番外編:五年後
「エリー、買い物これで終わり?」
「うーん…よしオッケーね」
「今年もエリーがつくってくれるんだよね?」
「も、もちろんよ。楽しみにしててよ」
「…エリーの料理。楽しみにしとくね」
「ま、任せなさい」
「うん、ものすごく期待して待ってるね」
今日で『あの日』からちょうど五年。
あの日からいろいろ変わった。
私も、コウノスケも、世間も。
あの日から約二年と半年後に国王が逝去。次期国王へと変わった。
次期国王は国王の位へ就くとすぐさま魔女への差別意識をより一層取り除くことに努めた。
『同じ人間がなぜ同等に扱われないのか』という国王自身の演説は大勢の国民の考えを変えたらしい。
結果、魔女への差別意識はさらに薄れ、ほとんど残ってない…とコウノスケが興奮して鼻を鳴らしながら教えてくれた。
今、私がこんな風に町で買い物できるのもその国王さんのおかげ。いやはや国王さんへは感謝の気持ちでいっぱいだ。
それで私だが、あの日から魔法についてさらに勉強を重ね、なんとか一般魔法全般を扱えるようになった。
しかし、一度コウノスケに覚えたての魔法を掛けようとしたとき、呪文を間違え髪の毛がアフロになったのには笑ったもんだ。
そしてコウノスケ。彼は今も現在私の館に住み、私をそばで支えてくれている。
そうそう、現在はもう師匠さんに認められ独立。町の2トップと言われるまでになっている。
「ねぇ、エリーこのパン買っていかなくていいの?」
「あ、それ忘れてた。ありがとうコウノスケ」
ちなみに冒頭で言った『あの日』とはもちろん『じいやの亡くなった日』のことだ。
じいやが死んでしまって一年目や二年目は苦しかった。
命日が近くなるにつれて『あの日』のことを夢に見た。
私が魔法に失敗し、じいやが亡くなってしまうあの日を、鮮明に細かく夢で見た。
そんな悪夢にうなされている私を、コウノスケはいつも起こしに来て「大丈夫だよ」と私に言ってくれた。
その、「大丈夫だよ」がどれほど心の支えになっていたのかは計り知れない。
おかげで最近ではそんな夢を見る事も減っていき、少しづつながらもじいやの命日を笑顔で迎えられるようになってきた。
「今度こそオッケーね。さ、帰りましょ」
「うん、帰ろうっか」
館に帰り着いた私はキッチンへ、コウノスケは図書館へと向かった。
普段ならキッチンへ行くのはコウノスケで、図書館に向かうのは私である。
そう普段なら。
今日だけ、じいやの命日だけ私が料理をする。
じいやが毎日作ってくれた絶品料理。
今度は私が天国のじいやに向けて絶品料理を送るのだ。
これを始めたのは三年前。コウノスケの提案である。
しかし、普段から料理をしない私はじいやの様にはできなかった。
黒い、臭う、固いの三要素を含んだ料理が、私が作るようになってから毎年食卓に並んだ。
食べたらお腹を壊すんじゃないかなと、作った当の本人さえも思うほどの出来栄え。
そして、今年もそれは変わらなかった。
おしゃれなテーブルクロスが引かれた木のテーブルの上には先ほど言ったような料理が二人分並んでいる。
しっかり本を見ながら作っているんだけどな…。
今年も例年と変わらない結果に肩を落としていると、コウノスケが勢いよく料理を口の中駈け込ませた。
そして、「おいしいよ」と笑ってくれるのだった。
コウノスケの優しさは今もずっと変わらない。
私も口の中に料理を放り込む。
苦い。口の中がある意味なにかのパーティー会場のようだ。
あー、明日も毎年と同じように腹を壊すんだろうなー、と少し涙目の私が思う。
黒焦げの料理をたっぷり堪能し、時刻は九時。
後片付けも終わり、しばしリラックスタイムに浸っていた。
「エリー、もうそろそろ行く?」
「うーん、そうね。あまり遅いと危ないし」
私とコウノスケは少し出かける用意をして、手をつないで館を出た。
といっても、三分程度で着く場所に行くだけだ。
すっかり手をつなぐこと(しかも恋人繋ぎ)にも慣れている私にとって違和感なんてものはない。
着いた場所、それはお墓。
じいやのお墓だ。
この下ではコウノスケが一生懸命作ってくれた棺の中で、今も静かにじいやが眠っていることだろう。
「じいや、もう五年なんだね。あっという間だなぁ。今でもじいやの顔をはっきりと覚えているよ」
「じいさん、エリーは僕がいかなるときでも守ってるよ。もうエリーを泣かせたりしないからね。だからさ、安心して眠ってて」
どうか天国で元気に暮らしてください。
きっとじいやは料理がうまいから、もててるんだろうな。
私もコウノスケと一緒に元気で暮らしていくからね。
数分の間黙とうをささげ、目を開いた。
「まだここにいる?」
「いや、もう戻ろっ。じいやもきっと静かに眠っていたいだろうし」
そう言ってお墓を後にした。
帰ってきてしばらくコウノスケと話してて、もう寝ようかと言い始めたとき。
コウノスケが急に話題を切って
「ねぇ、エリー」
と言ってきた。
「うん?なに?」
「そろそろさ、子どもでもほしいね」
!?急な発言に私は脳内がまっ白に染まる。
い、今なんて言った?
た、確かこ、子どもって言ったよ、様な気がするんだけど。
こいつの突飛な発言には慣れたつもりだったがそんなことはなかったらしい。
どう対応したらいいのかわからず、ふとコウノスケの方を見ると、いたずらな笑みを浮かべているのが分かった。
その時私は気づいた。
『あっ、遊ばれた』
私がその後、赤面しながら怒鳴ったのは言うまでもない。
~end~
番外編:五年後 はいかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?
これは、ただの日常を描きたかったという作者の願望が形になったものです。
そのためかなり書くのが難しかったです。
その分、個人的満足いく仕上がりにはなりました。
番外編までご愛読していただき、ありがとうございました。