第17話
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町へ到着して、いつものようにギルドへ向かう。
清算前に受付で、少し質問をしてみた。
「この復活の木の葉を与えたら、死にそうな奴が生き返ったけど、これはそう言う葉なのかい?
死んだ人を生き返らせるような・・・。」
「いえ、死んだ人は生き返らせることは出来ません。
木の葉を飲み込む必要性がありますので、あくまでも瀕死の状態までです。
でも、手の施しようもない重症でも死ぬ寸前まででしたら、効果があります。」
そうですか、あくまでも瀕死までですか・・・、それでも結構役に立ちそうだな。
クエストを完遂するため、復活の木の葉1枚と、ジャコウ虎のエキスが入った瓶2本を受付嬢に手渡す。
するとファンファーレがギルド内に鳴り響いた。
「おめでとうございます、シメンズの方たちはWからVへレベルアップされました。」
受付嬢からうれしい言葉が告げられる。
そうか、次元が変わってもレベルが上がって行くのは同じか・・・、まあそうだろう、俺達の冒険は引き続いて行くのだから。
金を受け取るついでに、今朝のような取り巻きがいないことを確認して、声をかけて見た。
「今朝は、大変だったね。俺はあんな奴らとは違って、かなり真剣なのだけど、今日仕事が終わってから、食事でもどうかな・・・。」
こっそりと囁くような声で、美人の受付嬢に告げる。
「ごめんなさい・・・、私には心に決めた人が・・・。」
ああそうですか、それはそうでしょう。
彼氏いないなんて言われる方が、信じられないくらいだものね。
傷心の俺はがっくりと肩を落として、受付を後にする。
こんな調子で、言い寄ってきた奴らは全て撃沈したのだろう。
いつものように道具屋で薬草と毒消し草を補充すると、武器屋で剣を研ぎに出す。
そうして、宿屋へ向かう。
受付嬢は今日もかわいらしいが、こちらにも声を掛けようとは思わない。
俺は、可愛ければ誰でもいいという人間ではないのだぞと、心に言い聞かせながら部屋へ入って荷物整理をしてから食堂へ向かう。
源五郎たちとたわいもない話をしながら食事を済ませ、部屋へ戻って就寝だ。
翌朝も、タンクが起きてこないので、わざわざ部屋のドアをノックして起こさなければならなかった。
宿の受付で待っていて、タンクが来たのを見つけてから宿を出る。
そのままギルドへ向かおうとした時に、呼び止められた。
「うん?どうした?」
「今日も、冒険するのだろう?
僕は不参加でいいかい?」
「不参加?」
突拍子もない言葉に、源五郎が甲高い声で返す。
「ああ、これ以上レベルを上げたくはない。
実をいうと、僕とチョボは夫婦なんだ。
チョボが嫁さんで、ゲームオタクで、僕は誘われたから仕方なくこのゲームに参加しているけど、慣れてないからあまりうまくはないだろ?
