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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第2章 本当の始まり
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第20話

                 6

 相変わらず、虹色トンボと大バッタは、レイに任せて俺たちは傍観だ。

 アサリ茸にも何度か遭遇したが、俺と源五郎が何とか倒した。


 そう言えば・・・、俺はレイの戦っている姿を眺めていて、ふと思った。

 彼女は紺色のブレザーに、グレーのチェック柄のスカートをはいている。

 よく考えたら、これは高校の制服じゃないのか?

 やっぱり高校生・・・?


「彼女の服装ですか?

 大半の人たちは、日本の古い着物にどことなく似ているし、作業着っぽくて動きやすそうだから、初期の服装で作務衣を設定したのだと思います。


 その他にも、スーツ姿やブレザー姿、彼女の着ているような、女子高校生のような服装も選択できましたよ。

 昔を懐かしんで、設定する人も多いんじゃないのですか?

 学生服やセーラー服も選択可能でしたから。」


 俺が、あまりにも彼女から視線を外さずにいるものだから、よほど気にしていると感じたのだろう。

 しかし、セーラー服まで・・・、いっそセーラー服姿だったら、いかに鈍い俺だとしたって、手を出さずに済んだのだろうに・・・。


 まあ、彼女が26歳だとしたって、源五郎が言うように昔を懐かしんでと言う事は、十分に考えられるのだ。

 途中、道が分岐している場所に出た。

 そこを左に曲がって行く。


「あれ?封印の塔は真南のはずだから、今のところを真っ直ぐじゃないのですか?」

 俺が曲がったことに気づいて、急いで引き返してきた源五郎が、声をかけてくる。


「ああ、封印の塔は向こうだ。

 しかし、どのみち魔物を退治して行かなければならない。

 クエストもこなさなければならないしね。」


 そう言って先へ進むと、池が見えてきた。

 その池は一面、大きなハスの葉のような、丸い緑の葉に覆われていた。


「この池に居る、牙レンコンの採取のクエストだ。

 源五郎とレイは、池へ入らずに援護を頼む。」


 俺は、そのまま大きなハスの葉の上に乗った。

 直径2メートルほどの大きな葉は、俺が乗ったくらいではびくともせずに浮いている。

 俺は安心して、そのまま進み、ハスの葉伝いに池の中央まで来た。


 途端に、水しぶきを上げて俺の周囲の水面から、黒い触手が飛び出してきた。

 それは、所々節のようにくびれていて、先端の大きく開いた口には鋭い牙があった。

 左から伸びてきた触手の攻撃を盾で防ぎ、右側の触手を切りつける。


「ピギー!」

 鳴き声なのか叫んでいるのか分からないが、2つほど節を残して袈裟がけに切られた先端が宙に舞う。


「ピギー!」

 すぐに後ろでも同様の声が聞こえる。

 振り返ると、源五郎の銀の矢が刺さった触手が、力なくしぼんで倒れ込んでいた。


強火炎弾(パチ)!」

 目の前の触手にレイが炎系の魔法をかけるが、水に濡れているせいか燃えが悪い。

 ぶすぶすと燻っている様子だ。


 それでも動きは止まったので、すかさず俺が切りつける。

 そうして、周囲の触手をあらかたかつづけ、終わったと思った瞬間に、俺が乗っていた大きなハスの葉が、不意に2つに折れて閉じた。


「リーダー!」

 源五郎の叫び声が遠くに聞こえる。

 油断した、目の前が緑色に染まったかと思うと、すぐに暗くなる。


「うおー!」

 俺はすぐに剣を突き立てると、そのまま水平に保持し、勢いよく回転した。

 すると、すぐに視界が戻ってくる、ハスの葉が分断されたのだ。


≪ジャボーン≫同時に、俺の体が池の中に放り出される。

 魔物の力が尽きたのだろう。


 現実世界の俺は、平泳ぎで10メートルも泳げないのだが、この世界の俺は違う。

 特技の欄で、古式泳法と書いておいたのが功を奏したのか、鉄の鎧を身に付けていても不自由はなかった。

 というより、この世界の鉄の鎧はずいぶんと軽い、重さなどさほど感じないのだ。


 そのまま岸にたどり着き、無事に岸へ上がれた。

 勿論、手には切り裂いた触手の先端を持って。


「どうやら、これが牙レンコンのようだな。

