第34話
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「ずいぶんとシメンズの方たちを目の敵にされているようですが、何か彼らにひどい仕打ちをされたことがあるのですか?」
アナウンサーが、コバンザメ野郎の1人にマイクを向ける。
「ああ、俺達は何も悪い事をしていないのに、シメンズメンバーの計略に引っかかって、無実の罪で牢屋に入れられたことがある。
おかげで、冒険の旅が随分と遅れてしまったという訳さ。」
コバンザメ野郎は、真剣な表情で答える。
「な・・・何を言っているのよ・・・、あたしはあいつらに襲われそうになって、生きた心地もしなかったというのに・・・、何もしていないのに捕まったですって・・・?」
レイが悔しそうに画面を睨みつける。
「あいつらのレベルが高いのは、俺達のような優秀な冒険者たちを、罠に陥れて進行を妨害し、自分たちだけ先行してクエストを行っているからだ。
なにせ、今や各クエストのダンジョンは、早い者勝ちだからな。
他の冒険者が攻略してしまえば、そのクエストの経験値どころか、重要なアイテムも入手できないことになる。
あいつらは、自分たちだけで各ダンジョンを制覇して、全てのアイテムを独占するつもりなのさ。
そうすれば、冒険界の王になれるからな。」
別のメンバーも、したり顔で答える。
「ほう・・・、それはひどいですね・・・、でも、彼らは不幸にしてこの次元へ飛ばされてしまった冒険者たちと魔物たちを、元の次元に戻すために活動していると言っていますが?」
アナウンサーは尚もインタビューを続ける。
「ふん・・・、そんなのは、奴らがテレビに出続けたいがためのいい訳さ。
あいつらの目的は、テレビに出てちやほやされたいだけなんだからな。
あのレイって小娘なんか、美人魔術者なんて言われていい気になっているのが、その証拠さ。」
更に別のメンバーまで・・・、これはよほど口裏を合わせて、話を作っているとしか思えない。
「なっ・・・何を言っているのよ、こいつは・・・。
イエローマンを連れてきて、あいつらがやったことを証言させましょ。」
怒り心頭に達すると言った様子で、レイが立ち上がるのを、俺と源五郎が何とかなだめる。
「そうすると、あなたたちヤンキーパーティこそが、真の冒険者と言えるという事ですか?」
「ああ、そうだよ。
あいつらは、今日の放送で、他の冒険者たちもレベルを上げられるように、クエストを紹介したなんて言っていたが、まさにその行為こそが、自分たちの力をひけらかしたいだけにしか見えないよ。
奴らには、他の冒険者たちなんか、露払い程度にしか見えていないんだろう。
言ってしまえば、自分たちが逃げ回って討ち漏らした後始末を、艇のいい事を並べ立てて、他の冒険者たちに押し付けようとしているだけなのさ。
あいつらだって、大した力もないくせにさ、ただ単にテレビクルーに囲まれて、皆に守られて冒険しているだけなんだろうからね。
そんな、あいつらの甘言になんか、乗る奴もいないとは思うんだが、念のために、俺たちがこれから、真の冒険とはこういうもんだと言うところを、見せてやるさ。」
そう言って彼らは中継車に乗り込んだ。
途中、巨大なカラスの魔物や地中から飛び出す、ワームのような魔物に襲われるが、中継車のスピードを上げて、必死で逃げ回る。
そうしてようやくたどり着いたところは、山裾の洞窟のようだ。
そこからのダンジョン内の様子は、ひどいものだった。
「ダンジョン攻略時間は、残り2時間半です。」
タイムキーパーみたいなやつが、ストップウォッチ片手に残り時間を告げる。
その言葉に頷いた後、先頭をレッドマンが進み、襲い掛かってくる魔物たちは全てもらさず打ち倒す。
コバンザメ野郎たちは、何もせずにただ後ろをついて行くだけだ。
「残り2時間です。」
そうしている間にも、時間はどんどん経過していく。
どうやら、放送時間の制約がある様子だ。
そうして、途中の窪地に咲く光る水仙のような花を、ヤンキーパーティメンバーが摘もうと手を出したところ、不意に襲い掛かる刃を、レッドマンが身を挺してかばい、難を逃れた。
