人間の未分化な世界を彷徨う、幻と幻想と現実
短編チャレンジの一作目です。
一体、「生きる」とはどういう物なのだろう?
自分は「生きている」というより「ただ生かされているだけのような気がする」
それは誰から?
それは親や友人、先生とかで、その人たちと別れたくないから「ただ生きている」のだ。
別れたくないってどういう事なのだろう?
僕が死んだら当然「親」は悲しむだろう。
母親は泣くだろうし、じーちゃんやばーちゃんも泣くだろう。
そう、そういう大切な人たちを悲しませたくないだけだ。
友人とまた遊びたいし、学校だって意味も無く自分が死んだりしたら「困る」だろう。
「でもなぁ。それだけなんだよなぁ」
将来なんて、何かしたい事がある訳でもなく。
何処かへ行きたいなんて事もない。
まぁ、今やってるゲームがカンストしてないとかは気になるけど…。
そんなの、別にどうだっていい事だし。
ああ、気になるアイドルは居るな。でも、その子と将来会える訳もないし…。
「やっぱ、それだけだよな」
無駄に空が青いなぁ。今日なんか月もあるし…。
そこに在るのに気がつかない物って、あるのだろうか?
何だそれは?
見えない物がそこに存在するはずがない。
生かされているだけなら、僕の存在なんていらないよなぁ。
自分の寿命を切り取って誰かに渡せるなら今すぐそうするのにな。
毎日同じバスに乗って、同じ電車に乗って、学校に行って、面白くも無い授業を受ける。
それで、ゲーセン行って、また行きと反対の経路で帰って来る。で、メシ食って風呂入って寝る。
今日は帰ったら父親が居た。
んで、父親は言う「だらだらしてないで、勉強しろ。休みの日はバイトでもしろ」と、ああ、それと「生き甲斐を持て」とも言ったな。
「生き甲斐」って何だ?
検索してみた。生きる意味、生きていく為の楽しみ、幸福。
なんか、どれも年寄りくさいな。
「死」が近くにあると感じたら、生きていたくなって、そんな物を探して「生き甲斐だ」って言うだけだろう?
ああ、孫が生き甲斐とか言うやつだな。くだらない。
それで、「孫」は死ねなくなるんだ。
僕には「生き甲斐」も「意味」も無いのに。
「死」が近くにあれば…か。
でも、僕は「死」が甘美な物だなんて思っていない。ただ、そこから僕が居なくなるだけだ。
残った者が泣くからそれを実行しないだけ…。
「もう、朝かぁ」
いつもの道を歩き、いつものバスに乗って、いつもの駅で電車に乗る。はずだった。
「あの…」
「はい?」(誰だ。一つ前に駅の高校だ。知り合いか?誰かの妹か?)
「こ…これを読んでもらえますか?それで良かったらそこにメールを下さい」
って、もしかして、これって。マジ?ラブレターってやつか?
今どき、んなの書くやついるのかよ?(目の前にいるし)
いいのか?受け取っちゃっていいのか?
「はぁ? 僕に?」
「はい」
と、彼女は押し付けるようにして走って行ってしまった。
改札を抜けて、人ごみに紛れるブレザーと青いリボンとスカート。
彼女の向かう先には友人らしき女の子。
「女の子…」
マジか?
今日はいつもより一つ遅い電車。
あれ?
こんなだったっけ?
いつものように混雑する電車だけど、窓から見える景色が違う気がする。
街路樹が緑に見えるし、雲は白い、空は青い。
「何だそれ?手紙か?」
ポケットからはみ出した手紙を友人が目敏く見つける。そりゃそうさ。はみ出させてたんだからな。
「何でもない」
「何でもない訳ないだろ?そんなキャラクターの付いた手紙が!」
「別に、押し付けられただけだ」
「マジかよ?マジで手紙かよ?今どきラブレターって、遊びだぜ。きっと」
「いや、他校だからな。これしか方法が無かったんだろ?」
「他校?どこの?」
「一つ隣のN女子」
「私立の?嘘だろあそこレベル高いぜ?お前にってありえないな」
やつのからかうような妬ましそうな顔が楽しかった。
これが幸福っていう物か?
「単純だな。人間って」と、久しぶりに自分の笑顔を見た気がした。
場所は薄汚い男子トイレの鏡だったが、幸せだ。
この子は、じーちゃん、ばーちゃんっ子だと思います。それと、この後、上手くいって欲しいです。