第23話
9
一晩休んで翌朝、通路へ出て中央にある階段を上がって行く。
そこは真っ暗な空間で、正面には祭壇のように所々かがり火が焚かれている。
どうやら、最上階には窓が無いようだ。
周りに注意しながら、慎重に階段を昇って行く。
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ!
よくぞここまで来た、だがその幸運もここまでだ。
ここで散り、果てるがいい・・・。」
俺たちが6階へ上がった途端、頭の上から野太い声がしてきた。
「お前は誰だ。」
「わしか・・・、わしはこの塔の主だ。」
どうやら、言葉が通じるらしい。
「話が出来るなら丁度いい。
君は知っているかどうかわからないが、ある事情があって、我々は異次元世界へ飛ばされてしまった。
そうして、この世界ではゲームキャラではなく、それぞれが1個の生命体として存在している。
つまり、これからは倒されても復活することはなく、死んだままになってしまうという事だ。
君も、元の世界へ戻りたいと思わないか?
この世界へ飛ばされたゲームのキャラクターたちの中で、会話ができるもの達に関しては、説得したいと考えている。
この星では、願いが叶うんだ。
だから、元の世界へ戻りたいと願えば叶う。
但し、それには関係者全員が同時に願わなければならないという制約があるんだ。
だから、俺達は世界中を回って、皆に同時に願い事をする日というのを知らせて回ろうとしている。
それには、どうしても賢者のトンネルを使う必要があるようで、この塔に隠されている、そのトンネルがある建物の鍵を頂きたい。
我々の計画に賛同していただけるのなら、そのカギを渡してもらいたいのだが、どうだろう。」
俺は、とりあえず冒険の趣旨を説明して、説得を試みた。
別に、賛同願えるのなら、ここで戦う必要性はない。
半年に一度、お願いしてもらえるだけでいい。
「愚かな人間よ・・・、ここへきて命乞いか。
そんな臆病者では、わが剣の錆にも成れんわ・・、尻尾を巻いてとっとと立ち去れ。」
野太い声は、俺の言うことなど聞く耳持たんといった感じだ。
それでも、怖気づいたか、あるいはヒーリングゾーンを飛ばしてきた冒険者たち用に、一旦は戦いを回避する手段を与えているのだろう。
「どうやら、戦うしかないようですよ。」
背後から源五郎が囁く。
「その様だな、仕方がない。
この塔の主とやら、姿を現せ、俺達はお前と戦う。」
俺は、剣を構えながら上方に向かって叫ぶ。
「ほう、戦うと申すか・・・、いいだろう。」
姿を現したそいつは、鎧武者だった。
しかも、大きい。身の丈は俺たちの数倍・・・十メートルは越えているだろう。
そいつが、俺達の体よりも大きな剣を勢いよく振り下ろしてくる。
すぐに飛びのいて避けるが、床に当たった衝撃で、塔自体がグラグラ揺れ、砕かれた床の石が周囲にはね飛ぶ。
「強雷撃!」
鎧を幾筋もの稲光が伝うが、奴の動きは変わらない。
大きな剣を、勢いよく水平に振り回してくる。
背後へ飛んで難を逃れるが、近寄れない。
ヒュッヒュッと、源五郎が矢を兜の目をめがけて射掛けるが、左手で簡単に払われてしまう。
「強冷凍!」
レイの魔法で、奴の右足が凍りついて動きが止まる。
「雷撃!」
源五郎の放った矢が、鎧武者の左膝の鎧の隙間に突き刺さると同時に、火花が散った。
雷撃を伴った矢攻撃のようだ。
「ぐおっ!」
巨体が膝をついてよろけた瞬間を狙って、すぐに駆け出す。
自己申告カードの記録の所で、100メートル10秒00と書いておいたのが、役に立ちそうだ。
実際には、その倍はかかるのだろうが、鎧を着こんでいることを感じさせない速さで俺は、鎧武者の懐から膝を足場に飛び上がり、腰と肘を伝ってさらに跳躍し、奴の頭上高くへ飛び上がった。
そうして、装甲の弱い兜の目の部分に、鋼の剣を突き刺した。
「うぎゃー!」
鎧武者は、左手で刺さった剣を抜こうとする。
