第26話
12
建物の中で休んだ後、木登りして朝飯代わりの角ヤシの実を採集する。
弁当は持っている数に限りがあるから、晩飯だけにしておく。
今日は、昨日とは反対方向の南へ進もう。
サソリの襲撃を受けながら2時間ほど進むと、先の方に建物らしきものが見える。
自然と急ぎ足になり、最後には駆け出すようにして、そこへ向かって行った。
しかし、期待は脆くも打ち破られてしまう。
そこは、既に人が住んでいない廃墟だった。
町を囲む石造りの壁も、無残に風化していて、建物も土台以外は所々壁の残骸が残る程度だった。
恐らく、相当昔に人が住むことを止めたのだろう。
「ふうむ、問題は、ここがこの星の人たちが過去に住んでいた名残なのか、あるいは冒険用の演出として造られた村なのかという事だな。
冒険用なら、調べていれば何らかの反応があるはずだ。
手分けして探してみよう。」
次元が異なれば、我々がアクセス出来る施設は、全て冒険用に作られたものと判断できたのだが、次元移動してしまうと、その辺りを正確に見分けなければならない。
勘違いして、やたらと掘り下げて調べまくっても、この星の物ならば時間の無駄だし、かといって冒険者用に作られた仕掛けを見逃してしまったら、その後の進行に影響してしまう。
誰に文句が言える訳でもない。
自分たちが、この星の住民たちと普通に接触したいと考えて、次元移動してこなければ、このような手間は生じなかっただろう。
つまり、このゲームの主催者が意図したことではなく、いわば自業自得と言える。
非常に厄介な事だ。
俺たちは、慎重に廃墟の中を歩き回った。
砂漠の中に忽然とあらわれた廃墟なので、怪しさは満点なのだ。
「こっちに何かあります。」
源五郎に呼ばれて行ってみると、崩れ落ちた壁の手前の床に、光るスイッチのような物がある。
それを踏んでみると、ゴゴゴゴッと床が動いて、地下への階段が現れた。
地下へ降りて見ると、長い通路が果てしなく続いているように見えるが、階段の降りたすぐ先に格子状の扉があり、先へは進めなかった。
「やはり、冒険者用のダンジョンのようだな。
こういった施設があるという事は、ここから近い場所に次の目的地の町か村があるのだろう。
周辺を探そう。」
そう言って地上へ戻ると、床は自動的に閉じた。
源五郎が目印の為に、ナイフで崩れた壁に大きく×印を付ける。
更に南へ進んで行くと、空から真っ黒い布のような物が飛んできた。
ひらひらと舞う布を払いのけようと剣で払うと、不意に向きが変わり、火を吐いてきた。
「危ない!」
とっさに身を翻してよく見ると、大きな蝙蝠の様で、牙をもった大きく開いた口から火を吐くようだ。
うーん、今度は火吹き蝙蝠か・・・・。
「強水流弾!」
レイが強烈な水流で、蝙蝠たちを吹き飛ばす。
シュッ、源五郎が放った矢が、水流で体勢を崩された蝙蝠を射抜く。
≪バチバチッ≫火花が散る様に、電撃を見舞われた蝙蝠は、すぐに動かなくなった。
尚も源五郎の雷の弓で、襲い掛かってくる蝙蝠を落としていく。
源五郎の活躍で、火吹き蝙蝠の群れを撃退できた。
2時間ほど歩いたが、町は見えてこなかったので、先ほどの廃墟へ戻る。
次は東だ。
火吹き蝙蝠と、巨大サソリを仕留めながら1時間ほど進むと、木々が生い茂った森や、街並みが遠くに見えてきた。
ようやく、次の目的の町へ辿りついたようだ。
高い壁に囲まれた中へ入って行くと、通りの向こう側に見慣れた大きな建物がある。
恐らく外観からして、ギルドの建物だろう。
喜び勇んでそこへ向かおうとして、その周りに人だかりができていることに気が付いた。
やはり、ここでも突然出現した建物や人を怪しんで、人々が取り囲んでいるのだろう。
そう思って近づいて行くと、少し様子が違った。
背の高い男が、ギルドの玄関先で、美しい娘に対して、棒状のものを差し出しながら、何やら話しかけている。
更に、彼らの前には大きな四角い箱型の筒状のものを抱えた、数人の男達。
「あれって・・・、テレビカメラじゃない?それに中継車も。」
レイが叫ぶ。そうなのだ、どうやら地元のテレビクルーが、突然現れたギルドの人間に対して、インタビューしているようなのだ。
すぐ脇には、太いケーブルを何本も繋げた、パラボラアンテナを屋根に備え付けたワゴン車型の中継車まで来ている。
タンクが言っていた、ニュースで見たというのは、こういう事なのだろう。
近づいて行くと、アナウンサーらしき男が話している内容も、聞こえてきた。
「先週、町中に突如出現した施設群は、どうやら、世界各地の町や村にも出現していることが分りました。
施設には、ギルド、道具屋、武器防具屋、宿屋は各町村共通で、販売品目に違いはありますが、外観及び仕様は変わっておりません。
更に特定の町には、カジノやお城までがあることが分りました。
勿論お城には、王様や王女様たちがいるようですが、勿論、我々の星にはそのような方は存在しません。
一体、どうなっているのでしょう?
