第37話
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「ふわぁー・・・、眠い。」
昨日はレイと見張りをしている間中、ずっとぴったりくっついていたものだから、その後興奮して少ししか眠れなかった。
なにせ、寝ているみんなに悪いから、小さな声で話をしようとしていたら、レイに唇に指を当てられ、そのまま寄りかかられてしまった。
調子に乗ってぎゅっと抱きしめても怒られないので、そのままの体勢をずっと保っていたのだ。
至福の時ではあったのだが、いかんせん、蛇の生殺し状態だ。
「おはようございます。今日もいい天気ですね。」
源五郎が、元気にあいさつをしてくる。
彼は今日も元気だ。
ツバサと一緒に見張り番をしていたはずだが、何もなかったのだろうか。
あんな美女と一緒に二人だけで過ごして、何もないはずも・・・・。
そう言えば、この星へ来てからずいぶんと経つが、雨や嵐など、悪天候には出会ったことがない。
夜がないというか、一日中太陽が出続けていることからも、みんな晴天が好きなのだろう。
そうなると、作物への影響や水不足の心配も出てくるが、店にはいつも沢山の野菜が並んでいたし、宿では水道の蛇口を開けば、常にきれいな水が出ていた。
こういったことも、みんなの願いで叶っているのだろうか。
「おはようございます。
本日は、ペレヘス湖畔の洞くつ探検でしたよね。
洞窟は、ここから車で30分ほどの場所にあります。」
インカムを付けたテレビスタッフが、朝のあいさつに訪れた。
昨日着いた時には、既に太陽が一つだけになり、夕刻程度の明るさで霞んで見えもしなかったのだが、太陽が3つ昇り明るさが増しても対岸が見えないほど大きな湖、ペレヘス湖。
目的の場所へたどり着くまでも、えらく距離がありそうだ。
朝食を終えると、テントを片付け、中継車に乗って出発だ。
途中、魔物に出くわすたびに車を止め、退治してから進んで行く為、結構時間を取られ、2時間近くかかってしまった。
「ペレヘス湖畔の洞窟というと、地獄へ通じる穴の事でしょう。」
案内された場所は、小高い丘にぽっかりと開いた、縦横2m位の開口部の大きな穴だった。
丘自体はそれほどの大きさはなく、穴は斜めに地下へと続いているようで、その脇には、『危険!立ち入り禁止』の立札が立てられている。
「中は迷路のように入り組んでいて、どこまでも深く続いているそうです。
迷って出られなくなることが多く、今では立ち入り禁止となっています。」
いつものテレビスタッフが説明してくれた。
ほうそうか、一般人が入らない場所の方がありがたい。
出現した魔物の被害が出なくて済むから。
それよりも、気になる立札がもう一つある。
『求めよさらば、与えられん。されど、ダイヤモンドのような硬い意志が必要。』なんのこっちゃ・・・、硬い意志があれば、望みがかなう・・・そうじゃなくて、この星では当事者が全員望めば、叶うはずだが・・・。
「まあいい、とりあえず洞くつ探検と行くか。」
頭にベルトを巻き、両耳の上に小さな筒のようなカメラを装着する。
立体的に撮影できるのと、万一魔物からの攻撃で、どちらか片方のカメラが壊されても、片方だけでも記録が可能という事のようだ。
頭の重要な部分に、カメラが壊されるような衝撃を食らえば、どのみち撮影どころではなくなると思うのだが、我々の身の気遣いより、撮影への気遣いしかしては頂けてなさそうだ。
更にヘッドホン一体式のインカムを付ける。
