おかしな少女を餌付けする
まだチート感が出ないし、学園にすらたどり着いてないため、面白みに欠けるかも…(´・_・`)
くれ、と言われて、頭を上げると、其処には少女がいた。
「え、じゃあ、あげるよ。」
そう言った私は、拾い上げたパンをそのまま少女に手渡した。
少女はそれを大切そうに受け取った後、小さく、ありがとう、と呟いてから食べ始めた。
あげるよ、なんて思わずそんな言葉が口から出て渡してしまったが、実際のところ、あげようとは思っていなかった。
衛生面では最悪な上に、ひしゃげてクリームがとびだし、ちょっとグロテスクな感じになっているパンを人様にあげるのは如何なものかと、躊躇したからだ。
本当に、思わず、渡してしまった。
少女を見て、その姿に少しびっくりしたからなのかもしれない。
目につくのは、顔の半分を覆い隠している白いマスク。私の世界で一般的な特殊マスクではなく、薄っぺらくて、何の役にも立ちそうにない変なマスクだ。
マスクだと知っているのは、またもや先生から聞いたことがあるからだったが、実物を見たのはコレが初めてだった。
隠れていても分かる綺麗な顔立ちに、ふわふわしてて、緩いカールになっている、薄いピンク色の髪ーーーまるで、教科書に載っている写真で見た、桜を連想させるような、綺麗で淡い色合いに、強く心を惹かれた。
身長は私より高く、おおよそ170センチはあるだろう。
自分の身長が150センチで低いため、前に立たれると、少し威圧されているような気がして、なんとなく落ち着かない。
私の前に立つ少女は、チマチマと、小動物みたいにパンを食べている。
よっぽどお腹が空いていたのだろうか。私の、観察するような、不躾な視線など気にも留めず、無我夢中、といった感じでパンをだだひたすら食べている。
ああ、おかしいな。
私の世界と違って、この世界は食糧難など、ないはずだ。
能力によるカーストはあるものの、この世界に住めている時点で、飢えや貧困に悩まされることはない、と保証されているようなものだからだ。
その、保証されているはずの世界で、飢えを抱えたまま、こんな外壁の外側、言わば私の世界との中間地点のようなところに、少女が、必要のないマスクをして、一人で居ただって?
怪しい。怪しすぎる。
いや、というより、面倒ごとの予感が、すごくする。ひしひしと、まだ門をくぐってすらないのに、面倒ごとに巻き込まれている気がしてきて、思わず頭を抱えてのたうち回りたくなった。
あれだけ幼馴染には注意されたというのに、私も懲りない奴である。
気がつくと、少女はパンを食べ終えていて、私の方をじーっ、と見つめていた。
「あ、えーと、君は、学園の人かなぁ?」
こくり、と少女は小さく頷く。
「あー、じゃあ、案内してもらえるかな?」
またもや、こくり、と頷く少女。
どちらにせよ、私にはこの少女に案内を頼むしか方法は無いのである。
トンネルを出たはいいものの、外壁から内側の世界の情報は完全に秘匿されていて、私の世界の人間は、内情を少ししか知らないのだから、入っても、わからないことだらけだ。
もしかしたら、この少女が、学園からの迎えだったりして、と思ったりしながら、外壁に向かって歩き始めた少女の背中を追いかけようと、私も歩き始めた。