第36話
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「ここがペレンの町で、アレヘスはこちらになります。」
大陸の地図で、目的地までの大体の位置関係を知る。
ここから海岸線沿いを北東へ向かうとアンズ村、そこから丁度北東方向にアレヘスがある。
そっちへ行かずに真北へ向かうと大きな湖があるようで、湖からはやや北寄りに東へ進むとアレヘスの町だ。
随分と遠いようで、相当、内陸へ入って行かなければならない、
「うーん、これが昨日まで行っていた川だよね。
このくらいの距離を車で3時間かかった訳だから、恐らくずっと車で走り続けても丸一日近く、それも直線で綺麗な道があればの話だよね。」
俺は、地図での大体の距離を指で測りながら、その遠さをイメージする。
「はい、道はさほど整備されてはいないので、フルスピードで飛ばしても、休憩を入れると1日半から2日はかかるかと思います。」
テレビスタッフも、一緒に地図を眺めながら答える。
「アレヘスまででしたら、途中にあたしの生まれ育った村、アンズ村を通ります。
でも・・・、冒険者になるのを両親の反対にあって、無理やり出てきたようなものですので、今はまだ帰りたくはありません。」
ツバサが元気なく答える。
反対する両親を置いて無理やり出てきたと言うのなら、今はまだ会いたくはないだろう。
早すぎる帰還は、望ましいものではない。
わだかまりが消える位の、冷却期間が必要だろう。
アンズ村以外のルートを辿って、アレヘスへ向かいたいものだ。
「それはそうと、君は世界最強の空手家って名乗るけど、レッドマンはこの星最強と名乗っていた。
この星だろうが世界だろうが同じ意味とは思うのだが、言い方によって強さに差があるのかい?」
俺は、ふと思いついた疑問点を確認してみることにした。
「はい、世界最強とこの星最強に関しては、大きな意味合いの違いはないと思います。
しかし、あたしの場合はあくまでも世界最強の空手家です。
つまり、空手家として世界最強なのであって、他の武芸、例えば剣術とか弓術とかはさほど得意ではありませんし、それらと戦う場合でも世界最強といえるかというと、疑問符がつきます。
恐らく、素手で戦う近接戦法に関しては、世界最強であると考えますが、武器を持って戦う剣術や棒術、あるいは距離を取って戦う弓術とか魔法に対してはその限りではないかと・・・。
対するレッドマンは、それらすべてにおいて最強です。」
ツバサの答えは明確だった。
「ほう、すると、この星には剣術の世界最強とか魔法の世界最強なども存在すると言う事かい?」
「はい、魔法に関して、あたしはそれほど詳しくはありませんし、冒険者の方たちが使う魔法と一緒かどうかも知りませんが、それぞれに関して世界最強を名乗る人たちはいるはずです。
ちなみに、あたしの父は剣や棒など長物を用いた武術の世界最強ですし、母は弓矢やクナイに手裏剣など、飛び道具を用いた武術の世界最強です。」
ほうそうですか、ツバサの家族だけで最強の冒険者パーティが出来そうだな。
何もわざわざ、シメンズのメンバーになることもなかっただろうに・・・。
まあ、それなりの事情があるのだろう、参加してくれたことには感謝していますよ。
「まあ、まずはクエストを見てみよう。」
俺たちはギルドの中へ入って行った。
「うおっ・・・、一体どうしたと言うんだ?」
朝から、ギルドの中は盛況だった。
いや、昨日までだって、ギルドの中には冒険者たちは一杯いた。
しかし、何をするでもなく、ただ単にたむろしていただけだったのだが、今は違う、クエスト票を握りしめて、受付の順番待ちをしているのだ。
ついに、冒険に目覚めてくれたのか、それはそうだ、元々冒険をするために高い金を払ってゲームに参加してきたのだから、何かきっかけさえあれば、本来の姿に戻るはずなのだ。
これなら、すぐに俺たちのレベルに追い付いてきて、クエストを手分けしてこなす日もそう遠くはないだろう。
いや・・・、すぐに追い越されて・・・。
俺は、皆に活気が戻ってきたことを喜びながら、中央の柱へクエストを探しに向かった。
すると、柱には何やらチョークのような白い線で囲われた、区画が出来ていた。
その区画には、握手券入手用クエストと記載されていて、他のクエストとは区別されているようだが、そこには既に何も掲示されてはいない。
どうやら、昨日同様、握手券目当ての近隣魔物撲滅のクエストのみが、人気があるようだ。
それ以外のクエスト票には、一切手が付けられてはいない。
柱の周りには、クエストにあぶれた冒険者たちが、握手券獲得用の次なるクエスト票が貼りだされるのを、今か今かと待ち構えているようだ。
