第105話
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「これで、闘技会へは参加可能だよね?」
俺は、安息草や小人象などのクエストアイテムをギルドの受付カウンターに並べる。
「はっはい・・・・。まずは密閉を・・・・。」
そう言いながら、受付嬢はそれらをすぐさま気密性の高そうな箱に詰めて封をした。
それはそうだろう、ギルドの中が幻覚で満たされても困りものだ。
「安息草に小人象及び擬人草と笑顔茸、確かに受け取りました。」
受付嬢が笑顔で受取票を確認する。
『パンパカパーン』ギルド内にファンファーレが鳴り響く・・・、何も闘技会への参加資格が得られたからって、ファンファーレを鳴らさなくてもいいのに・・・、と思っていたら・・・
「おめでとうございます。
サグル様、源五郎様、レイ様は、レベルZZにアップされました。」
受付嬢がレベルアップを告げる。
「ZZって言ったよね・・・レベルAが最高レベルではなかったのかい?」
俺は受付嬢の言葉をもう一度確かめる。
聞き間違えであって欲しい。
「はい、レベルAの上はZZ、それからZY・・・・となりまして、ZAまで到達するとYZ,YYと続きます。
最高到達レベルはAAとなります。」
受付嬢は、いつもの通り笑顔で答える。
そっ・・・そうだったのか・・・、レベルAだなんて浮かれていたのが恥ずかしい。
しかしまあ・・・、強い魔物との戦いがあった訳でもないのに、レベルアップとはありがたいような、こそばゆいような・・・、まあ、幻覚に打ち勝つのは、それなりに大変だったと言う事なのだろうか。
「でも・・・、お気になさらないでください。
通常は、魔王到達レベルはDかCに設定されております。
レベルAより上のZZレベル以降は、より高みを目指したい方たちのための、設定ですから。」
ああ、そういう事か・・・、というか、普通なら別次元に行くぐらいの強さでZZレベルという事なのだろうか。
そうであれば、俺たちは相当強くなっているはずだ、この地点での魔物たちなど寄せ付けないくらいに。
だからこそ、魔物達とも戦ったと言う意識もないまま、幻覚に打ち勝つだけでクエストをこなすことができたとも言えるのかもしれない。
ふうむ、闘技会が楽しみと言えなくもないが、それよりもここまでのレベルにまで上げようとしてくれた、二三男さんたちの真意はどこに・・・、下界では本当に魔物のレベルが上がっていると言う事なのだろうか。
確かに、あの南部大陸では悪魔の尾スペードが群れをなしていたしね。
やはり、各地を回って体感してみるしかないだろう。
ついでに、心配事を確認しておく。
「今回のクエストに関しては、あまり強い魔物には出くわさなかったようだが、それよりも強烈な幻覚にずいぶんと悩まされた。
俺たちと同じようなクエストを、他の参加希望者たちも行っているのであれば、幻覚に掴まって戻ってこられなくなる奴らが出ると思うのだが、そいつらの事は、救い出してくれるのかい?」
特別、俺たちが幻覚にかかりやすい体質という訳でもないだろう、他のチームだって幻覚には悩まされるはずだ。
中には、その虜になって戻れなくなるような奴らも・・・。
「はい、今回のクエスト期間は最長で10日間ですが、クエスト期間終了しても帰還されない冒険者の方たちに関しては、竜王軍が出向いて救出に向かう手はずとなっております。
ですから、ご心配には及びません。
それと、クエスト途中で出現する魔物のレベルは、かなり高いと聞いておりますよ。」
受付嬢は、笑顔で答えてくれた。
ほうそうか・・、やはり幻覚の怖さは十分に認識しているということだな、1参加者が騒ぎ立てる必要性もなかったということか。
「それからこれが、闘技会への参加証となります。」
受付嬢が、パスケースに入ったカードを4つ渡してくれる。
パスケースは首から下げられるように、長い紐が付いているようだ。
「この参加証があれば、闘技会場へ自由に出入りできます。
もし紛失した場合は、再発行は出来ませんので、その際はまたクエストをこなさなければならなくなります。
十分にご注意ください。」
受付嬢の言葉に、しっかりと頷いて、3人にパスケースを一つずつ手渡す。
「闘技会は3日後に始まりますから、遅れないようにしてください。」
受付嬢に見送られながら、ギルドを後にする。
ドラゴンシティは、ドラゴンハーバーから東に6時間進み、賢者のトンネル付近から更に北へ6時間ほど車を走らせた地点にあった。
「ドラゴンシティのすぐ北にあるのが竜王城で、東部大陸中央北部山脈の裾野に位置しています。
丁度、魔神が捕えられていた施設のあった場所と山脈を挟んで、反対側になります。」
