第33話
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親方に案内され、建物の裏側へ回ると、そこは川岸で、川から突き出た杭には大きなたらいが結びつけられていた。
コントロールする為だろうか、長い棒が1本ずつ置かれている。
「じゃあ、乗ってみるか。
俺とレイ、源五郎とツバサの組にしよう。
撮影は危険だから、少し川岸から離れた場所で行ってくれ。」
たらいの船に2人ずつ乗り込み、長い棒で岸を押すようにして離れる。
バランス感覚が良いせいか、真ん丸のたらいの上でも、不思議と不安定さはなく、川底を蹴って進んで行く。
既に、スタッフが脚立を使って、高い位置から俺たちを撮影しようとカメラをセットしていた。
「ギャオースッ!」
すぐに、ぬっしーが川面から顔を出す。
ここのぬっしーの体は赤色だ。
『ごぉーっ』赤ぬっしーは火を吐いてきた。
「おわっちっちぃ・・・・」
たらいの上では逃げ場がなく、炎を振り払う以外手はない。
「強水流弾」
レイの手から、勢いよく水流が発せられる。
水流は、たらいを焦がす炎を押しのけ、ぬっしーの口まで達する。
「今だ!」
俺は赤ぬっしーの火炎攻撃が無効になった瞬間に、長い棒を使ってたらいをぬっしー目がけて進ませ、雷の剣を抜いてぬっしーの腹目がけて突き刺す。
『バチバチバチバチッ』飛び散る火花と共に、ぬっしーはもんどりうって倒れた。
『ジャッボーン!』川の上流側でも、源五郎とツバサ達が、ぬっしーを打ち倒していた。
ぬっしーの体には、何本もの矢が撃ち込まれているようだ。
「キュルルッ、キュルルッ」
すると、川面から巨大な物体が勢いよく飛び出してきた。
「い・・・イルカ・・・?」
くちばしのような、細長い口を持った灰色のイルカは、群れをなしてたらいを取り囲み、周囲を飛び跳ねている。
「きゃぁ・・、かわいい!」
レイが思わずイルカを触ろうとした瞬間・・・
『ゴオッ!』細長い口が大きく開き、伸ばしたレイの手に噛みつこうとする。
「危ないっ!」
俺は棒で川底を叩いて、たらいを後方へ瞬間的に移動させる。
『ガチッ!』金属の扉が閉じるような大きな音がして、イルカの噛みつき攻撃は不発に終わる。
「強火炎弾」
レイが、炎の玉をぶつけるが、噛みつきイルカはすぐに水中に潜ってしまった。
「キュルルッ!」『ジャボーン』
イルカは、勢いよく川面から飛び上がり、たらいの上の俺たちを上方から攻撃してくる。
攻撃は単調なので、簡単に躱せるが、その都度大きな波が立ち、たらいの船は不安定に揺れる。
向こうでも苦戦しているかと思って、源五郎たちのたらいへ目をやると、ツバサがたらいを蹴って高く舞い上がると、川面から覗くイルカの頭めがけて蹴りを入れ、その反動でまたまた上空高く舞い上がり、反対側のイルカの頭に一撃。
これを繰り返して、瞬く間に彼らのたらいの周りには、腹を見せた噛みつきイルカがぷかぷか浮かんだ。
これは負けちゃいられないと、俺もたらいの縁に足をかけて、イルカに攻撃を仕掛けようとするが、大きく傾くたらいの上では、バランスがとれずよろけそうになる。
「待って・・・、爆裂冷凍」
レイが唱えると、川面から顔を出していたイルカごと、瞬時に川の表面が凍りついた。
「こいつはいいや。」
俺は、たらいから凍った川へ飛び移ると、1匹ずつイルカに鋼の剣で止めを刺して行く。(自分が感電する恐れがあるので、凍った川の上では雷の剣は使わない)
「ふぅ・・・、これで、この川の魔物たちは、あらかた片がついたという事かな。」
俺は、倒したイルカたちの背びれに剣で穴をあけると、それにロープを通して行った。
レイが炎の魔法で氷を溶かし、イルカの死骸を括り付けたまま、たらいを川岸へ着ける。
そこでは、既に源五郎たちが、噛みつきイルカとぬっしーの死骸を川岸に上げていた。
源五郎たちにも手伝ってもらい、イルカの死骸を川岸に上げようとすると・・・
「ああっ!」
源五郎が大きな声をあげ、後方へ下がったかと思うとすぐに弓を構えて矢をつがえる。
背後に気配を感じて振り向くと、そこには巨大な影が・・・
「ギャオースッ!」
真っ黒い影は、その胸ビレのようなもので、俺とレイが乗ったたらいを打ち払う。
俺もレイも、瞬間的に川に投げ出されてしまった。
『ヒュンヒュンヒュン、バチバチバチバチッ』川面から、矢が撃ち放たれる音が聞こえ、雷撃が発せられる。
鋼の鎧を着ていても意外と身軽な俺は、水中を自在に泳いで巨大な影の元に達する。
それは、見上げるほど巨大なぬっしーの親とも言える奴だった。
効くかどうかは分らないが、俺は鋼の剣を親ぬっしーの腹目がけて水中から突き刺してみた。
分厚い皮膚をしているのか、大して刺さりはしなかったが、それでも血は滲み出してきた。
「離れて!」
背後からレイが声を掛けてくる。
その言葉に瞬時に対応し、俺は親ぬっしーの元から離れる。
「爆裂冷凍」
すぐに川ごと、親ぬっしーは凍りつく・・・かと思われたが・・・
「ギャオー、ギャオースッ」
所詮川の表面を凍らせる程度の魔法、ぬっしーは周りの氷をものともせずに、動き出そうとする。
『シュッシュッシュッシュッ・・・バチバチバチバチッ』すぐに後方から放たれた幾本もの矢が、親ぬっしーに突き刺さる。
さらに刺さった矢を足場にするようにして駆けあがった影は、見上げる高さの親ぬっしーの頭よりもはるかに高く舞い上がり、ぬっしーの眉間目がけてキックをお見舞いした。
「きゅうん・・・」
最後はツバサのキックが致命傷になったようだ。
親ぬっしーは大きな波を立てながら倒れた。
俺はすかさず、奴の腹から鋼の剣を回収する。
倒れた親ぬっしーの体から、炎の剣と炎の弓に炎の杖、そして炎の爪が現れた。
俺たちは、それぞれの武器を分配した。
ツバサにもようやくアイテムが備わったという事だ。
まあ、先ほどの戦い方を見る限り、武器など持たなくても十二分に強そうだが、それでも更に武器を持てば、より強烈な一撃を放つことができるようになるだろう。
今後の戦いが楽しみというものだ。
何にしても、今度こそ川の魔物は全て片付けただろう。
俺は建築現場の建物へ向かう。
「どうも、川に居た魔物たちはあらかた片づけましたよ。
これで、工事は出来ます。橋はいつごろ完成予定ですか?」
プレハブの玄関で声を掛ける。
「おお、もう片付けたのか?
