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世間がどう思っても僕は

 コウノスケと二人、森の中を歩くこと三十分。

 ようやく森を抜け、町に入った。


「ここが…町」


「そうだよエリー。ほら行こう」


 町は私が想像していたよりも大きく、広く、壮大であった。

 見たことのないようなもので町は覆い尽くされている。

 いっぱいの屋根、いっぱいの店、いっぱいのもの。そして、いっぱいの人。

 コウノスケが言うにはこれはいつもの3分の1もいないらしいが、私はこの人数でも充分人がいるように感じる。

 少しでもよそ見をしていたらコウノスケと離れてしまいそうだと思ったとき、コウノスケに私の右手を握られた。


「コ、コウノスケ?」


「こうしたらはぐれなくて済むね。」


 彼は笑顔で私にそう言った。

 私は少し赤くなりながらも、別に嫌な気がしなかったのでそのままおとなしく手を握り返す。

 コウノスケの手のひらは温かく、握っているだけで気持ちがよかった。

 そんなことを思っていると横から豪勢な声が聞こえてきた。


「よう、コウノスケ!どうだい?今日もできたてだよ!」


 コウノスケと私はその声につられ、声の聞こえてきた方を見る。

 そこにはおそらく声の主だろう男が、パンが並べられているショーケースの奥に立っていた。

 どうやら、パンを売る人のようだ。

 私よりもはるかに大きい。コウノスケと比べてもその男はかなり大きく見える。

 いかにもあの豪勢な声はこの人が出したのだろうな思える。


「よう、おっちゃん。どう?客少ないみたいだけど。」


「どう?やないで。舞踏会のせいでお客さんなんか全然こうへんがな。」


「まぁ、なにせ舞踏会がある日は朝から城を開放し、無償で飲み物や食べ物を提供してくれるんだもんな」


 会話を聞いている以上二人は中々仲が良いみたいだ。

 それにしても舞踏会がある日はそんなことがあったのか。そういえば最近王様の支持率が下がっているとコウノスケから聞いたような、聞いてないような。


「それにしてもさっきから手繋いでる嬢ちゃんはなんだい?右手に奇妙な形のアザがあるけど…」


 その男の人の言葉にギョッとした。

 そうだ私、魔法をかけていない。右手の甲のアザが丸見えだ。

 私は、コウノスケと繋いでた手を無理やり払いほどき、左手で右手の甲を隠した。

 コウノスケは突然手をほどかれたことに驚いていたのこっちを見た。

 店の男はその様子を見て、すまなそうな顔をしている。


「す、すまん嬢ちゃん、そのアザ気にしてたんだな。こ、これやるからさ、そう落ち込まんといてくれや」


 男が一つのパンを差し出してきたので、私は左手でそれを受け取った。

 コウノスケが男にもういくね、という事を伝え、私を気遣いながらパン屋を後にした。


「ご、ごめんねコウノスケ。私のせいで…」


「いいんだよ、エリー。それよりそのアザをどうにかしないとね」


 コウノスケはいつも私のことを第一に考えてくれる。

 どうして、コウノスケはこんな私といてくれるんだろう。


「大丈夫、このアザを消す方法ならあるから…」


 そういって貰ったパンをコウノスケに渡し、左手の人差し指で右手の甲のアザがすっぽり入るように円を描く。

 そして集中。この時間が一番大事。ここでしくじると無駄に魔力と体力を使うことになる。

 一定以上魔力を貯めたら、円の中が光り輝く。そのタイミングで呪文を唱える。

 すると見事、右手のアザは跡形もなく消え去った。


「おおー、魔法ってすごいね」


 隣で見ていたコウノスケが声を上げる。

 そういえば見せたことなかったっけ、魔法。


「うん?なんかパンが欠けていない?」


 ふと、彼が持っているパンに視線を下すと、確かに私が渡す前のパンからちょうど一口分欠けていた。

 その言葉にビクッとして明らかさまに目線をそらした。

 …分かりやすすぎる。


「えへへ、ごめん。お腹がすいてたからつい…」


「別にいいけど、食べたきゃ食べてもいいよ」


「えー本当に!?ありがとう!」


 そう言うと、コウノスケはパンに思いっきりかぶりつき、本当に幸せそうに口をもぐもぐさせている。

 私にはあんたの笑顔の方がよっぽどすごい魔法に思えた。


