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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第2章 本当の始まり
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第21話

この章は、さらに表現が過激になっています。残酷な表現がお好きでない方は、この章は飛ばしてお読みになることをお勧めします。

                      7

 それは異様な光景だった。

 塔へ駆け寄って行き、その圧倒されるまでの高さを見上げ、視線を地面に移した次の瞬間、目に飛び込んできたのは・・・・。


「おぇー!なんだよ、これ・・・。」


 塔の周辺に散らばる無数の肉片、いや、それは人の手足や胴体の切れ端に、頭だ。

 バラバラに切り刻まれた何人もの人間の体が、辺り一面に飛び散っている。

 しかも、その肉片を、真っ黒い体に先端がとがった細長い尻尾を持つ、小人のような奴が貪り食っているのだ。


 いや、そいつは人ではない、耳がとがっていて、目は緑色、口は耳まで裂け、鋭い牙をもち、なにより、背中には小さな羽根が生えていて、死体の散乱する中を、何体も飛び回っているのだ。

 俺達は思わず立ち止まり、その場に立ち尽くした。


「ともかく、援護してくれ。」

 俺はそう叫びながら、1匹の悪魔のような小人に、剣を大上段に構えながら向かって行った。


「うぉー!」

 振り向いたそいつの脳天目がけて、思い切り振りおろす。


 しかし、そいつはいとも簡単にひょいと身をかわす。

 勢いついた俺は、たたらを踏んで思わず死体を踏みそうになったが、何とか踏みとどまる。

 口を開いたそいつは、そんな俺を見てにたりと笑ったような印象を受けた、小悪魔だ。


強雷撃(ピカ)!」

 そいつが叫んだ瞬間、俺は反射的に後ろへ飛びのいた。


≪ドーン!≫俺がいた場所に、大きな稲光が落ちる。

 レイが使う雷の魔法だが、威力はこちらの方が数倍ありそうだ。

 ヒュッという風切音がして、そいつは軽く身をかわす。


 その体勢が整う前に、俺が水平に剣を振りまわす。

 しかし、それも後方へ飛びのいて躱す。


強冷凍(カチ)!」

 レイの魔法で、飛びのいた小悪魔の足元が凍りついた。

 魔力が増加する魔法使いの服と靴を装着しているせいか、威力が上がっているようだ。

(うまい!)俺はすかさず、そいつを袈裟がけに切りつける。


「ギャポー!」

 そう叫びながら、そいつは血しぶきをあげ、上半身が横へすっ飛んで行った。


 その叫び声を聞いたからか、それまで意に介さずに死肉をむさぼっていた、他の小悪魔たちが一瞬身構えた様に感じた。

 しかし、それもその時だけで、すぐにまた目の前の肉にかじり付く。


 なによりも、まずは食欲という事か・・・。

 俺は、都合がいいと考え、そのまま2体目へ切りつける。

 背後から切り付けられたにもかかわらず、背中に目があるかのようにそいつは俺の剣を軽く躱して、脇に飛び上がる。


強冷凍(カチ)!」

 今度はレイの魔法でそいつの羽根が凍りついた。


 瞬間、そいつも何が来たのか分からなかっただろう、背中から地面に落ちる。

 そこをすかさず俺が剣を突き刺すが、くるりと回転して躱す。

 ヒュッ、小悪魔の回転方向の先へ銀の矢が突き刺さると、一瞬そいつの回転が止まり、そこを目がけて渾身の力で、俺は剣を突き刺す。


「ギャー!」

 断末魔の叫び声をあげて、胸を突かれたそいつはすぐに動かなくなった。


 どうやら急所は、人間と同じく胸にあるようだ。

 その様子を見て、ようやく小悪魔たちは、この容易ならざる相手に気が付いたのか、小さな羽根をパタつかせて中空に浮かび上がり、戦闘態勢に身構えた。


 しかし、連携して1体を集中的に攻撃する俺達と違って、小悪魔たちは連携しあって戦おうとはしなかった。

 俺たちが1体に集中攻撃を仕掛けていても、他の奴らはそれをただ見ているだけ。

 しかも小悪魔たちの少し開いた口は、仲間がやられていく様を見て、楽しんでいるようにも感じられた。


 それは、俺達にかなり有利に働いた。

 なにせ、そいつらの目的は、倒した冒険者たちの血肉であり、生きている俺達ではない。

 だから、俺達は結構自由に1体ずつそいつらを倒して行けばよかった。


 それでもすばしっこい動きで、更に魔法も使う小悪魔は難敵ではあったが、3人の連続攻撃で何とか倒して行った。

 塔の周りの小悪魔たちを倒し終った時には、既に太陽は一つだけになっていた。


「一体なんなんですか、こいつらは。

 人の肉を食うなんて・・・、信じられない。


 こんな残酷な設定を、プログラムしていたというんですか?

