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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第8章 四竜の章4 新たなる展開へ
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第103話

                   5

 とりあえず、今日の放送分は映像が溜まったと言う事なので、洞窟を後にして中継車の周りにテントを張る。

 既に放送は始まっていたが、途中から見ることが出来た。


 うーん、洞窟の奥に入ってすぐに俺は鎧も兜も脱ぎ捨てて、中央部にしゃがみこんで気持ちよさそうな顔をしていたのか・・・、その姿はこっけいさを通り越して、気の毒ですらある。

 女性と一緒という事で、パンツははいたまま入浴しようとしたのが幸いした。

 わずかばかりの理性の勝利と言える。


 テロップには安息草の幻覚に惑わされて、露天風呂に入っているつもりでいますと表示されているので、何とか見ていられるが、そこにトシミさんやナガレさんの裸体を思い浮かべていますなんて追記でもされようものなら、レイにぶっ殺されてしまう事だろう。


 危うく、洞窟奥で一生を終えることになる破目だったわけだが、源五郎に救われた。

 いつものようにお祈りをした後、寝袋に潜りこむ。


 ダンジョン以外では魔物に襲われる心配はなさそうという事で、今晩は見張りも立てずに寝るつもりだ。

 寝転がりながら見上げるときれいな星空・・・、という事はなく、夜時間でも太陽は昇っているが、この明るさなら眠れるように体が慣れてきた。



「本日は、癒しの森に生息する、小人象の捕獲に挑もうと考えている。

 丁度癒しの洞窟奥が癒しの森だから、効率よく進んで行くことができる。

 癒しの洞窟脇を少し進むと、うっそうと茂る森に入って行くのだが、そこが癒しの森という訳だ。」


 しかし、小人象っていうのはどんな象だ?

 鼻が長い小人だろうか・・・、手の平象なんていうのが、世界の珍獣百選という番組で紹介されたことがある。

 本当に手の平に乗るような大きさではなく、非常に小さめの象だが、それでも大人くらいの大きさはあった。


 言い伝えではもっと小さな、本当に手の平に乗るような大きさの象も存在すると言う事だったが、真相は不明だ。

 それよりも、手乗りジカという小さな鹿は実在する様で、非情に臆病者でぴょんぴょん飛び跳ねてじっとしていないために、映像で映すことも難しいそうなのだが、実際にその跳ねる姿を見ても確かに小さかった記憶がある。