ミノ○ウロス風の奴が突然姿を現し、巨大な斧で襲い掛かって来たのだ。
真っ赤なそいつは、巨大な火炎を吹きながら、襲い掛かってくる。
レッドマンは、火炎を何とかかわし攻撃を仕掛けようとするが、巨大な斧に弾かれてしまう。
しばし、にらみ合いが続く。
そうこうしていく間にも時間はどんどん経過していく。
タイムキーパーが残り時間を告げようと、ストップウォッチに目を移した瞬間。
レッドマンは宙へ舞い上がり、斧の攻撃をひらりと避けると、回転しながら右足のかかとでミノ○ウロス風の奴の顎に蹴りを入れる。
『ごんっ!』鈍い音がして、そいつは後頭部を尖った岩肌にしたたかに打ち付け動かなくなった。
そうしてようやく、目的の花を摘むことができたようだ。
「残り時間は1時間となりました、急いでください。」
そうした中も、無情なカウントが告げられる。
しかし、レッドマンの右肩は、先程斧の一撃を食らったようで、血がにじんでいるように見える。
ところが、コバンザメ野郎たちは、薬草で治療してやることもなく、そのままレッドマンを先頭に再び歩き出す。
その後も、レッドマンが襲い掛かってくる魔物たちを全て引き受け、コバンザメ野郎は何もしない。
そうして、洞窟の最深部に到達した。
そこは、無数の吸盤がついた足を持つ、タコのような魔物が巣食っていた。
『シュッ』
「火炎弾」
遠目から、矢を射たり魔法攻撃を仕掛けたりと、形ばかりの攻撃を仕掛けると、それぞれレッドマンの影に隠れて行く。
「とぅーっ」
格闘家が、岩壁を蹴って伸びた足の先端に触れるか触れないかの攻撃を仕掛けると、一目散に逃げ帰ってきた。
ひどいのは剣士で、奴は自分の刀をタコの魔物に投げつけただけで、すぐにUターンして帰って来た。
奴らも俺達とメンバー構成は同じようだが、戦い方はひどすぎる。
その後は、レッドマンが一人で戦いを始めた。
四方八方から襲い掛かってくる足を避けながら、正確に頭に蹴りを入れて行く。
しかし、軟体動物のタコにはなかなか効果的な一撃は加えられない。
しまいにレッドマンは、1本の足に巻きつかれ、動けなくなってしまう。
それでもコバンザメ野郎たちは、助けに向かう事もなく、ただその様子を見ているだけだ。
「残り時間30分です。」
このような状況でも、冷静に時は刻まれていく。
哀れレッドマンは、巨大なタコの口へ運ばれ、食べられてしまいそうなところを、ようやく足を振りほどき、顎に一撃を食らわせる。
そうして、高く跳び上がると、天井を蹴り加速度を付けて、脳天にきつい一撃をお見舞いする。
ようやく、巨大タコの魔物は動かなくなった。
「残り時間20分でーす。」
ようやくクエストを終えられそうで安心したのか、タイムキーパーの言葉も明るくなってきた。
タコの体から、クリスタルの鎧や、クリスタルの道着にクリスタルのベストとクリスタルのマントが浮き上がって来た。
どうやら、魔法系に特化した防御機能があるものらしい。
コバンザメ野郎たちは、当然のようにそれを受け取ると、我が物顔でダンジョンを後にした。
レッドマンは冒険者パーティの一員ではないため、戦いに際しての評点がつくことはなく、少しでも攻撃を仕掛けたヤンキーパーティの奴らに対して、アイテムが出現したのだろう。
必死で戦ったレッドマンが哀れに思えてきた。
傷を負ってまで戦ってくれたというのに・・・。
それにしても、レッドマンの戦い方が不思議でならなかった。
俺達には、自分の身は自分で守れと言っていたはずなのに。
レッドマンは、あくまでもこの星の住民を守るために存在するのだから、よそ者である俺達冒険者の身の安全は守らないと、はっきり言っていたはずだ。
それなのに、どうして彼らを守ったり、代わりに魔物たちと戦ったりしているのだろうか。
なにか、弱みでも握られているという事だろうか?
「いやあ、やりましたねえ・・・。
でも、戦いはほとんどレッドマンさんが担当していましたけど?
あなたたちは、戦わないのですか?」
アナウンサーが流石に疑問に感じたのか、聞いてはいけないことを聞いてしまった。
「うん?俺たちの戦い方に文句があるのか?
