剣を手に笑う少女
セウスらは十二歳になった。
十二歳になれば、貴族の子息または推薦された平民は騎士養成学校へと進むことができる。平民にも広く開かれた普通の学校とは違い、教養だけでなく、騎士道精神や戦術、魔術など、騎士や魔術師に必要な技能を身に着けることを目的とした専門教育を受けることができる。普通の学校と違い、六年生であり、三年も長い。
騎士と言うものは、積み重ねた訓練と精神の上になる、ということであり、そうそう簡単になれるものではない、と言うことである。
セウスは王と言えども、まだ十二歳。歴代の王はいずれも王都トローアにある王立アカデミーを卒業している。故に、セウスもここに入学すつこととなる。
王としての責務は学校の間は大臣たちに預けている。とはいえ、どうしてもセウスの判断が必要な場合は、王宮に戻らざるを得ないが、最近は周辺国の様子も落ち着いているので、セウスも学業に集中できる、と言うわけである。
セウスのアカデミー入学に伴い、バルドバラス、リケン、セリーヌも入学することとなった。
バルドバラス、リケンは王宮からの推薦により、セリーヌはもともとミリシュア侯の娘であるため、問題はなかった。
四名ともに、剣または魔術の才があったために、問題なく入学し上位クラスに編入された。
上位クラスの担当であり、近衛隊所属だった教官、ハバナンは、入学式を終えたセウス達騎士見習いを前に、そのいかめしい巨体で威嚇するように教壇に立つと、武骨な顔と低い声で全員を見渡した。
「お前たちが、どのような地位、たとえ王族だろうと貴族だろうと平民であろうとも、この学園内ではただの見習いに過ぎぬ!俺は貴様らを騎士にするため、容赦はしない。覚悟しておけ」
そう言い、セウスにさえも厳しい視線を向かわせる。セウスはその目を見て、この人物は優秀な騎士だ、と直感する。王宮内でハバナンを見たことはないが、近衛隊所属と言うことは腕が立つということだ。
少しばかり人相は悪いが、決して悪人、というわけではない。あえて、生徒に悪役を演じてみせているのだろう。
「さて、早速だが、きさまらの実力を知る必要がある。個々のクラスの連中は魔力や剣術、体力自慢のものが多いだろうが、だからと言ってそれですべてが決まるわけではないからな。三十分後、校庭に集合。遅れたものには俺直々に訓練付けてやる」
そう言い、ハバナン教官は出ていく。
生徒たちは急ぎ、用意をする。校庭までに五分、着替え等に十分。だが、三十分後とは言うが、基本十分前行動であるため、余裕はそこまでない。
セウスはバルドバラスとリケンとともに男子更衣室に向かう。セラーナは逆方向の女子更衣室に向かっていった。
ちなみに、男女比は三対一。女子のほとんどは騎士ではなく、魔術師になるのが大抵である。
「ハバナン教官、兄さんの教官だったんだってさ」
着替えながらリケンが言う。バルドバラスが「で、実力は」と問うと、
「強い、ってさ。前に戦闘で足を悪くして戦場には出られないけど、剣と槍に格闘術に、っていろいろできるんだってさ」
リケンはそう言い、僕はそういうの苦手だしなあ、と笑う。セウスやバルドバラスと違い、根っからの魔術師型のリケンにはそうだろうな、と笑う。
「とはいえ、王だから貴族だから、と媚びへつらうわけではない。いい教官だ」
セウスが言うと、バルドバラスはそうだろうが、と苦い顔をする。
「毎日、あんな顔見るのも嫌だな」
「そう言うなよ、顔のことは仕方ない」
ハバナンのあの威圧的な顔を思い出し、セウスとバルドバラスが言う。二人は着替え終わると、模擬剣を持ち、少し遅れていたリケンを待つ。
リケンは杖を持ち、二人に「お待たせ」と言う。
「どうやって、各々の実力把握させるんだろうな」
「クラスの中で戦わせたり?」
「まさか」
そう言いながら、三人は校庭に急ぐ。
校庭には皆揃っていた。指定された時間の十二分前であった。
それを見て、ふん、と鼻を鳴らすハバナン。
「ふん。いい心構えだ。怠けることなく、このまま六年頑張ってもらおう」
そう言い、ハバナンはクラス総勢三十人を見る。
「さて、ではこれから各々の実力把握のための訓練を始める。全員、模擬剣や獲物は持っているな」
確認したハバナンに「はい」と全員が答える。
「本来ならば俺が直々に剣を交えるのだが、そうもいっていられん」
そう言い、脚をさするハバナン。古傷のせいで全員を相手するのは厳しい、と言うことか。
「よって、こちらで指名した二名で決闘形式で戦ってもらう。安心しろ、魔術師は魔術師と、騎士は騎士と当たらせてやる。ただし、手は抜くな。あと、スキルの使用は厳禁だ」
そう言い、手に持つボードを覗き込む。
