第106話
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「竜王城へ向かってくれ。」
翌朝、中継車に乗り込むと行き先を告げる。
中継車をタクシー代わりに使う、ぞんざいな態度ではあるが、この際細かなことは言っていられない。
事は一刻を争うのだ。
小西部大陸に賢者のトンネルがいくつあるかは知らないし、知っていたとしてもトンネルの扉の鍵がなければ、行くことも出来やしない。
幸いにも大西部大陸中央部に位置するポテンザの近くに賢者のトンネルがあることが分っているから、ポテンザまで行って、それから小西部大陸のターリキーへ向かえば、ここから直接船で向かうより、2〜3週間は時間が節約されるだろう。
それでも1週間以上は必要となる。
急がなければならない、闘技会に参加して優勝を勝ち取ってなどと悠長なことを言ってはいられない。
闘技会の結果など待ってはいられない、竜王に謁見して活動制限を解いていただかなくては。
竜王城は、ドラゴンシティの街中を突っ切って北門から出て、1時間ほど車を走らせた山裾にあった。
「駄目でしたね・・・、竜王様に取材を申し込んでみましたが、明日の闘技会の準備で忙しくて、とても取材なんて受けてはいられないと、あっさり断られてしまいました。」
竜王城の門番に、しつこく交渉を続けていたテレビスタッフが、残念そうにうな垂れながら帰って来た。
うーん・・・、駄目か・・・、テレビの力を借りれば何とかなるんじゃないかと考えたんだが・・・。
こうなりゃ仕方がない、事情を話して何とか会って頂こう。
「分った・・・、俺が行って交渉してくる。」
そう言って中継車を降りると、お堀の前の番小屋に向かう。
「こんにちは、旅の冒険者なんだが、PTVで毎晩放送している冒険の番組を知っているかい?」
鎧兜に身を固めた番兵に、直接声をかけて見る。
「おお知っているとも・・・、各ダンジョンを回って、魔物たちと戦う番組だろ?
毎日、家で晩飯を食いながら見ているさ。
そういやお前さん・・・、その出演者の一人に似ているような・・・。」
番兵の1人が、放送でいつも戦っているうちの1人が、俺だと言う事に気が付いた様子だ。
「そうなんだよ、俺が世界中のダンジョンを回って、魔物たちを退治して回っているのさ。
まあ、俺一人で戦っている訳じゃなくて、頼もしいチームメンバーが他に3人いるのだがね。
その冒険の事なんだが、昨晩小西部大陸のターリキーの街の様子が中継されただろ?
驚いたねえ、あんなに強い魔物が街中に襲い掛かってくるんだから・・・、住民たちは生きた心地がしないんじゃないか?
あの町に残してきた俺たちの仲間は、それほどレベルが高くはないから、あんな強い魔物相手ではいつか命を落としかねない。
だから俺たちが助けに行きたいんだ・・、だけど、あの町の外に出ることは出来ないから、行ったところで魔物たちが街中に入ってくる時を待つしかない。
それじゃ何年経ったって、魔物たちを一掃する事なんかできやしない、こちらから攻めに行かなくては駄目だよ。
だから、小西部大陸の城壁都市の外に出る許可を頂きたいんだ。
それには竜王様のお言葉が必要となるのだが・・・、どうだろう、竜王様に合わせては頂けないだろうか。」
とりあえず、言えるだけのことを言って頭を下げる。
「悪いが、それは無理というものだ。
竜王様はただでもお忙しい身だと言うのに、あすから開催される闘技会の準備で眠る時間を作るのが難しいほどの状況なのだ。
これ以上竜王様に無理をしていただくわけにはいかない。」
番兵の1人が、厳しい口調で首を振る。
「しかし、俺たちの仲間だけじゃなくて、ターリキーの街の一般市民までもが襲われているんだ。
黙って、見ている訳にはいかないじゃないか。」
恐らく今日だって、俺たちの冒険の放送が、されることはないだろう。
竜王に謁見できれば兎も角、こんな風に門前払いされた場面を、放送なんかできるはずもない。
そうすると、本日もまたターリキーの街での魔物との戦いが放送されるのだ。
それを、指をくわえて見ているという訳にはいかない。
「君の気持ちも分からないでもないのだが、竜王様は本当に忙しすぎて、何の約束もしていない、どこの誰かも分からないようなものに合う時間など、持ち合わしてはいないのだ。」
番兵は頑としてこちらの話を聞こうともしない・・・、なにせ城の中に問い合わせようともしてくれないのだ。
「どこのだれかもしれないと言ったか?