だったら、明日からの中継はしなくてもいい。
俺たちの冒険の中継をしたがっているテレビ局は、他にもたくさんあるのだからな。」
コバンザメ野郎は、きつい目つきでアナウンサーを睨みつける。
「い・・・いえ・・・、そんなつもりではないのですが・・・、シメンズの冒険の中継を見ていますと、大半が彼らの戦いの場面なものですから・・・。」
アナウンサーは、多少戸惑いながらも、尚も質問を続ける。
職業柄、視聴者目線での質問は、止められないのだろう。
「ふん・・・、どうせあいつらのはやらせに決まっているのさ。
だって、俺達は今や生身の人間だぜ?
傷付けば血を流すし、大怪我を追えば死ぬことだってある。
そんな危ない事をするはずもないじゃないか、この世で最強のレッドマンじゃあるまいし。
あいつらだってレッドマンと一緒にダンジョンに行っていたんだから、大方、レッドマンに倒させて、後は編集であいつらが倒したかのように見せかけていただけだよ。
俺達のは、生放送だから、そう言った編集は効かない。
本当の冒険ってやつは、実はこういったものですよってところを見せているだけさ。」
コバンザメ野郎は、平然と答える。
「でも、昨日と本日は、彼らのパーティにはレッドマンは参加していませんでしたが・・・。
なにせ我々と共に、この北部大陸東方へ移動していたんですからね。」
「まあ、そうだな・・・、レッドマンを俺達に盗られて、奴らが冒険を続けることをあきらめるのではないかと期待していたんだが、どうやら不発に終わってしまったようだ。
まあ、あれも編集の技術のはずだ。
多分、テレビ局のクルー総出で、戦っているんだろう。
そう言えば、新加入のツバサって子・・・、あの子は北部大陸の出身の子だろ?
あの子を加入させたのだって、この星の住民だから、レッドマンに守ってもらうための手段として加入させたに決まっているさ。
ところが、頼みの綱のレッドマンがいなくなってしまった。
奴らも、途方に暮れたことだろう。
だが実は、彼女は救世主だったという訳だ。
レッドマンが言っていた・・・、世界最強の空手使いだって。
レッドマンの代わりとまではいかないが、充分に新しいボディーガードとして役立つと見たのじゃないかな。」
とんでもないことを言い出しやがった・・・、俺達の冒険が全て編集によるものだって?
更に、レッドマンに守ってもらうためにツバサを仲間に引き入れたって?
それもそのはず、ツバサがこの星の住民であり、北部大陸の出だって?・・・って・・・あれ?
「つ・・ツバサ・・・ちゃん?君は地球人だよね?
い・・・いやいやいや、ここに居るのは、あくまでも君の分身でしかないわけだけど、その意識としての君の存在は、地球人なのだよね?
誤って、こちらの次元へ飛ばされてしまった、不幸なゲーマーなんだよね?
俺は忘れてしまったけど、地球にも、北部大陸って呼ばれている地名があるんだったよね?」
俺は、恐る恐るツバサの顔に視線を移す。
肌の色といい、白目といい、どう見ても地球人の分身としか見えない。
「いえ、あたしはこの星の住民です。
わけあって、この姿ですが、この星で生まれて育ちました。
でも、冒険したい気持ちは、誰にも負けません。
決して、皆さんにご迷惑をおかけするようなことは・・・。」
そりゃ分っている、なにせ、世界最強なんだもの。
冗談で言っているとばかり思っていたのだが、本当だったとは。
俺は、レイと源五郎へ視線を移す。
「ええっ・・・、気が付いていなかったのですか?
彼女は最初から、こちらの出身だと自己紹介していたじゃないですか。
だから、仲間に入れるのを最初は反対したのに、僕はてっきり、この星の人にも元の次元へ帰れるよう協力してもらうために、仲間に引き入れたのだと考えていましたよ。」
源五郎が意外そうな顔をして答える。
「あたしもよ。この星の子を仲間に入れれば、レッドマンが守ってくれるとでも考えたのかと思っていたわよ。
それなのに、レッドマンが参加しなくなっても、平気でいたから、何かまた別の考えがあるのかと色々詮索していたけど・・・、まさか、知らなかったって言うの?
呆れたわ・・・。」
レイは、本当に呆れた様子で、おでこに手を当てて首を振った。
「だって・・・、このが・・・」
外観は我々地球人そのものじゃないか、と言おうとして止めた。
この星の人たちと異なる外観を、彼女が気にしていたら申し訳ないからだ。
だが、どうして・・・、聞けるはずもないが・・・。




