第11話
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まずは北関連のクエストを探す。
すると、人助けの面に、北の港町までの護衛というクエストがあった。
レベルはWだから、今の俺たちのレベルで丁度だ。
ふと考えると、昨日まではXまでのクエストしかなかったが、今日になったらWのクエストが発生している。
冒険者のレベルに合わせてクエストのレベルも上がるのだろうが、そうなると俺たちは先行しているような気になる。
しかしWの仕事も、結構な数出たようなので、俺たちだけがWレベルという訳でもなさそうではあるのだが。
まあいいさ、とりあえず、北に関してはこれしかなさそうなので、この紙をはがして受付まで持っていく。
「シメンズの方たちですね。
北の港町まで、馬車の護衛をお願いいたします。
馬車は、ギルドの前に停車しています。」
いつもの受付嬢が、笑顔でクエスト票を渡してくれる。
「北の港町まで送り届けたら、ここまで戻ってこなけりゃ報酬は受け取れないのかい?
俺たちは、北の港町で次は仕事をしたいと思っているんだが。」
俺は、戻ってくるのがいつになるか分らないので、清算方法について確認してみた。
「北の街にもギルドはありますので、送り届けた後でクエスト票にサインをもらって、それを向こうのギルドの受付に提出なされば、向こうでも清算できます。では、お気をつけて。」
いつもの感じのいい笑顔で説明してくれた。
この可愛い受付嬢ともお別れかと思うと、少し悲しくなるが仕方がない。
こうなるのだったら、仕事の後にでも誘ってみるんだったとも思ったが、そういや彼女たちの勤務時間はどうなっているんだか。
この街では宿屋に泊ることもなく、只ギルドで記録すれば、目が覚めて翌日になっているのだ。
夜の活動時間など存在しない。
これは、次の街でも同じなのだろうか。
飲みに行ったり、デートしたりといった、普通の生活のような活動は出来ないものなのだろうか。
まあ、次の街では宿屋もあるはずだから、期待しましょう。
ギルドを出ると、大きな馬車が止まっていた。
6人乗り位だろう、客車のドアを開けると、中には美しい女性と、その娘と思しき少女が乗っていた。
彼女たちの護衛をして、北の港町へと向かうのだ。
どれくらいの距離かは知らないのだが、なんにしても馬車を利用できるのはありがたい。
とは言うものの、ドアを開けた途端に不機嫌な顔をされた。
どうやら俺たち護衛は客車には乗りこめないようだ。
前方の御者台に2名と客車後方に背中合わせで席がしつらえてあり、どうやら客車の外側に乗って護衛する形だ。
御者台に俺と源五郎が座り、後ろにチョボとタンクが座ることにした。
タンクは急いで道具屋に向かい薬草を買い揃えると、走って戻ってきて客車の後ろに腰を掛けた。
ピシッという鞭の音と共に、2頭立ての馬車がゆっくりと発車した。
馬車は村の北へ向かうのかと思っていたが、進路は東だ。
御者に確認すると、始まりの村には北に出入り口はないらしい。
北の港町には、東の森を北へ進んで行くようだ。
いつものように、東の森への道と、東の森自体には魔物は出現しない。
恐らく、洞窟の様なダンジョンに入りさえしなければ、安全な場所なのだろう。
その為、北の港町へ向かうルートとして選択されているのかも知れない。
しかし、その先までも安全とは限らない、なにせ護衛を雇って通行しようとしているのだ。
俺は、気を引き締めて警戒する様、メンバーに大声で注意喚起した。
東の森を北へ抜けると、そこは左右が切り立った崖に挟まれた、渓谷の底だった。
恐らく、馬車がすれ違うのがやっとと感じられるような、岩壁に挟まれた曲がりくねった道を進んで行くのだ。
東の森が安全とかいう事ではなく、始まりの村の北側には高い山々がそびえていて、通るには東の森へ迂回するしか方法はないという事か。
ゆっくりと馬車は細い渓谷を進んで行く。
こんなところを襲われたら、逃げ場はない。
すると、はるか先の方から、黒い塊が一直線にこちらに向かってくるのが見える。
「危険!危険!」
御者が何事か叫びだし、速度を上げる。
それは、見上げても先が見通せないような高い崖の上から、舞い降りる様にやってくる。
「鳥・・・か?」