「それではまずは」
そう言い、ハバナンはセウスを見る。
「セウス・セアリアール!」
「はい」
セウスは返事をし、前に出る。生徒たちが少しざわりとする。まさか、王も普通に参加するとは、と言う表情である。これで、ハバナンの先ほどの言葉が本当だと皆が思い知る。
セアリアールは、王族の名乗る姓である。本来は、姓はないが、代々アカデミーに入る際不便にならないように、とこの名がある。
そんなセウスの相手に指名されるのは誰か、と騎士候補生たちはゴクリと唾をのむ。
セウスと親しいリケンやバルドバラスは、バルドバラスを当ててくるものと思っていた。だが。
「相手は、ツェツィーリエ・ツィマット!」
「はい」
冷たい声が響き、一人の長い髪の少女が前に出る。
釣り目がちの金髪の少女は、無表情に前に出てセウスを見る。セウスはその冷たいアイスブルーの瞳に威圧される。
(・・・・・・・できる、な)
セウスとて、王宮にて騎士による稽古を受けている。そのため、多少は腕に覚えがある。だが、目の前の少女に対してそれが通用するか、甚だ疑問であった。
「決闘をする。両者前へ、ほかのものはその場で休め!」
休めの姿勢でほかの生徒たちが見る中、セウスとツェツィーリエは校庭の中心の白線で書かれた円形の中に入る。そして、そこで一定の距離を保ち、立ち止まる。
「セオドアの息子、セウス」
剣を構え、名乗り上げるセウス。少女も剣を構える。が、その構え、というよりはただ剣を持っているだけのように見える。薄ら笑いを浮かべ、余裕すら浮かべる少女。そのアイスブルーの瞳がセウスを見る。
「アールーンの娘、ツェツィーリエ」
勝者の名乗りが終わると、ハバナンが大きく声を上げる。
「決闘はじめ!」
その言葉を合図に、セウスは動き出す。
相手の実力がわからないこともあり、攻めたくはなかったが、だからと言って、攻撃を待つのは危険だ。
目の前の少女は狩人であり、自分は獲物だ。そのまま黙って狩られかねない。
「ほう、私相手に攻める気か」
ツェツィーリエはそう言い、ふと笑う。そして、無造作に剣を前に突き出す。それは、セウスの鋭い剣劇を防ぐ。
完全に剣の軌道を読まれ、かつ防がれた。魔力による加速をしていた剣を、軽々と。力と技術、ともに少女は持ち合わせているようだ。
セウスはそれ以上攻めずに距離を取る。少女の顔は少し残念そうである。あのままとどまれば、簡単に倒せたのに、と。
(どうするかな)
別に負けるのがみじめだとか、そう言うわけではないし、負けることを恐れているわけでもない。ただ、だからと言ってあっさりと負けるわけにはいかない。セウスはこの後も、勝ち目のない敵や強大な敵に立ち向かわねばならない。この程度で立ち止まることなど、赦されないのだ。
セウスはす、と背筋を伸ばし、剣を構える。
そして走り出す。
無造作に剣を構えていた少女は、予想以上の速さで剣を振る。それが、セウスの左腕を狙う。
セウスは魔術で自身の左腕に魔力を纏わせ、それを受け止める。腕と剣の間に魔力の障壁を作り出す。
「これで・・・・・・・・・・!」
ツェツィーリエの脇は空いた。そう思ったセウスだが、少女は笑っていた。
パキン、と割れる音。
「な・・・・・・・・・・・・っ」
障壁をも打ち破ったツェツィーリエの剣がセウスを襲う。セウスは咄嗟に後ろに下がる。が、模擬剣が頬を切り裂く。
「かわすか、あのタイミングで」
「まさか、私の障壁を破るとは。それもスキルも魔術もなしに、腕ずくで」
驚嘆するセウスに少女は「剣だけを極めて来たからな」と笑う。
「それにしても、王サマ。意外とやるね、アタシ相手に」
「伊達に、国は背負っていない」
セウスの言葉に、そう、と興味なさそうに呟く少女。その目は、相変わらず冷たい青であるが、静かな闘志が宿っていた。
「本気で行く。耐えて見せろよ、王サマ」
そう言った瞬間、ツェツィーリエの姿が掻き消えた。
そこにいった、と思うセウスの背後から迫る少女の剣。わずかに感じた闘気でセウスは振り向き、剣を受け止めた。が、剣から伝わるい衝撃でセウスの腕は痺れる。重く、なおかつ早いその剣。次々と繰り出される閃光の如き剣を受け止めるだけでセウスは精いっぱいであった。
「く、ぅ!」
「・・・・・・・・・・っ」
ツェツィーリエの本気の攻撃は続く。それを受け止めるセウスだが、明らかに体力は消耗していた。魔術を放つ余裕もない。
競り負けるな、とセウスは思った。
(仕方ない、賭けに出るか)
それしか、勝つ方法はない。
セウスは剣を受け止めながら、その隙を窺う。
時たま、力のはいっていない一撃がある。それがチャンスだ。
そして。
(今だ!)