この前も一度死んだし、昨日も死に掛けた。
今までも、毎晩嫁さんにレクチャーしてもらって作戦指示を貰いながら、ようやく付いて来ていたんだ。
その嫁さんが先に逝ってしまい、復活の木の葉でも生き返らないことも分かった。
それでもリーダーたちが、元の世界へ戻そうとしてくれている。
申し訳ないけど、僕はこのままのレベルで元の世界へ戻って、嫁さんとゲームの続きをやりたい。
その時にレベルに差がつき過ぎていると、嫁さんに怒られてしまうよ。
だから、これ以上一緒には行動できない。」
タンクは目に涙をため、俯き気味に話す。
「それは、決して死ぬという事ではないよね。」
俺は念を押すように確かめる。
「ああ、もう死のうとは思わない、なにせゲームの中で死ぬのとは違って、本当に命が無くなるのだから、昨日のような経験はまっぴらだ。
僕は、この町でゲームの世界へ戻れる日が来るのを待ち続けるつもりだ。」
タンクは涙をぬぐいながら答える。
「そうか、だったら仕方がない。
ゲームオタクでもなければ、冒険しても怖いだけで面白くもなんとも無いだろうからね。
でも、考え方にもよるが、これはこれで都合がいいとも言える。
俺は、この辺りの魔物は全て退治したから、この町を離れようかと考えていた。
しかし、一昨日話したように、この町に住む住民にも、冒険者にも決められた日に同時に願い事をしてもらう必要性がある。
それをこの町に広めるのに、結構な時間がかかるのじゃないかと考えていた。
だから、その役目をタンクに任せるよ。
もしかすると、途中で移動してくる冒険者たちとすれ違う可能性もあるしね。
頼めるかい?」
「それは勿論さ、僕だって元の世界へ戻りたいんだ。」
タンクは快諾してくれた。
「じゃあ、これを渡しておく。」
それは、昨晩弁当箱の空き箱で作った電話機だった。
内側にアルミホイルが張りつけられた厚紙の箱の外側に、ペンで格子柄を上下に書き込み、ここがマイクとスピーカーのつもりだ。
そうして、俺の持っている側にはタンクの文字と、受話器を上げる図が。
タンクに渡した箱には、サグルの文字と受話器を上げる絵が描かれていて、その下に受話器を置いた電話の図が描いてある。
「なんだよ、これ・・・。」
タンクが汚らしいものでも渡されたかのように、2本の指でつまむように持つ。
きれいにすすいだつもりだったが、おかずの匂いが残っているだろうか。
俺の作った傑作だが、たしかに、小学生の図工の時間でももう少しましなものを作るだろうか・・・。
「だから、電話だよ、携帯電話。
願いがかなう訳だろ?
電話となると関係者は、双方の相手だけだ、この場合は俺とタンクだけが願えばいいはずだ。
それには、電話機で会話ができる様にって願えばいいはずだ、但し同時に願う必要性があるってことだから、連絡を取り合う時間を決めておかなければならないがね。
ためしにこれを持ったまま宿の中に入って、願ってみてくれ。」
俺はそう言うと、タンクに宿の中へ戻ってもらった。
そうして携帯電話さながらに、弁当の空き箱に話しかける。
「タンク、聞こえるか?」
「ああ、聞こえる・・・信じられない・・・。」
確かに箱からタンクの声が聞こえてきた。
「いいなあ、僕も欲しい・・・・。」
源五郎が指をくわえながら呟く。
「分った、次の弁当箱で源五郎の分も作るよ。
冒険も厳しくなるから、お互いがはぐれた時の為にと考えて、昨日から作り始めたんだ。
馬鹿にされるかもと思ったが、気に入ってくれてよかった。」
まさか、このような事態を予想していたわけではなかったが、本当に丁度良かった。
「じゃあ、時間は毎晩寝る前の、夜の十時という事にしよう。
時計は、手に入れておいてくれ、そうして、正確な時を刻むように必ずその時計に向かって願う事だ。」
宿から出てきたタンクにそう告げた。
「分った、じゃあ、僕からもこれ・・・。
リーダーの分は、昨日清算時に渡してしまっただろ?」
タンクはそう言いながら、復活の木の葉を手渡してくれた。
「僕は、この町に残るから、何かの機会があればまた採ってこられるだろうし、どの道冒険しないつもりだから、必要性も感じないしね。」
「そうか、ありがとう。助かるよ。」
俺はそう言って、大事に袋の中へ仕舞い込んだ。
「じゃあな。」
タンクにそう告げて、俺達はそのままギルドへ向かった。
まあ、結構稼いだから、この世界の宿屋に泊って生活する分には当分困らないだろう。
ゲームに不慣れだそうだが、毎日連絡を取り合って、相談事にも乗ってやればいい。
「うーん、僕はタンクさんの方が奥さんだとばかり思っていましたけどね。」
「えっ?君はあの二人の関係を知っていたのかい?」
「うーん、それとなく・・・。」
「そうか。」
俺は全く想像もしていなかった。
しかも、チョボかタンクかどちらかが女性だと、考えたこともなかった。
源五郎は、どういう行動で、その辺のところを見破ったのだろうか。
それとも、俺には洞察力なんてものが欠けているという事なのだろうか。
武器屋で研ぎ終わった剣を受け取り、ギルドに到着して、中央部の柱に向かいクエストを眺める。
もう魔物の駆除に関しては、町の南側しか掲示がない。
俺はその紙をはがして受付へ向かった。
「シメンズの方たちですね。」
「ああ、但し、今日からタンクが欠員だ。
メンバーから外す必要性はないが、当面活動するのは、サグルと源五郎の2人だけだ。」
「かしこまりました。
町の南側の魔物退治という事になりますと、始まりの村までお戻りになられますか?」
「ああ、そのつもりだ。」
「でしたら、始まりの村まで、馬車の護衛を引き受けていただけませんか?