 そう考えながら山道を歩いて行くと、いた・・・、木立の間を素早く動き回っている小さな影が・・・。

 なんだ・・・・、猿か・・・、と思ったのもつかの間・・・


「ぱおーん」

 とそいつは、象のような鳴き声を上げた。


『タッ、シュタ』『バッ』すぐにツバサが地面を蹴り、木の枝を伝ってその影を追って行く。

『ダダダダッ』こっちも駆け出して、ツバサの行方を追っていく。

 小さな影だが動きは素早く、さすがのツバサも距離を詰めることは出来ない様子だ。


 それでも、木々を伝うよりは地面を走った方が早く、小さな影より少し先行することができた。

『ドーン!』影が飛んだ先にある木に体当たりをかます。

『バサバサバサッ』衝撃でタイミングがずれたのか、枝を蹴ることができずに、木から滑り落ちる。


(よっしゃあ・・)と思ったのも一瞬で、両手を広げて待ち構えている俺の元へ落ちる寸前で、何とか思いとどまってくるりとターンする。

 しかし、その先にはツバサが待ち構えていた。


「小人象・・・、捕まえました。」

 長い鼻をツバサに握りしめられ、捕まった手のひらサイズの小さな象が、4本の短い足をばたつかせる。


 動きは素早いが、魔法攻撃などは出来ない様子だ。

 ツバサが降りてきて、小人象を見せてくれる。

 すると・・・、こんな森の中にも温泉が・・・、しかも裸体の美女が・・・。


「と・・・トシミさん・・・。」

 思わずつぶやきながら、すぐさま鎧も兜も脱ぎ捨てて、温泉へ・・・。


「だー・・・・・リーダ・・・、大丈夫ですか?」

 不意に両肩を掴まれて、揺り動かされる。


「ふあ・・・?」

 ふと見ると、源五郎が心配そうに草地にしゃがみこむ俺の顔を覗き込んでいる。

 またまた幻覚か?そう言えば、小人象も、その目を見ると幻覚に惑わされることがあると、出動前の朝礼で俺が皆に注意を促したばかりだった。


「トシミって誰よ・・・?まさか、青竜の・・・」

 うかつにも口走ってしまったことを、レイに突っ込まれる。


「い・・・いや・・・、とっ・・・トシばあさんさ・・・。

 村木トシっていって、父方のおばあさんに小さい頃温泉に連れていってもらった夢を見ていた。」

 俺は焦って、言い繕う。


「そう・・・、おばあさんね・・・。」

 レイはそれでも疑わしそうに、俺の目の奥の真実を探ろうと、じっと見つめてくる。


 トシばあちゃん、ごめんなさい・・・。

 俺は心の中で、懺悔の言葉を繰り返していた。


 何時までも外に出しておくと、被害者が増えるので、ツバサが小人象を袋の中へと仕舞い込む。

 これで、2件目合計4ポイントだ。



 次は癒しの森の奥に自生する、擬人草の採取・・・か、いやな予感がするな・・・、と思ってクエスト票を確認すると、やはり強い幻覚に惑わされないようにとなっている。

 どうにも今回選択したクエストは、幻覚がらみの物が多いようだ。


 ツバサを先頭に、深い森を進んで行く。

 途中魔物に何度も襲われるが、ほぼ瞬殺で進んで行く。

 すると、森を出てひらけた場所に港町が見えてきた。


「ターリキーの町へようこそ。

 私は、この港の管理組合長のタリンと申します。」

 すぐに、美しい女の人が出迎えてくれた。


 あれ?このシチュエーションはどこかであったような・・・・。

 それに、いま俺たちは東部大陸の中央山脈に来ているはずだ。

 こんなところに港町などあるはずもない。


「どうもこんにちは、僕たちは世界各地を回って、魔物たちを退治して回る冒険の旅をしている者です。

 僕は源五郎と言いまして、この隣の人は僕たちのチームリーダーのサグルさんです。」

 何時になく積極的に源五郎が、出迎えてくれた美女に挨拶を返す。


「どうもこんにちは、サグルと言います。

 そうして、彼女がレイでその隣がツバサと言います。」

 まあでも、一番注意深い源五郎が、挨拶しているのだから大丈夫なのだろう。


「こんなところで立ち話もなんですから、どうぞ中へ。」

 大きなレンガ造りの倉庫脇のプレハブの2階にある事務所へ、タリンさんに連れられて上がって行く。


「粗茶ですけど・・・。」

 そう言いながらタリンさんは日本茶を振る舞ってくれた。


 鼻腔を刺激するいい香りが漂ってくる・・・、うん?おかしいぞ、最初はゲームキャラと考えていたタリンさんだったけど、魔神に歴史が書き換えられただけで、彼女はこの星の住民の線が濃厚なはずだ。


 この星の人であるはずのタリンさんが日本茶なんて・・・、仮にゲームキャラだとしても粗茶ですけどなんて、古臭い言葉を使うはずが・・・。

 これはもしかして、源五郎の好みのタイプのタリンさん絡みで、源五郎の幻覚の中に俺たちも引き込まれていると言う事なのか?


「本当に、美しい人ですよね・・・。」

 源五郎がうっとりとタリンさんを見つめながら、小声で呟く。


 まずいまずい、この幻覚を破る方法はないものか?