セウスはそれまでの攻撃より弱い剣戟が来た時、業と受け止めず、それを身に受ける。少女は目を見開き、「なぜ」と呟く。
模擬剣で切り付けられたセウス。だが、痛みを感じながらもセウスは笑う。そして、その模擬剣がツェツィーリエの首に突きつけられた。
「私の勝ち、だ」
「・・・・・・・・・・」
しかし、少女がフッと笑うと、セウスの模擬剣が半ばから折れる。
セウスが驚く。
「つい、スキルを使ってしまった。・・・・・・・・・・・・・私の負け、だな」
そう言うと、ハバナンを見て「降参です」と少女は言う。そして、セウスに手を差し伸べる。
「改めて、よろしくお願いするよ、王サマ」
「セウス、でいいよ」
「ならアタシもツェツィーリエでいい」
そう言って握手した二人に、拍手が送られる。まさか、最初からこれほどのハイレベルな戦いを見ることになろうとはだれも思っていなかった。これほどのレベルのものがいる中、自分は大丈夫か、と言う不安もよぎる。
「いい試合であった。実に高いレベルだ。他の物も見習うように。だが、気負う必要はない。飽くまで今の自分の実力を見せてもらいたいだけだからな」
あえて、最初にこのレベルの戦闘を見せた、と言うことだろう。ハバナンはいかつい表情ではあるが、それは彼なりの気遣い、と言うことだろう。
模擬剣で受けた傷はセウスのスキルですぐに回復するため、そのまま列に戻り、安めの体勢で次の試合の観戦に映る。
セウスは隣のバルドバラスにのみ聞こえる声で言う。
「下手をすれば、お前よりも強い」
「・・・・・・・・・・スキルありでは?」
「互角、かな」
セウスが言うと、バルドバラスはそうか、と言う。
そんなか、ハバナンがボードを見て、次の対戦相手の名を呼ぶ。
「バルドバラス・ブラッケスト!」
「はい」
行ってくる、といいセウスの隣から歩いていくバルドバラス。
続いて、相手の名をハバナンが言う。
「アノガル・アーカム!」
「はい」
セウスの斜め後ろの男子が返事をする。バルドバラスと同じくらいの長身の、銀髪の少年であり爽やかな印象を受ける彼は、細剣型の模擬剣を手に前に進む。
ツェツィーリエもそうだが、このアノガルと言い、貴族ではない。平民出身なのだろう。まだ実力は見ていないが、その歩き方や身にまとう雰囲気から、このアノガルという少年も相当の実力の持ち主である、とセウスは思う。
バルドバラスとアノガルが向かい合い、剣を抜く。バルドバラスは左手に小型の盾を持っている。防具の使用は盾は可能、とされている。バルドバラスの戦闘方法は剣と盾を使用した近衛隊直伝の剣術である。
そんなバルドバラスの相手であるアノガルの武器は細剣。攻防一体のバルドバラスに対し、スピードや手数では勝るが、決定打を打てるようには思えない。セウスのように魔術も併用して、というならば別だが、それをするには相当の集中力と才能がいる。
セウスの見守る中、名乗りを上げる二人。
「バルドバラス」
「アクスムントの子、アノガル、参る」
ハバナンは二人を見るという。
「決闘はじめ!」