第104話
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「次が、今回のクエストの中で最大ポイントの4Pのもので、癒しの原の倒木に寄生する笑顔茸の採取。
名前からして恐らく幻覚系だとは思うが、実をいうとクエスト票には、その旨は記されていない。
元気がもらえるだの、生きる希望がわくだの、訳の分からないことが列挙されているだけだ。
夢が詰まると笑顔茸が膨らむので、大きく膨らんだところを摘み取るようにとなっている。
2度も引っかかった俺が言うのもなんだが、充分に気を付けてくれ。
夢を見なければ膨らまないと言う事は、幻覚に引っかかる必要性があると言う事だ。
と言っても、幻覚に惑わされたまま、この地で朽ち果てるわけにもいかないから、目覚めるための方策が必要となってくる。
みんな・・・携帯電話を取り出してくれ。」
皆に俺お手製の携帯電話の使用方法を伝えて、さあ出発だ。
癒しの原は癒しの森を抜けた先にあった。
山岳地帯の山間にできた、盆地のような平坦な場所だ。
手分けして倒木を探す・・・と言っても、元々木など生えてはいない草原だ。
ましてや倒木など、そう簡単に見つかるものでもない・・・、段々と探す範囲が広くなり、4人が分散していく・・・。
なあんて、竜王に会いに行くためのクエストをこなしていた日々が、懐かしい記憶として思い起こされる。
あの後、闘技会で優勝して竜王に面会し、晴れて小西部大陸と大西部大陸での活動許可を頂いたのだった。
そうして、4大陸での全てのクエストをこなし、南部大陸へ進出。
この時は、イエローマンはじめ、超人たちが一緒に来てくれて、魔王との決戦に向かう事が出来た。
さすがに世界最強の超人が5人も揃うと、魔王でさえも一瞬で倒すことができた。
あまりのあっけなさに、長い時間をかけて特訓を続けて来た意味がないと、嘆いたものだった。
そうして、いよいよ魔神との対決が始まる。
魔神は魔王城の地下深くに潜んでいた・・・、まるで魔王を倒せるような勇者でなければ、会う必要もないとでも言わんばかりに。
自分と戦う資格のある勇者をスクリーニングする為だけに、魔王が存在するかのごとく、魔王を倒したところで、世界情勢は何も変わることはなかった。
やはり、魔神を倒さなければならないのだ、奴を倒して、ヤンキーパーティやグリーンマンを解放してやらなくてはいけない。
魔王城の地下へと続く長い階段を、ゆっくりとイエローマン達と一緒に降りて行く。
やがて最下層に達し、その先には・・・・
「よくぞ来た、ここへたどり着いたと言う事は、魔王を倒してきたと言う事だな。
それならばよい、少しはわしを楽しませてくれることができるのだろうな・・・。
十分な休息を取り、体力を回復させてから来たか?
ヒーリングゾーンは、すぐそこに置いてあるぞ。」
黒いマントに身を包んだ細身の中年男性が、なぜかこちらの体力までも心配してくれる。
よほどの自信の表れなのだろうか・・・。
『ダッ』イエローマンが、レッドマンが、パープルマンが、ブラウンマンが、そうしてブルーマンが、一斉に5つの方向から同時に魔神に襲い掛かる。
『ズババッババッドドン!』一度にあらゆる方向から攻撃を受け、魔神の体が、あらぬ方向へよじれ、その場に崩れ落ちる。
『ズゴッ、バズッ、ボゴッ、ガツン、バギッ』魔神が倒れ掛かっても、5人の超人たちは攻撃の手を休めない。
少しでも余裕を与えれば、時間を戻される危険性があるからだ。
一気に片を付けようとしているのだろう。
あっちへ飛ばされ、こっちでけりを食らい、魔神の体はさながらピンボールの玉のように、あちらこちらで弾かれ、その度に大きく舞い上がる。
ここでも俺たちの出番はなさそうだ。
攻撃を加えたいのだが、超人たちの邪魔をしそうで参加できない。
『ズゴーンッ』『ベチャッ』蹴り上げられて大きく跳ね上がった体が地面に叩きつけられ、俺の目の前でバウンドする。
今だ・・・、俺はすぐさま一撃剣を抜き、魔神に対して斬り付ける。
『スッパパパパァアーン!』ほとんど手ごたえもないまま、魔神の体を胴体から真っ二つに切り裂いた。
魔神の体は、そのまま血の海に沈んだ。