昨日からクエストの申し込みが無くて、馬車が動けなくて困っています。」
受付嬢から、クエストの勧誘が来たのは初めてだ。
これが、この後の食事のお誘いであればうれしかったのに。
「しかし、俺達は魔物たちを全滅させながら進むから、ずいぶんゆっくりになってしまうがいいのか?」
「はい、構いません。
期限は3日間ですので、これだけあればいかがでしょうか?」
この町へ来た時には2日はかかっていない。何とかなるか・・・
「それならいいよ、受けましょう。」
そうして受付嬢から2枚のクエスト票を受け取り、ギルドを後にした。
この美人の受付嬢と顔を合わせるのも、これが最後かと思うと、少し残念な気持ちになった。
思いが届かなくても、美人は美人だ・・。
ギルドの表にやってきた馬車に乗り込む。
2人だけなので、俺が前の御者席の隣で、源五郎が客車の背面側だ。
町を出て平原にかかると、俺も源五郎も馬車から降りて、客車の両側を歩いて付いて行く。
そうして、襲い掛かってくる大バッタや虹色トンボを退治していく。
数匹まとまると都度穴を掘り、死骸を埋める。
穴掘りには御者も協力してくれたので、助かった。
平原の魔物たちをあらかた片づけ、後続が来ないのを確認してから渓谷の手前でキャンプを張る。
この日も御者が、客車の中から弁当を持ち出して振る舞ってくれた。
相変わらず、客車からは誰も降りては来ない。
源五郎と交替で眠りについた。
翌朝、渓谷へ入る。
すると早速鳥人たちが群れをなして襲い掛かってくる。
魔物全部を退治することが目的なので、御者にはスピードを上げないどころか、馬車を止めるようお願いして、襲い掛かってくるやつらを、ばったばったと切り捨てる。
大きな羽目がけて切り付け、落下したところにとどめの一撃。
そうして途中途中で馬車を止めながら、襲い掛かって来る奴らを殲滅して行った。
やがて、行きにキャンプした広い場所に辿りついた。
「はあはあ、結構大変だね、逃げずに全部を相手にするというのは。」
矢を射続けて疲れたのだろう、源五郎も息が上がっているようだ。
「今日はここでキャンプします。」
御者は、ここでもキャンプの準備に入った。
この先に、広い場所がないからだろう。
既に日は翳り、地の底とも思える渓谷の底には日が差し込まず、暗くなりかけている。
「源五郎はここに居てくれ。
鳥人は夜には襲ってこないから、だったらこっちから出向いて、全滅にしてやろうと思う。」
「だったら、僕も一緒に行きますよ。
その方が早く片付けられる。」
「いや、万一、奴らが襲ってきたらまずい。
一応、護衛の仕事を受けたのだからね。」
「でも、敵は鳥目で暗がりは苦手だから、夜は襲ってこないんじゃないですか?」
確かに、俺が夜襲をかけようと思ったのも、そう考えたからだ。
しかし・・・、
「鳥でも、フクロウとか暗いところでも得意な奴らもいるし、何とも言えん。
確かに前回夜は襲ってこなかったが、そのレベルのクエストだった可能性も捨てきれんしね。
万一を考えて、源五郎は、ここで馬車を守ってくれ。」
そう言い残して、俺は切り立った崖を道具も使わずに昇って行く。
足場になるようなごつごつとした岩肌は多い、しかし普段の俺なら絶対にするはずもない事だ。
高所恐怖症の俺にとっては・・・、子供の頃は、家の屋根に上って遊んだり、割と高いところは平気だった。
