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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第3章 ツバサ
31/213

第31話

                   3

「おはよう。」

 翌日の早朝、宿の食堂へ向かうと、そこには既に源五郎とレイが朝食を摂っていた。


 勿論、ツバサと名乗った美少女もレイの隣に腰かけている。

 やった、夢じゃない、ついにシメンズもフルメンバーだ。

 上機嫌で朝食を終えると、そのままギルドへ向かう。


「おはようございます。」

 いつもの美人の受付嬢が、挨拶をしてくれる。


「おはよう、今日はメンバーの追加申請に来た。

 まだレベルは低いそうだが、実力は折り紙つきだ。

 レベルの差がどれだけあっても、パーティに入れるのはかまわなかったよね?


 彼女の名はツバサ。格闘家だ。」

 朝っぱらから受付にたむろしている、彼女の取り巻きどもを押しのけながら、受付でツバサを紹介する。


「ツバサ・・・様・・・ですか・・・?

 リストには・・・、少々お待ちください。」

 そう言って彼女は、バタバタと背後のドアの向こうへ消えて行った。


「え・・・えー・・・、現状を鑑み、特例として彼女をメンバーに加えることを許可すると言う事です。

 現在の所、この町にはシメンズ以外に冒険を続けるパーティがいないことに対する、異例の処置という事になります。

 ツバサ様は、レベルZとして参加していただきます。」


 しばらくして戻ってきた受付嬢は、難しそうな顔をして告げる。

 なんだなんだ・・・、シメンズと言いながら、二人も女性が入るのはそんなに悪い事なのか?

 だったら、1メン1ボーイ2ガールズとでも名乗ってやろうか?


 まあ、なんにしても彼女の参加が認められたわけだ、応対に多少の不満はあるのだが、押さえておきましょう。

 それにしても、彼女のレベルがZだったなんて・・・、次元が移る前からも、ほとんど冒険をしていなかったという事か・・・、まあいいでしょう、これからゆっくりとレベルを上げて行ってもらえば。


 彼女の負担を軽くするよう、フォローできそうなクエストを探すとしますか。

 俺はそう考えながら、いつものように部屋の中央の柱へと向かう。

 見ると、レベルXの仕事も結構出てきている。


 と言っても、現在この町に来ている冒険者たちのレベルに合わせて、急遽作り上げたクエストだろう。

 主に、町近郊の平原に存在する魔物退治の仕事ばかりだ。

 うーん惜しい、これが昨日であれば、彼女が倒してリアカーに積んできた魔物の死骸だけでも、レベルの一つや二つ上がっただろうに。


 まあいいさ、俺はペレンの町の西側にある廃墟の清掃というクエストと、更にその西を流れるペレル川の工事現場に荷物を届けると言う、清掃会社と宅配便にでも頼んだ方が良さそうな2件のクエストを選んだ。

 どちらもレベルXであり、俺達にとっては物足りないが、新人であるツバサにとっては、結構きつい仕事になるはずだ。


 1日と2日の仕事だが、方向は同じだし、どうせ中継車に乗せて行ってもらうのだ、距離が多少遠くても何とかなるだろう。

 俺は、2枚のクエスト票を受付嬢に手渡すと、源五郎たちを呼び寄せる。


「まずはお手並み拝見だ、レベルXのクエストを2つ用意したから、魔物が出たら主にツバサに戦ってもらう。

 そうして、少しでも早く俺たちのレベルに追い付いて来てもらう。

 最初から俺たちのレベルで戦うのはしんどいだろうから、少々レベルを下げておいたから、頑張ってくれ。」


「は・・・はい、頑張ります。」

 ツバサは少し緊張しているのか、表情が硬い。


「ま・・・まあ、簡単なクエストにした方がいいですよ、その方が安全ですからね。」

「そうよそうよ、余り危ない事は避けたほうがいいわ。」


 何か分らんが、昨日から源五郎とレイの様子がおかしい。

 そんなに、ツバサをメンバーに引き入れたことに不満を持っているのだろうか、若いからか?美人だからか?

 うーん、分らん・・・。


「では、これが運んでいただく荷物です。頑張ってきてください。」

 受付嬢から大きな木箱に入った荷物を渡され、ギルドを後にする。


 ギルドの外には、既にレッドマンといつものアナウンサー含め、撮影スタッフが・・・、と思ったが、少々様子が違う、何か焦って連絡を取り合っている様子だ。


「どうした、バッテリー切れでカメラが動かないか?

