悪かったのだろうか、いや、あれは奴らの罪に対しての罰だ、いわば自業自得であり、それを恨んでいるとしたら、それは逆恨みでしかない。


 俺たち以外にも最前線で冒険を続ける存在は、頼もしいしうれしいはずなのだが、彼らの冒険を見ていると、とてもそんな感情は湧いてこない。

 相変わらずの、コバンザメ気質は消えていないのだから。


 誤った考えを正しに行こうと考えているのだが、説得に応じるかどうか・・・、説得できなくてもレッドマンだけでも解放してあげたいものだ。

 今日も奴らの冒険とは言えない、放送が始まる。


 放送を終えたスタッフたちと、弁当を食べながら中継車から電力を貰って、テレビを見る。

 この日も、戦うのはレッドマン一人だけだ。

 湖に生息する、川クジラの撲滅とタイトルが映し出される。


 水中でも平気なレッドマンが、湖の中へ入って行く。

 映像は、夜の湖面(といっても、それほど暗くはないから、せいぜい夕方くらいの明るさの湖面)を映し出すだけで、時折水しぶきが上がる。


『ジャバーン』レッドマンが、青色の巨体を水中から勢いよく運び上げる。

 ピチャピチャと跳ねるそいつは、この間の川に居たイルカのような魔物そのものだった。

 恐らく、川のクエストにあぶれた冒険者用なのだろう。


 陸に上がったカッパならぬイルカ(クジラ?)に、ヤンキーパーティの奴らは遠目から矢を射かけるが、なかなか当たらない。

 それでもレッドマンが鋭いパンチを食らわせると、魔物は動かなくなり、ようやく近づいて攻撃を仕掛けるが、腰は引けている。


 そう言ったことを何頭分も繰り返して、最後はお約束の親ぬっしーとも言える巨大なぬっしー相手だ。

 さすがに巨大な恐竜とも言える魔物は、レッドマンにも簡単には倒せそうもなく、何度も大きな胸ビレで弾かれ、その度に大きな水しぶきを上げてレッドマンが湖面に叩きつけられる。


 その様子を見ていても、ヤンキーパーティの面々は、何をするでもなくただ湖畔で立っているだけだ。

 形だけの援護射撃で矢を射かけることもない。

 下手に親ぬっしーに当たって、自分たちがターゲットになることを恐れているのか・・・。


 それでもようやく胸ビレを掴むと、レッドマンは大きくそれを振り、親ぬっしーの体を湖面から浮かび上がらせた。

『ズゴーンッ!』ものすごい音と土煙が上がり、ぬっしーの体は湖畔に投げ上げられる。


 レッドマンの体が宙を舞い、親ぬっしーの顎に強烈なけりを食らわせる。

 そうしてようやく、止めを刺したようだ。


 後はいつものように、ヤンキーパーティの奴らが、動かなくなった親ぬっしーの体に魔法攻撃を食らわせたり、刀で切りつけたりしている様子が映し出される。

 そうして、またもや出現したアイテムは、奴らの手に渡ってしまう。


 さすがに疲れたのか、レッドマンはその場に蹲ってしまった。

 すぐに画面は切り替えられ、ヤンキーパーティの奴らのインタビューに変わる。


「うーん、本当に気の毒になって来るわね。

 どれだけ、必死で魔物を倒しても報われないというか、あくまでもあのコバンザメ野郎たちの冒険でしかないわけでしょ。


 ツバサちゃんだって、シメンズのメンバーになれたんだから、せめてレッドマンもあいつらのメンバーにしてあげればいいのに。

 そうすれば、ギルドから収入を得ることができるから、薬草やお弁当だって買えるわよ。」

 レイが悔しそうに唇をかむ。


「そんなことをしたら、アイテムはレッドマンの分しか出現しなくなってしまうから、奴らが認めるはずもないさ。

 あくまでもレッドマンは、自分の業務・・・、すなわち、この星の住民の安全を守るという目的の為に、冒険に参加して、彼らの身を守っている。


 あくまでも冒険をしているのは、ヤンキーパーティのメンバーなのだからね。」

 俺も、奴らの態度を苦々しく思っているが、何もできないのが歯がゆい。


「先を急ぎましょう、あいつらに追いつくことさえできれば、レッドマンをこちら側のガードに戻せるかも知れませんから。」

 源五郎も気持ちは同じようだ。



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