 さっき源五郎は、自分で矢先を握りしめて、その痛みで幻覚症状から耐えていた。


 だったら俺は・・・、マグマの剣?・・・いや、マグマの剣を抜いてその刃先を握りしめるなんてことをしたら、恐らく右手は手首から上が無くなってしまうだろう。

 それくらい、この剣の熱は凄まじいものがある。


 うーむ・・・だったら、銅の剣くらいか・・・、これなら切れ味も他の剣に比べて落ちるし・・・、でも、握ると痛そうだな・・・。

 ええい・・・、ままよ・・・、俺は銅の剣を抜いて刃先を握りしめた。


「ちょ・・・ちょっと、リーダー・・・、一体どうしたんですか?」

 事務所のソファーに腰かけていたのに、突然立ち上がって剣を抜いた俺に驚いて、すぐに源五郎が止めに入る。


「ちょっと・・・、どうしたの?タリンさんに失礼よ。」

 レイも一緒に止めに入ってきた。


 痛・・・・、事務所の景色が消え、草むらに座り込む皆の姿が映る。

 源五郎は俺の行動を信じられないと言った顔で、止めようと必死で俺の腕を掴んでくる。


「源五郎・・、源五郎・・・、しっかりしろ。」

 俺は逆に源五郎の手首をつかみ、必死に揺り動かして目を覚まさせそうとする。


「な・・・何を言っているんですか、リーダー・・・?」

 ところが源五郎は、目を覚ますどころか、真剣なまなざして俺の手から銅剣をもぎ取ろうとしている。


 このままではらちが明かない、この幻覚の元を絶たねば・・・、ふと見回すと、太い緑の茎に途中から白い花となっている植物が・・・、みるとその5枚の花びらの様子が、人の頭と両手足の形にそっくりではないか。


 大の字になった人の形に似ているから擬人草という訳か。

 俺は急いでその花を摘み取ろうとする。


「やっ・・・やめてください・・・、タリンさんになんてことをするんですか・・・。」

 ところがすぐに源五郎が間に割って入ってきて、花まで近づけない。

 どうやら彼には、俺がタリンさんに襲い掛かろうとしたように見えている雰囲気だ。


「どっ・・・どうしちゃったの?

 あたしが最近かまってあげないから・・、欲求不満という訳?」

 レイまでもが、源五郎と一緒になって、擬人草を守りに入って来た。


「そうですよ、どうしてしまったのですか?リーダー・・・。」

 更にはツバサまで・・・、擬人草には幻覚で人を操って、自分の身を守らせようとする知恵まで働いているのだろうか・・・、なんにしても厄介だ。


「ご・・・ごめん・・・皆・・・。」

『ドゴッ』俺はそう言いながら、まずはツバサにタックルをかます。


 流石のツバサと言えども、味方の俺から攻撃を受けるなどと予想もしていないから、不意打ちを食らって大きく後方に飛ばされる。

『ズボッ』『バズッ』すかさずレイのみぞおちに左手で一撃喰らわし、更に銅剣の柄で源五郎の脇腹をつく。


「おえっ」

「ぐおっ」

 レイと源五郎がその場に蹲る。


「ぎゃーっ」

 その草を引き抜くとき、人の断末魔の声のような悲鳴を上げる。

 その声を聞いたものは、直ちにその心臓の鼓動が止まる為、必ず耳栓をしてからその草を抜かなければならない・・・、なんていうような草ではなさそうだ。


 悲鳴じみた声は発したものの、擬人草はそのまま抜くことができた。

 すかさず、袋の中に仕舞い込む。


「あいたたたた・・・・あれ?・・・ここは森の中なの・・・、タリンさんはどこ・・・?」

 腹を押さえて蹲っていたレイが、目を覚ました。


「とうっ・・・、あれ?港町が・・・。」

 舞い上がって飛び蹴りをかまそうとしてきたツバサが、寸前で我に返った様子だ。


「うっ・・うーん・・・、ターリキーの港町で、タリンさんとお茶をしていたはずじゃ・・・、リーダー!

 タリンさんに失礼な事をするから、彼女が怒って・・・。」


 源五郎が立ち上がって掴みかかってくる。

 源五郎の幻覚は、まだ完全には覚めてはいないようだ。


「落ち着け源五郎・・・、夢だ!・・・幻覚だよ!」

 俺は源五郎が目を覚ますよう、なるべく大声で耳元に叫ぶ。


「はっ・・・げ・・・幻覚?」

 源五郎がふと我に返ったようで、きょろきょろとあたりを見回す。


 用心深い源五郎までもが、幻覚の餌食に・・・、彼の余りにも強いあこがれの気持ちに、周りに居た俺たちまでもが引き込まれたという事なのだろう。


 うーむ・・・、今回のクエストは、本当に油断ならない様子だ。

 下手をすると、全滅もあり得るぞ。

 とりあえず、結構深い傷となった右手の平に薬草を貼りつける。



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