 神経を疑うな・・・。」

 塔の周りに飛び散っている、肉片と化した手足など人体のパーツを集めながら、源五郎は涙ながらに呟く。


「仕方がないだろう、俺達だってさっき試しに魔物の肉を食ってみたじゃないか。

 あいつらだって、今まではただのプログラムされたクエストの対象だったから、腹も減らないし倒されても次の冒険者が来た時には復活した。


 ところが、今や俺たち同様1個の生き物なんだ。

 腹も減るだろうし、倒されたら復活は出来ないだろう。

 あいつらだって、俺たち同様生きるのに必死なんだ。


 俺たちが餌になり代わることだって、自然の摂理としてみれば、当然の事なのかも知れない。」


 俺たちは、人の死体を1ヶ所に集めて、レイの魔法で燃やした。

 灰にした後で、まとめて埋めて大きな墓標を立てておけば、人の死肉をあさることは出来ないだろう。

 魔物の死体は、穴を掘ってそのまま埋めた。


「南方面は、魔物が格段に強いって言っていたけど、確かに強かったな。

 1対1じゃ敵わなかっただろう。

 集団で連携を組んで襲われたら、俺達のレベルが相当上がっても、難しいかもしれんな。」


 俺は、先ほどの戦いを思い出しながら、これからの戦いが厳しくなることを予感していた。

 なにせ、まだ封印の塔へ入ってもいないのだ。

 それなのに、こんなレベルの魔物が出てくるとは。

 この調子だと、南へ向かった冒険者たちの大半がやられてしまったのではないのか。


「これが、私がチームを離脱した理由よ。」

 ぱちぱちと燃える炎を見つめながら、レイが突然口を開いた。


「チームを離脱?」

「そうよ、私だってチームを組んで冒険者をやっていたわ。

 4人チームだったけど、チームワークは・・・まあよかったとも言えないけどね。


 ところが、あの時光に包まれて、この現実世界へやってきてしまったでしょう。

 帰る術がないと判断した仲間たちは、自殺を考えたの。

 そうして、強力な魔物たちがいる封印の塔へ向かえば、簡単に殺してもらえると考えたのね。


 私はそんな自殺行為はごめんだから、チームを抜けて一緒にはいかなかったわ。」

 レイは炎を見つめながら淡々と話した。


「そうか、ここに居た人たちは、死ぬためにここへ来たという事か。

 しかも、あんな形になっていたのを見ると、決して楽に死ねたわけではなかっただろう。

 せめて成仏してくれるよう、祈ろう。」


 俺は炎に向かって、両手を合わせて目を閉じた。

 墓標を立てた後、レイのテントを張ってやり、塔の前でキャンプだ。

 さすがに、先ほどの光景が目に浮かび、持ってきた肉は食べられなかった。

 食欲もないので、そのまま仮眠をとることにして、源五郎と俺が交代で見張りについた。



 翌日、塔の中へ入ることにする。

 夜になってから、魔物たちが襲ってくることはなかった。

 塔の周辺には魔物がいなくなったのか、あるいは自ら進んで向かってこなければ、相手をするつもりはないのか。

 どちらにしても、先へ進む必要性があるのだ。


 入口は、石造りの階段が数段あり、リアカーを引いて入ることは難しい。

 仕方がないので、ここに置いて行く事にした。

 肉や弁当も持っていけないので、無理やり食べることにしたが、やはり昨晩晩飯を抜いたせいか、腹は減っていた。


 大きな鉄製の扉を開けて中へ入った途端に、白い布のような物が覆いかぶさって来る。

 剣で払いのけるが、スカッと抵抗もなく通り過ぎる。

 どうやら、実態が無いようで、お化けのような物か。


強雷撃(ピカ)!」

 レイが魔法を唱え、稲光がその白い布を直撃すると、粉々に砕け散った。

 どうやら、魔法攻撃が有効の様子だ。


火炎弾(チリ)!」

 源五郎が唱えながら矢を射ると、別の白い布が一瞬で燃え上がる。

 すると、黒い影が勢いよくレイに向かって襲い掛かって来た。


「危ない!」

 俺がその影に向かって、剣を振り下ろすが、そいつはありえない方向に曲がって避けた。

 稲光のように、空中をジグザグに走ったのだ。


 軽やかに着地したそいつの姿は、オオカミのように長い毛をもった4本足で、その背中には体毛と同じ茶色の羽が生えていた。

 エンゼルオオカミとでもいおうか。


「ウーッ!」

 唸り声をあげ、エンゼルオオカミは、今度は俺に照準を定め飛び掛かってくる。


 俺はそいつの鼻先に盾を翳し、下方から勢いよく剣を突きあげるが、ひらりと身をかわし、俺の左後方へ飛びのく。

 レイと源五郎は、白い布のようなお化けと戦っているので、援護は頼めそうにない。


 俺は回転するように後ろに振り返ると、今度は鉄の足当てが付いた足で、そいつを蹴り上げる。

 ひらりと躱したそいつの頭めがけて、盾を水平にしてぶち当てる。

 宙に足場があるかのように、そいつは軽やかにトンッとステップを踏んで飛び上がる。


