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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第1章 始まり
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第14話

               14

 まずは、武器屋へ寄って運動靴を購入する。

 多分、格闘家とか軽業師用なのだろうが、サイズが合いさえすれば履くことは出来る。

 源五郎も同じ考えの様で、運動靴を購入する。


 タンクやチョボにも勧めて見たが、タンクは既に履いているし、チョボは断った。

 準備を整えてから、昨日と同じく町の西から平原に出る。

 すぐに虹色トンボと大バッタが群れをなして襲い掛かってくる。


 奴らも元はクエストに花を添えるために出現していたのだろうが、これからは自分たちが生存する為に、我々に襲い掛かってくるわけだ。

 いわば、どちらが勝つか、生き残りをかけた戦いが始まると言っても過言ではない。


 まあ、どちらも今の俺たちのレベルでは、さほど手ごたえのある相手でもないので、軽く切って捨てる。

 俺は、折角の鋼の剣が痛んでも困るので、昨日まで使っていた鉄の剣に持ち替えて、雑魚の相手をしている。

 昨日までと違うのは、魔物たちの息の根を止めても、姿が消えないことだ。


 平原の芝の緑を真っ赤に染める血しぶきが飛び散っているのと同時に、屍累々といった光景だ。

 なにせ、虫とはいえ我々と変わらない大きさをしているのだ。

 その死骸が何十ともなれば、凄惨な有様だ。


「ふうむ、いずれ、こいつらの死骸を処理するクエストも発生しそうだね。」

 俺はそう言いながら、先へと進む。


 死骸に関しては、腐って腐敗臭が発生することもあるだろうから、あとで町の人たちとも相談して、どこかに穴を掘って埋めるしかないと思った。

 一緒に次元を超えて来たのは仕方がないが、死んだら消えてなくなると言った設定は残してほしかった。


 まあ、それでは生物で無くなってしまうし、我々も死んだ場合に棺桶が出現することになってしまう。

 我々が望んだことと異なってしまうので、そうは出来ないのだろう。

 それでも、俺の剣の技術は変わらず鋭いし、チョボの魔法や源五郎の弓矢の技術にタンクの身の軽さも継続している。


 能力は、そのまま継続しているとみて間違いはないだろう。

 この星の住人と同じようになったという事は、同じように死・・・そう言えば町の人たちは歳を取らないと言っていたっけ。

 俺たちもそう願えば不老不死も夢ではないのかも・・・。


 そう考えていると、鞭のようにしなる赤く長い舌が絡み付いてきた。

 俺はすかさず剣の刃を立てて、それを切る。

 油断も隙もない、すぐに鋼の剣に持ち替えて大角ガエルを一刀両断にする。


 噴水のように血しぶきを吹きあげながら、でかい図体が左右に真っ二つに分れて倒れる。

 臓物もまき散らして、吐き気を催しそうな光景だ。

 ふうむ、死体が消えないのだから、剣で急所を突くとか、切り捨てるにしても、体の真ん中あたりで止めて、分断しないよう気を付けようと決めた。


 源五郎は、ここぞとばかりに銀の矢をつがえて発射する。

 大角ガエルの大きな図体は、もんどりうって後ろに倒れた。

 さすが、魔物に効果大の銀の矢だ、一撃!


