第102話
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柱へ向かうと、そのうちの1面に、闘技会参加に際しての必須クエストと書かれた一角を見つけた。
なになに、東部大陸北部山脈に生息する、赤鬼の角の採取 1P
東部大陸中央山脈に生息する小人象の捕獲 2P・・・Pというのはなんだ?
柱の掲示を見回すと、10P以上で1チームの参加資格4名分との記載がある。
という事は、おおよそ5〜10件のクエストをこなして初めて、参加資格を得られるという事のようだ。
残っているクエストの達成時間を見ると、どれも5から7日間となっている。
競技会は来週と言っていたから、移動まで考慮すると5日以内でこなす必要性があるだろう。
道理で、他の参加希望チームは、既にクエストをこなしに出発したのだ、こんなところでぐずぐずしている暇はないということだ。
こうしちゃいられない、俺は同じ地域のクエストを10P以上になるように掴み取ると、そのままカウンターへ向かった。
このクエストに関しては、リーダーの到達レベルは関係がない様子だ。
「この、東部大陸中央山脈というのはどこなんだい?」
俺はクエスト票を読み上げながら、いつものテレビスタッフに尋ねてみた。
「ええと・・・、ちょっと待ってくださいね、東部大陸の支局からもらった地図で確認します。」
そう言いながら、テレビスタッフは半分より下側が手書きのような絵が描かれた紙を、じっと見つめる。
普通に印刷された地図半分に、後から手書きで付け足したような感じがする、どうにも胡散臭い代物だ。
「それが東部大陸の地図なのかい?ずいぶんと変わっているねえ。」
テレビ技術と言い、文化レベルは高そうなのだが、その割には印刷物に関しての技術は無いのだろうか。
いや、そうではないはずだ、北部大陸ではちゃんと印刷した地図が売られていた。
「はい、ここ東部大陸の南側では魔物たちが横行しているために正式な測量が行なえないそうです。
その為、概略の海岸線を人が歩き廻って記入して地図を作成しているのです。
ですから、このような地図でも作った人の、命をかけた労力の結晶とも言える、大事な物なのです。」
テレビスタッフは、いつになく真剣な面持ちで答える。
それはそうだろう、半ば命がけで魔物が横行する平原や海岸線を歩き回って、ゲリラ的に地形計測を行って地図にして行ったのだろうから。
そんなこんなも、全ては俺達冒険者たちがこの地にやって来たことに端を発しているのだから、本当に申し訳なくて仕方がない。
早く、この世界を元に戻さなければならないと、改めて痛感させられる。
「ああ、ありました。
この大陸の真ん中にある山脈ですね。
この山脈が大陸を南北に2分しているとも言えます。
ここから、南へ車で半日ほど走ったくらいの距離です。」
ほうそうか、車で半日ともなると結構な距離だな。
道にもよるが百から数百キロくらいは離れているのではないかと想定される。
だからこそ、クエスト期間が5日から7日間なのだろう。
徒歩で行けば、下手をすると片道だけで5日近くはかかるんじゃないのか?
中継車を使えば半日というのだから、これはかなり有利と言えるし、車が使えるのは俺達だけと考えると、姑息な手段と言えなくもないが、事情が事情だけに、あえて姑息な手段を使わせていただこう。
闘技会への切符を手に入れるために、クエストへ向かうのであろう、様々な武器を手に、道中を行進していく冒険者たちを追い抜いて、中継車は南へひた走る。
中には、馬や馬車を使っている者達もいるようだが、やはり車のスピードには敵わない。
既にクエスト票は手に入れているのであるから、早い者勝ちと言った訳ではないのだが、それでも早めに済ませておけば、それだけ有利に事を進められる。
竜王のおひざ元である、この地域には魔物たちがほとんどやってこないと言っていたことは本当の様で、道中魔物に襲われることはなかったし、また魔物が他の人に襲い掛かっている場面に出くわす事もなかった。
そうして、完全にこの大陸を2分しているとも言える、中央山脈に差し掛かった頃には、既に日は翳っていた。
