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ヨハの楽園  作者: いづるとき
狩人追討篇
7/44

『ヨハの恩恵』

六月二七日。

 龍一は真っ白でシンプルな病室で目を覚ました。ふと横を見ると、以前会った中肉中背の医者がちょうど点滴を取り変えているところだった。

 「おや、ようやく目が覚めたかい? 一週間も眠りこけた気分はどうかね?」

 医者は悪戯っぽく笑って見せたが、龍一はワシャワシャと髪を掻きながら、

 「そうですね、出来ればもう経験したくない気分です」

 「それはそうだろう。全く、前の私の治療が無意味になるほどボロボロになってきて。いや、ここは君が生きていることを称賛するべきなのかもしれないな。骨が何本かいっているだけで済んだのは奇跡的だ。内臓のいくつかが使えなくなっていても不思議じゃない状態だったんだからね」

 「……、恐ろしいですね」

 そこで龍一はふと気が付いた。

 「梅雨理は!? 梅雨理は無事なんですか?」

 医者はふっと息を漏らして言う。

 「ああ。無事だ。ただ、目を覚まさない君に寝ずに付きっきりだったものでね。今は空いている部屋で寝ているよ」

 医者の言葉に龍一は安堵の息を漏らした。そして医者は続けた。

 「安心するのは早いよ。まだ問題は山積しているのだから」

 「え?」

 「一週間前、私も一緒に救急車で君たちを迎えに行ったのだがね、そこには焼け焦げた格納庫と、無残に敗北していた『狩人ハウンド』たちがいたよ。まさか君の仕業と言うわけでもあるまい?」

 「多分……。俺は途中で意識がなくなってしまったので」

 「まあ、そこについては後であの女の子と一緒に話すといい。私も彼女に伝えておいたこともあるしね。私から君に伝えておくべきことはまあ、『狩人ハウンド』についてだろう。彼らの処分は政府の意向によって決められることが決定したそうだ。今はメンバー全員が第一エリアにある施設で保護されているそうだ」

 「そう、ですか」

 「格納庫の火事は『狩人ハウンド』が自分たちのせいだと主張しているそうだ。これは君が救われたと言わざるを得ないだろう。まあ、彼らなりの罪滅ぼしのつもりだろうから君がそれほど気負う必要もないのだが」

 医者の言葉に龍一はぐっと拳を握る。それが今の龍一に許された悔しさの表現だった。医者をそれを知ってか知らずか続けて言う。

 「しかし、今回の一件は日本政府に知られることになるよ。もちろん、政府としても今回の騒ぎを大々的に取り上げるつもりもないのだろうけど、かといってスルーということもないだろうからね」

 「また、梅雨理に何かするんでしょうか……?」

 「私は『今は』政府の人間じゃないから何も言えないね。けれど、どんなことがあっても守る覚悟があって助けに行ったんじゃないのかい?」

 「……はい」

 すると、病室の扉がゆっくりと開いた。

 医者と龍一はそちらに視線を移すと、そこに心配そうな表情の梅雨理が顔を半分覗かせていた。

 「それじゃ、私は失礼するよ」

 医者は空になった点滴の袋を手に持って病室から出て行った。

 それを見送ると、龍一は入り口に立っている梅雨理を手招きした。

 「おいで」

 それでやっと梅雨理は小さな歩幅で龍一の隣まで来た。

 「龍一、大丈夫……?」

 梅雨理はビクビクしながら上目遣いで聞く。龍一は二コリと笑って手を梅雨理の頭の上に置いた。

 「ああ、大丈夫だよ。梅雨理がずっと付いてくれてたんだって? ありがとうな」

 龍一が頭を撫でてやると、梅雨理は猫のように目を細めた。

 「そういえば、梅雨理の買い物全然終わってなかったな」

 「ううん。龍一が寝込んでいる間に大体の買い物は自分で終わらせたんだ。あまり龍一に負担かけられないし……」

 「梅雨理。俺たちはもう一緒に住むんだ。そんな遠慮はしないでくれよ」

 「……」

 しかし、梅雨理の表情は晴れなかった。龍一は小さく首を傾げ、

 「どうした?」

 すると、梅雨理はどこか気まずそうに口を開いた。

 「私ね、龍一が眠っている間にあのお医者さんに話を聞いたの。あの人、元々は日本政府の医療機関の人だったんだって」

 「えっ? そうなのか!?」

 「うん、まあそれはいいんだけど。でね、あのお医者さん私のパパとママとも親しかったらしくて、例の研究について助言したこともあるんだって」

 『例の研究』という言葉に龍一の胸はズキッと痛んだ。だが、梅雨理は目を伏せたまま続けて言う。

 「それでね、ここからが大事なことなんだけど、『ヨハの恩恵』について」

 「……うん」

 「私たち、『ヨハの恩恵』を勘違いしていたみたいなの」

 「勘違い? どういうことだよ」

 「『ヨハの恩恵』ってね、武器のことじゃないみたい。ううん。見方によっては兵器かも」

 「兵器?」

 「うん……。黒川梅雨理わたしが『ヨハの恩恵』なんだって……」

 「っ!?」

 思わず龍一は上体を跳び起こした。

 何を言っているのか理解できずに、というのもあるが梅雨理のその悲しみと絶望に満ちた顔を見てしまったことのほうが大きい。

 「稀にいるんだって。空気中に含まれているヨハを体内にエネルギーとして蓄積できる特殊体質者が。本来なら、空気中に含まれている微量のヨハなんて何の影響もなく体内に取り込まれて、いつの間にか消えちゃうらしいんだけど、私みたいにヨハを蓄積していって巨大なエネルギーとして蓄えちゃう人もいるって言われたの」