本日は、このペレンの町のギルドという機構の職員に、事情を伺いたいと考えます。」
男が、傍らの美しい娘にマイクを向ける。
向けられているのは、恐らく、ギルドの受付嬢だろう。
「わ・・・私は、どうなっているのか、全く分かりません。
私の使命は、冒険者の方々に楽しく安全に冒険をしていただくことだけです。
大体、あなたたちは村人の方ですよね。
本来なら、私に話しかけてくることは、ないはずの方たちです。
どうして、私に質問してくるのですか?テレビ?何の事です?」
美しい娘は、どうしていいのか分からずに、オロオロとしている様子だ。
「そうはおっしゃられても、あなたたちが出現したのとほぼ同時期に、町の周りには狂暴な魔物たちが出現して、人々に襲い掛かってきているのですよ。
その魔物たちは、あなたたちがサポートするという、冒険者たちの為に存在するそうではないですか。
いうなれば、これはあなたたちの責任ですよね。」
アナウンサーは、尚も彼女に対して、厳しく詰め寄る。
受付嬢は、実体化したとはいえ、元はプログラムされた通りの受け答えしか出来ない、いわばロボットのような物だ・・・いや、かわいらしいから、お人形と言った方がいいか。
道具屋や、武器屋の主人たちも同様だろう。
始まりの村やファブの港町には、俺達冒険者たちも同時に出現して、それなりに村人や町人とも会話したから、お互いに事情は呑み込めたのだろうが、まだ誰も来ていない土地では、大パニックと化しているだろう。
「ちょっと待ってくれ、俺達にある程度は答えられるかもしれない。」
「サグルさん・・・、大丈夫ですか?」
心配そうな目つきで見つめる源五郎たちを連れて、俺は群衆をかき分けてギルドの建物の前まで出て来た。
「あ・・・あなたは・・・?」
俺たちに気が付いたアナウンサーは、視線をこちらに向ける。
当然、カメラも一斉に俺たちに向けられた。
「ぼ・・・冒険者の方たちですね・・・、よかったあ。」
受付嬢は、俺達の格好を見てとって、ほっとしたように笑顔を見せた。
全身を鎧で固めて大きな剣を持った男と、鋼の胸当てをして巨大な弓を持つ男に加えて、仰々しい魔道士のローブを羽織った女性・・・、普通であれば、胡散臭いことこの上もない我々の姿を見て、嫌悪感を見せるどころか笑顔まで・・・、よほど冒険者を待ちこがれていたのだろう。
俺たちは、そのままギルドの玄関先まで進み、受付嬢と位置を交代した。
「あなたたちは、何者ですか?」
すかさず、アナウンサーの男がマイクを向けてくる。
「俺たちは、シメンズという冒険者パーティだ。
魔物たちを狩ったり、ダンジョンを攻略したりといった、クエストという冒険をしている。
地球という、銀河の遥か彼方の星の住民だが、この星と通信上で繋がっていて、別の次元として存在していた。
本来なら、この星の住民の方たちとは交わることがないはずだったが、この星の方たちの姿を見ることのできる立場であった俺達冒険者が、何とかしてこの星の方たちと接触をしたい、会話を交わしたいと願ったことが叶ってしまい、この次元へ飛ばされて実体化した。
同時に、各ダンジョンや魔物たちまでが実体化し、騒動となっているようだな。
しかし、俺達にだって悪気があった訳ではない。
自分たちが住んでいる星以外の人と直接話して見たいなんて、誰でも憧れるだろう?
ましてや、そんな願いが叶うなんて思ってもみなかった。
この星が、願ったことが叶う星だなんてことを、俺達は知らされていなかったんだからね。
しかし、不可抗力とはいえ、一緒に実体化した魔物たちが、この星の人々を襲っていることには、心を痛めている。
何とかして、魔物達を一掃したいとここまでやって来たという訳だ。
更に、旅をして来た目的はもう一つあり、俺達が元のゲームの世界へ戻ることができる様、この星の住民の方たちにも一緒に願ってもらいたいというお願いをするためだ。
なにせ、今では関係者全員が願わなければ、願いがかなわないのだろう?
ご迷惑の掛けついでと言えないこともないが、俺達が元のゲームの世界へ戻ることができる様、半年に一度日を決めて願って頂きたい。」
そう言って、俺はカメラに向かって頭を下げた。
「地球・・・地球という星から、あなたたちはやって来たというのですか?