「今だ、レイ!あの剣を狙って、雷を落とせ。」
「分ったわ・・・。強雷撃!」
ズドーンという衝撃音と共に、真っ白な閃光に辺りが包まれる。
俺の突き刺した剣を避雷針代わりにして、雷の直撃を喰らわせたのだ。
「やったあ!」
巨体がもんどりうって倒れるのを確認すると、源五郎が飛び上がって叫ぶ。
何とか倒したのだ・・・と思っていたら・・。
≪ゴゴゴゴゴッ≫ゆっくりと、鎧武者が立ち上がり、俺の突き刺した剣が床に落下する。
「ふうむ・・・、なかなかやるようだな。
だが、簡単にはわしは倒せんぞ・・・。」
そう言って、そいつは手足胴体の各パーツに分裂した。
お約束のパターンだ。
俺はすぐに床に落ちた鋼の剣を拾いに走ったが、右足に蹴り上げられてしまった。
そのまま、仰向けで床に数回跳ねて止まる。
「大丈夫ですか?」
源五郎がすかさず寄ってきて、俺の体を起こしてくれる。
大丈夫では、なさそうだ。
胸の辺りが熱く、しびれるような感触だ。
「まずい、一旦引こう。」
そう言って源五郎の肩を借りながら、脇にある階下への階段に滑り込む様にして、下って行く。
「強雷撃! 強雷撃!強雷撃!」
レイが援護攻撃をしてくれたおかげで、何とか逃げ延びることができた。
「はあ、はあ、何よあれ・・・、反則よ。」
レイがそう言いながら、息を切らせて階段を転げ落ちてくる。
どうやら中ボスの鎧武者は、逃げても追っては来ない様子だ、これは助かる。
俺たちは、ヒーリングゾーンで傷をいやす。
アバラが何本か折れたような感触だったが、光に包まれているうちに、体が軽くなってきた。
暫くすると、体もすっかり元通りに元気になった。
「じゃあ、2回戦と行こう。
向こうも、すっかり元に戻って・・・、なんてなっていたら、勝てそうもないがね。」
そう言いながら、階上へ上がると、各パーツに分れた鎧武者がじっと待ち構えていた。
どうやら、戦闘は継続している様子だ。
こうやって何度かヒーリングゾーンを行き来して倒していく設定なのか、あるいは中ボスも実体化したのはいいが、こちらには回復を図る手だてがないだけなのか、どちらにしてもありがたい。
こうなれば、一つずつパーツを削って行くだけだ。
「源五郎の、雷撃を伴った矢が有効のようだし、さっきは鎧のつなぎ目の隙間を狙ったが、各パーツに分れたから、
体との境目部分に鎧はないはずだ。
そこが急所だろうから、そこを狙って雷撃の矢を放ってくれ。
俺が何とかして、パーツの向きを変えて、急所を向けるからその瞬間を狙ってくれ。
まずは右足から順に倒していく。
レイは、大きな雷撃を各パーツに放って、援護を頼む。」
俺はそう言うと、鎧武者の巨大な右足に向かって駆け出した。
「強雷撃!強雷撃!強雷撃!強雷撃!強雷撃!」
ドーンという衝撃音と共に、一瞬鎧たちの動きが止まる。
俺は身の丈よりもはるかに高い右足に向かって、袈裟がけに剣を振り下ろす。
≪キン!≫金属音と共に、俺の剣は弾かれてしまう。
かなり装甲は硬いようだ。
やはり、装甲の弱い部分を狙うしかないのか。
俺は、壁を蹴り上げて飛び上がり、太もも部分にショルダータックルをくらわす。
すると、さすがにバランスを崩したのか、右足がよろける。
「雷撃!」
一瞬、こちら側に向いた股部分の胴体とのつなぎ目を狙って、源五郎の雷撃を伴った矢が突き刺さる。
「雷撃! 雷撃!雷撃!」
間髪を入れずに、数本の矢が突き刺さり、まばゆいばかりの閃光が放たれる。
俺は、その勢いで反対側の壁を蹴り、左足にもタックルを喰らわせる。
「雷撃! 雷撃!雷撃!」
源五郎の矢が、鎧の無い股部分に突き刺さる。
やがて、両足共に動かなくなった。
「きゃあ!」
悲鳴が上がったので、そちらに目をやると、レイが鎧のパーツたちに取り囲まれていた。
俺はすかさず胴体のパーツにタックルしながらレイの元へと駆け寄り、レイを抱きかかえると、振り下ろしてくる剣を躱して、階段を駆け下りた。