そうだ・・・、だったら海竜、地竜、青竜、そして天竜・・・、四竜を制した者は、竜の騎士として認められるはずじゃなかったのか?」
俺は四竜アイテムが詰まった海図を掲げて見せた。
「ほう・・・、四竜のクエストをこなしたものが出たという話が伝わって来ていたが、それは君の事か。」
番所の奥から、少し煌びやかな鎧に身を包んだ兵士があらわれた。
他の兵士は赤さびが浮いたような色の鎧であるのに対して、ピカピカに磨き上げられた、鏡面仕上げの鎧を身に着けている。
恐らく、立番をしている番兵たちの上司であるのだろう。
「そういう事だね・・・、まあさっきも言った通り、俺一人の力ではなくて、仲間と一緒にこなしたクエストだがね。」
俺は、なるべく自慢げに胸を張って主張する。
「ふむ・・、竜の騎士の訪問という事であれば、普段であれば丁重にお迎えするところなのだが、先ほどから言っている通り、あす開幕の闘技会の事で、竜王様は勿論、城中大忙しなのだ。
すまんが闘技会が終わってから、改めて出直していただきたい。
それに、こんな時期にこの地に来たと言う事は、君たちも闘技会に出場予定じゃないのかい?
だったら頑張って、竜の騎士としての強さを見せてくれたまえ。
小西部大陸に入り込んできている、魔物たちのレベルが向上してきている件は、竜王様はとっくにご存じだ。
先週既に1部隊を派遣しているから、今日あたり到着するはずだ。
応援部隊が到着すれば、町の外に巣食う魔物たちの駆除が進むはずだから、心配はいらないだろう。」
お城の番兵の上司は、通してはくれなかったが、それでも安心材料は与えてくれた。
そうか・・・、そういう事であれば、ここはおとなしく引き下がりましょう。
どうせ、どれだけ粘っても、開けてくれそうもないしね。
だがまあ、竜の騎士というだけで、竜王様に謁見できそうなことは判った。
だったら、闘技会に参加することもないのだが、番兵の上司に竜の騎士の強さを見せるようにと言われてしまった。
参加しなければ、恐れをなして逃げ出したとも受け取られかねないし、仕方がない、参加しよう、そして優勝を目指すのだ。
なにせ最早、竜の騎士だと名乗ってしまったのだから、負けるわけにはいかなくなってしまったのだ。
「悪い・・、ドラゴンシティへ戻ってくれ。」
「やっぱり駄目でしたか・・・。」
源五郎が、残念そうにため息をつく。
「ああ、確かに大会前日では忙しいわな・・・、時期が悪かった。
竜の騎士であれば、竜王様に謁見できることは判ったが、大会が終わるまでは無理という事だった。
それと、既に小西部大陸には援軍を送ったそうだ。」
俺は、番兵の上司から聞いた話を皆に伝えた。
それには、テレビスタッフたちもほっとした様子だった。
今日は特にやることもないので、下見がてら闘技会が行われると言うスタジアムに出向いてみた。
ドーム型の巨大な施設は、普段は野球の試合が行われるグラウンドだと言う事だった。
5万人以上の収容人数を誇る施設という事で、注目の高さがうかがえる。
まあ、百年に一度というのだから、当然と言えば当然か・・・。
会場の準備中という事で、中に入ることは出来なかったが、外の様子を眺めるだけでもその施設の巨大さはよくわかった。
俺は焦っていた。
琥珀に閉じ込められてしまった、ヤンキーパーティやグリーンマン達を救出するにも、肝心の魔神に到達するまでには、あまたの手順をこなしていかなければならず、まずは魔王を倒したのち、魔神と相対すると言う、とてつもなく気の長い活動が必要となる事は、もう充分に理解しているつもりでいた。
同様に、別の大陸へ行って活動をするにも、それ相当のクエストをこなさなければ道が開けては行かないと言う事も、理解している。
もともと、そう言ったゲームなのだから、当然と言えば当然だ。
しかし、事は急を要するのだ、なにせ、元々のシナリオとは異なる展開となってしまい、出現する魔物のレベルも格段に向上し、街中にまでも進出してきているのだ。
のんびり・・・とまでは言わないが、冒険のシナリオの進行に合わせて動いて行くだけで、本当に良いのか?