 まっすぐ歩かずに、時にはぐるぐる回りながら、襲い掛かってくる魔物たちを倒していく。

 そうして、工事中の橋まで辿りついた。

 橋には、未だに木の板は数枚しか据え付けられていなかった。

 あとで、ギルドから資材を貰ってきて、工事を終わらせる必要があると考えたが、ここは素通りだ。


「おう、また来たのか。」

 親方を無視して、足場だけの橋を渡って対岸へ向かう。


 今後は、自分で板を運んでくるくらいでなけりゃ、誰も手伝ってくれないぞ・・・とか思いながら川岸を上流へ向かう。

 ここで、注意しなければならないのは、電気ナマズ猫だ。

 すぐに、鉄の足当てをゴム底の運動靴に履き替える。

 源五郎も同様に履き替えて、電気対策は万全だ。


 と言っても、何万ボルトか知らないが、生体電気も馬鹿には出来ない。

 まあ、気休め程度のものだろうが、無いよりはましだ。

 なにせ、なるべく魔物に出会わないようにして、目的地まで達すればいい訳ではない。

 わざと迂回してまでも、たくさんの魔物たちと遭遇し、それらを倒して行かなければならないのだ。


 みゃーみゃーという鳴き声を聞くと反射的に飛び上がるのは、昨日同様だ。

 チョボは川岸どころか、浅瀬に足を踏み入れた状態で、待ち受ける構えだ。

 何か考えがあるのだろうか。


 逃げてばかりはいられない、鳴き声のする方に瞬時に振り返り、勢いよく踏み込んで、ナマズ猫の体を剣で突き刺す。

 剣の持ち手は木製なので、電気は通じないので平気だ。


「うぉー!」

 すると、川の中に居たチョボが全身を眩く発光させながら叫び声をあげた。

 数匹のナマズ猫に囲まれて電撃を喰らい、感電状態だ。


「チョボ!」

 俺は叫びながら、奴の所へ駆け寄ろうとしたが、チャボが俺を制止するように両手を伸ばしたあと、崩れ落ちた。


「チョボさん!」

 源五郎が銀の矢を連射する。

 そうして、周りに居たナマズ猫を全て片付けてから、ようやくチョボの元へと向かう。


「ど・・・どうして・・・。」

 川から引き揚げたチョボに向かって、言葉も出て来なかった。

 全身黒焦げ状態だ。


 俺が傷の手当てをしようと、薬草を取り出して傷口に当てようとする。

 もう、メンバー間の持ちモノの贈呈禁止などと言ったマイナールールは効力がないだろう。

 なにせ、普通の日常生活が送れるはずなのだから。


「よせ、治療しなくてもいい。

 それに、どの道、内臓ごとやられているから、薬草なんか効きゃしねえよ。」

 チョボは、薬草を持つ俺の手首を捕まえて放さない。


「馬鹿を言うな、だったら魔法で・・・。

 キュ・・」

 チョボがもう片方の手で、俺の唇を塞ぐ。


「おい!」

 必死で助けようとしているのに・・・、きつい眼差しでチョボを睨みつける。


「構わんさ、これで家のベッドで目覚められる。

 そうすりゃ、もう2度とここへ戻っては来られなくなるかも知れないが、それでも構わない。

 運が良ければ、また戻って来るぜ。じゃあな。」


「馬鹿な、まだ地球と通信できるかどうかわからないんだぞ。」

「それでもいいのさ、だったら昨日までの記憶を持って目覚めるはずだ。」

 そう言って、チョボはこと切れた。


 俺の右手を掴んでいたチョボの手が、急に力なくだらりと落ちる。

 死体は棺桶に変わることもなく、黒焦げのままだった。


「僕だって、今日の戦いで死んじまおうと考えていたよ。

 ただ、電気ショックはいいが、黒焦げが嫌だから、次のタコにやられようかと思っていた。」

 タンクも物騒な事を言い出した。


「死んだからと言って、ここまでの戦いを記憶して、地球側で目覚める訳じゃない。

 恐らく、朝ギルドで眩しいくらいの光を浴びた瞬間に次元移動しているのだから、その時点までの記憶が転送されて、目覚めるのだろう。

 それ以降の事は、次元が異なっていれば、別の自分自身が行動していることになる。」


「だったらそれでもいいさ、地球側で確かに目覚めるのだろう?

 それなら構わない。」


「いや、だから、地球側で目覚めるのは、いうなれば昨日までの経験した分だけだ。

 朝のほんの少し行動した分だって、本当に地球側に送信されているかどうかも怪しいもんだ。

 つまり、ここまでの記憶を引き継ごうとするなら、何とかして地球側との通信を回復しなければならないんだ。」


「何を言っているのかよくわからないけど、地球側の僕はちゃんと目覚めるのだろう?」

「この星が願いがかなう星で、先ほどのトラブルが、俺達全員がこの星の住民たちとコンタクトしたい、同じく生活したいと願った結果であれば、あくまでもゲームの中での俺たちが次元移動しただけだろうから、地球側は問題ないと思う。

 しかし、そんなことは、あくまでも推理想像の域を出てはいない。」


 俺は、何とかしてタンクの考えを変えようと、必死で説明を続けた。

 こういった説明は源五郎の方がよっぽどうまいのではないか?

 ふと、源五郎に目をやると、難しい顔をして考えにふけっている。


「どっちにしたって、死ねば確かめられるよ。

 向こうで目覚めても、こっちへアクセスできなくなっていたら、そりゃ困ったもんだけど、まあ、ゲーム屋に行って直してもらえばいいだろう?