まあ、最初のうちは、そう言うよこしまな目的があってもいいでしょ、なにせ、怪我したりもするし、はっきり言って命がけではあるのだから。
俺は、握手券獲得用枠以外のクエスト票を順に眺めて行った。
すると、ペレンの遥か北方にあるペレヘス湖ほとりの洞窟に生息する、ガローンの牙の採取というクエストが目に付いた。
レベルはTのクエストで、ツバサはまだレベルWだが、もう彼女のレベルは関係ない。
ペレヘス湖というのは、恐らく地図で見たペレンの遥か北に位置する大きな湖の事だろう。
ここを経由すれば、アンズ村を通らずにアレヘスへ行くことができそうだ。
俺は、まだ他にもペレヘス湖関連のクエストがないか探してみた。
すると、洞窟の最深部にある、金色の瞳の採取というものと、ペレヘス湖に自生する蓮花の採取というクエストがあった。
どれもレベルTであり問題ない。
気になるのは、どれも8日間のクエストという事で、まあ、車でとばしても半日近くはかかりそうな距離だから、歩いて行くには数日かかるだろう。
その往復を含めてと言うことだろうか。
俺は、3枚のクエスト票をはがすと、受付が空いたころを見計らって持って行った。
「シメンズの方たちですね。
リーダーに変更はございませんでしょうか?」
いつもの、美人の受付嬢が応対してくれる。
握手券目当てとはいえ、ギルドの業務が盛況なので、どこか嬉しそうだ。
彼女とも、当分はお別れなのかと思うと、少し残念な気持ちになる。
「・・・・・・・・・・・・、では、頑張ってきてください。」
明るい笑顔に後押しされて、ギルドを後にする。
それから、ツバサを連れて武器防具屋へ立ち寄る。
昨日までの収入を使って、ツバサに拳法家の道着を買わせるためだ。
源五郎に言わせると、ツバサの空手着は、当たり前だが普通の綿で出来た空手着であり、防具屋で購入する拳法家の道着は、多少なりとも刀や魔法などの攻撃からのダメージを軽減する効果があるらしい。
先ほどの話から、飛び道具に関しては得意とは言えないそうなので、万一を考えて少しでも防御力の高いものに着替えさせる計画だ。
女の子なので、店の試着室で着替えさせる。
それからギルド前まで戻り、中継車に乗り込んで、北へと進路をとる。
さすがに、近場の魔物たちは一掃されたのだろうか、中継車に乗っていても、魔物たちに出くわすことはない。
北方面へも、魔物駆除に冒険者たちが向かっているようで、歩く彼らを追い越して更に進んで行く。
これなら、魔物たちが襲ってきても、そのまま逃げてしまえば、彼らが後で退治してくれるだろう。
しかし、ペレヘス湖が近づいて来たのか、魔物たちの影が濃くなってきたので、車から降りて魔物たちの駆除を始める。
これだけ離れていれば、他の冒険者たちの駆除対象ではない可能性が高いからだ。
「かぁー、かぁー」
巨大なカラスが、火を吹きながら襲い掛かってくる。
開いたくちばしは、のこぎり状にギザギザになっていて、あんなのに噛まれては腕など簡単に噛み千切られてしまうだろう。
『シュッシュッシュッ、バチバチバチバチッ』源五郎が矢を射かけると、一度の連射で数羽のカラスに命中してそのまま墜落してくる。
「爆裂雷撃!」
レイが唱えると、これまた数羽のカラスが黒焦げになって落ちてくる。
やはり、飛んでくる相手には飛び道具が有効なようだ。
俺と源五郎が前を歩き、レイとツバサが中継車を挟んで後ろを受け持ちながら進んで行く。
すると、今度は地面が大きく盛り上がり、巨大なミミズ(ワーム)が飛び出してきた。
俺は、すかさず雷の剣で一刀両断にする。
後方では、ツバサの炎の爪が炸裂していた。
どうやら、ヤンキーパーティが活動している地域に近づいてきたのは間違いがないだろう。
平原の魔物たちのレベルも上がってきている。
魔物たちを駆除しながら、湖のほとりまで来た時には、既に日が暮れかけていた。
「どうやら、今日の所はここでキャンプするしかないな。
交代で見張る事にしよう。
平原の魔物たちも強そうだから、2人ずつで守ろう。
まずは、俺とレイ・・・、それから源五郎とツバサだ。」
俺はさりげなく、レイに流し目を使う。
しかし、レイは何の反応も返さない・・・、当分おあずけという事だろうか・・・。
危険なので、テレビスタッフは中継車で眠ることにして、レイにはいつも通りにテントを張る。
ツバサと交替でテントで休むらしい。
そうなると、テントは使えないから仕方がないなあ、とか考えながらテント張りを手伝っていたら・・・
「なあに?もしかして、何かを期待して、あたしと一緒に見張りを組んだの?
