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トモダチガホシイ

作者: 山本正純

 「トモダチガホシイ」

 2010年8月6日深夜零時。一台の救急車は一人の少女を乗せて病院に向かっていた。

 

 その救急車は今山の中を走っている。搬送する急病の少女は山中の洋館に住んでいた。

 原因不明の急病に苦しんでいる少女を救急隊員は街の病院に搬送しようとした。

 少女を病院に連れて行くことを拒むように、突風は吹いた。

「ジャマハサセナイ」

 救急隊員にこの不気味な声が聞こえた。その声を救急隊員たちはただの空耳であると判断した。

「ユルセナイ」

 不気味な声は強くなっていく。とその時だった。救急車を突風が包み込んだのは。

 運転手はエンジンを全開にして、突風から脱出しようとする。しかし救急車のエンジンより突風の方が強かった。救急車は突風に巻き込まれ、空へと飛んでいき、ガードレールを飛び越え、森林の中に墜落した。

 救急車はガス爆発を起こし大炎上する。こうして5人の救急隊員と一人の少女は死亡した。その死因はさまざまだ。救急車ごと森林に転落して死亡した者もいれば、ガス爆発に巻き込まれて死亡した者もいる。

 この事故の真相は誰も知らない。この事故についてこんな都市伝説が囁かれるようになったのは今から1年前のことだ。

 あの森林には多くの幽霊たちが彷徨っている。その幽霊たちが仲間を増やすために交通事故を起こしたのではないのか。


 2013年8月6日。この日。関東地方全域で多くの心霊スポットから幽霊たちが消えた。

 夕暮れ時に現代群馬大学3年生の鴨池健司とその幼馴染の松本吉江は3年前救急車が墜落した森林にやってきた。

 3年前の交通事故以来この森林は心霊スポットになっている。2人は肝試し感覚でこの森林にやってきた。多くの心霊スポットを回ることが彼らの趣味になりかけている。猛暑が続いている今時、心霊スポットは涼しいオアシスのようになっている。ホラー映画を観ると涼しいように感じるのと同じかもしれない。

「本当にこっちであってるの」

「大丈夫だ。早く祠を探そうぜ。祠くらいしか目印になるような物しかないんだからさ。それにこっちには方位磁石がある。いざとなったら北に行けばいい。北に行けば出入り口があるからな」


 2人は道に迷っていた。どこまで行っても同じような木が広がっている。

 この森林は遭難者が多くて有名だ。そのため月が昇り暗くなれば、遭難するリスクが高くなる。月が昇る前に森林から脱出しなければ危ない。

 そんな時松本吉江の耳に声が聞こえた。その声は女の子が泣いているような声だった。

「ねえ。健司。何か聞こえない」

「そういえばなんか聞こえるよな」


 2人は声がする方向へと向かう。その先には黒髪にショートカットの一人の少女がいた。

この少女は迷子だろうと思い、松本はその少女に話しかける。

「君。大丈夫。迷子かな」

「うん。そうなの」

 その少女は無邪気に答えた。松本は質問を続ける。

「名前は」

「千秋だよ」

 この千秋という女の子が迷子ならほっておくことはできないだろう。なぜならこの森林は遭難の名所でもあるのだから。そんな場所に女の子を放置すると、絶対に一夜で死亡する。    

