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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第1章 始まり
10/213

第10話

                       10

「ようこそ、貸しボート屋です。

 潮干狩りはボートに乗って、南の浅瀬へ行けばできます。

 ぬっしーが生息しているのは、この湖全体ですが、深い中央部分が住処です。」


 すぐに受付嬢が声をかけてきた。

 どうやら、今回のクエストは、ボートを借りなければならないようだ。


「今そこで、賢者のトンネルという看板が付いている建物を見たのだが、どういう建物か知っているかい?」

 俺は、まず先ほどの建物について聞いてみた。


「賢者のトンネルというのは、別の大陸などに行く時に使うと便利なトンネルと聞いています。

 船で何日もかかるような遠くの大陸でも、トンネルを使えば1日かからずに到着できるそうです。

 しかし、使った人の話を聞いたことはありません。


 始まりの村のはるか南にある、封印の塔に潜む魔物が、トンネルの鍵を持っているので、誰も使えないそうです。」

 受付嬢は、長い髪を手で撫でながら答えてくれた。

 肌の色は青黒いが、かなりな美人だ。


「始まりの村の南は、狂暴な魔物が多いから近づかない方がいいと聞いた。

 ところが、この湖へ来る途中でも、大きなトンボや大きなバッタの魔物に襲われた。

 南の方はもっと危険なのかい?」


「始まりの村の南には、近づかない方がいいと思います。

 この湖に居るぬっしーのような強い魔物が、群れて襲ってくると聞いています。」


 受付嬢の話では、今回引き受けたクエストの獲物である、ぬっしークラスが大群で襲ってくるらしい。

 まずは、ぬっしーと戦ってみて、レベル確認をしよう。


「じゃあ、まずはボートを貸してくれ。」

「はい、ボートは1日一人200Gになります。」

「へっ?」

 200Gといえば、今の俺の全財産に等しい。


「あるか?」

 俺は、他の3人の顔を見回した。


 なければ、村へ戻るしかないが、ここへ来るまでにも時間がかかっているので、今日のクエストは村で簡単な仕事をこなすしかなくなるだろう。


「ああ、ぎりぎりだが何とかなる。」

 3人とも、俺と同じくギリギリのようだが、なんとか支払えそうだ。


 ボート代が高いため、報酬がいいという事か。

 俺は、2件選択したことをラッキーと思った。

 これで、ボート代1回ぶん浮くことになる。


 支払いを済ませ、ボートに乗り込む前に、念のため薬草でこれまでの怪我を回復させる。

 なにせクエストを果たせなければ、また200G払わなければならないのだ。


 大バッタの噛みつき攻撃で、結構傷付いていたので、2枚の薬草を必要とした。

 他のメンバーも、同じく傷の手当てを済ませ、チョボは相変わらず弁当だ。


 ボートに乗り込むと、南へ舵を取る。

 まずは名前から見ても弱そうな、まぬけ貝の採取だ。

 しかし、すぐに魔物が襲い掛かって来た。


 ピラニアのような鋭い牙をもち、水面を滑空してくる魚、いわゆる飛びピラニアだ。

 揺れるボートの上では狙いが定まらないのか、源五郎やチョボは苦労していた。

 俺とタンクが盾となり、2人をかばいながら飛びピラニアを片付けて行く。


 そうして、浅瀬へと到着した。

 念のために傷の手当てをしてから、浅瀬へ降りる。

 すぐにフジツボの化け物のような魔物が、襲い掛かって来た。


 尖った先から、にょろにょろの触手のような物を出して、襲い掛かってくる。

 堅い貝殻は矢の攻撃も寄せ付けず、表面が濡れているので、炎の攻撃も効かない。

 勿論、鉄の剣や鉄の爪で攻撃を仕掛けても、触手はすぐに引っ込んでしまい、貝殻の表面に少し傷つけられる程度で、余りダメージはなさそうだ。