 それからは特にアクシデントもなくコウノスケと町の中を歩き回った。

 いろんなものを食べたり、いろんなものを見たりしてぐるぐる回った。

 しっかり魔法も一時間おきに掛け直した。

 コウノスケと過ごす時間は何でこんなに楽しいのだろう。

 もっと一緒にいたいとコウノスケといるたびに思うものだ。

 しかし、現実というものは必ず別れを連れてくる。


「もう六時だね。そろそろ帰ろうか」


「…うん」


 本当はもっとコウノスケと町を回りたいが、じいやも心配しているかもしれないし、コウノスケも帰ろうと言っているから私はそれに賛同した。


 帰り道。

 夕日がまぶしく照りつけ、町全体がオレンジ一色に染まり昼間とは違う顔を見せていた。

 

 手をつないで歩く最中コウノスケは「ごめん、少しお手洗いにいってきてもいいかな」と聞いてきたので、「分かった、ここで待ってるね」と返事して、一時だけコウノスケと離れた。

 でも、それがいけなかったのかもしれない。

 私は3人の男三人組の一人とぶつかってしまった。

 私はすぐに謝ったが、向こうの気分を悪くしてしてしまったようでこちらを鋭く睨みつけてきた。


「おい、どこ見て歩いとんねん」


「おい、いいじゃねえか。謝ってくれてんだからさ」


「ほれ、落ち着けって」


「いいや、俺は頭に来たね。どうしても許してほしければ、今日の夜付き合ってくれや」


「うっわー、そいうの無いわー」


 私は喋りとおす男三人組の前で固まっていた。

 どうしよう、どうすればいいんだろ。

 私が思考を巡らせている間、突然右腕をつかまれた。


「まぁ、いいからこいよ。可愛がってやっからさ~」


 やだ、怖い。

 どうしよう。

 行きたくない。

 

 私は必死に抵抗すべく暴れた。

 そのとき、右手の甲が一人の男に触れてしまった。

 「あっ」と声を漏らしたときにはもうアザが完全に見えていた。


「うん?うっわ、こいつ魔女だ。急いでその手はなしな。殺されちまうぞ」


「え?マジで。やっば魔女とか最悪」


「何で魔女がこんなとこいんだよ。森の中でひっそり暮らしとけよ」


 ああ、そうだった。

 私は魔女だった。

 世間からこう思われることが普通だったんだ。

 そうだよ、魔女の分際で町に行くとかどうかしてたんだ。

 私は零れ落ちそうになる涙を必死にこらえるように下を向いた。


「ん?おいそこのあんちゃんそいつ魔女だぜ。だから近寄らないほうがいいぞー」


 そんな声を無視するように一人の足音が近づいてくる。

 足が見えた。それは間違いなくコウノスケ。


「エリー、待たせてごめんね。行こ。歩ける?」


 私は耳に馴染んだ低めの透き通るような声に、こらえていたはずの涙がぼろぼろと零れ落ち始めた。

 そのとき、私は体が軽くなるのを感じた。顔を上げるとコウノスケの後頭部が見えた。

 どうやら私はおぶられているらしい。


「お、おい兄ちゃん何してんだ。まさか…」


「ちょっと走るね。しっかり捕まっていてね」


 男の言葉を聞き終わらないうちにコウノスケは走り出した。

 コウノスケは風を切っていくほど速く、周りの風景が川のように流れていく。しっかり捕まっていないと振り落とされそうだ。

 コウノスケはそのまま休むことなく、森を突っ切り森の奥の館まで走りぬいた。

 コウノスケは私をそっとその場に降ろし、ジッと私を見つめて口を開いた。


「エリー、周りが…世間がどう思っても僕はエリーのことが好きだからね」


 突然。それは本当に突然。何を言われたか一瞬分からなかった。

 その後、文の意味は分かるも理解ができなかった。

 とにかくこの場から離れ、冷静に考えたいと思った脳は自然とコウノスケに曖昧な返事をし、館の戸に手をかけていた。

 コウノスケはそれに対してどう思ったのか分からなかったが、今来た元の道をたどり帰ろうと後ろを向いた。

 

 とりあえず、自室でゆっくり考えよう。そう思った。

 しかし、現実はそうはならなかった。

 館の戸を開けると、真っ先に私の目に飛び込んできたもの。

 それは倒れたじいやの姿だった。

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