これで、俺たちだけでも記録を残すことができる。
いちいちスタッフの身の安全を気づかう必要性がなくて、負担はかなり減る事だろう。
「ガローンの牙に関しては、猛毒と炎と狂暴と記載がある。
牙に猛毒はあってもいいが、狂暴というのは当てはまらないから、恐らく牙の持ち主・・・つまり魔物の事だとは思う。
もう、クエストに慣れてきたと言う読みなのか、ますます対象の詳細を記載してはくれなくなったようだ。
金色の瞳に関しては、高温と硬いとまたまた狂暴とある。
高温というのは恐ろしい気もするが、硬いと言うのはどうなんだろう。
硬い方が、壊れにくくて扱いやすそうだがね。
とりあえず、以上の注意点を肝に銘じておくように。」
いつものように、朝礼式にクエストの情報をメンバーに伝えて出発だ。
洞窟周辺の魔物は、全て片付けたので、スタッフだけを残して行っても危険はないだろう。
まあ、一応形ばかりとはいえ、マシンガンを構えたごつい体の男が3人ほどいるので、弱い魔物であれば、追い払うことくらいは出来そうだ。
身の軽い、ツバサを先頭に、源五郎、レイと続きしんがりは俺でリアカーをひいて付いて行く。
撮影用のハンディライトを借りて来たので、松明で照らす必要もなく、見通しはバッチリだ。
暫く進むが、魔物たちには一向に出くわす気配もない、共食いして撃ち果てたのだろうか。
「何かあります。」
ツバサが指し示す方向には、何かの文字が書かれていた。
『さあ入ってみよう』という立札と、岩壁で出来た広い通路の脇に分岐した、細い通路の上には数字の1が描かれている。
「どうします?」
ツバサが後ろを振り返る。
「入ってみようと書かれているのだから、入ろうじゃないか。」
そう言って、俺はそちらへ行く様促す。
俺は、無線の中継箱を岩壁に貼り付けると、後をついて行く。
入り組んだ洞窟内では、電波が届かなくなる場合があるそうで、大きな曲がり角や分岐のたびに、設置するようにと大量に持たされたものだ。
背負わされたリュック満タンに入っている。
細い通路を数分歩くと、その奥には宝箱が。
「開けてみてくれ。」
それほど大きな危険はないだろう、ツバサに宝箱を開けさせる。
「薬草が入っています。」
ツバサは、一枚の薬草を手にしている。
たったの一枚か・・・、まあいいや、先へ進もう。
更に細い通路を進んで行くと、下ったり登ったりを繰り返して、ようやく広い場所へでた。
「あれ?ここって・・・」
それは、先ほど入った1と書かれた通路の正面だった。
出て来たであろう通路を振り返ってみても、岩壁があるだけで存在していない。
どうやら一方通行のようだ。
「まあいい、広い通路を進んで行こう。」
俺の言葉でツバサはまた先頭で歩きだす。
「今度はどうします?」
先ほど同様に、分岐の細い通路が岩壁に開いていて、立札が・・・『今度も入ってみよう』とか書かれていて、通路の上の数字は2だ。
「構わない、入ってくれ。」
立札の意味や仕掛けが分るまでは、とりあえず全ての分岐を探ってみるしか手はない。
どうせ、この洞窟に潜む魔物たちは残らず駆除するしかないのだ。
知恵を使って、最短ルートを探ればいいという訳でもない。
またまた、中継箱を岩壁に貼り付ける。
「今度は、薬草が2枚入っていました。」
行った先の宝箱には、またまた薬草が・・・。
それから、またまた上り下りを繰り返して、さっき入った通路の正面へ出てくる。
ここは、あれか?急いできて薬草を買い忘れた冒険者への救済のダンジョンか?
