第12話
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馬車は門をくぐり、町の中へと入って行き、そうして大きな建物の前で止まった。
始まりの村にある建物と全く同じ外観の建物だ。
ギルドの建物だろう。
これで、護衛の仕事は終了だ。
馬車のドアを開けて、母親にクエスト票にサインしてもらい、御者に別れを告げる。
そうしてギルドの中へ入って行く。
そこには、既に数人の冒険者が入っていた。
俺たち以外にも、この地まで来たやつがいるのだが、まあ当たり前の事だろう。
ギルドの受付で、クエストの清算をする。
受付嬢はここも飛び切りのかわい子ちゃんだ。
そう言えば、アイテムなどもらえなかったが、それでもこの街までただで馬車に乗せてもらえたと考えれば、かなり得だ。
それなりの報酬もあったことだし、良しとしよう。
俺は、まず町に立ち寄ったら記録の保存をと考え、記録の受付を探したが、クエストの受付と清算だけで、記録の窓口はない。
先ほどの受付嬢に聞いてみると、記録はこの街では宿屋で行うので、宿屋へ行ってくれと言われた。
但し、記録=本日終了なので、用事を済ませてからの方がいいとも言われた。
既に夕方の時間だろうが、寝るには早いので、町を散策することにした。
港町なので、当然港がある。その埠頭まで行くと船が見られるかと思い行ってみたが、船は停泊していたが、どれも触るとすり抜けてしまう。
いわゆる次元の向こう側の船である。
我々が乗れる船がないものかと、港周辺で話のできる人(=すり抜けない人)を探す。
何人もの人々とすれ違い、この街もやはり美男美女ばかりだと感心する。
ようやく埠頭の先で、黄昏ている老人を見つけた。
「どうしました?」
「どうしたって・・・、もう何ヶ月も船が来ないだよ。
この、港町もおしまいだ・・・。」
老人は目に涙を溜めながら訴えてくる。
これって、RPGのクエストだよな、なにせ、ゲームが始まってから1ヶ月も経ってはいない。
ここで、俺たちが何とかすれば、正常に船が来るようになって、他の大陸へも渡れるようになる・・・という。
「どうして船が来なくなったのですか?」
「どうしても何も、船が無いだよ。
だからどうしようもねえべ。」
船が無い・・・うーんどうしたものか・・・。
「まあ、もう少し情報収集してみましょう。」
源五郎にそう言われて、街の中を見て回る。
俺たちが入ることができるのは、ギルド以外では武器や防具屋の外に道具屋と宿屋に加え、パブがあった。
お約束のパブへ立ち寄ってみると、かわいらしい踊り子が踊りを披露していた。
客に聞いて回り、情報収集だ。
「船?ああ、この街は港町だが船が立ち寄ることはない。
なにせ、船を持っていないからな。」
「船?ああ、遥か北の大陸へ行けば大きな船を持った大商人がいて、頼めば交易をしてくれるぞ。」
だったら、すぐにでも交易を始めればいいだろうに・・・。
「どうやら、何とかして北の大陸へ行く必要があるようですね。
そこで、大商人と出会って交易をするように仕向ける・・・そうすればこの街に船がやってくるはずです。
怪しいのは、初めの村の西にあった賢者のトンネルですね。
そこへ行くには南の封印の塔へ出向く・・・と、どうやらクエストが見えてきましたね。
しかし、こんなのは誰かが実施すれば、他の人たちも恩恵を受けられるはず。
恐らく、命がかかるような危険性があるはずだし・・・、やるメリットがあるのかどうか・・・。」
源五郎がそこまで話しながら、考え込む。
「まあ、船はどうでも、賢者のトンネルの建物に入る鍵というのは封印の塔にしか無い訳だろ?
その鍵はこれから移動の際に、必要になるのかも知れない。
だから、手に入れたいところだな。
しかし、ぬっしーのような奴がうようよいるのだろ?
折角この街に来たのだから、ここでクエストをこなして、経験値を稼がないか?」
「いいね、そうしよう。」
「判りました、そうと決まれば、本日は終了で宿へ向かいましょう。」
源五郎は、すぐにパブを出て行こうとする。
「いや、少し待ってくれ。
ここで一杯やって行っても・・・、お姉ちゃんはかわいいし・・・。」
チョボが、恨めしそうな顔をする。
「そうだね、物価は判らないが、少しくらいなら飲んでも金の心配はないだろう。」
俺も、少し羽目を外したくなった。
「駄目ですよ、こんな飲み屋なんかクエストの余興で作っているだけで、第一僕みたいな未成年者もいるのだから、酒の提供などある訳ないじゃないですか。
ここにずっといたって、注文すら取りに来ないでしょ?