一体どうやって?」
「方法は判らない。俺達は、ゲームの機械で地球と通信で繋がっていた。
いわば、ゲームの世界だけでの存在だったのだが、みんなが願ったために、この次元で実体化したのだと考えている。」
俺は、とりあえず理解している限りのことを話した。
そうして、俺達に悪気はなかったことを理解してもらおうと努めた。
「そうすると、この星で願い事が叶うという事を知らなかったために起こった、不幸な出来事であると言いたい訳ですか?
そして、あなたたちは元のゲームの世界へ帰りたがっていると・・・、そう言う事で間違いはありませんね。」
アナウンサーは念を押すように確認してくる。
「ああ、そうだ。但し、この星が気に入って、このまま残りたいと思っているものもいるかもしれない。
そう言うやつの為に、ゲームの世界へ帰りたいと望む者は、元の次元のゲームの世界へ戻れるよう願って欲しい。
まことに勝手なお願いだが、ここに残りたいと思うやつに関しては、ここでの生活を許してやってほしい。」
俺は、そう言いながら、もう一度頭を下げた。
続いて源五郎とレイも頭を下げる。
「分りました、我々もこのような事態は初めてなものですから、混乱しております。
あなたたちが希望するお願いごとの件も含めて、協議させていただきたいと考えます。
では、また質問等ございましたら、あなた様にお願いすればよろしいでしょうか?」
「ああ、俺はサグルと言うものだ。彼は源五郎で、彼女はレイだ。
この3人の中の誰かに尋ねてくれればいい。
それはそうと、このテレビ放送のシステムは、この星でずっと昔からあるものなのか?」
俺は先程から撮影しているハンディのテレビカメラや、中継車の形が、地球での生活の時に報道番組などで時折見かけるものと、酷似していることに疑問を感じていた。
まあ、こんな装置はどうやっても同じ形になってしまうのかも知れないが・・・。
「テレビ放送に関してですか?
私もこの業界長いですが・・・、よくは知りません。
確か7,80年ほど前に、突然生まれた技術だったと思います。
それまではこのような娯楽はなかったのですが、今ではテレビ放送を通じてお芝居をするドラマや、歌のうまい人が歌を披露する歌謡ショーなど、楽しい番組が一杯です。
それもこれも・・・、ある一人の天才が提唱したと聞いております。」
「一人の天才?」
「はい、その人物は、決して表面には出てこずに、未だに名前どころか年齢性別さえ不明の方ですが、その人はこの星の文化発展の為に、様々な事を成し遂げられました。
テレビ放送用のお芝居の脚本や構成などを皮切りに、音楽や歌という全く新しい文化を広め、更にはスポーツという、肉体を使う競技を提唱しました。
まあるい小さな玉を投げては打つ、野球と言う競技などは、この星中の人々が熱狂しています。
そういえば、出現した建物が立っている土地は、全てがその方の土地だと言われていますよ。」
「野球・・・?そいつの土地?」
どうやら、地球から誰かがこの星へやって来ていたのだ。
そうして、この星で財をなし、このゲームの地盤を作り、地球へ戻ってゲーム機を発売したのだ。
電波などの波動を、次元を曲げて通信するなどと、もっともらしい事を触れ回っていたが、どうやら、この星で地球との通信が出来るように願い、それが叶っただけなのだろう。
俺達の分身とも言えるこの体も、願い事をして、設定どおりの分身が生成するようにしておいたのだ。
恐らく、そいつが来た時点では、誰もが願う事は実現したのだろう。
しかし、地球人をゲームに参加させるに際して、関係者全員が願わなければ願い事は達成しないという制限を付ける必要性があった。
なぜなら、この星の人々はめったなことでは願い事をしないのだろうが、地球人はやれもっといい暮らしがしたいとか、偉くなりたいとか、いつも願望が強いからだ。
下手をすれば、惑星どころか、全宇宙征服すら願ってしまうかもしれない。
それを防ぐためにも、関係者全員同時にという、制限を付ける必要性があったのだ。
一体、誰なんだろう・・・、怪しいのはゲームを販売した青空商会の関係者だ。
そいつに聞けば、もしかすると俺たちが元の次元へ戻る方法が、聞けるのかも知れない・・・、地球と連絡が取ることができれば・・・だが。
まあ、今となってはそんな事が分ってもどうしようもない。
俺たちは出来ることをやるだけだ。
とりあえず、テレビ取材からは解放された様子なので、ギルドの建物の中へ入って行った。
中の様子は、今までのギルドと同じだったが、閑散としていた。
それはそうだろう、俺達しかここまで到達した冒険者は、今の所いないのだ。
受付へ行くと、やはり先程の美人が受付嬢をしていた。
俺はアサリ茸や牙レンコンなどを袋から取り出して、クエスト票を添えて提出した。
すると、ファンファーレが鳴り響いた。
「おめでとうございます。
サグル様、源五郎様はレベルVからUへ、レイ様はレベルXからVへレベルアップされました。」
ほうそうか、レイは一気に2段階アップだ。