 大きな葉が閉じた時はビックリしたよ。

 結構な勢いで閉じたから、葉の表面にトゲでもあったら、鎧を着ていても穴だらけになっていたところだ。


 危なかったよ、これからは相手の攻撃というものに、充分注意が必要だな。」

 俺は、手に持った黒いチューブを眺めながら、ほっと息をついた。

 本当に危なかった、


「どうやら、牙レンコンは始末できたようだな。

 レイ、ちょっと・・・。」


「なあに。」

 俺はレイを呼び寄せると、その手を引いて池のふちまで一緒に行き、そうして勢いよく彼女を池に突き落とした。


「うゎっぷ、ちょっと、どういう事よ。」

 レイが、ようやく水面から顔を出しながら睨みつける。


「なんだい、泳げないのか?」

「馬鹿にしないで、泳げるわよ。」

「じゃあ、よろしく頼むよ。」

 俺は、ニヤニヤしながら、彼女を眺めている。


 さっき俺が池の中に落ちた時には、何ともなかった。

 俺の体が鎧で固められていたからだが、彼女なら飛びついてくるだろう。

 さほど強い魔物はいないはずだ、なにせ、牙レンコンがこの池の主なのだろうから。


「頼むって・・・?

 きゃあ!雷撃(ゴロ)!」


 彼女に襲い掛かって来た、飛びピラニアに、雷が落ちる。

 すぐに数匹の飛びピラニアが、腹を上にして水面に浮かび上がった。

 その匂いを嗅ぎつけたのか、更に大きな黒い影が勢いよく水面から顔を出す。


「源五郎、頼む!」

「はい!」

 源五郎はすかさず矢をつがえ、その影に向かって放つ。


「ぎゃー!」

 目を射られた半漁人は、刺さった矢を抜こうと必死だ。


強雷撃(ピカ)!」

 すかさず、レイの放つひときわ大きな雷が奴を襲う。


 ぷかーっと、顔を水に浸けたまま、半漁人は水面に浮いた。

 レイは、相手に応じて魔法を使い分けることが出来るようで、飛びピラニアや半漁人さえも一人で倒せるまでになった。


 先ほどは俺が池の中に居たので、感電するのを恐れて炎系の魔法しか使わなかったのだろう。

 自分は、中に居ても感電はしないようだ。

 やがて、池自体が静まったところで、レイの特訓は終了だ。


 彼女はようやく池から上がることができた。

≪ジャー!≫脱いだブレザーを思いっきり絞ると、勢いよく水が地面に落ちる。

 更に、中に来ていたシャツの裾を絞り始める・・・、白く薄いシャツは透けて肌が見えそうだ。


「なあに?もしかして、これが目的?」

 レイの様子をじっと見ていた俺に気が付き、彼女は途端に不機嫌になった。


「いやいや、滅相もない。

 君の魔法技術の向上が目的だよ、やましい気持ちは一切ない。」

 俺は、勢いよく首を横にぶんぶんと振った。


「ふうん、源五郎君は紳士なのにね・・・。」

 俺が振り返ると、源五郎は彼女に背を向けて、服装を整えている姿を見ないようにしていた。


 なあに、多分こっそりと横目ででも見ていたはずさ。

 そう思って、奴の横に行ってみたが、彼は更に目もしっかりとつぶっていた。

 なんて紳士的なんだろう・・・、俺は深く反省し、彼の隣で目を閉じた。


「着替えたから、いいわよ。」


 そう言われて振り返ると、彼女は上下が繋がった、真っ赤な服に真っ赤な靴に変わっていた。

 よく見ると、チョボが着ていた、魔法使いの服と魔法使いの靴だ。

 色違いだが間違いなさそうだ。


 彼女もクエストをこなすことで、手に入れていたのだろう。

 それでも、さっきまではブレザーのような、守備力も魔法付加効力もほとんどない、初期の衣装のままでいた。


「そんな服を持っているのなら、どうして、ゲーム開始時の基本仕様の服装のままで居たんだ?」

 俺は、理解できず聞いてみた。


「ああ、さっきまでの事?

 着替えるのを忘れていたのよ。


 あいつらに襲われそうになって、村の人に匿われる時、こんな服装じゃどこから来たとか怪しまれるでしょ。

 だから、普通の格好をしなくちゃと思って着ていたんだけど、すっかりその事を忘れていたの。

 ずぶ濡れになって、着替えようとして初めて思い出したわ。」


 彼女はそう言いながら、明るく微笑んだ。

 そうか、彼女の魔力が弱いので、当分特訓が続きそうだと考えていたが、そうでもないのかも知れない。

 おいおい、実力を推し量って行こう・・・、と決めた。


 来た道を戻って分岐に到達し、左に曲がる。

 いよいよ、封印の塔へ向けて進行だ。


「あれ?まっすぐ行かないんですか?