それがある程度歳が行ってから、大きなテーマパークの絶叫マシーンに乗り、真っ暗闇を高いGを受けながら急降下し、突然明るい外へでる時の恐怖感にショックを受け、以降、高いところが苦手になった。
高層ビルのエレベーターで降りる時のGですら、嫌な気分になる始末だ。
そんな俺だが、ばれることはないだろうと思って、このゲームの自己申告カードに、高いところは平気、趣味は時々綱渡りとまで書いたことが功を奏したのか、全く恐怖を感じずに崖を昇って行く。
そうして難なく崖の頂上まで辿りつき、辺りを見回すと、崖の上は木立がまばらで、下草もほとんど生えてはいない、荒れ果てている砂漠のようだ。
はるか先まで見通せるほど、何も障害物がない。
少し先に、木の枝や草が吹き溜まりのように積み上げられている所があり、よく見ると鳥人たちの巣のようで、そこで奴らは眠っていた。
やはり、太陽が一つしかなくなるこの星の夜に、鳥人たちも眠るのだろう。
運がいいというか、鳥人たちの巣のような木の枝の塊は、崖の対岸を見回してもここ一つだけのようだ。
俺はそっと巣に近づき、剣を振り下ろした。
「ギャーッス!」
一気に2体の鳥人が血しぶきを上げて真っ二つに切り裂かれる。
その音で他の鳥人たちが一斉に目を覚ます。
俺は、返す刀で首をもたげた鳥人たちの首を刈る・
同時に3体の鳥人の首から、頭がポーンと跳ねる様に飛び上がった。
勢いついて残る鳥人たちも、ばったばったと切り倒す。
数分の出来事だった、俺は血の海の中でハアハアと息をついていた。
襲い掛かってくる魔物たちを退治するのは、何の罪悪感もないし、これはそう言うゲームなのだから当たり前の事だ。
しかし、自分の方から、襲っても来ない魔物たちまで殲滅してしまうのは、さすがに良い気分ではなかった。
全て体の大きな鳥人ばかりで、子供のような小さなのがいなかったのが、せめてもの救いだった。
俺は背負ってきたスコップで崖の上に穴を掘り、鳥人たちの死骸を埋めると、携帯電話を取り出す。
谷底だと電波の通りが悪い(関係あるはずもないが)のと、時間になったためだ。
俺の腕には、俺特製の腕時計が時を刻んでいる。
厚紙に、細長い矢印を2本付けただけの簡素なものだが、常に正確に時を刻んでくれと願う事にしている。
「タンクかい?
こちらは順調、今渓谷の真ん中あたりでキャンプして、鳥人の巣を襲ったところだ。
昨日はごめん、すっかり忘れていた。」
俺は素直に謝った。
「いや、大丈夫だよ、冒険で忙しければ、連絡のない日があっても構わない。
僕はこれといった用事もないから、一応毎晩待っているので、連絡できる時には連絡してくれ。
この町の代表者にお願いして、僕たちがゲームの世界に戻れるように祈る日というのを、祭りとして伝えて行こうと決めてもらったところだ。
彼らも、大量に発生した魔物たちには手を焼いているからね、早々にお引き取り願いたいと言ったところだろう。
うまくいけば、国の行事として認められるかもしれない。
ただし、それにはもう少し時間が必要だ。」
「おお、そうか、それはありがたい。
どの道、この世界全部回るには、まだまだ何日もかかるから、そんなに焦らなくても平気さ。
じゃあ、又な。」
そう言って電話機をしまうと、来た時のように崖を下りて行った。