ばっかねえ・・、源五郎君たちだけじゃなく、テレビ局のスタッフまでたくさんいるのに、誘う訳ないでしょ。」
レイに見透かされてしまった。
俺は、紳士でありたいと常に思っている。
いや、自分が紳士などであるはずもないのだが、やはり相手の気持ちを優先させたいと常々考えている。
というのも、一度どうしても我慢できなくなって、レイの泊まっている部屋に押しかけてしまい、きつく怒られてから、反省したのだ。
向こうにその気がないのに、こちらの都合だけで迫ることは出来ない。
それからはさりげなく、自分の気持ちをアピールするようにして、レイがその気になってくれるのを待つ毎日なのだ。
その後、テレビスタッフも一緒に、晩飯の弁当を食べているので、今日の分の放送は大丈夫なのか聞いてみた。
「いやあ、本日は移動だけと分っていましたから、本社へ連絡して、今までの冒険をまとめてダイジェスト版にして放送しています。
過去の放送を見逃した人から、再放送のリクエストが多かったので、丁度いいと本社でも喜んでいましたよ。
それでも、本日分の祈りは行いますので、8時45分頃になったらスタンバイしてください。」
スタッフたちは、早々と弁当を平らげると、忙しく放送の準備に取り掛かった。
それでも、今日は会社へ帰ってから、まとめをする必要がないので楽だと言いながら。
いつもの通り、本日の願いもむなしく、叶えられることはなかった。
その後、中継車から電気を貰って、小型テレビを皆で見る。
今日のヤンキーパーティの冒険は、密林に巣食う魔物退治とテロップが流れている。
既に密林には到着しているようで、先の見えない木々の隙間を縫うように、一行が進んで行く。
勿論、先頭はレッドマンだ。
「きぃー、きぃー」
尻尾が幾本にも分れた、尾長猿のような魔物が、時折頭上から襲い掛かってくる。
その都度レッドマンが跳んで行って、襲われたテレビスタッフや、ヤンキーパーティのメンバーを身を挺してかばい、魔物を撃退しながら進んで行く。
レッドマンは、息をつく暇もないくらいの忙しさだ。
なにせ、ヤンキーパーティの奴らも、襲われると悲鳴を上げるだけで、戦おうともしないのだ。
その、腰からぶら下げているのは、なんですか?と問いかけたくなるくらい。
そうして、アナコンダのような太い胴体をもつ蛇の胴体に、ムカデのように無数の小さな足がついた魔物との戦いとなった。
この森のボスなのだろう、ムカデのアナコンダ・・・略称ムカデコンダは、見た目に似合わず素早い動きで一気に距離を詰めると、1mはあろうかというくらい大きく口を開け、レッドマンを一飲みにせんとばかりに噛みついてきた。
間一髪で後方へ飛びのき、難を逃れるが、そのすぐ後ろにはヤンキーパーティの奴らが、のんきに茫然と突っ立っている。
ムカデコンダはすぐにもう一度大口を開けて迫ってくるが、レッドマンに逃げ場はない。
『ぶしゅっ!』血しぶきを上げて、レッドマンの左肩に、ムカデコンダが噛みつく。
レッドマンは苦しそうにしながらも、ムカデコンダの口に両手を掛けて開くと、一気に両手を広げた。
『ぶっしゅぅー』噴水の様な血しぶきが上がり、ムカデコンダが口から縦に真っ二つに裂かれてしまった。
「それっ!」
ムカデコンダが倒されるのを見て取ると、ヤンキーパーティのメンバーが、すぐにレッドマンを押しのけて前へ出て、ムカデコンダの死骸にそれぞれ形ばかりの攻撃を仕掛ける。
蛇の生命力か、ムカデコンダは腹まで二つに裂かれながら、尚もぴくぴくと微動を続けている。
「やりました、さすがヤンキーパーティ、見事に止めを刺しました。」
向こうのテレビのアナウンサーが、ここぞとばかりに声高らかに叫ぶ。
どこが見事なんだよ、止めを刺すまでもなく、ムカデコンダはレッドマンにやられていただろうに。
「かわいそうでしたねレッドマン、恐らく昨日の傷の手当てもろくにされてはいなかったでしょう。
右肩の部分が、黒いしみになっていましたから。」
源五郎が、悲しそうにうつむき気味で首を振る。
ほう、そうか、傷の治療もしていない状態で、戦い続けているという訳か。
やはり、彼はよく見ているな、観察力が鋭い。
「そうね、防具の隙間から見えるインナーもみんな一緒だったから、昨日からずっと旅にでも出ているのかしらね。
あたしたちがアレヘスへ向かったことを知って、逃げ出したかな?」
うーん、レイはさすが女の子だ、ちょっと目線が違うな。
「まあ、俺たちの事を知って移動しているとは思えないが、なんにしても向こうも移動しているとなると、すぐに追いつくことは難しいかもしれないね。
まあ、それでも、この広い北部大陸でクエストをこなしているのであれば、そのうちに追いつけるだろう。
俺たちは、このペレヘス湖の魔物退治を優先しよう。
本日は解散。」
今日の分の奴らの放送は2時間だったようで、11時には終了した。
それから、レイと二人で見張り番を行う。