確かに、この戦いは自分たちの冒険だから、この星の住人である超人たちだけに頼って解決していただくと言う事には、内心不満を持っていた。
だからこそ、手順を踏んで俺達冒険者たちのレベルが上がらなければ、ラスボスとの戦いの場にすら到達できないことが分って、少し安心したのは事実だ。
それでも、町が襲われていることが分れば、そこを救いに行きたくなるし、元凶である魔物たちの巣を叩いてでも、安全を確保したいと考えるのは、自然の事だろう。
小西部大陸や大西部大陸での活動制限は、恐らく冒険者の到達レベルを一定レベル以上に制限するためのものだと考えていたのだが、俺たちは既に本来の魔王への到達レベルを超えていると言われている。
そうであれば、今すぐにでも世界中を自由に活動できるはずだし、南部大陸の魔王城へ向かうことだって可能なはずだ。
あくまでも冒険の進行をシナリオ通りに厳密に行おうとしているだけなのか、あるいは、魔神が放出されたことにより、シナリオさえも書き変わってしまい、冒険を終息させるための到達レベルが、格段に上がってしまったというのか・・・、だからこそ、天空世界で俺たちのレベルを急速に上げるために、特訓をしてくれたのかもしれないと考えると・・・、この先何が起こって行くのか。
帰りの車の中で、今後の展開を想定してみるが、堂々巡りで考えがまとまらない。
そもそもヤンキーパーティの奴らが、無謀な挑戦を試みて魔神を解放してしまった事に端を発しているのだが、奴らだけを責めるわけにもいくまい。
もとをただせば、俺たち冒険者たち全員が、この星の人たちともっと触れ合いたいと考えて、次元を超えて来てしまったことが元凶なのだし、その事がなければ、普通のロープレゲームの、ちょっと大規模な奴位な感覚で、結構楽しく終われていたはずなのだ。
難易度がどうあろうが、あきらめさえしなければリプレイは何度でも効いただろうし、何より、この星の住民たちに迷惑がかかるようなことは、皆無であったはずだ。
実体化してしまって、リプレイが効かないどころか、元の世界へ戻る事すらできなくなってしまい、それぞれが試行錯誤した結果と考えるしかない。
誰だって、元の世界へ帰りたいと思っていたことだろうし、例えば俺たちが最初に魔神へと通じるステージへの入口を知ったとして、更にそこへ横入りする術があったとしたならば、ダメもとで挑戦してみようかという気持ちになったとしても不思議ではない。
たまたま、不幸な結果に終わり、そのツケが回ってきているだけなのだ。
何度も繰り返し、自分を納得させるように反芻して、気持ちを切り替えようと努める。
ドラゴンシティへ戻って宿に帰る。
その日の放送は、竜王城へ行って門前払いを受けたが、それなりに有益な情報は得られたことと、闘技場の外観などが紹介されていた。
そうして、ターリキーの町の中継では・・・。
『シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ』数十人の弓隊から雨のように隙間なく射掛けられた矢が、悪魔の尾ハートに襲い掛かる。
悪魔の尾は、手に持った槍をバトントワリングのように体の前で回転させながら、降り注いでくる矢を叩き落としているが、それでも回転力が足りずにいくつかは直撃し、薄い膜を張ったような羽が破れて落下すると、今度は鎧で身を固めた騎士たちが一斉に剣を抜いて襲い掛かって行く。
1匹の悪魔の尾ハートに対して、百人以上の兵士での対応だ。
別な映像では、巨大な岩を投石器で悪魔の尾ハートにぶつけようとして簡単に避けられ、背後の住宅の壁に岩がめり込んだりしている場面も映し出された。
どうやら、兵器を駆使しての人海戦術で、難敵を討ち果たそうとしている様子だ。
チーム北海や山椒のメンバーたちは、兵士たちの隊列の先頭に立って、魔物への攻撃を指揮している様子だ。
冒険者と軍隊入り混じっての、白熱した攻防戦は、数時間にわたって繰り広げられたとテロップが出ている。
5匹の悪魔の尾ハートに対して、数百人の軍隊と冒険者たちとの合戦は、何とか軍隊側に上がった様子だ。
それでも、数多くの兵士が傷ついて担架で運ばれていく。
3〜40人はいるだろう怪我人たちの中には、冒険者のメンバーも含まれていた。
薬草を体中に貼り付けて、何とか戻って行くチーム北海と山椒のメンバーたち。
幸いなことに、6人だったメンバーに2人加わり、8人に戻っていた。
体中に包帯を巻いたメンバーが2人いるところを見ると、昨日は入院でもしていたのかも知れない。
何にしても、全員の無事が確認できたのは、幸いだった。
こんな戦いは、長くは続けられないだろうから、やはり早いところ小西部大陸に向かう必要性がある事には、変わりはないようだ。