下では既に源五郎が、汗を拭いていた。
「うまくいきましたね。」
「ああ、しかし、そう何度も使える作戦ではないだろう。」
そういいながら、ヒーリングゾーンで傷をいやす。
鎧武者の胴体に押しつぶされかけて、血を吐いていたレイだったが、何とか回復した様子だ。
死なない限りは、ここで回復可能だろう。
再度、6階へ上がって行く。
鎧武者は、胴体から上しか無くなっているので、少し背が低くなった感じがする。
それでも、まだ数メートルの高さはあるのだが・・・。
「強振動!」
野太い声で呪文が告げられると、塔全体が大きな地震のようにグラグラと大きく揺れ、立っていられないほどだ。
すかさず、右腕が大きな剣を振り回してくる。
攻撃を避けるだけでも精一杯だ。
何とか体勢を整えると、俺は左腕に持った盾を伝って飛び上がると、横に居た胴体の首部分の空間目がけて銅の剣を突き刺した。
それほど剣はめり込まなかったが、避雷針としては十分だ。
「レイ、雷撃だ。」
「うん、強雷撃!」
眩いばかりの閃光に包まれて、衝撃音と共に胴体が仰向けに倒れる。
残りは両腕と頭だけだ。
すかさず、源五郎が浮いている頭の下側に駆け込む。
「雷撃! 雷撃!雷撃!」
頭上へ向かって放たれた雷撃を伴う矢は、兜の下部分に突き刺さり、兜はいく筋もの稲光をまといながら、床へ落下する。
俺は床に落ちた銅の剣を拾い上げると、もう一度左腕の盾を使って駆けあがり、そいつの肩口の境目へ突き刺す。
「強雷撃!」
阿吽の呼吸のように、レイの雷撃が銅の剣目がけて発せられる。
残りは右腕だけだ。
しかし、最後に残った一つを倒すのは容易ではなかった。
それまでのゆったりとした動きはどこへやら、目にもとまらぬスピードで、部屋中を飛び回り、切り付けてくる。
堪らず、一旦階下へ引き返したほどだ。
「ふう、シューティングゲームの、ステージ最後の1機みたいだな。
突然スピードが上がりやがった。
さて、どうする?」
ピンク色の光の中で癒されながら、俺達は作戦会議だ。
「鎧に対しては、矢は全く効きません。
肩口の境目を狙えればいいのですが、動きが速すぎて狙いを付けるのは、難しいでしょう。」
「雷撃を受けても一瞬動きが止まるだけで、大した効果はないわね。」
源五郎も、レイも攻めあぐねている様子だ。
なにせ、鎧の守備能力が高すぎる。
鎧の無い部分を雷撃で狙う以外、勝てそうにない。
「分った、俺がおとりになって、何とか奴の動きを止めて見るから、そこをついてくれ。」
俺は、決心した。ここで、待っていても、何も解決しないからだ。
「でも、大丈夫ですか?」
「ああ、もしもの時は、悪いが復活草を使ってくれ。
致命傷以外なら、ここへ戻ってくれば完治するだろうし、あきらめずに何度もトライしてみるしかない。
何にしても、源五郎かレイの雷攻撃以外では倒せそうもない。
頼んだぞ。」
俺は、銅の剣を握りしめて立ち上がった。
どうせ鎧を突き通すことは出来ないので、鋼の剣である必要性もなく、また電気抵抗から雷撃を誘導するのに有利に働くだろうと考えて、先ほどから銅の剣を装備しているのだ。
「気を付けてくださいね、命が大事ですよ。」
真剣な眼差しの源五郎にこっくりとうなずいてから、俺は階段を駆け上がって行く。
そこでは、まだ右腕が剣を持ったまま、縦横無尽に飛び回っていた。
俺はタイミングを見計らって、右腕が近づいてくるのと同時に壁を蹴って飛び上がり、右腕にしがみついた。
そうして、肩口の空間に銅剣を突き刺す。
「今だ!」
俺はそう叫ぶと、しがみついた手を離して腕から落ちる。
「強雷撃!」
ドーンという衝撃音と共に、閃光に包まれ、右腕が勢いよく床に叩き付けられる。
≪ガガガガッ≫石の床を削り取りながらも、壁まで進みようやく鎧の右腕は止まった。
「一寸タイミングが早かったぞ・・・。」
俺の体も雷撃を受けて、煙がくすぶっている。
何にしても、塔のボスの巨大鎧武者は倒せたようだ。




