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セアリエル  作者: 七鏡
闇あるところに光あり、光あるところに闇あり
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狂犬と狂人

フロイデン領ミトリガンまでセウス王率いる騎士たちは連戦を続けていた。行くたびもの使者との戦闘に疲弊こそしていたが、未だその勢いは衰えてはいない。セウス王の臣下たちはその実力を十二分に発揮し、死者を屠っていった。

しかしながら、敵の数は未だその多くが健在であり、彼らの眼前には無限とも思える黒い大軍が見える。


「まったく、これだけ戦ってきたってのに、まだいやがる」


バルドバラスはそう呟き、砂漠に佇む不気味な軍勢を岩場の影から覗く。


「そりゃあそうでしょうなあ。今までのラカークンでの戦争での死者はこれだけの数になるでしょうからねえ」


偵察に同行していた騎士サウルンがそう答える。彼も親友であるフォーリヴズのことが気がかりであった。未だミトリガンは陥落していない、と言うが現在も攻撃は続いている。一刻も早く救援に向かわねば、むざむざやられてしまう。ミトリガンの住人も、そこにいる騎士たちも見捨てるわけにはいかない。


「ん、あれは・・・・・・・・・・・・」


バルドバラスが目を細める。軍勢の中に、死者ではないものの姿が見えたのだ。死者以上に厄介な存在を。


「どうかしたんですかい、大将」


「いや、懐かしいものを見て、な」


そう言ったバルドバラスはかつて対峙したことのある魔神の姿を見つめ、今回の戦いはただではすみそうにないな、と乾いた唇を舐めた。



斥候として放ったバルドバラスらが帰還し、状況をセウス達に知らせると、セウスは腕を組み、唸る。


「やはり、一筋縄ではいかない、か。敵もここいらでこちらを倒すつもりだろうな」


「今回は今まで以上に激しい戦闘となる。せめて、フォーリヴズやセイザー、アノガル殿がおれば・・・・・・・・」


サウルンの言葉に言うな、とコクーンが目で制す。

セウス王も内心の想いを封じて、騎士たちを見る。


「皆、不安な気持ちはわかる。だが、泣き言は言うまい。我らは多くの命を預かっている。死者の手から生者の手に、未来を、ラカークンを取り戻すために。諸君の力を貸してもらいたい」


セウスの言葉に、騎士たちは静かに敬礼を返した。




師ツェツィーリエが離脱し、心配していたペンテシレイアはエオス、アルクィンとともに戦闘の準備に取り掛かっていた。三人の若者たちはセウス王の近くで戦うよう命じられている。若者たちを最前線に出すわけにもいくまい、という配慮であった。とはいえ、王のそば、ということは安全ではないし、責任も重い。しかし、それだけの実力はある、とセウスは見ていた。


「陛下の期待に応えてみせる」


息巻くエオスにアルクィンは言う。


「お前、血が上りやすいところさえなければもっとなあ」


「フフ、それがエオスの長所であり、短所でもあるのよ」


ペンテシレイアが微笑ましそうに見る。フロイデン領での戦いで三人は常に寄り添いあい、共に戦ってきた。その絆は断ち切ることのできないものとなっていた。


「そういや、ペンテシレイア。親父さんと話さなくていいのか?」


エオスの言葉に、ああ、と少女は言うと、いい、とだけ言った。


「父上も私も死にはしない。大丈夫よ」


そう言った少女に、そうか、とエオスは返す。エオスには記憶がないから、親の顔はわからない。アルクィンはすでに父親はなく、母親も病死している。それでも、両親の記憶があるのは幸いである。

果たして、自分の父母はどんな人なのか。自分をどう思ってくれていたのだろうか。エオスは心の中で思い浮かべる。自分を抱いて微笑む一組の男女を。自分が望まれて生まれてきたのだという願いを。

いつか、会ってみたいものだな、と少年は自分の剣をさすりながら思った。




ミトリガンまでの経路上に立ちふさがる亡者の軍勢を討つため、セウス王のトローア軍は進む。

ラウテリア騎士団のレイ王子はセウス王のそばに馬を進めてくる。


「それでは、こちらが側面より奇襲をかけます。その間に」


「ありがとう、レイ王子」


レイ王子はその言葉を聞き、自分の騎兵たちを引き連れトローア軍より一時離脱した。


戦場は広い砂漠地帯。しかし、岩礁が多く、凹凸も多い地形である。

敵がこの場で待ち伏せをしていたのは、この岩礁でこちらが進めないと踏んだからであろう。だが、ラウテリア騎士団の騎兵はこういった地形での戦闘も慣れている。ここいらでの戦闘が不慣れなトローア軍がむざむざやられることもない。