 しかしそこには、待ち受けたかのような俺の鋼の剣があった。

 一撃!エンゼルオオカミの胸目がけて、剣を突き刺す。


「キューム・・・」

 儚い叫び声をあげて、そいつは地べたに落ちた。

 振り返ると、源五郎たちが白い布のようなお化けを片付け終わったところのようだ。


「ふう、入った途端に、盛大な歓迎を受けるとはね。」


 見ると、そこかしこに白骨死体が転がっている。

 恐らくここまで来た冒険者たちなのだろう。

 自殺志願ではなく、先へ進む為に鍵を取りに来たのか・・・最早、確認の術はない。


「この人たちは、帰るときにでも外へ出して弔ってあげよう。」

 そう言いながら、俺は袋からクエスト票を取り出す。


「おう、やはりそうだ。

 封印の塔1階に巣食う、オオカミ鳥の羽根を採取とある。

 恐らくこれがオオカミ鳥なのだろう。」


 そう言って、先ほどのエンゼルオオカミの羽根を切り取って袋の中に入れた。

 すると、銀のナイフと狙撃手の弓と魔法使いの杖が現れた。


「ほう、クエスト対象の魔物には、アイテムが現れる仕様は健在か。

 でも、最早1回だけの早い者勝ちだろうな。」


 オオカミの死体が消えることはない、ゲームの世界ではなく現実の生き物が死んでいるのだ。

 魔物たちの死体も、この中では穴を掘って埋めるわけにもいかないから、帰りにまとめて始末しなければならないだろう。


 俺たちはありがたくアイテムを頂戴した。

 塔の中は、明り取りの窓代わりに、壁にいくつもの小さな穴が開いているので、それなりに明るかった。

 まるい塔の中にも、同じくまるく壁が仕切ってあり、外周が通路のようになっている。


 まずは時計回りで進んでみる。

 すぐに、白い布のお化けが襲い掛かってくる。

 俺は、銀のナイフに持ち替えて切り付ける。


 すると、手ごたえがあった。

 やはり、銀のナイフは有効だ。

 1周回って先ほどの入口へ帰ってくる、奥へ進むには内側の壁に開いた通路だけだ。


 恐らく、十文字に通路が切られているのだろう、4カ所通路が開いていた。

 まずは同じく時計回りに、最初の通路へ入ってみる。


「んもー!」

 すると、雄たけびを上げて褐色の物体が、向こう端から勢いよくかけてくる。

 ヒュッ!源五郎が落ち着いて矢をつがえて、そいつ目がけて発射する。


 ドーンという地響きとともに、そいつは勢い余って壁に何度もぶち当たりながらよろけ、そうして止まった。

 眉間を一撃だ、先ほど貰ったアイテムに装備し直したのだろう。

 矢の威力が格段に向上している。


 そいつは、昨晩の噛みつきヌーとでも言えそうな牛のような魔物だった。

 こんな塔の中にまで巣食っていたとは。


「ふうむ・・・、食べ物に困ったら、ここまで降りて来よう。」

 そう言いながら俺たちは先へ進む。


 どうやら大きな仕掛けはなさそうで、通路の両端に開けられた窓から、両側にある部屋の中の様子が見えるが、中には何もない。

 通路の真ん中はこの塔の中心だが、丸い空間となっていて、その真ん中に上へ続く階段がある。

 とりあえず先へ進んで各部屋を回り、部屋の中に何もないことを確認してから、階段を上がって行く。



 2階へ上がると、階段はそこで終わっていて、上への階段はなかった。

 別の部屋か通路にあるのだろう。

 ダンジョンを回らなければ、上へ進んで行けない構造になっているのだ。


 通路から部屋の中を覗くと、右側の部屋に大きな箱があったので、部屋の中へ入ってみる。

 すぐに、真っ黒い蝙蝠のような群れが襲い掛かって来た。


 俺が鋼の剣に持ち替えて振り回すと、蝙蝠は数匹ずつ集合して、人の姿に形を変えた。

 吸血鬼と言ったところだろうか。


「ピューピュー」

 そいつは魔法を唱えた。

 頬を切り裂くような、鋭い突風が襲い掛かる。

 俺は盾を構え、レイや源五郎たちの風よけになってやる。


強火炎弾(パチ)!」

 レイが唱え、吸血鬼は全身を炎に包まれるが、すぐに消えてしまいダメージはなさそうだ。


 源五郎が、銀の矢を射ると、胸に当たった吸血鬼は少し後ずさりした。

 銀は有効のようだ。

 俺は銀のナイフに持ち替え、そいつの胸元に切りつける。


「ギャー!」

 叫びながら、吸血鬼は灰になって崩れ落ちた。


 部屋の中の吸血鬼たちは、源五郎の銀の矢の連射と俺の銀のナイフで何とか仕留めた。

 そうして、部屋の隅にあった箱を開けると、そこにはほかほかの弁当が入っていた。


 宝箱だ、もう少しいいアイテムをくれても良かったのに・・・と思いつつも、おいしくいただいた。

 戦闘で受けた傷も、魔力も多少は回復したようだ。

 元気いっぱいに部屋を出る。



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