ずいぶん早いな・・・、まあいいか、本当に魔物はいなくなったようだな。
橋が架かるのは、これから2ヶ月ほどしてからだ。
楽しみにしていてくれ。」
意外とあっさり片付いたことに、建築現場の親方も驚いている様子だ。
それはこちらも同じで・・・、ツバサの力が無かったら、ここまで簡単に魔物たちを倒せていたか、分らないところだった。
改めて、新規加入の仲間の力に、感謝と言ったところだ。
親方にクエスト票にサインをもらうと、ぬっしーたちの死骸を埋めようと、川岸に穴を掘り始めた。
すると、建築現場の親方が、自分たちで始末しておくからそのままでいいと言ってくれた。
まさか、魔物たちの肉を食うとか・・・?とも考えたが、まあいいやとありがたく好意として受けることにした。
中継車に乗ってペレンの町へ引き返す。
いつものようにギルドへ立ち寄り清算すると、ツバサはWへレベルアップした。
この調子で行けば、すぐに俺たちのレベルに追いついてくるだろう。
そうして夕食後にいつものように、俺達が元の次元へ帰れるよう、願いの時間を迎える。
「本日も、願いは叶う事はありませんでした。
でも、一日でも早い彼らの帰還を果たせるよう、あきらめずに毎日祈りましょう。
何時の日か必ず、願いは叶うものです・・・。」
アナウンサーの言葉で番組は終了する。
「あ・・・あのう・・・、実は・・・。」
他のクルーがカメラや照明を片付けている所で、インカムを付けたテレビスタッフが、近寄って来た。
「うん?どうした?クエストがつまらないから、番組は終了か?
いつもいつも、スリルあふれる洞くつ探検ばかりではないぞ。」
俺は、冒険内容に注文を付けてくるのは、あまり愉快とは感じていなかった。
彼らの番組の為に戦っている訳ではないのだから。
「そ・・・そんなことはありません。
新加入のツバサさんはじめ、本日は皆さんご活躍で、プロデューサーも大喜びです。
なにせ、広くて見通しの良い川での戦いだったため、多方向からカメラで撮影することができ、迫真の戦闘シーンとしてまとめることができました。
突然魔物が出現するような、先の見えない洞くつ探検もよろしいのでしょうが、外での冒険もありでしょう。
それよりも・・・、レッドマンの事ですが・・・、実は、彼がこちらの冒険への参加を断って来た理由が分りました。
うちのライバル局なのですが、本日、これから放送が始まりますので、皆さんもご確認ください。」
テレビスタッフは、俺にメモを手渡すと、小走りで他のスタッフの元へと駆け寄り、中継車に乗車して帰って行った。
「なになに・・・、αTV、21時放送開始。
既に始まっているな。」
俺の手作り時計は、午後9時5分を指している。
「おーい、ちょっと食堂へ集合だ。
見たい番組がある。」
テレビ放送が終わって、各自部屋へ戻ろうとしている所を、俺はそう言って、メンバーを食堂へ集める。
別に、各部屋にあるテレビを見てもいいのだが、どうせなら全員で一緒に見たほうがいいだろう。
さすがに9時ともなると、晩飯を食べる奴もいないようだが、それでも宿の食堂は開いていた。
早速テレビのスイッチを入れて、αTVへチャンネルを回し、テレビの前のテーブルへ、4人が並んで座る。
そこには、どこかで見たような奴らが映し出されていた。
竹で出来た防具に身を包んだ彼らは、俺達こそ真の冒険者だと言って、これから本当のクエストというものを見せてやると言い出した。
更にもう一人、顔見知りが・・・、そいつは真っ赤なタイツに身を包んでいた。
「れ・・・レッドマンじゃないですか・・・、どうしてこんなところに・・・。」
ゲンゴロウが驚くのも無理はない。
俺たちの冒険の様子を撮影するテレビスタッフのガードをする約束をしていたレッドマンが、あろうことか彼らと共に行動しているのだ。
俺達とは別の冒険者たちのクエストの様子を撮影する、テレビスタッフのガードを引き受けたという事だろう。
俺達とは別に、クエストを引き受ける冒険者が、まだいたという事だ。
「シメンズなんかには、絶対に負けない、俺たちが先に全てのダンジョンを制覇する。
俺たちはヤンキーパーティだ。」
それは忘れもしない、コバンザメ野郎たちだった・・・・。