「あの触手は厄介だ、毒があるかもしれないし、触手を凍らせられるかい?」

「よし、やってみる。強冷凍(カチ)!」

 ピシッと触手が凍りつく。


 俺はすぐにメガフジツボに近づき、頭頂部から突き出たまま、凍って動けなくなった触手をたたっ切った。

 するとメガフジツボは、そのまま消えてなくなった。

 メガフジツボがいた跡に、鉄の兜と魔法の杖と矢袋と皮の鉢巻が出現した。


「悪いな、ぬっしーの時は、源五郎とタンクが活躍してくれ。」

 そう言うと俺は、鉄の兜に装備し直し、チョボが杖を装備する。

 矢袋には矢が100本入っており、タンクはとりあえず鉢巻を付ける。


 砂地の浅瀬には、たくさんの貝が水を吹いていた。

 人が近づいても逃げるどころか、水を吹いてアピールしているから、まぬけなのか。

 俺たちはその貝を袋に詰めた。


 そうして、薬草で傷の手当てをする。

 既に半分以上も薬草を使ってしまった。

 先行きの不安はあるが、ケチって死んでしまうよりいいだろう。


 飛びピラニアと戦いながら、湖の中央部を目指す。

 すると、水面から巨大な影が近づいて来たかと思うと、いきなり襲いかかってきた。

 いよいよ、ぬっしーかと思われたが違う、全身が鱗で覆われた人間、いわゆる半漁人だ。


 目が大きくギラギラしていて、口は耳まで裂け、するどい牙に加え、水かきのある手の指先にも鋭く長い爪が光っている。

 すぐに俺はボートの縁へ駆け寄り、袈裟がけに切り付ける。


 反対側も襲われ、タンクが相手をする。

 そうしてなんとか湖の中央部に到達して、怪我の治療を終えた時点で、俺の袋の中の薬草は、あと1回分しか残っていなかった。


「ギャース!」

 ボートの下側の水が渦を巻いて回転し、巨大な首長竜が現れた。これがぬっしーか。


「源五郎と、タンク、頼むぞ。

 但し無理はするな、加勢が必要な時は叫んでくれ。」

 俺はそう言って、少し後方に位置を変える。


 タンクは舳先へ取りつくと、ぬっしー目がけて跳躍した。

 源五郎は援護射撃とばかりに、矢を雨のように連射する。

 中には、火矢の攻撃も交じっている。


 ぬっしーはそれでも暴れまくり、尻尾で俺たちが乗っているボートを攻撃して、沈めようとしてくる。

 すかさず俺が剣を振り回し、尻尾をけん制する。

 チョボは遠目から、ぬっしーの目をめがけて炎の玉をぶつけ援護する。

 なかなかチームワークが良くなってきたようだ。


「ギャゥォーン!!」

 体中にハリネズミのように矢を射られ、ぬっしーは大往生して湖に浮かんだ。


 すると、その体の上に鉄の胸当てと鉄下駄と剣の研ぎ券に魔法の薬が乗っていた。

 どうやら鉄の胸当ては源五郎用のようだ。

 俺は研ぎ券を頂く。


 ふと見ると、タンクの姿が見えない。

「タンクはどうした?」

 周りを見回して、胸当てと魔法の薬を受け取っている二人に確認してみた。


「そう言えば、前回から傷の手当てをしていなかったけど、薬草を切らしていたんじゃ。」

 源五郎が不安そうに辺りを見回す。


 とりあえず、後ろへ下がってみると、ボート上に棺桶が現れた。

 タンクは死んでしまったのだろう、仕方がないので鉄下駄は棺桶の上に置いてやった。

 自分の袋へしまうと、交換や贈呈禁止なので、奴の物にはならないからだ。


 奴が前回の記録時点まで戻れば鉄下駄も無効になってしまうが、金が半分になっても継続すれば、鉄下駄は奴のものになるのではないかという、淡い希望がある。

 傷の手当てを終えると俺たちは、ボートにぬっしーの体をロープで括り付け、貸しボート屋まで運んで行った。

 どうやって村まで運んで行こうか考えながら・・・。


 ボート屋でボートを返すと、ぬっしーの姿を見て、ぬっしー捕獲券なるものをくれた。

 これをギルドへ持っていけばいいらしい、巨大な恐竜を運ばなくても済んだので、助かった。

 恐らく、この死体が生き返るとかなんかして、またもやクエストに使われるのではないのか?