あまりのあっけなさに、俺自身が茫然とその場を動けないでいた。
「ついにやりましたね、これで地球に帰れます。」
源五郎がやってきて、小躍りしながら喜んでいる。
そうなのだ、魔神を倒して、これで時間を戻して地球に変えることができるのだ・・・・。
翌朝目覚めると、そこは繭の様なカプセルの中だった・・・、余りにも久しぶりの景色に、その場の状況が飲み込めずに戸惑う。
帰って来たのだ・・・、地球に・・・というか、元の次元の世界へ・・・。
顔を洗うと、朝食を摂りながらテレビをつける・・・、ふむ・・・予定通り、俺たちが移動した翌日に戻ってきたようだ。
こちらでの時間経過はないため、長い長い夢を見ていたような気分だ。
着替えると駅へ向かい、電車で出勤する。
「チャンチャラチャンチャン、チャンチャンチャン」
『ウィーン、ウィーン』電車の中で着信音が鳴り、携帯のバイブが振動する。
うーんまずい、マナーモードにし忘れたようだ。
「電話鳴っていますよ。」
すぐ横の学生服を着た男の子が、俺に声をかけてくる。
どことなく見たことがあるような感じの子だ・・・・、高校生に知り合いはいないはずだが・・・。
『ウィーン、ウィーン』まいった、しつこい相手の様で、暫く放置していても切りそうにない。
「着信してますよ・・・。」
先ほどの男の子が、心配そうに俺の顔を覗いてくる。
仕方がないだろう、電車の中で携帯電話などマナーに反するから使う訳にはいかない。
『ウィーン、ウィーン』ちっとも鳴りやまない携帯に腹を立てて、どいつからの電話か確かめてやろうと携帯をポケットから取り出して見る。
うん?タンク?・・・誰だっけ?
タンク、タンク・・・タンク!
それよりもまずは、着信音を消さなくては・・・痛っ・・・そうだこれは着信ではない、アラームだ。
アラーム設定しておいて、切るボタンの所に刃を仕込んでおけば、そこに触って目が覚めるかもしれないと・・・。
着信欄には、タンクからの電話しかないから、そう見えるだけだ。
それにしても結構深く突き刺さったようだ・・・、出血がひどいが、そこまで押して初めて痛みを感じたと言う事か・・・、これは夢だ・・・強い幻覚だったようだ。
電車の中の景色が、霧がかかったように段々と薄くなって行き、そうして逆に視界が開けてくる。
俺は、すぐに袋から薬草を取り出すと、親指に当てた。
そりゃそうだ、余りにもことが順調に進み過ぎていた。
日頃から思い描いている、この冒険の終焉のシナリオ通りに・・・。
はあ・・・・、夢だったのか・・・、正夢であってほしいと願いながら、ため息をつく。
目の前の枯れ木を調べると、真ん丸い大きな茸が生っていた。
銅の剣でそいつを根元から切り取ると、袋の中へ。
電話機を仕舞い込み、辺りを見回すと、源五郎が枯れ木にメモ帳を広げながら、一生懸命何かを書いている。
もしかして、学校で授業を受けている幻覚を見ているのかも知れない。
レイは・・というと、倒木に腰かけて・・・、左手のひらを上に向け軽く指を曲げて丸いものを掴んでいるようなかたちで、右手は口の傍で忙しく回転運動をしている様子。
そうだ、焦ってご飯を掻き込んでいるような仕草・・・。
「ちょっとお母さん・・・、どうして起こしてくれなかったのよ・・・遅刻しちゃうじゃない・・・。」
時折横を向いては、ぶちぶち文句を言う・・・、どうやら、朝の食卓の風景の様子だ。
ツバサはというと、うろうろと歩き回り、夢見心地な瞳のまま、きょろきょろと周囲を見回している様だ。
「へえ・・・、きれい・・・。」
どこか、あこがれの地でも観光しているのだろうか。
皆それぞれの、叶えたい夢や希望を見ながら、その顔にはやさしい笑顔を浮かべている。
「レイ!しっかりしろ、幻覚に惑わされるな!」
ずっと見ているのは失礼にあたるだろうし、アラームを止めようとして、指先を怪我するのを黙って見ている訳にもいかないので、レイの腰かけている枯れ木から丸々と太った笑顔茸を切り取って袋に入れると、彼女の頬をピチャピチャと軽く叩いて目を覚まさせる。
「うっ・・・うーん、大変・・・電車の時間が・・・。」
うーん、これから出勤の様ね・・・。
「はっ・・・、あれ?元の世界は?
