その少女、華のように散る
一日遅れました。(´・_・`)
学園の輪郭が徐々にはっきりと見えてきた頃に、ようやく私たちは外壁の門、つまり街の入り口にたどり着いた。
『外壁』とは、学園を取り囲むようにして発展している街の外側をぐるりと囲む、防護壁である。
私の世界から紛れ混んだ人間、つまり侵略者を入れないようにするための措置であり、街と学園の安全性を高めるための予防策とも言える。
街の入り口には門番が一人、何らかの人型の機械と共に、私たちを待ち構えていた。
門は頑丈そうな格子状の檻みたいなつくりとなっており、まるでこれから自分が投獄されるような、そんな気分にさせられる。
「IDカードの提示をお願いします。」
事前に渡されていたカードを門番に手渡す。
門番はそのカードを機械に通し、確認したのち、
「はい、コード0103AA確認しました。」
と義務的な台詞をつけて、返された。
カードを見ると、さっきまで赤かった名前の表記の部分が、黒くそまっていた。銀色のプレートみたいなカードに、赤色は妙だな、と思っていたが、ようやく納得がいった。
私の後ろに並んでいた少女も、門番にカードを提示し、私たちは何事もなく街に入ることが出来た。
街をぐるりと見渡すと、なかなかに活気が溢れていて、昔、一度だけバーチャルで行ったことがあるお祭り、というものの存在を思い出し、虚しくなる。
アレでは終わった途端に全てが一瞬にして消え去ったが、この世界は現実だから、そんなことにはならないんだろうって事が、凄いことだと思える。
街では家屋が綺麗に整列しており、私が今歩いている道は横幅が広く、メインストリートだと思われる。道行く人々は、みんな幸せそうな笑顔を浮かべていたり、楽しそうに遊んでいたり、様々な表情を浮かべ、思い思いに過ごしているのだと、わかった。
分かっているのだ。ここと、私の世界は永遠に平行線を辿り、決して交わらないのだということは。でも、それでも、理解していても、胸に巣食うこの感情は、なんだろうか?
わけがわからない動悸と息切れを耐えながら、私は相変わらず前を歩いている少女についていく。前に見える大きな建物が、きっと学園だ。
着くまでに、この動悸は収まってくれるだろうか、なんて思いながら、私たちは学園に向かって、ただひたすらに歩き続けた。
学園の門は、またもや頑丈そうな柵みたいだった。中から人が歩いてくるのが、見える。おそらく監視カメラの映像でも見ていたのだろう。
歩いてきたのは男だった。肩までで切り揃えられたサラサラした黒髪が、風で揺れている。顔は鼻筋が通っており、一見すると中性的な美形、という感じだ。
その男は、機械を操作し門を開けると、
「ようこそ、学園へ。君が転校生の、0103AA、かな?」
おそらく、IDのコードのことだ。
私の名前は、****だが、彼らにはきっと理解できない言語、もう今となっては絶滅した言語だから、名前なし、とされているのだろう。
「んー、君の名前は、記載によると判定不能、ってなってるけど、どうする?」
どうする?とは、どういうことだ?
「名前が欲しいか、ってコト。んー、僕としてはコードのままでも構わないって思ったんだけど、あいつらが、個人情報をむやみに漏らす事は許されない、って言うからさー…」
名前、は、欲しい。みんなが名前で呼ばれているとしたら、私だけコードだと目立つだろう。
「んー、分かった。じゃあ、僕が君に名前をあげようか。…そうだな、シキ、はどうかな?これ、結構良くない?」
何でも構わない。
「じゃあ、決まりだね。君は今日からシキ。この学園の生徒だ。
…入ってもいいよ、って言いたいところだけど、その前に、その、後ろにいる少女は誰かな?」
私はびっくりして、思わず少女を振り返った。少女は、学園の生徒じゃなかったのだろうか?
少女の顔は半分以上覆い隠されていて、その表情を伺うことは不可能なのに、何となくは少女が考えていることが理解できる。今となってはそれが私にはすごく奇妙なことに思えてきて、少女が実は私を騙していたという情報は、思ったより私を動揺させているのだと実感した。
だが、少女は学園の関係者であることは正しいのだろう。私が何となく、少女から、確固たる自信が感じられたということが、本当に少女の感情であれば、の話だが。
難しく考えるのは、まだよそう。
重要なのは、少女が何者であるかということだ。
「んー、僕は見たこともないけど、どうなんだろう?
入れてもいいかな?あいつらに聞きたくても、さっきから回線が繋がらないんだよね、面倒くさいな。
んー、じゃあ、ココは僕の独断と偏見により決定が下されることになりました。何となく、一般市民っぽくないし、面倒な匂いがするので、この学園には入れませーん。」
男は、早口で、そうまくし立てると、さっきまで手にしていた小型の機械を放り投げ、パチパチ、と手を鳴らした。
「ですが、特別に、特別な僕からの、特別措置をあげましょう。有難く受け取りなさい。
はい、爆ぜろ。」
瞬間、私の視界に先程まで映っていた少女は、パーンッと大きな音を立てて、少女からトマトみたいな赤いものが、弾け飛んで、消えた。