 それとも、中継車のガス欠か?」

 俺は、そのへんのスタッフを捕まえて聞いてみた。


「い・・・いえ・・・、あのぅ・・・、レッドマンさんがですね・・・、今日は来られないと、突然・・。」

 インカムを付けたスタッフは、困ったような顔をして告げる。

 代わりの護衛役の者を、急いで準備しようとしているらしい。


「ああ、そうか・・・、珍しいな、平和すぎて暇を持て余していたレッドマンが、ようやく活躍できる冒険に参加しないなんて。

 まあ、今日の所は良いよ、こちらも新人が入ったんで、レベルを下げて簡単なクエストをこなすことにした。


 だから、危険性も少ないし、レッドマンがいなくても我々だけで、スタッフも守ってあげるよ。

 このまま出発しよう。」


「い・・・いいんですか?」

 途端にスタッフの顔色が明るくなり、走ってアナウンサーたちの所へ飛んで行った。


 俺は、別にテレビスタッフの手助けをしてやる義理もないとは考えたが、今日の所はいいだろう、少し恩を売っておけば、いい事があるかもしれない。

 いつものように、中継車の後ろに荷物を積んだリアカーを括り付けて、出発だ。


 砂漠地帯をひたすら走り続けて、30分ほどで目的の廃墟についた。

 来た時に立ち寄った廃墟だ、ペレンの町までの通り道の魔物たちは、既に退治していたので、そのまま廃墟まで一直線でこれた。

 まずは廃墟の清掃だ。


 俺たちは、リアカーに積んできた竹ぼうきを使って、廃墟に入り込んだ砂を履きだしていく。

 こんなことをして何になるのか分からないが、それでもクエストはクエストだ、これで金と経験値がもらえるのである、文句を言わずにこなそう。


「うわーっ!」

 突然、後方でスタッフが叫び声をあげる。


「源五郎、頼む。」

「はい。」

『シュッ!』すぐに矢が放たれ、スタッフに襲い掛かっていた火吹き蝙蝠が撃ち落とされる。

 数匹の蝙蝠が、廃墟に入り込んだ我々を嗅ぎつけて、どこからか飛んできた様子だ。


「ツバサ、レベルを上げる絶好のチャンスだ、君一人で倒してくれ。」

 そう言うと、俺も源五郎も後方へ引っ込んで、ツバサ一人だけを蝙蝠たちが飛んでくる方向へ進ませた。


「はい、分りました。」


 返事をしてからの彼女の動きは凄まじかった、電光石火の早業とは、このことを言うのだろう。

 3匹の蝙蝠がまとまって炎を吹きかけて来ようとした瞬間、彼女は傍らの半分崩れかけた壁を蹴ると、そのまま宙高く舞い上がり、蝙蝠に飛び蹴りを浴びせる。


 すぐに2匹の蝙蝠が地面に叩きつけられる。

 それを1匹が交わしたと見るや、反対側の足で今度は別の壁を蹴って、そのままオーバーヘッド気味に足を蹴り上げて、蝙蝠の進行方向から蹴りを入れる。


 よもやそのような方向から攻撃を仕掛けられるとは予想もしていなかったのか、哀れ蝙蝠は蹴りをまともに喰らって、地面に数回バウンドして息絶えた。

 その攻撃は、一連の流れのように実にスムーズで、無理のない動きだった。


 いつも実況をするアナウンサーも、余りの早業に、何もコメントできずに、ただマイクを持って茫然と立っているだけだった。


「す・・・すごいねえ・・・・、それでZレベル?Sの間違いなんじゃないのかい?