待っていても無駄ですよ。」
源五郎に押し切られて、俺たちは渋々パブを後にした。
いやあ、お姉ちゃんはかわいいし、しかも薄着どころか透け透けのドレスをまとっているし・・・、名残惜しい。
これからも情報収集として、ここへ通おうと心に決めた。
宿屋へ行くと、1泊50Gだ。安くはないが払えるので、そこへ宿泊となった。
翌朝出社すると、課長が疲れた顔で机に向かっていた。
加納の手伝いを課員に振ることはしないとなったとしても、上司である課長は手伝わざるを得ないのだろう。
俺は、メーカーから受け取った見積もりを、さりげなく課長の目の前に差し出した。
逆ザヤではあるが、最小限の被害で済むと思う。
途端に課長の顔が明るくなった。
この日は、おかげでこの案件に手を取られることになってしまったが、なんとか定時で終わらせた。
どうも最近、うちへ帰ってからの方が活動しているような気になる。
ゲームの世界で、1日中冒険をしているからだろうか。
あまりにも情景などリアルなので、どちらが現実世界か時々わからなくなってしまうほどだ。
俺はクエストの場所をファブの港町周辺(北が海で南側から来たので東と西を指定)にして、鉄の鎧関連を購入することにして、その他は成り行きにし、設定を終えた。
気が付くと、宿屋の受付前に立っていた。
昨日記録した状況で目覚めるのだから当然と言えば当然なのだが、部屋へ戻って個室で目覚めてもいいのではないだろうか。
いちいち記録動作しなくても、全て記録されているのだから、もっと自由に過ごせるだろうに。
ゲーム性を残すと言った意味ではこれでもいいのだが、出来ればもっと現実世界に近づけてもらいたいというのが、俺の本音だ。
4人で宿を後にしてギルドへ向かう。
ギルドの造りは外観だけでなく中も全く変わりはない。
違いとしては、受付嬢がかわいい娘から美人に変わったくらいか。
中央の柱へ向かい、クエストを物色する。
すると、町の西に流れる川にかかる橋の修理と言ったものと、川の上流にあるダムの整備といったクエストが目に付いた。
どちらも半日から1日となっているが、方向が同じだから何とかなるだろう。
俺は2枚の紙をはがし、受付へと持っていく。
長い髪の美しい受付嬢が応対してくれる。
「シメンズの皆様ですね。
リーダーの変更はございませんか?
橋の修理とダムの整備、頑張ってきてください。」
いつも通り、事務的な笑みを浮かべながらクエスト票を渡してくれる。
「町の西では、どんな魔物が出るんだい?」
「虹色トンボとか大バッタとかですけど・・・時折大角ガエルが出ることもあります。
気を付けてください。」
極楽トンボと思っていたのは、虹色トンボというのか、大バッタは当たっていたな。
「それはそうと、君は仕事が何時に終わるの?
帰りに一杯どうだい?」
始まりの村での受付嬢のように、会えなくなって後悔しないように誘ってみた。
「・・・・・・・・・・・」
どうやら、答えるつもりはないらしい、笑顔を返すだけだ。
出会ったばかりだし、あまり好かれてはいないのだろう、早々に退散することにした。
武器屋へ行って研ぎに出していた鉄の剣を受け取り、鉄の鎧の胴と腕当てを購入する。
兜と足当てと合わせて、ようやく鎧の完成だ。
源五郎は、矢の補充と射者のズボンを購入し、タンクは研ぎに出していた鉄の爪を受け取り、拳法着の上着を購入、チョボは魔道士のローブを購入した。
これで、薬草や弁当を購入すると残金はほとんどないが、お互い一晩考えた末の買い物だ。
朝会仕様の簡単な注意事項の徹底を済ませると、クエストへ向かう。
受付嬢とのやり取りを聞いていただろうから、道中の注意事項は省く。
町の西出口から出ると、そこは平原だった。
すぐに極楽・・・いや虹色トンボや大バッタが群れをなして襲いかかってくるが、我らの敵ではない。
簡単に粉砕しながら先へと進んで行く。
そうして、大バッタの攻撃をかわしていると、不意に鞭の様にしなる赤くて長い帯状のものが、すごいスピードで飛んできて、源五郎の体に巻き付いた。
俺は反射的にその布のような物を叩き切る。
「ピキー!」
見ると、ナメクジのような角を生やした、緑色の大きなカエルが大きな口を開けていた。
こいつが大角ガエルか。
大きく開いた口には、上下に2本ずつ長く鋭い牙が白く光っている。
そいつが舌を絡めて、源五郎をぱくっとしようとして来たのだ。