目を凝らして見ると、それらは羽の生えた鳥のようだ。
「火炎弾!」
源五郎が炎の矢を黒い塊目がけて射掛ける。連射だ。
すると、何体か墜落し塊が散開して黒い点となる。
「強火炎弾!」
馬車の後方からも魔法の呪文が聞こえてくる。
後方からも襲ってきているのだろう、挟み撃ちだ。
やがて黒い点がはっきりと視界に入ってきて、形となる。
それは、羽の生えた人だった。
いや、人というより鳥人だ。
全身を羽毛に覆われた人間、いわゆる鳥人が空から襲い掛かってくるのだ。
俺は御者台の上で立ち上がり、馬車の右側から襲ってくる鳥人に剣を突き刺した。
「ギャース!」
鳥人は叫びながら、そのまま消えていく。
「ぎゃー!」
すると、御者が叫び声をあげる。
振り返ると、鳥人にさらわれそうになっている。
「癒しの風!」
叫びながらすぐに袈裟がけに剣を振りおろし、鳥人の右肩からバッサリと切り落とす。
馬車に乗ってからやることもないので、ずっと呟いていた言葉だ。
パーティ全員回復の治癒魔法。
心なしか、鳥人に引っかかれた傷口が楽になったように感じる。
源五郎は相変わらず矢を連射し続けている。
近距離の為か、あるいは魔法力が尽きたのかは分らないが、炎の矢は使用していない。
ところが、1体が矢の攻撃をすり抜け馬車の左側から襲い掛かってきたので、弓自体を使って鳥人を追い払わなければならなくなった。
「癒しの風!」
すかさず俺がフォローに入り、撃退してやる。
鉄の胸当てがあったので、源五郎に大きな怪我はない様子だ。
見ると、俺の呪文が効いたのか、擦り傷はすぐに消えていく。
鳥人と言ってもくちばしをもっているのではなく、顔は人間と同じ顔だ。
しかし、鋭い牙をもっているようで、噛みつき攻撃を仕掛けてくる。
また、手足の爪が異常に長く鋭いようで、引っ掻かれたらたまったもんじゃない。
分が悪いと悟ったのか、鳥人の群れは馬車を離れ遠ざかって行く。
とりあえず脅威は去った様子だ。
「前は何とか無事、後ろはどうだ?」
俺は大声で後方のチョボたちに声を掛けた。
「後ろも大丈夫、タンクが少し怪我をしたが、魔法で直す。」
チョボの声が返ってくる。
「ドウドウ」
御者が馬車のスピードを落とす。
全速力で走りとおしては、馬が持たないからだろう。
「じゃあ、俺たちも傷の手当てをしておこう。」
俺のつたない魔法では、敵の攻撃でついた傷を完治させることは出来なかったようだ。
鋭い爪で引っ掻かれた右腕を薬草で治療する。
源五郎も、左腕に薬草を当てている。
御者も怪我をしているようだ、さらわれそうになった時に、引っ掻かれたのだろう。
俺は無理かもしれんと思ったが、一応薬草を使えるのか試してみた。
すると、御者に対しては薬草を貼ることができた。
冒険者同士ではないため、物をあげたりすることも出来るようだ。
よく考えたら、そうなのだろう、多分これから北の港町まで馬車の中の(多分)親子を送っていくが、成功すればギルドの報酬の外にも、アイテムがもらえる可能性が高い。
だから、冒険者以外の出演者とは、物や金のやり取りが可能になっている必要性がある。
俺は、この点を利用して、今後パーティ内で物のやり取りができる様にならないか、考えてみることにした。
「ありがとう、ありがとう。」
御者からは、大変感謝された。
貴重な薬草だが大丈夫、俺はもう一つの言葉も呟き続けていた。
そうして、その言葉を自分の左腕に掛けて見る。
「治療!」
1筋の血が滴っていた左腕が軽くなり、傷が消えた。
恐らく、まだ慣れていないので軽いけがしか無理だろうが、俺一人だけなら傷の完治も可能なようだ。
癒しの風の魔法もあるし、薬草の消費量は減るだろう。
魔法力に限りがあるだろうから、どれくらい使えるものか、限界を知っておく必要性も感じる。
この日は、これ以上の襲撃はなく、路肩に馬車が置ける位開けた場所に着いたので、御者はそこへ馬車を寄せる。
日が沈まないので(いや、沈むことは沈むのだが、夜ですら一つの太陽は昇っている)時間の感覚が無くなるのだが、どうやら夜になったようだ、谷底に日が射さなくなり薄暗くなる。
御者は馬に水と飼葉を与えている。
「馬を休ませるために、ここでキャンプします。」
という御者の言葉に、俺はチョボに頼んで、その辺に落ちていた枯れ木を集めてから火をつけてもらった。