長い旅の果てに、魔王に続いてようやく魔神まで倒して、地球に戻ったのよ・・・、それなのにまた眠ってしまったのかしら・・・、じゃあいいわ、もう一度眠れば、また向こうで目を覚ますかも・・。」
薄目を開けたレイが、そう呟きながらもう一度目を閉じる。
「まだ、元の次元へは帰れていないよ。
まあ、ちょっとの間だったが、懐かしい景色が見られて、幸せだっただろ?
いい加減目を覚ましてくれ。」
そう言いながらレイの両肩を掴んで、揺り動かす。
「ええっ・・・、そうなの・・・?残念・・・・。」
レイは至極がっかりした様子で、そのままうな垂れてしまった。
やはり普段は平気な振りをしているが、こんな世界に取り残されてしまったことを後悔しているのだろうか。
その後、源五郎を起こし、振り向くと、レイは未だにうなだれたままだ。
仕方がないので、ツバサも俺が起こしてやる。
「はっ・・・、あれ?ここは地球の日本という国ではないのですか?」
ツバサが目を覚まして、きょろきょろと不思議そうに周りを見回す。
どうやら、彼女のあこがれの地は、地球のようだ。
「奇しくも全員、地球に帰還した夢を見ていたようだね。
まあ、今見た夢が、現実のものになるよう、頑張って冒険を続けようじゃないか。
じゃあ、これで闘技会参加のためのクエストはすべて終了した、引き上げるとしよう。」
全員が、ショックを隠せない様子なので、少しでも元気づけようと声を掛ける。
癒しの原から癒しの森を経由して中継車に戻る。
既に夕方になっていたので、放送のための編集作業もあるため、今日の所はここで野宿だ。
朝片づけたテントを、また張ることになった。
そうして、本日の放送内容は、まさに赤面ものだった。
「あっ、リーダー・・・、また着ているものを脱いで、温泉モードですよ。」
源五郎が、笑い転げながらテレビ画面に映る俺の様子を指さす。
なにせ、2回も引っかかってしまったからなあ・・・。
「いやあ・・・、温泉大好きだからね・・・。」
そう言いながら頭を掻く・・・、実は大好きなものは別にあったのだが・・・。
「ああっ・・・、あたしって、こんなにまぬけな顔をして映っていたの?
何も、こんなシーンを使わなくたって・・・。」
レイが幻覚に引っかかっているシーンが映し出されると、耳たぶまで真っ赤にして頬を膨らませる。
なにせ、本人の目の前には其々のシーンが見えているのだろうが、映像上はただの1人芝居でしかない。
しかも、本日分は魔物との戦闘シーンもほとんどなかったため、俺たちが幻覚に惑わされている場面がふんだんに使われているのだ。
これはもう・・・、罰ゲームとしか言いようがないくらいに恥ずかしい。
いつもよりも3倍は長く感じた放送が終わり、お祈りの時間が来ると、元の次元に戻れますようにという願いと共に、本日の放送内容は、すぐにみんな忘れてしまいますようにと付け足して願った。
恐らく我がチームメンバーは同じ願いを付け加えたことだろう。
翌朝、現地を出発して夜にはドラゴンハーバーへ帰って来た。
何にしても、5日近くかかるクエストを4件、わずか3日で終了したことは大きい。
今晩はここに泊まって、明日から下見がてらドラゴンシティとやらに向かおう。
「おお、戻って来たか、丁度いい。海図を返すぞ。
ほうれ・・・、素晴らしいじゃろ。」
ほうれ・・・と言われても、どこがどう変わったのか・・・、全く分からない。
「本当にものを見る目がないのう・・・、ほれ、ここじゃ、ここに竜の瞳が付けてある。」
占い巨乳美女が差し出す海図の閉じ紐には、根付代わりの竜の爪がくくられていたのだが、それと一緒に竜の瞳もくくられている。
いわゆる根付が2つだ、これがどういう意味を?
「竜の瞳というのは、物事の真実をさらけ出す物じゃ。
どうやってもこの瞳を誤魔化す事は出来ん。
この東部大陸には、様々な幻覚を引き起こす動物や植物が存在しているが、この瞳を持っていれば幻覚にかかることはないと言われている。
仮に強い幻覚にかかったとしても、竜の瞳を通してそのものを見れば、真の姿が見通せるのじゃ。
便利グッズじゃろ?」
そう言いながら、海図を丸めて手渡してくれた。
ありゃりゃ・・・・、そうでしたか、内陸でのクエストだから不要だと、海図を預けたままにしておいたのがいけなかったという訳ね・・・。