機動力に関しても、死者の軍勢の騎兵は生者の軍勢には及ばない。骨の馬たちはそれほど速く動くことはできない。こちらの奇襲に対し、すぐに手を打つことは難しいであろう。

問題は、とセウス王は目を細めた。ここからでもよく見える、黒い禍々しい魔力。それがピリピリと肌を刺激する。

かつて出会ったカプトオイゲンの狂犬。

一度は退けたものの、かの魔神は再び現れた。より強く、そして恐ろしい存在となって。

セウスはセアリエルを抜き、静かに言った。


「たとえ、魔神が前に立ちはだかろうと倒すのみ・・・・・・・・・・恐れることはない!このまま突破し、ミトリガンを取り戻す!」


セウスがそう言うと、バルドバラスが全軍に進軍を命じる。

進軍を始めたトローア軍に対し、弓矢を構える死者の軍勢の横から、ラウテリア騎士団が奇襲を仕掛けた。

それに対応できず、敵軍の弓矢部隊が崩れた。

トローア軍の騎兵と歩兵たちが奔りだす。砂漠は土煙に塗れた。

すぐに生者と死者は衝突した。剣戟が鳴り響き、血と腐肉が舞う。

数の上では敵の方が多い。普通ならば致命傷でも、死者は平気で立ち上がり、戦う。その身が完全に戦えなくなるまで、永遠に。

情け容赦なく首を斬りおとし、動けなくする騎士たち。


「死に還るがいい、亡者たちよ!!」


片手には剣を、もう片方にはボウガンを構え、魔術も行使しながら、レアレースの戦士バーソロミューが戦っていた。彼のすぐ横ではサウルンやコクーンと言った名だたる騎士が武器を振るっていた。

そんな彼らに死者の軍勢は敵わぬと知ってか、奥の手を出すことにしたようだ。


「こいつは・・・・・・・・・・・・・」


突然自分たちを覆った巨大な影を見て、サウルンが笑う。余裕を見せようとしているが、その頬は引きつっていた。

巨大なそれは、危険種認定される魔物の死骸であった。腐臭の酷い、巨大なそれを見て、力なく笑うサウルン。


「クソッタレ。あいつら、どんだけ・・・・・・・・・」


魔物の攻撃が衝撃波となり、サウルンたちを襲う。味方の使者を巻き込みながら、魔物は戦場を暴れ狂う。

サウルンに目くばせし、コクーンは魔物に向かって奔る。魔物が口から何かを吐き出す。それを後ろから跳躍し、切り伏せるサウルン。コクーンはそのまま走り、魔物の足元にしがみつくと剣で魔物の足首を斬りつける。

腐敗しているおかげで、思った以上に簡単にその肉と骨は断ち切られた。

バランスを崩した魔物がもう片方の足を動かそうとするが、それより先にそちらに回り込み、サウルンが切り落とす。

脚を失くした魔物が倒れる。顔ごと砂に突っ伏した魔物の頭部に、バーソロミューが降り立つと、その頭部に容赦なく魔術を叩き込む。

バーソロミューが離れた瞬間、その頭部が膨れ上がり、爆発した。


「死んで知性の欠片もない獣に、負けるかよ」


バーソロミューはそう言い、煙草を吐き捨てると近くにいた死者の首を斬りおとし、身体を切り刻んだ。




善戦で猛威を振るうカプトオイゲンの狂犬を倒すため、セウスはバルドバラスとそちらに向かっていた。

セウス達を進めるため、エオスら三人が襲いくる敵の精鋭を食い止める。思った以上の働きをする三人にその場を任せ、二人は魔神に向かう。


『久しいな』


「できれば二度とは会いたくなかったぜ」


グラシャラボラスの言葉に、バルドバラスが答える。


「貴様はここで倒す。グラシャラボラス」


『そうか。ふん、できるかな』


「俺ら二人相手に、余裕だな!?」


『一対二だと思っているようだが、そうもいかないようだぞ?我としてはそれでも構わんが・・・・・・・・・』


グラシャラボラスがそう言い、後ろをちらりと見る。セウス達も魔神の背後に強い憎悪と魔力を感じ、そちらを見た。


「貴様は・・・・・・・・・・」


セウスが目を少し開き、それを見る。

不気味に脈打つ無数の触手の下半身。それに、甲殻類を思わせる黒い両腕。微かに人間の面影を残す上半身、そしてその顔に、セウスは驚いた。


「アルカード・ゾディアン・・・・・・・・生きていたのか」


「地獄から帰ってきたぞ、セウスぅぅぅ!!」


狂気のアルカードはそう言い、笑う。


「貴様の相手は、この俺だ」


『そういうことだ。さあ、宴の始まりだ』


狂犬は吠え、異形に身を落とした男が嗤う。


「バルドバラス」


「なんだ」


「死ぬな」


「そっちもな」


二人の男は言葉を交わし合うと、剣を構え、それぞれの敵に向かっていった。






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