 まあ、なんにしても、こんなレベルのクエストを選ぶ必要性もなかったくらいだね。

 明日からは、普段の俺たちのレベルに戻すことにするよ。」


「いやあ・・・、こう見えても世界最強の空手家ですから・・・。」

 彼女は少し照れたように、頬を染めた。


 何にしても、拾い物だ、どのような理由で彼女のレベルが上がっていないのかは分らないが、今の俺たちのレベル以上の実力の持ち主であることは、間違いがない。

 次は、この先の川の工事現場へ荷物を届ける仕事だ。


 これから先へは行ったことがないから、多くの魔物たちが襲い掛かってくることが予想される。

 魔物を見つけるたびにいちいち車を止めるのは面倒なので、ツバサを先頭に、源五郎が後に続き、その後スタッフを乗せた中継車がゆっくりと進み、しんがりは俺とレイが務めることにした。


 砂漠地帯を進んで行くと、大サソリが集団で襲ってくる。

『シュッ、シュッ・・・バリバリバリバリ』源五郎の雷の矢が炸裂する。

 体の節を射抜かれたサソリは、もんどりうって仰向けに倒れる。


 しかし、ツバサの攻撃はもっと強烈だった。

 牙を蓄えた巨大な口をものともせず地面を蹴ると、空中高く舞い上がりサソリの頭部に蹴りをかます。


『ゴンッ!』大きな音がするくらいにサソリの脳天はひしゃげ、そのまま動かなくなる。一撃だ。

 その反動を使って、隣のサソリに蹴りを入れ、更にその隣のサソリへ、八艘飛びとでもいうような光景だった。

 数匹の大サソリは、瞬く間にその場に倒れ伏した。


「や・・・やりました、美しい格闘家、ツバサ・・・、その可憐な容姿に似合わず、巨大なサソリも一撃です。

 しかも、瞬時に5体を粉砕いたしました。

 まさに美の巨人、鮮烈なデビューです。」


 茫然とその様子を見ていたアナウンサーが、ふと我に返って中継を始めた。

 確かに、それくらい美しく、また圧倒的な強さだ。


 その後も、大サソリや火吹き蝙蝠が多数襲ってきたが、ツバサの敵ではなかった。

 彼女が撃ち漏らした魔物を源五郎がフォローする程度で、充分に対応できていた。

 しんがりのこちらは実に楽なものだった。


 たまに背後から襲い掛かってくる火吹き蝙蝠を、切り捨てる位なものだ。

 俺は、魔物の死骸を乗せるために中継車に乗せ換えた荷物を下ろすと、工事現場のプレハブのような建物に向かった。


「お待たせしました、荷物をお届けに参りました。」

 俺は、入口までやって来た男性に、木箱を手渡す。


「おお、助かったよ。

 なんせ、ここへ着いたまではよかったが、工事を始めようとすると川には大きな魔物がうようよといて、とても工事を始められそうにもなかった。


 困り果てていたところ、今度は周りに巣食う魔物たちも我々を襲い始めて、ギルドまで助けを求めに行くことも出来なくなってしまった。

 腹は減るし、どうしようかと思っていたところだ。」


 男が開けた箱の中身は、何と弁当箱だった。

 男は、建物の中に居る他のメンバーに弁当を手渡しながら、笑顔で答える。


 そうですか、本来ならば橋の工事を邪魔する魔物退治というクエストが発生するはずであったのに、魔物たちが実体化したおかげで、誰彼構わずに襲い始めたものだから、クエストを頼みに行くタイミングを逃したのだろう。


 とりあえず、受取票を貰って、クエスト完了だ。

 ここへは、改めてクエストを受けてから出直して来よう。

 川岸に穴を掘って魔物たちの死骸を埋めると、中継車に乗って帰路に付こうとする。


「今日のクエストは、洞窟などのダンジョンもなかったし、出てきた魔物たちもそれほど脅威ではなかったから、面白みに欠けたかもしれないね。

 新人のツバサの実力を測るために、レベルを落としてクエストを引き受けたんだ。


 悪かったね。」

 中継車の中で、俺はいつも色々と注文を付けてくる、インカムを付けたテレビスタッフに詫びた。


 いくらレッドマンがいないからと言っても、もう少しスリルに満ちたクエストをこなすことは不可能ではなかったはずだ。

 恐らく、くどくどと文句を言われることだろう。


「いやあ、そんなことはありませんよ、美女格闘家ツバサ・・・いいじゃありませんか。

 今日の放送は、バッチリですよ。」

 ところが、意外にもスタッフは上機嫌だった。


 それほど、彼女の活躍は目覚ましかったという訳か。

 レイもうかうかしてはいられないぞ・・・と彼女の方に目をやると、ツバサと仲良さそうに談笑している。

 うーん、チームに溶け込むのも早いな・・・素晴らしい。



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