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さぁ、行こうか

 次の日。

 私はいつもより一時間も早く目を覚ました。

 時計の針は六時ちょうどを指している。窓からは優しい朝日の光が入り、部屋を幻想的に照らしだしている。

 昨日の夜、私はコウノスケが帰った後すぐに自室のベッドに入ったのだが、一向に眠れず結局眠ったのは十二時である。

 にもかかわらずこんなにも早く目が覚めるというのは、私の脳がどれほどコウノスケとのお出かけを楽しみにしているかを物語っている。

 我ながら単純なものだと呆れてくる。


 さて、早起きしたのはいいが、コウノスケとのお出かけは昼からだし、たいしてすることもない。

 しいて言えば読書ぐらいだが、今はそんな気分でもないし…。

 どうしたものかと悩んでいると、ふと昨日コウノスケに貰った紙袋に目が留まった。

 そうだ、試しに昨日貰ったワンピースだけでも着てみよう。

 私は紙袋の中から新品のワンピースを取り出した。じっくり見てみれば見るほど高そうな代物だ。

 真っ白なワンピースには汚れ一つなく、肌触りはウサギの毛皮のように心地よい。

 早速寝巻を脱ぎ、慎重にワンピースを着ていく。

 何とか最後まで着た私は姿見の前に立って自分を見た。

 

 そこには、さっきまでの寝巻姿とは違う、真っ白なワンピースを身にまとった白髪で青い目の右手に星形のアザを作った15,16ぐらいの少女が立っていた。

 それは間違いなく私なんだが、何だか私に見えなかった。

 服だけでこんなにも人の印象を変えれるのかと、普段同じローブと寝巻だけを着ていた私が思った。

 うう…今日こんな格好で外の世界を出歩くというのか…。

 着慣れない服と見慣れない自分をみて少し恥ずかしくなってくる。

 とにかくこれはもう脱ごう。こんな格好をしていたら落ち着かない。

 私は手早にワンピースを脱ぎ、紙袋にきれいに畳んで入れた。

 そして、いつものローブ姿に着替えた。

 うむ、やはりこれが落ち着く。

 おしゃれなんかに興味を一切持たなかった少女の末路である。


 さて、気がつけば時刻は六時半。

 少し早いが、じいやのことだ。頼めば朝食ぐらいすぐに作ってくれるだろう。

 私は自室を出て図書館へと入った。

 そこには静かに本を読んでいるじいやの姿があった。

 じいやはこちらに気がつくと読んでいた本を閉じ、私に話しかけてきた。


「おやおやお嬢様、お早いお目覚めですね。何せ今日はコウノスケ殿とお出かけのご予定ですものな。」


「べ、別にコウノスケは関係ないわよ。ただ少し早めに目が覚めただけ。そんなことより朝食の準備をしてくれないかしら。お腹がすいてしょうがないの。」


 なんてことを言うかなこのじいさんは。

 でも、私がコウノスケとのお出かけを楽しみにしているのは事実そのものなので、悔しいが否定しようにも否定できない。


「朝食でございますね。ただいまご用意いたしますのでしばしお待ちくださいませ。」


 そういうと、じいやは図書館から出て行った。

 心なしか、いつもにこやかなじいやがより一層笑っている…いや、ニヤついている気がした。

 完全に胸の内を読まれている。私は心の中で覚えておきなさいよ、と呟いた。


 それから十分もしないうちに、図書館の一角に設置されている木のテーブルには美味しそうな朝食が並べられた。

 出来立ての鮮やかな黄色のスクランブルエッグ、パリッとしていそうなソーセージ、みずみずしい野菜たちのサラダ、いい感じにほのかに茶色く焦げ目のついたトースト。

 見た目と言い、においと言い、最高に美味しそうだ。

 私は早速一枚目のトーストにバターを塗り始める。まだ温かいトーストに乗せたバターはどんどん溶けていく。

 バター塗り立てのトーストにかぶりつくと、バターの風味が口いっぱいに広がり、さわやかな森の中にいるような気分になってくる。まぁ、この館自身が森の中にあるんだが。


 一流のシェフが作ったような朝食を済ませ、図書館の本棚とにらめっこを開始した。

 やることがない以上、私はやはり本を読むぐらいしかやることが無いのだ。

適当に本を数冊選び、いつの間に片付いている木のテーブルの上に重ねる。

 本を一冊に手に取り、本を読み始める。

 もっとも、本の内容は一つも入ってこなかったが。


 約束の時間30分前。

 長かった。たった4時間前後の時間がまるで一日のように感じられた。

 コウノスケと話しているときは4時間なんて砂のように流れていくというのに。

 しかし、何とか時間をつぶした。

 読みかけの本を置き、着替えるため図書館を後にした。


 自室に入り、紙袋からワンピースを手に取る。

 手に取った瞬間、朝着た時の記憶が鮮明によみがえる。

 そうだ、今度はこの姿でコウノスケの前に出なければならないのだ。

 考えただけでも頭が破裂しそうだ。

 正直言って恥ずかしい。しかし、着なかったらせっかく私にくれたコウノスケに申し訳ない。

 …着るしかないよね。

 私は再びワンピースに着替え、もう一度姿見の前に立つ。

 慣れないものだな…。

 やはり私には似合わないのでは…。

 どこか変なのでは…。

 そもそも、これを着る価値が私にはないのでは…。

 いろいろなマイナスな考えが私の頭の中でグルグルまわりだす。


 そんな時、戸をたたく音が聞こえてきた。


「やぁ、じいさん。あっ、これありがとな。しっかりタッパー洗っといたからな。そうだ、エリーいまどうしてる?」


「お嬢様はただいま自室にてお着換え中でございます。もうしばらくお待ちになってください。」


「良かった、僕のあげた服を気に入ってくれたんだね。」


 も、もうコウノスケが来ちゃった。急がないと…。

 私は慌てて帽子をかぶり、ヒールを取り出して履く。

 自室から出て、コウノスケのもとに急ごうとしたとき、足元に激痛が走り視界が揺れる。

 慣れない靴のせいか足をひねり盛大にぶっこけたのだ。


「エ、エリー大丈夫!?」


 心配してくれたコウノスケが私のそばまで寄ってきてくれた。

 コウノスケの手を借り、私は何とか起き上がる。

 幸いこけたのはカーペットの上であり、怪我らしい怪我も無くすんだ。

 また、じいやがいつも綺麗にしてくれているおかげでワンピースに汚れ等は全くと言ってもいいほどつかなかった。

 でも…死にたい。

 顏からは火が出そうだった。

 恥ずかしすぎる。いい年になってこけるなんて滑稽すぎる。

 私はコウノスケの方をチラッとみると、コウノスケは私のことを笑うどころか、私に怪我がないことを確認するとほっと胸をなでおろしたようだった。

 コウノスケは心から私のことを心配してくれていたみたいだ。

 なんていい人だろう、コウノスケという人物は。


「エリー、さ、行こう」


「…うん。行こっか」


 私は、ワンピースを軽くはたき、館をでた。

 魔法をかけるのも忘れて。

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