 魔物の一掃じゃ・・・」


「ああ、こっち方面は、封印の塔の後だ。

 西の湖へ通じる道だから、鍵を手に入れた後に、賢者のトンネルへ向かうから、どうせ通るだろ?」

 訝しがる源五郎に、そう答えておいた。


 なるべく効率よく回りたいのだ。

 草原が段々と、ごつごつした岩場混じりの荒れ地に変わってきた。

 すると、遥か彼方に砂塵が見え、段々地響きとともに近づいてくる。


 その光景には、見覚えがあった、デモの時に見た、あのヌーを思い出させる、巨大な角を生やした褐色の牛のような動物の大群だ。

 しかし、今の俺たちは彼らと同じ次元に存在している。


 あの時のように、通り抜けるという奇跡は起こらない。

 源五郎は矢をつがえ、レイも同時に身構える。


「馬鹿、無理だから逃げるぞ。」

 そう言って、俺は二人の手を取って岩場を駆け上がる。


 ドドドドッと重低音を響き渡らせて、大きな体の動物たちが駆け抜けていく。

 あの時に見た群れが、今はこんなところまで来ているのだろうか。


「ふえー、危ないところだった。」

 すぐ横を駆け抜けていく大群の後姿を見送りながら、俺は汗をぬぐった。

 暫く進むと、やはり褐色の体で、角のある動物が・・・


「こいつは、さっきの群れから、はぐれたのですかね。」

 源五郎が、遥か彼方へ行ってしまった群れを振り返る様に後方を眺める。


「いや、違う、避けろ!」

 俺が叫ぶと同時に、そいつはパカッと大きな口を開けて源五郎にかぶりつこうとする。


強雷撃(ピカ)!」

 すぐに巨体を稲光が包み込む。


「きゅぅん!」

 怯んだところに、俺が切りつける。

 ズバッと大量の血が吹きだし、そいつの頭が胴体から転げ落ちた。


「危ないところを、助かりました。」

 源五郎は、素直にレイや俺に頭を下げる。


「やはり、大きな口で鋭い牙をもっているのは、魔物と思ったほうがよさそうだな。

 野生動物もいるから、その線で見極めよう。」


「食べられないかしら・・・。」

 レイが、褐色の巨体に小さなナイフを当てて、肉を切り取っている。


「そ・・・そいつの肉をかい?

 だったら、先ほどのヌーのような奴らの群れをつかまえて・・・。」


「あいつらは、この星の生き物でしょ、悪いわ。

 私たちは、本当ならこの星に居てはいけない者達なんだから、少しは遠慮しなくちゃ。


 さっきの変な魚や、半漁人は食べる気もしなかったけど、こいつは格好が牛に似ているから、何とかなりそうでしょ、自分たちの事は、自分たちで何とかしなくちゃね。」

 そう言いながら、彼女は火を起こし、木の枝の先に肉を刺して、炎に当てた。


「確かに、これからも冒険を続けるとして、3度3度の食事が必要な体になってしまった。

 この星の店屋で買えば、弁当なども安いものだが、あまりこの星に迷惑はかけられないだろう。

 だから、今後は魔物でも食べられそうだったら、食べることも考えたほうがいいのかも知れないね。


 それだったら、この肉には毒が無くて、おいしく食べられますようにって願おう。

 こいつ自身はもう死んでいるから、今は当事者としては俺達だけだ。

 願いは通じるかもしれない。」


 そう言って、俺も肉を一切れ切り取って炎に当てた。

 源五郎も同じようにする。

 暫くすると、肉の焼ける香ばしい匂いがしてくる。


 恐る恐る口にしてみたが、牛肉の様な味がして、おいしい。

 願いが通じたのか、元からそんな味なのか・・・。

 塩も胡椒もないが、充分に食べることは出来る。


 俺たちは、何枚か肉を切り取って焼いては食べた。

 それから、更に数枚、焼いたものと生の物を、岩場の上に置く。

 保存用に、乾燥肉を作ろうと考えたのだ。


 小一時間ほどして、腹を満たしたら、リアカーの開いたスペースに肉を広げて、出発だ。

 何時までも、ここに居られるわけではない、先を急がなければ。

 荒れ地を歩いていくと、石造りの高い建物が目に入って来た。

 これが、封印の塔だろう。



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