この現状が幸せで…
かなりありきたりかもしれませんが、どうかひとつ温かい目読んでいて頂ければ幸いです
木漏れ日が窓から差し込み、図書室全体を温かく包み込んでいる。
私は一人椅子に腰かけ紅茶を飲んでいた。紅茶を木製のテーブルに置き、再び積まれている本の山から一冊の本を手にする。
本を開こうとしたとき、戸をたたく音が響いた。すぐさまじいやが戸をあけ対応する。
「これはこれは、コウノスケ殿。本日はどういったご用件ですかな」
「うん、今日もちょっとエリーに用事があってさ」
エリーというのは私のことだ。コウノスケは毎日のようにこの館を訪れてくる。
「お嬢様ですか。お嬢様なら館の奥の図書室で一人静かに読書していらっしゃいます」
「ありがと、じいさん。ちょっと行ってくるね」
図書館に繋がる扉が開き、低く透き通った声が図書館内の静けさを切り裂くように響いた。
「エリーいるかい?」
「…本を読んでいるのだから静かにしてちょうだい」
私が若干イラつきを交えながら返事をするも、コウノスケはそれを無視するかのように続ける。
「あ、いたいた。今日も来たよ、エリー。あれ、お茶飲んでたの?僕もいただこうかな」
そう言うと勝手に席に着き、テーブルの上の空いているティーカップをとって自分で紅茶を注いだ。「エリーのにも入れとくよ」と言い私の飲み干したばかりのティーカップに注いでくれた。
あんたにしては中々気が利いたことをするじゃないと、少しばかり見直した。
と思ったのも一瞬。ティーカップにはなみなみまで紅茶が入っていた。前言撤回。
「えへへ、ちょっと入れ過ぎたかも」
ちょっととか言うレベルじゃない。
明らかおかしい量の紅茶を見ながらため息をついた。
しかし、本人は申し訳なさそうにしているつもりなのだろうか、片手を頭に当てながら、ちょこっと舌を出して見せた。
その仕草は思いのほか可愛く、私は本気で怒ることができなかった。
こいつはいつもこんな調子で、私を困らせてくれる。
そのたび、あのような反応をとるものだから、もしかして私がおこれないことを知って、わざとあんな反応をとっているのではないだろうか。
「どうしたのエリー?そんなに僕を見つめてさ。」
ふぇ?と突然の発言に奇妙な声を漏らしてしまった。
どうやら、知らず知らずのうちにコウノスケの顔を見つめていたらしい。
急に恥ずかしくなってきたので、思わず顔をそむけた。
「べ、別に。ただ、あんたが間抜けな顔しているからちょっと見てただけでしょ。変なこと言わないで。」
ええーそんな顔してたかなーと少し不思議そうな顔をするコウノスケを横目で見ていた。
あんたの笑顔が素敵だから見つめていたのかななんて考えると、ただでさえ少し熱くなってきている顔が真っ赤に染まりそうにだったので考えないことにした。
「そ、それよりこんなところで油売ってていいの?また店を空けていたら師匠さんに怒られるんじゃないの」
私はとっさに話題を変える。これ以上言及されたらたまったもんじゃない。
「大丈夫だよ。もう怒られることには慣れているし」
そういう問題か?
コウノスケは町一番の工芸家に弟子入りしているらしいのだが、よく店番をほったらかしにしてこの館に遊びに来ているようだ。
コウノスケは知らないようだが、師匠さんは町一番の工芸家ということもあり弟子はここ数年間一人も作らなかったそうだ。それなのにどうして師匠さんはこんな能天気な青年を弟子にしたのだろう。
「別に店空けててもそんなに問題でもないしね。それに…」
「それに?」
「こうしてエリーといる時間の方が大切かな」
突飛なセリフに飲んでいた紅茶が変なところに入りむせてしまった。
いきなりなんてことを言うのだ。私といる時間の方が仕事より大切ということはそれはつまり…
イヤイヤイヤイヤこいつのことだ。そんな深い意味なんてないだろう。ただ仕事がいやというだけ。それだけに違いない。
私はこれ以上考えてはいけない気がして急いでこのことを忘れるようにした。
「ねえエリー。エリーはいつまでこんな森の中で暮らしているの?」
「…魔女だもの。別にいいでしょ」
そう、私は魔女。外の世界との接触を許されない人。今ではだいぶ外の世界の人々の考え方は変わってきているようだが、いまだに魔女だということで迫害を受ける事もある。
魔女はすぐにわかる。真っ白な髪に深い青色の目、右手の甲にある星形のアザ。これらがある人魔女なのだ。
だからここに毎日のようにきているコウノスケは本来なら来ていいはずがないのだ。
一度だけ、コウノスケの来館を拒否し、戸を開けなかったことがあった。
しかし、彼は戸の前でただただ、待ってた。
その姿を見て私の心はすっかり恋に落ちたのだった。
でも、私がコウノスケに恋をしてもいい理由はない。
コウノスケだって魔女なんかと付き合いたくないだろう。もしコウノスケが付き合ってくれると言ったとしても、コウノスケ自身がひどい目に合うかもしれない。 そんなのは嫌だ。
だから、なるべく私から離れてもらうように素っ気なくしているつもりだ。コウノスケに嫌われてほしいから。
手元の紅茶を飲み干した後、それからはコウノスケの話を静かに聞いていた。
町のことを聞いているとふと、コウノスケと一緒に行ってみたいなと思うこともあったけれど、それは叶わぬ夢だという現実を何度も叩きつけられている内に最近はそんなことも思わなくなった。
私は本を読みながら聞いているにも関わらず、コウノスケは話をずっとしてくれる。本の内容はちっとも頭に入らず、コウノスケの話だけがただただ頭に流れていく。
このままじゃダメなのに。早くコウノスケに離れてもらわないといけないのに。 私はこの現状に幸せを感じて、コウノスケを追い払うことができない。
結局話が終わり、日が傾き始めたころまでコウノスケは居た。
「じゃあねエリー。話してくれてありがとう」
彼は私に笑顔を向けて手を振る。
私も手を振りかえす。もう来ないでねという意味と、また来てねという意味を混ぜ合わせながら。