「本日分の放送はどうしようか・・・、道中全く魔物たちに出くわす事がなかったから、放送できることは全くないね。
せいぜい、闘技会へ参加を申し込んだ事くらいしか、伝えることはなさそうだ。」
魔物に出くわす事もなく、順調に目的地へ到達できたことはうれしい限りなのだが、逆に出来事がなさ過ぎて、放送に使える部分が全く存在しない。
「そうですね・・・、ここまで来る途中の風景を流すにしても限界がありますし・・・、このままでは本日分は5分くらいの放送時間で終わってしまいそうです。」
いつものテレビスタッフも、この状況に頭を抱えているようだ。
航海の途中で、魔物たちが出現する回数が少なくなってきた時でも、1日で全く魔物に出くわさないと言う事は、まずなかった。
少なくとも数匹の魔物を相手にしていたのだから、何とかその戦闘シーンで放送を続けていたのだ。
それが全く無いとは・・・。
「あそこに洞窟がありますが、クエスト対象のダンジョンではないでしょうか。
今から行けば放送にぎりぎり間に合いますよ。」
源五郎が、山裾に開いている洞窟を指さす。
おお、これは都合がいい、俺が持ってきたクエストのダンジョンではないかも知れないが、洞窟であれば魔物は存在するだろう。
「よし、ただ移動だけで体もなまってしまうところだから、今日のうちに1件片づけるつもりでやるか。」
俺も、大きく頷く。
早速洞窟へと向かうと、癒しの洞窟と書かれた立札が立っている。
「おお、癒しの洞窟奥に自生する、安息草の採取というクエストがある。
これは都合がいいぞ。」
運がいい事に、丁度持ってきたクエストが発生するダンジョンのようだ。
早速、洞窟内に入って行く。
『ピチャーン・・・ピチャーン』こもった湿気のせいか、水滴が垂れる音が、洞窟内に響き渡っている。
「ずいぶんと湿度が高いようですね。」
ヘッドカメラの脇にあるライトを照らすと、洞窟内は白い蒸気で満ちているようだ。
『ピカッ』突然、俺の鎧の胸の辺りが光り輝く。
水蒸気には、光の航跡が映し出され、その先には白い4つ足の魔物が洞窟の壁にへばりついているのが見える。
どうやら、レーザーこぶヤモリのようだ。
悪魔の尾スペードのレーザー光線ほどの威力はないため、鏡面の鎧に反射してさほどの威力は感じないが、生身の体であれば、ダメージを受けることだろう。
『ダッ』『ズバッ』すぐにダッシュで駆け寄ると、炎の剣で斬り捨てる。
「気を付けろ、ここの魔物はレーザー光線を使うぞ。」
俺はすぐに皆に注意を促す。
雷攻撃も厄介だが、同様にレーザー光線も厄介なものだ。
なにせ、飛び道具として一瞬で相手に到達する為、発射されてからよけようとしても避けられない。
しかも、洞窟内一面真っ白な蒸気に満たされている中での白い魔物、これは危険だ。
「極大真空波!」
『ズバズバズバァアン』レイが唱えると、轟音のような凄まじいまでの大気の振動と共に、洞窟内に満ちていた霧が一瞬で晴れた。
『ボトッ』『ボトッ』同時に、風にも負けずに壁にへばりついていた、レーザーこぶヤモリたちが落ちてくる。
見ると、体中傷まみれになっているようだ。
風に飛ばされないようにしがみつくことは出来たのだろうが、逆に鎌鼬のような真空波で体中を切り裂かれてしまったのだろう。
凄まじいまでの破壊力だ。
ここへきて、レイの魔法力の向上に拍車がかかってきたようにも感じる。
「極大真空波!」
その後も、霧に覆われるたびにレイの魔法で霧を払うとともに、魔物たちを粉砕していく。
やはりと言うか、こぶヤモリの外にはレーザーコロネサソリも居たし、レーザー蝙蝠もやって来たが、レイの魔法の敵ではなかった。
そうして洞窟最深部に到着すると、そこには信じられない光景が・・・
「と・・・・トシミさん?」
そう、洞窟の奥は温泉が湧いていた。
その温泉から出る蒸気が、洞窟内に満ちていたのだろう。
そうして、その温泉の中には、青竜の里で出会った、トシミさんやナガレさんたちが浸かっているではないか。
しかも、温泉なのだから当たり前なのだが、一糸まとわぬ姿で・・・、姉妹共に抜群のプロポーションが目に飛び込んでくる。
こ・・これはいいのだろうか?
この映像が流れても、放送コードには引っかからないだろうか?