東部大陸地図を見ながら、テレビスタッフが説明してくれる。
ほうそうか・・・、そう言えば闘技会参加のクエストの中には、東部大陸中央北部山脈と書かれたものもあったよな。
こっちに来ていれば、わざわざ半日も掛けて中央山脈へ行く手間をかける必要性はなく、ドラゴンシティのおひざ元でクエストが可能だったという訳か・・・・。
恐らく、車を持っていない冒険者たちの多くは、北部山脈側のクエストを選択したのだろう。
中継車などという便利グッズを持っているせいか、クエストの場所を選択の基準に入れなくなってきたことは、余り喜ばしいこととは言えない。
省エネを叫ぶつもりはないが、なるべく効率的にクエストをこなせるよう、今後はとり計ろうと反省した。
ドラゴンシティも、小西部大陸の各都市同様、高い城壁に囲まれていた。
竜王城の城下町というだけあって、やはり今までに見てきたどの町よりも大きいようだ。
町の周りは、大きな堀で囲まれているが、その堀のいくつかは橋が渡されていて、町へ入って行けるよう、門は開けられている。
つまり、この地では町の外へも出入りが自由であることを、物語っている。
中央山脈へ向かった時もそうだったが、今日だって半日以上中継車を走らせているが、魔物に出くわす事もない。
本当にこの大陸中央部は、魔物の存在がなく、平和な生活が送れているのだと、改めて実感する。
大西部大陸や小西部大陸へ魔物たちが南部大陸から流入していると言っていたが、あれは、中央山脈を越えて東部大陸中央部へ進出することが難しいため、進路変更を余儀なくされているのだろうと推定できる。
しかし、それだけ強力な軍隊を持っているのだったら、他の大陸を・・・、特に野放し状態になっている南部大陸とか、おひざ元近くである東部大陸の南部とかに軍隊を送ることは出来ないのだろうか。
早いところ竜王とやらに面会して、小西部大陸での活動制限を解いてもらうだけではなく、そう言った事情なども聴いておく必要性があることを胸に刻んでおく。
街中は石畳の道を、馬車がひっきりなしに往来している。
かなり活気にあふれているようだ。
それもそのはず・・・『百年に一度の大闘技会開催』と書かれた、大きな垂れ幕や立札が至る所に掲げられている。
「百年に一度とは・・・、これはまたすごい大会ですね。」
道路をまたぐ陸橋に掛けられた垂れ幕を見ながら、源五郎が呟く。
「ああ、俺達の冒険のためのイベントの一種だとは思うがね。
恐らく、この闘技会に優勝すると竜王との謁見が許されて、そうして魔王と戦うためのクエストを依頼されるのだろう。」
俺も、大きな垂れ幕を見ながらこっくりと頷く。
「でも大変よね・・・、本来なら、あたし達冒険者にしか参加できなかったはずの大会でしょ。
ところが今や、この星中の人たちの参加ができるのだもの・・、そりゃまあ、ギルドに行って闘技会参加用のクエストをこなす必要性はあったけど、それをこなせば参加資格は他に条件とかなかったでしょ?
だったら大変よ、イエローマンやレッドマン達超人が参加して来たら、あたしたちに勝ち目はないわ。
それでなくても、剣術とか棒術とかの世界最強の人とか、ツバサちゃんのお父さんやお母さんのようなね、そう言った人たちがチームを組んで参加して来たら、強敵よね。」
何時になく、レイが肩を落としてため息をつく。
どうにも、昨日の幻覚の時からずっと元気がなさそうだ。
やはり、地球に帰ったつもりでいたのが、夢であったのがショックだったのだろうか・・・。
「超人たちは、各地に出没する魔物たちの相手に忙しいし、こういった大会には出ないと思うよ。」
「うちの父さんや母さんはじめ、世界最強の武芸者はこういった大会には参加しないと思います。
既に世界最強ですし、称号は必要ないっていつも言っていましたから。
己の一番の敵は己っていうのが口癖でしたし・・。」
俺とツバサが、何とかレイを元気づけようと、そんな心配を払しょくしてやる。
「でも・・・、分らないでしょ・・・、なにせ百年に一度の大会だもの・・・。
今までは興味がなくったって、この大会だけはって・・・。」
今日のレイは、どうにもマイナス思考のようだ。
「そんな事よりも、町へ出て見よう。
さっき通った時に色々な出店が出ていたようだぞ。」
中継車が宿に着くと、テレビスタッフは本日分の番組編集に忙しいため、彼らと分れて街へ繰り出す。
大通りを一本入った裏通りは、縁日さながらの賑わいをみせていた。
「へえ、なんですかこれ・・・。」
赤や黄色や青色のゴム風船が、いくつも水の上に浮いているのを見つけて、ツバサが興味深そうに尋ねてくる。
「これは、ヨーヨー釣りだな。