 後味が悪い肝試しになりかねない。

 鴨池健司と松本吉江の意見は一致した。この女の子と一緒にこの森林を脱出しよう。

 鴨池健司は少女に提案をする。

「千秋ちゃん。この森から出ようか」

 少女は無邪気に頷く。こうして3人は森林を脱出することにした。

 3人が北へと向かおうとした時、空に異変が起きた。黒雲が空に集まり出したのだ。

「こりゃあ一雨降るな。走るぞ」

 鴨池は呟き走り出した。松本は少女の手を握り走った。雨が降って空が暗くなる前に森を脱出しなければ、遭難するリスクが高くなるからだ。

 これがただの黒雲だったらよかったかもしれない。大雨よりも凄い恐怖が訪れるのだから。

 森の中を走っていると、何かが飛んできた。鴨池が立ち止まって飛んできたものを見ると、それは人魂のようだった。

「間違いない。これは本物の心霊スポットだ」

 鴨池は大笑いする。今まで行ってきた心霊スポットはどれも鴨池が求めていた物ではなかった。都市伝説事態が、観光協会が捏造したものだったスポットもあった。

 本物の心霊スポットには本物の幽霊がいるというのが鴨池の持論だ。やっと本物に出会うことができた。鴨池はまるで当たりくじを引いたかのように喜ぶ。

「この心霊スポットは最高だよ」

 鴨池は悪霊に獲り付かれたかのように高笑いをする。鴨池の幼馴染の松本も彼のこんな表情を初めて見た。こんな男が幼馴染という事実に松本は呆れた。


「ヤットデアエタ。ボクノトモダチ。キミノカラダガホシイ」

 不気味な声が鴨池に聞こえると、彼の体の周りに多くの人魂が出現した。

 人魂は彼の体を包囲した。そして人魂は鴨池の体に付着する。鴨池は体に虫が這っているような感覚に陥った。彼は邪魔な虫をはらうように手で人魂をどけようとする。しかし人魂の温度が上がっていったため触ることはできなかった。


 多くの人魂は鴨池の体を捕食するかのように付着していく。やがて鴨池の体は発火した。

 松本は絶叫する。目の前で幼馴染が燃えているのに、助けることができない。早く雨が降ることを願うことしかできなかった。早く雨が降れば、鴨池の体を包んでいる炎も消えて、彼が助かるかもしれない。だが中々雨は降らない。

 もう無理だと松本は悟った。

「ごめんなさい」

 松本は燃えている鴨池を放置して千秋を連れ森の出口へと向かう。しかし中々出口へは辿り着けない。永遠に同じような林が続いている。松本は同じところをぐるぐると回っているような気がしていた。


 幼馴染が死にかけていて気が動転し、方向感覚を失ってしまったのか。その時、千秋が口を開いた。

「出口はないよ。だってあなたには人柱の生贄になってもらうから」

 人柱。生贄。何のことなのか松本に理解できなかった。

「どういうこと。あなたは迷子じゃないの」

「そう。わたしは迷子ではない。現世を彷徨っているから迷子かもしれないけど。わたしは3年前の交通事故で亡くなった6人の怨念の集合体。閻魔さまがね、人柱を探し出したら成仏させてくれるって言ったの。人柱になるのはね、狂った人間が良いんだって。この森に人柱が立ったら、この世とあの世の扉が開いて、多くの幽霊たちが成仏できるんだってさ。3年前に人柱の寿命が来て死んじゃったから、あの交通事故が起きたって閻魔さんが言ってたよ」


 黒雲は空を包んでいき辺りは真っ暗になった。千秋は手を叩きあることを思いだす。

「忘れてたよ。人柱になったら、人格は閻魔さんが処理できなかった悪霊に憑依されちゃうから最強の狂人が誕生するんだって。あれなら寿命が来る20年後までこの森で多くの人間が亡くなることになるだろうね」

 松本はこの場から逃げようとする。知ってはいけない事実を彼女は知った。鴨池の時と同じように人魂が襲ってくるかもしれないという恐怖を彼女は感じる。そんな中で彼女はどこにあるのか分からない出口を探している。

 その時彼女の前に最強の狂人になりかけている鴨池が現れた。彼の体は紫色の炎に包まれていた。

「吉江。一緒に行こう。サア。オレトイッショニクルンダ」

 松本は鴨池が完全に人柱にされたと悟った。

「ダメよ。あなたは鴨池じゃない。私が知ってる鴨池はこんな狂人じゃなかったから」

「オレハクルッテナイ」

 悪霊に憑依された鴨池は松本の首を締め上げる。たった一回握っただけで松本の首の骨は折れて行った。

(鴨池の殺されるなら本望かな)

 こうして松本吉江は死亡した。悪霊に憑依された鴨池は幼馴染の死に涙しない。

 もはや彼は悪霊の集合体なのだから、感情なんてあるはずがなかった。鴨池は20年間人柱としてこの森を彷徨い続ける。

 

 3年前の交通事故の被害者たちの怨念の集合体である少女は悪霊に憑依された鴨池にお辞儀する。

「ありがとう。おかげで成仏できる」

 その言葉を言い残し少女の体は薄くなっていった。成仏の時が近いのだろう。

 それから1分も経たない内に少女は姿を消した。


 空に向かい多くの人魂は飛んでいく。まるでシャボン玉が割れたように人魂たちは空に消えて行った。

この日多くの幽霊たちが姿を消した。その背景には20年間悪霊に憑依され、森を彷徨い続ける人柱の存在があった。その内彼はこの森に侵入してきた人々を殺すかもしれない。

「トモダチガホシイ」


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