本日は放送すべき冒険がなかったから、緊急としてほぼ生放送で、この洞窟内でのクエストを放送しているはずだ。
つまり、編集している暇はなく、そのまま全国にトシミさんたちの美しい裸体が放送されてしまっていることだろう。
うーん・・・、後でビデオを頂かなければ・・・、そう考えながら、このまま突っ立っているのも失礼にあたるのでは?と考え始めた。
そう、美しいご婦人二人は、手招きで俺に誘いをかけてきているのだ。
レイには申し訳ないが、折角の温泉なのだし、一緒につかるくらいなら問題はないのだろう。
すぐに鎧や兜を脱いで、彼女たちの元へ向かう。
洞窟内に掘られた温泉は、いくつもの岩で縁を形作って円形にした、岩風呂の形態だ。
腰から上を湯面から出しているにも関わらず、その形のいい乳房を隠そうともせずに披露してくれているトシミさんは、笑顔のまま俺に手を差し伸べてくれる。
その手に掴まりながら、導きいれられるように岩風呂の中に一歩を踏み出す。
うーん・・・、少し熱いが気持ちのいい泉質だ。
体がポカポカと芯からあったまって来て、気持ちが良くて眠りに誘われる・・・
「・・・だー・・・、リーダー・・・?大丈夫ですか?」
なんだよう・・・、温泉の湯に肩までつかって、気持ちよくなりかけてきたと言うのに・・・、トシミさんがやさしく声をかけてくれるのならともかく・・・、男の声だ・・・。
「リーダー・・・、しっかりしてください。」
無粋な男の声に、ふわふわと宙に浮きかけた気持ちが、地べたに急に引きずりおろされる。
「ふあ・・・?」
薄目を開けると、そこには若い男の姿が・・・
「げ・・・げんごろう・・・?」
「源五郎?じゃないですよ・・・、しっかりしてください。
こいつが原因でしょう。」
『ズボッ』俺の両肩を揺り動かしていた影が、すぐ脇の地面から何かを引き抜いた。
「うん?」
すると視界が開けて・・・、というより、明るかった周りの景色がうす暗いじっとりとした重い空気に変わり、目の前にあったはずの形のいい乳房が、その持ち主であるトシミさんの姿と共に消え失せた。
そうして、俺の隣には植物の根のようなものを握りしめた源五郎の姿が・・・・。
「あれ・・・?」
辺りを見回すと温泉どころか、水たまりもない洞窟の奥で、俺はパンツ一丁で冷たい地面にしゃがみこんでいるではないか。
「このダンジョンに入る前に、安息草はその香りで人を幻覚に誘うから、充分に注意するようにってリーダー自身が言っていたじゃないですか。
だから僕はこうやって・・・。」
源五郎の左手には、矢が握られていた・・・しかも先端を握りしめているから、指先が傷ついて血が滴っている。
そうか、痛みで幻覚に対抗していたのか・・・、それに比べて俺は・・・。
「レイは・・・ツバサは・・・、大丈夫か?」
ひょいひょいと源五郎が指す先には・・・、
腰の高さ程の岩に腰かけて、何か食べるているように両手を忙しく動かしては、口をもぐもぐとしているレイの姿と、洞窟の壁に向かって、蹴りや突きをひたすら繰り返しているツバサの姿があった。
「おい、しっかりしろ!」
『ペチペチ』声をかけても反応がないので、軽くレイの頬を叩いてやる。
「う・・・うん?邪魔しないでよ、今ハリウッドの大スターと、レストランで食事を・・・。」
レイがうっとりとした瞳で宙を見つめている。
「ツバサさん・・・、しっかりして!」
『ポンッ』と後ろからツバサの肩に手を置こうとした途端、ツバサが振り向いて正拳突きを源五郎の顔面に・・・、
(危ないっ!)と思ったら、鼻先寸前でピタッと止まった。
「あれ・・・?源五郎さん・・・?今、レッドマンさんに型を見てもらっていたのですが・・・・」
うーん、引き込まれる幻覚というのは、人それぞれと言ったところか・・・、無意識のうちの願望なんかが現れてくるのだろうな・・・、いかんいかん・・・。
見ると、洞窟最深部の空間には、無数の骨が散らばっている。
恐らく、この洞窟の中に誘い込まれて、気持ちのいい幻覚で夢見心地のまま朽ち果てて行った動物たちの死骸なのだろう。
その死骸の栄養分で生きているのが安息草という訳だ。
光も指さない中で生きながらえるための苦肉の策というところなのだろう。