紙で出来たこよりの先に、針金のフックを結び付けて、こよりを濡らさないようにして風船の先に結んだゴム紐の輪をひっかけて吊り上げるんだ。」
子供の頃に夢中で駆けて行った、日本の縁日の屋台が、通りにぎっしりとひしめいている。
他にもアンズ飴売りや綿菓子はもとより、お好み焼きや焼きそばの屋台に加えて、金魚すくいに射的やスマートボールまであるようだ。
「へえ・・・。」
ツバサがキラキラした瞳で、屋台の前の水槽に浮いている風船を見つめている。
「やってみるかい?いくらかな?」
「へいっ・・・1回、5ジになりやす。」
「ジっていうのは?ジェじゃないのかい?」
「ジと言うのはジェの10分の1の単位です。
主に子供のための駄菓子をかう時の通貨ですね。」
横に居るツバサが説明してくれる。
威勢のいいアンちゃんに、とりあえず1ジェ渡して2回分と告げて釣りをもらう。
2回やって1つも釣れなければ、1つサービスとなっているからだ。
「きゃっ・・・、あーん、切れちゃったあ・・悔しい。」
ツバサが恨めしそうに、切れたこよりの先を見つめる。
「針金の先端の方がこよりを結び付けている部分より高い位置にあるから、どうしても先端を水に浮いたゴムの輪に通そうとすると、こよりが濡れてしまう。
これはどうやっても避けられないから、こより自体が濡れて切れてしまう前に持ち上げてしまうしかないんだ。
要は、素早くやれば吊り上げれらるさ。ほいっ。」
俺はそう言って、もう一本のこよりを渡す。
「そうですか・・・、水に濡れて切れてしまう前に・・。
分りました・・・、エイッ」
ツバサが素早く右手を動かして、針金の先をゴムの輪に通して持ち上げる。
「わっ、出来た・・・、じゃあもう一つ・・・」
そう言いながら、一本のこよりで次々とヨーヨーを吊り上げて行き、瞬く間に10本吊り上げた。
「ひえー・・・、お嬢ちゃんみたいなお客さんばかりだと、商売あがったりだよ・・・。」
元気のよかったアンちゃんが、ショックを受けたように眉をひそめる。
「えへへへへ・・・、じゃあ、このいちばんきれいなのだけ残して・・・、後は返します。」
ツバサはそう言うと、赤地に黄色の模様が入った風船だけ残して、後は元の水槽に戻した。
これにはアンちゃんも目をぱちくりさせていた。
その後、焼きそばとお好み焼きで腹を膨らませ、デザート代わりの綿菓子をついばみながら宿へと帰って来た。
射的をやり始めたころには、レイも少しは元気を取り戻した様子だった。
宿についた時は、丁度放送が始まる時間だった。
そういえば、今日も移動だけで魔物に出くわす事もなかったが、放送するだけの映像はあるのだろうか。
まさか、またあの幻覚に惑わされている映像を再放送されるのだろうか・・・、宿の食堂で、こわごわテレビのスイッチを入れる。
するとそこには、どこかの城壁都市の姿が映された。
ドラゴンシティか?いや違う、港に面した町の様子だ、山の斜面に沿って作られた城壁は、見上げる程の高さがある。
その高い城壁を飛び越えて、大きな影がいくつも襲来してくる。
それを迎え撃つ、冒険者たち。
馬鹿な・・・、ターリキーの街に襲い掛かっていた魔物は、せいぜい火吹き大ガラスか、感電バトだったはずだ。
町を防衛するクエストレベルも低く、だから彼らが居残ったのだ。
チーム北海とチーム山椒のメンバーたち。
あれから数ヶ月、彼らだってレベルを上げたことだろうが、襲い掛かって来たのは悪魔の尾ハートだ。
雷攻撃でメンバーが分断され、連携攻撃が仕掛けられない。
これでは実力差がもろに出てしまう。
4匹の悪魔の尾ハートに対して、2チーム8名だから人数的には有利だが・・・、っと、違う6名だ。
6名しかいない、彼らのチームも2名は既に犠牲になったのか、あるいは傷付いて戦えないのか・・・、何とか体勢を立て直すと、弓矢使いが矢を射かけた隙をついて、剣士が斬りこんで行く。
剣士の一撃は長い槍に受け止められるが、その脇腹を拳法家の飛び蹴りが炸裂。
すかさず矢を射掛け続けて、ハリネズミのようにして1匹目を倒す。
うーん、頑張っているな・・・。
しかし、残り3匹に取り囲まれた魔法使いが、逃げ場を失い孤立してしまった。
仲間の剣士と拳法家が背後から悪魔の尾にかかっていくが、簡単に弾き飛ばされてしまう。
やられた・・・、と思った瞬間、魔法使いの前に茶色い影が降り立つ。
ブラウンマンだ、彼は一度の回し蹴りで2匹の悪魔の尾ハートを蹴り飛ばし、残る一匹にチョップをくらわす。
すべて一撃で、一蹴してしまった。
ふうっ・・・、ほっとしたが、あと少し助けが遅かったら・・・。
これはのんびりしてはいられない、明日にでも竜王の所に出向く必要性がありそうだ。