切れた舌を振りほどき、源五郎が矢をつがえるよりも早く、またも赤く長い舌を伸ばして源五郎に絡み付く。
「えっ、切ったのに・・・。」
俺はまたも、その長い舌を寸断する。
それでも何本あるのか分からないが、更に舌を伸ばそうとするよりも早く、俺は大角ガエルの元へ走り込み、頭から両断した。
ブシューと血しぶきを上げて、大角ガエルは消えて行った。
「ひえー、あんなのにひと噛みでもされたら、即死だよ。
ギルドのお姉ちゃんも気を付けろとは言ってくれたけど、ここまでとはな。
もうすこし、どう危険だとかの説明がほしいよな。」
「そうですね、油断ならない相手が中ボスどころか、クエストの途中に出くわす訳ですからね。」
俺達は今更ながら、魔物のレベルが上がったことを再認識した。
源五郎は、薬草を使って大角ガエルから受けた傷を治している。
どうやら、体の小さな者なら舌でからめて捕えられると考えているのだろう、その後も出現する大角ガエルは、源五郎かタンクかどちらかを狙ってきた。
タンクは素早く身をかわす為問題ないが、動きの遅い源五郎は何度か危ない目に遭い、その都度俺が舌を叩き切った。
やがて、平原を流れる川に到着し、工事途中の橋の現場を見つけた。
ここで、橋の足場を渡す手伝いをする。
俺たちは、ギルドで渡された木の板を橋げたに括り付けて行く。
こういった材料も、袋に入れてしまえば大きさも重さもほとんど関係なく、持ち運びが可能だ。
現実世界でも同じことができるといいのだが、かえってこの事が、やはり仮想現実ではないかとの疑いを抱かせる要素となる。
工事現場の親方から、この世界のどこかに、1枚の扉が立っている場所があるという話を聞いた。
何もない草原のど真ん中に、建物もないのに扉だけが立っているというのだ。
何のことか意味が分らない。
俺たちの割り当ての板を付け終ると、クエスト票にサインをもらい、次の目的地へ向かう。
親方によると、ダムはもっと上流にあるそうだ。
川にかかっている足場を伝って対岸に渡り、そこから川に沿って上流へ向かう。
ここでも大角ガエルに悩まされたが、もっと厄介な奴も現れた。
電気ナマズ猫だ。
みゃーみゃー鳴き声を上げながら、電撃で攻撃してくる。
鉄製の鎧で身を固めている俺は、ひとたまりもない。
濡れた河岸を歩きながら、みゃーとでも聞こえ様なら、すぐさま飛び跳ねて辺りを見回すありさまだ。
この敵には、チョボと源五郎が対処した。
「強火炎弾!」
チョボが唱えると、大きな火の玉がナマズ猫目がけて飛んでいき、瞬く間に蒲焼・・・いや、黒焦げにする。
「火炎弾!」
炎をまとった矢が、電気ナマズ猫を消し去る。
先へ進み、上流のダムへ辿りつくと、そこには巨大なタコのような軟体動物が、ダムにまとわりついていた。
長く吸盤のある足が何本もダムの壁面にへばりつき、大きく開けた口でダムのコンクリートにかじり付いている。
「強火炎弾!」
「火炎弾!」
すぐに、チョボと源五郎が大きな火の玉と炎の矢で攻撃を仕掛ける。
「ギャースッ!」
大口ダコは吸盤の付いた足で、チョボを攻撃してくるが、タンクが足蹴りで蹴り飛ばす。
源五郎目がけて伸びてくる足は、俺が切って捨てる。
どうやら各自の役割分担が、自然とできてきたようだ。
何十本もあるように見えた足も有限であり、炎の攻撃で本体も焼かれ続け、大口ダコはダムにへばりついているのを止め、俺達に向かいその大きな体で襲い掛かって来た。
タンクが飛び跳ね、その大きな目玉の一つに鉄の爪をくらわす。
そうして怯んだところを、俺が切りつける。
何度も切り付け続け、ようやく頭が胴体から離れた。
噴水の様な血しぶきを上げて、大口ダコが消えて行った。
その跡には、鋼の剣と銀の矢袋と鋼のナックルと魔道士の杖が出現した。
皆それぞれ活躍したという事だろう。
俺は鋼の剣を装備した。
銀の矢は人型の魔物に対して効果が大きく、銀の矢袋からは戦い毎に数本ずつだが際限なく供給されるらしい。
源五郎が矢袋に付いた説明書を読んでいる間に、タンクが鋼のナックルを装備し、チョボも魔道士の杖を装備した。
魔道士の杖にもランクがあるようで、今回のは初級の物だと、これまた説明書を読んだチョボが少しがっかりしていた。
ダムの管理者という人からお礼の言葉を貰い、クエスト票にサインをもらう。
そうして、この世界のどこかに次の段階へ進むことができる場所があることを聞く。