 こんな、訳の分からないことになってまで、ゲームを続けてられないよ。

 あいにく、このゲームにはリセットボタンがないから、死ぬしかないのさ。」


 タンクの考えは変わりそうもない。

 ここで引き返して、ゆっくり説得したいところだが、目を離せばすぐにダムへ行って、タコの餌食になりかねない。

 どうしたものか。


「昨日までの僕たちは、この星上に存在しながら、只のゲーム上の存在でしかありませんでした。

 いうなれば地球に居る本人たちの意のままに動くロボットであり、そのロボットを通して、地球に居る僕たちがここでの冒険を覗き込んでいた訳です。


 ところが、僕たち全員がこの星の人たちと関係を持ちたいと強く望んだおかげで、僕たちはあたかも一個の生き物として生まれ変わったと言えると思います。

 僕たちはもうロボットではなく、生命体なのです。


 だから、死んだからと言って地球で目覚めることはありません。

 今、地球に居る僕は、ここに居る僕とは別の存在なのです。

 これは、次元がどうとか、地球と通信ができるかどうかといった以前の事実です。


 つまり、地球と通信ができたところで、僕たちは別個の個人になってしまっているから、最早地球の僕自身には戻れないのではないでしょうか。」

 源五郎が、呟くように告げる。


「じゃ・・・じゃあ、もう戻れないっていうのか?」

「戻るとか戻らないとかいうより、既に戻っていると言った方がいい。


 仮に地球と通信ができたところで、ここでの記憶を地球に送信することは出来るだろうが、ここに存在する体をどうこうすることは出来ない。

 俺たちは、既に血が通う生命体なんだ。


 気を落ち着かせて、自分の体に問いかけてみてくれ、腹が減ってはいないか?

 昨日までだったら弁当を食うのはチョボ位だったが、これからは朝昼晩と食事も必要になるだろう。

 まあ、ここへ来るまでの馬車の旅では弁当が振る舞われたがね。」


 俺は自分の袋の中から3つ弁当を取り出して、源五郎とタンクにも勧めた。

 チョボを見習って、金に余裕ができると購入しておいた弁当だ。

 多分腐っていることはないと信じたい。


 腹が減っているとろくなことは考えないし、腹が満たされれば、明るい考えも浮かぶだろうというのが、俺の経験からくる論理だ。

 タンクに無理やり弁当を持たせて、源五郎と河原の大きな石に腰かけて弁当を頬張る。


 周りには、ナマズ猫の死骸の外に、チョボの遺体もあるのだが、不思議と弁当の味はおいしかった。

 この世界の俺は、死に直面した生活をしているので、こういった状況も苦にはしないのだろう。

 タンクも仕方なく弁当の包みを開けた。


 そうして一口、口に運ぶと、目から大粒の涙がこぼれ出した。

「だって・・・、もう帰れないのか・・・?」

 タンクの涙は、止まりそうもなかった。


 ダムへ到着すると、タンクにはそこで待機を命じ、俺と源五郎だけで大口ダコの相手をする。

 源五郎が銀の矢を連射し、鋼の剣でタコの足を寸断しながら胴体まで一気に達し、剣を突き刺す。

 勿論、治癒魔法を唱えながら剣を振る。


 それにより、多少の攻撃をくらっても、休まずに攻撃に専念できる。

 やがて、もんどりうって大口ダコはダムから転げ落ちた。


 これで、この辺りの魔物は一掃できた。

 ダムの管理者に、タコの死骸を埋めておくようお願いする。

 ついでに、リアカーがあったのでそれを借りることにして、先ほどの河原でチョボの遺体をのせて町へ帰る。


「これからどうします?」

 源五郎がリアカーの後ろを押しながら、前を引いている俺に問いかけてくる。

 タンクは放心状態で、只ついて歩いているだけだ。


「どうするって・・・、何とかして元の世界に戻るよう努力する。」

「えっ、戻る方法はあるのか?」

 意識が飛んだと思っていたタンクが、顔色を変えて駆け寄ってくる。


「ああ、無い事はない・・・、しかし簡単ではないな。」

 俺はリアカーを引きながら、前を向いたまま答えた。


「それは、この世界の次元が地球と同じ次元であることを確信しているからなのか?

 地球と通信できるかどうか、夜になって寝て見なければ分からないのではないのか?」


「いや、この次元は地球の次元とは違うよ、確かめるまでもない。


 なにせ、地球の次元と同じという事は、この星の住民たちが俺たちの次元に移動して来たという事になる。

 その為には、俺達の外にこの星の住民全員が、俺達と関わりを持つ関係になるよう祈らなければならない。

 なにせ、関係者という事になるのだからね。


 だから、俺達が勝手にこの星の住民と接触できるよう、同じ次元へ移って来たという訳さ。

 その為地球との通信は出来ない。

 何度も繰り返し考察したが、やはりこの考えで矛盾がない。」


「そ・・・そうか・・・、それでも、方法はあるという訳だな、帰れるんだな・・・。」

 タンクの表情に生気が戻ってくる。


「そうだ、方法がない訳ではない。

 簡単ではないが、この世界で生き抜いて行けば、元に戻ることも夢ではない。

 だから、死ぬなんて思わないでくれ。」


 俺達は、この世界で生き抜いて行く決心を固めた。



          続く



さあ、彼らは一体どうなってしまうのでしょうか。

第2章へと続きます。

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