 帰り道も、大バッタや極楽とんぼの相手をしながら、俺たち3人は棺桶を引きずりながら村へと帰って行った。

 不思議と、行きより簡単に魔物たちの相手が出来たようだ、慣れて来たのだろうか。

 ギルドへ帰って、受付で清算すると、ファンファーレが鳴った。


「おめでとうございます。

 サグル様、源五郎様、チョボ様、タンク様、XからWへレベルアップされました。」

 いつもの受付嬢が拍手してくれた。


 タンクは死んでしまったために奴次第ではあるが、俺たちはついにWレベルに上がった。

 まあまあ、順調な方だろう。

 報酬を受け取り、武器屋で剣を研ぎに出し、薬草を少し多めに道具屋で購入する。


 これから、ますます魔物は強力になって行く。

 強くはなっているようだが、無傷ではいられないだろう。


「悪いが、治癒魔法を少し教えてくれるか?」

 俺はチョボに、魔法の呪文を聞いておくことにした。


「ああ、ちょっと待ってくれ。

 個人相手に使う初級治癒魔法は、治療(スリ)だ。

 パーティ全体のは、癒しの(サワ)だな。」


 チョボは初級治癒魔法の教本を見ながら教えてくれた。

 ようし、明日から暇な時は治癒魔法の練習をしよう。

 俺は、治癒魔法に経験を振っているから、上達はチョボに比べて遅いかもしれないが、使えるはずだ。


 そうすれば、今日のような事もなくなる。

 魔法であれば、仲間に対しても使えるだろう。

 俺は、アイテムの交換や贈与不可のルールが、うっとおしく思えてきていた。


 まあ、これがなければ、おねだりとか脅迫とか、いじめまがいの冒険者同士の争いに加えて、現実世界で金が動いたりもすることもあるのだろうが・・・。

 とか考えながら、本日の冒険は終了だ。



 週明けに出社すると、また朝会に集められた。

 俺は、加納が何とか発注先を確保して、また部長がはやし立てるのかとうんざりしながらも、起立したまま部長を待つ。


「えー、KD社との契約だが、どうやら加納君が取ってきた金額では利益が出そうもない。

 いや、加納君が悪いというより、一度は締結した契約なのに、メーカーが応じようとしないだけなんだ。

 不可抗力とも言えないこともないのだが、そうはいってもKD社に対して今更できませんという事は言えない。


 莫大な違約金が発生する恐れもある。

 仕方がないので、希望金額を上げて発注先を検討することにする。

 時間がないので、皆も協力してくれ。」


 部長は、いつもと違い元気がなさそうに見えた。

 それはそうだ、KD社との大口契約に関しては、役員たちにも知れ渡っている案件だ。

 ここで失敗しては、部長自身の立場も危うい。


「逆ザヤになってしまいますが、それでもよろしいのですね?」

 俺が念のために確認をする。


「ああ、仕方がない。だが、損金をできるだけ抑えてくれ。」

 逆ザヤというのは、売値よりも仕入れ値の方が高いことを言う。

 つまり損をするわけだが、損金をできるだけ抑えろと言う事だ。


「判りました、私も当たって見ます。

 そして、今回の損金分は、加納の営業成績からマイナスするという事でよろしいですね?」

 ここでさらに付け加えておく必要があった。


 わが社では売り上げより利益重視だ。

 その為、残業などはサービス化してしまうきらいがあるのだが、利益どころかマイナスになった場合は、その個人の業績から差っ引いて評価してくれなければ、頑張っている我々が持たない。


「ああ、損金に関しては・・・全額を業績に入れるかどうか検討中だが、ありうるよ。」

 全額そのまま評価に加えてくださいよ・・・そうすれば、この馬鹿野郎も気づくでしょうに・・・。


「では、よろしくお願いします。」

 そうして、朝会は終了した。


 加納は相変わらず仏頂面だ。

 しかし、先週何もしていないのに、すぐにギブアップ宣言とは・・・、本当に何も努力するつもりがないと言ったところか。


 俺は、メーカー宛に見積もりの打診をしたが、とりあえず加納には黙っておいた。

 そうして、実はそれほど用事もなかったが、得意先回りをすると言って外出することにした。

 加納の後始末をするのは、本当に危なくなってからの方がいい薬になる。

 定時ちょい過ぎに帰社後、伝票をまとめて帰宅した。



 ランクも上がったので、北の港町へ向かって見ようか・・・、いい加減、西方面で1週間経験を積むなんて事をしなくても、そろそろ大丈夫だろう。

 冒険の項目で、行き先を北の港町に設定する。


 その他の項目は、成り行きで良いだろう。

 毎晩お決まりの弁当による晩飯もそこそこに、ゲーム機に横たわる。



 気が付くと、いつものギルドの中に俺は立っている。

 隣には源五郎とチョボに加えて、タンクの姿もある。


「よう、どうした?リセットしたのか?」

 俺は、タンクに死んでからの事を聞いてみた。


「いや、どうせボートを借りた時点で10Gも残ってやしなかった。

 それなら金が半分になったって、冒険報酬をもらったほうが得だと判断して、継続にしたのだが、持っていた金だけじゃなくて、ギルドで貰うべき冒険報酬も半分になるんだな。


 まあ、それでも得していたが、今後はその辺りも考慮しなけりゃならん。」

 タンクはそう言って、難しい顔をした。


 それはそうだ、持ち金がほぼ0なら半分になったところで惜しくもないが、あとで受け取る冒険報酬まで半分になってしまうとはな。

 一応、戦うたびに金も稼いでいるという事になるのだろう。

 ただ、死んだ後に倒したクエストの報酬はもらえないので、タンクの場合は運が良かった方だと思う。


「鉄下駄はありがとうね、生き返ったら手に持っていたよ。

 金は少なくなったが、薬草くらいなら大量に買えそうだ。」

 タンクも、さほど不満はなさそうだ。


「さて、レベルも上がったことだし、北の港町へ行ってみたいと考えるがどうだい?

 南に関しては、賢者のトンネルの鍵も気にはなるが、ぬっしーのような奴が群れをなしているんじゃあ、まだまだ敵わないだろう。

 全滅したら、アイテムどころかクエストの報酬ももらえなくなるから大損だ。


 まずは北へ行きたい。

 クエストがあれば、そのついででもいいが、クエストがなくても行きたいと思うがどうだろう。」

 俺は、考えていたことを皆に告げる。


「僕も北の港町へ、そろそろ行ってみたいと思っていました。」

 源五郎はすぐに賛成してくれた。


「ああ、俺は構わないよ。」

「僕も、それでいいよ。」

 全員が賛成してくれた、このチームは非常にやり易い。



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