貴重な魔法力だし、暗くもないし寒くもないが、何か暖を取れるようなものがあった方がキャンプらしい。
すると、御者が馬車の中から大きな箱を持ってきた。
中には弁当が入っている。
助けてもらったお礼という訳ではないだろう、数に限りがあるわけだし、どうやら、今回の護衛業は食事つきのようだ。
俺たちは、たき火を囲んでおいしい弁当を食べた。
「おう、あの治癒魔法はよかったな。
あれで体が結構楽になったから、戦闘中は薬草や治癒魔法を使わずに済んだ。
あんな使い方も出来るのだな。」
チョボが感心した様子で俺に話しかけてきた。
「ああ、源五郎の炎の矢を見ていて思いついたんだ。
治療の剣なんて言ったら語弊があるが、治癒魔法を唱えながら敵への攻撃が可能なんじゃないかと。
炎の魔法を剣に乗せる代わりに、治癒魔法を唱えることも可能なようだ。
これで、いちいち治癒魔法だけを唱えなくても済むから、戦闘中は大助かりだ。
まあ、効果が薄いがね。」
「いやあ、大したもんだ。
僕も治癒魔法に、少し経験値を振ってみることにするよ。
2人で癒しの風攻撃を掛け合えば、戦闘中に治癒魔法や薬草を使用しなくても済むようになるだろう。
もちろん、死ぬ確率はかなり減るはずだ。」
タンクも俺の考えに乗って来た。
「じゃあ、治癒魔法と攻撃魔法2人ずつ取得して、互いに補い合って行こう。」
こうして、経験値の振り分けのある程度の目安が出来てきた。
ふと気が付くと、馬車の中の親子は、どうやら馬車の中で食事をしているという設定らしい。
母娘ともに美しい顔立ちをしていたので、こういったゲーム設定上の関係は少し残念な気もする。
まあしかし、現実世界であったとしたって、護衛に付くような冒険者というならず者たちに、上流階級と見られる母娘が笑顔で応対してくれるはずもないという事か。
よく見ると、御者の男もかなり男前で、ロマンスグレーと言った雰囲気だ。
右を見ても左を見ても美男美女ばっかりで、一人くらいは・・・なんて考えるのは、俺くらいだろうか。
なんせ、彼らはあくまでもゲーム上のキャラでしかないのだ。
ここが現実世界で別次元から覗いているという事が真実であれば、すり抜けてしまう村人たちは本物の人間だろう。
その村人達に容姿を似せたキャラが、御者であり護衛している母娘であり、ギルドの受付嬢なのだ。
俺は、何とかこの世界の人たちと接触する方法がないものか、思案にふけった。
こうして、記録しないで終わる初めての夜がやってきた。
4人で順番に見張りと仮眠をとることにする。
朝起きて、出社して得意先の発注業務をこなしながら、YJ社へ納品に向かう。
これで、加納が残した案件は片づけることができた。
その他にも、新たに注文を受けたので、YJ社様様だ。
そうして、何事もなく帰宅する。
ふと気が付く、そう言えば、記録をしていないのに、昨日の冒険の記憶がある。
という事は、記録をしなければデータのやり取りができないと言ったことはなく、記録しなくても可能なのだ。
そういえば、クエスト中に全滅したとしても、持ち金が半額になることを除けば、それまでこなしたクエスト分は清算されるのだ。
つまり、向こうでの冒険中は常にデータのやり取り、通信をしているのだ。
考えて見れば当たり前なのだが、今更ながらすごいシステムだ。
本当に、現実世界に間借りしているのなら、一体どうやっているのやら。
俺は、ゲーム機に横たわりながら、今更ながら本当に現実世界かどうかの疑いを深めた。
谷間のキャンプ地で目を覚ます。
深い谷間の底にまで日が指して来たので、既に3つあるという昼間の太陽のどれかは、天頂に達しているのだろう。
御者が寝具を片付け始めたので、俺たちも自分の分の片づけをする。
そうして、御者が弁当を馬車から出してきてくれて、朝食だ。
昨日同様、俺と源五郎が馬車の前方に、チョボとタンクが後方の席に座り出発だ。
途中、鳥人の群れが何度か様子をうかがってきたが、源五郎の弓とチョボの魔法で威嚇すると、それ以上の接近はなかった。
渓谷を抜けると、開けた平原へ出た。
平原では極楽トンボや大バッタの襲撃を受けたが、簡単に退治する。
やがて目の前に、大きな街が見えてきた。
周囲を高い塀に囲まれた町だ。
“ようこそ、ファブの港町へ”と大きく開放された門の上にメッセージが掲げられている。