何にしても、未だに発生しない魔物たちとの遭遇に、危機感を覚えていた。
折角インカムやカメラまで装着して来たというのに、ただの洞窟めぐりでは・・・いや、魔物たちと出くわさないことはいい事ではある、既にこの洞窟の魔物たちが全滅しているのであれば、ここは安全という事になるからだ。
次は3と書かれた通路で、ここは薬草が3枚あった。
「次は、薬草4枚だな。ようやく人数分だ。」
もう、宝箱と数字で薬草枚数まで予想がつくようになっていた。
ところが、状況は違っていた。
先へと進んで行くと、途中でガラガラと後ろの通路が閉じて、戻ることができなくなり、更に先へと進むと、そこには無数の魔物たちが・・・。
上からは大ガラスが、下からは巨大なワームが、一気に襲い掛かって来た。
ツバサは壁を蹴って飛び上がると、大ガラスの脳天へ一撃。
ところが通路が狭すぎて、源五郎は弓を構えることができない。
仕方なく、右手に持った矢で足元のワームを追い払おうとするが、頭上から大ガラスのくちばしでつつかれる。
「とぅー」
すかさず、ツバサの援護攻撃が入り、カラスはその体を飛ばされ、岩壁に衝突して地に落ちた。
距離が取れないのはレイも同様で、相手が近すぎて魔法攻撃を発することができない。
仲間にあたってしまう恐れがあるからだ。
俺が、レイに襲い掛かってくる魔物まで一緒に、炎の剣で蹴散らす。
「はぁはぁはぁはぁ」
暫くして、ようやく通路内の魔物は一掃した。
狭い通路で長い剣を振りまわすのは神経を使い、いつもの倍は疲れた。
後ろは塞がっているので、先へと進んで行くと、やはり上り下りを繰り返して、4と描かれた通路の正面へ出た。
「一体どういう事でしょうね、先ほどはこの通路にも入るのか?と書かれてありましたよね。
疑問形で書かれた通路には、魔物が生息している可能性があるという事でしょうか?」
源五郎が、メモを片手に推理する。
「分らんが、どうやらこの洞窟では広い通路を歩いていても魔物には出くわさないと言う事のようだ。
その代り、脇道である細い通路の選択を失敗すると、無数の魔物に襲われる、しかも狭いから、弓や魔法は使えないと言う不利な要素がある訳だ。
どの道、魔物たちは駆除する必要性はある訳だが、結構大変だね。」
宝箱には、薬草しか入っていないようだし、脇道へ寄らないと言う手もあるが、ダンジョン内の魔物駆除という大きな使命を果たさないわけにはいかない。
やはり手間でも、一つずつクリアーしていくしか手はないだろう。
「ここは、大丈夫かな?と疑問符が書かれていますから、ここも魔物たちの巣窟でしょうか?」
ツバサが、5と描かれた通路の脇の立て看板を読み上げる。
しかし、行った先には宝箱があるだけで、中には毒消し草が1枚入っていた。
それから先も分岐の通路は寄りながら進んだが、どうにも宝箱と魔物出現の仕組みが分らない。
中には、宝箱もなく魔物も出現しない通路まで現れた。
「一体どうなっているのでしょうね。
宝箱がある通路だって、そこへ辿りつくまでと、先へ進んで戻ってくるまでに、相当歩かなくちゃいけませんから、結構な労力ですよ。
このままだと、洞窟の中で泊まりになるんじゃ・・・」
源五郎が、疲労感を隠せずにため息をつく。
それはそうだろう、自分の武器を封じられて、魔物の攻撃を何とかかわすのに精いっぱいで、きついだけだろう。
「分った、これから先の分岐には、俺とツバサだけで向かう。
俺たちなら接近戦でも大丈夫だから問題はないし、2人だけの方が間隔が取れるから武器を振り回しやすい。
広い通路でなら、弓矢も魔法も使えるから、二人を残して行っても大丈夫だろ?」
どうせ、元居た場所に戻ってくるのだからと、俺とツバサだけで向かう事にした。
「今度はどうでした?」
「ああ、魔物だらけで結構手こずった。」
「これで、9勝7敗ですね。
でも、宝箱もなくて魔物がいなかったのを引き分けと考えると、9勝7敗4引き分けとなります。」
源五郎が戦積を振り返る。
「奇数の数字の場合の勝利が多いので、偶数がだめなのかとも考えましたが、2でも宝箱はありましたし、9や15でも魔物はいました。
これまで、良かったのは、1、2、3、5、7、11,13,17、19となり、魔物がいたのは・・・ってあれ?これって・・・・。」
「そうだ、そうだよ・・・、素数だ。
その数字と1でしか割ることにできない数字、素数・・・、ダイヤモンドのように硬い、つまり割れない数字だ。
魔物がいなかったのは、9、10と15、16でどちらも、8、9、10と14、15、16と素数の間の整数だ。
これらは共通で同じところに通じているのだろう、だから、一度通路の魔物を一掃してしまえば、次に入った時には魔物はいない、宝箱も当然ないから、何もない引き分けの通路となる訳だ。
仕組みが分れば、効率よくクリアーしていくことができるぞ。」
次からは、素数の通路とその次の整数の通路のみを選択し、少しでも無駄に歩くことを止めた。
先へ進むたびに宝箱の中身も良くなってきて、最後には氷の刃に氷の爪、氷の弓と氷の杖が現れ、それぞれありがたく頂戴した。