 「そんなことって……」

 「だよね。私もびっくりした。けど、あの時『狩人ハウンド』をやっつけたのも私の中にあるヨハが暴発したせいみたい。ちゃんとエネルギーを制御出来る人もいるみたいだけど、私にはまだ無理だろうって。あの時は感情を抑えきれなくなって、それに連動してヨハが放出されたって言われたの」

 「そう、だったのか」

 「うん。でね、パパとママはそれが分かっていたんだって。けど、もしこのことが政府に漏れたら間違いなく私を利用しようとするから、ヨハの力を使える『者』じゃなくて『物』に移し替えたらしいの」

 「なるほど。それが『狩人ハウンド』が狙っていた『ヨハの恩恵』ってことか」

 龍一の言葉に梅雨理は小さく頷いた。

 「けど、今や政府にはある程度情報は流れているんだって。だから、もしかしたら私は政府から目をつけられているのかもってことも言われた……」

 そこで梅雨理は言葉を区切った。

 膝の上に置かれた小さな拳に力が込められているのは龍一にも分かる。そして、小刻みに全身が震えているのも。

 「龍一は一緒にいたいって言ってくれたけど、やっぱり私と一緒じゃ龍一にも迷惑がかか――!?」

 梅雨理の言葉は遮られた。

 気が付けば梅雨理の顔は龍一の胸に埋もれている。

 「俺は梅雨理に家族同然に想ってもらいたいよ。だから、迷惑とかそんなの全部こっちから望んでるくらいだって。だって、家族ってそういうものだろ? 俺も一人身だし、梅雨理がいてくれるだけですっげー嬉しいんだって」

 耳元から聞こえてくる龍一の声。

 あれほど望んだ温もりが今は全身で感じられた。

 幸せだった。

 梅雨理はもう涙を堪えられることができないくらいに。

 「けど、もしまた暴発しちゃったら……」

 「俺はそんなことで梅雨理を見捨てたりしない。それに、俺のためにしてくれたことなんだろ? なら梅雨理の全部を受け入れるよ」

 「龍一……」

 龍一はそっと梅雨理から身体を離し、そして笑顔を浮かべた。

 「それに、俺には梅雨理が必要なんだって。だから一緒にいてくれるか?」

 「……うん」

 「約束だ」

 静かな病室で梅雨理の細く小さな小指と、龍一の傷だらけの小指が絡まる。

 小さな、けれど二人にとってはとても大きな意味を持った一つの約束なのかもしれない。





 六月三〇日。

 この日、龍一は退院することになっていた。二七日以来、梅雨理は龍一のアパートに先に帰って、昼間から夕方の間だけ龍一の病室に見舞いに来る毎日だった。

 その間にアパートで梅雨理は自分の荷物をまとめたり、龍一の溜まってた洗濯などの家事をやってくれていたらしい。

 龍一も自称名医による素晴らしい手術によって一人で歩くくらいには回復していた。

 病室にもほとんど荷物もなく、あとは梅雨理の待つアパートに帰るだけとなった。

 「ようやく退院だね」

 点滴器具を片づけながら例の医者が言う。

 龍一はベッドに座りながら申し訳なさそうに頭を掻いて、

 「ホントお世話になりました。まあ、俺としても出来ればこんな怪我はもうしたくないですけどね」

 「医者としてもこんな大けがの患者を連続で看病は疲れるから願い下げだよ」

 医者の言葉に龍一は乾いた笑いを返すしかなかった。

 「ところで、いつものお嬢ちゃんは来ないのかい?」

 「はい。今日はなんか家で御馳走を作ってくれているらしくて、忙しいみたいです」

 「おお、おお。妬かせるね、若人よ。新婚さんごっこかい?」

 「なら俺はいいお嫁さんをもらえましたよ」

 龍一の言葉に医者は歳がいもなくニヤニヤしながら言う。

 「そういうことは本人に言ってやることだよ。あと多少強引にでもキスの一つでもくれてやることだ」

 「いやいや、五歳も年下の女の子にそんなことしたら見る人によっては通報されますって」

 「病室の次は牢獄かい? それもまた良い経験になるんじゃないかい?」

 「ならあなたの経験談を聞いた後に考えますよ」

 その後、数秒の沈黙が病室を包んだ。そして、沈黙を破ったのは医者だった。

 「梅雨理あのこをよろしく頼むよ」

 「……はい。あの、梅雨理から聞いたんですけど、あなたも政府の関係者だったって」

 一瞬、医者の眉がピクリと動いたように見えたが、彼はすぐにいつもの温厚な表情に戻っていた。

 「ああ、本当だよ。五年ほど前に楽園に連れてこられたんだがね。元は政府医療機関に勤務していたのさ。そこでちょっとした研究を行っていたんだよ」

 「研究……、ですか?」

 「ああ。退院する前に土産話として聞いて行くかい?」

 「できれば」

 医者は頷くと、よいっしょと龍一のベッドに腰掛けて話を始めた。

 「私はずっと政府の依頼で黒川という研究者と共にヨハについて研究していたのだよ」

 「黒川って……」

 「そう。あの子の父親だ。彼はヨハについてとても詳しい研究者でね、私は彼と協力してどうにかヨハを医療技術に役立てることは出来ないかと考えたのだよ。黒川も私の意見に賛同してくれた。だが、政府は違っていた」

 「えっ?」

 「政府は医療技術よりも、ヨハをいかに戦力として使えるか、それを念頭に研究を続けていたのだ。私と黒川はその意向に大きく反対した。が、自分で言うのもなんだが私たちは政府にとっては必要な人材だったのだろう。そこで逃げることさえ出来ない楽園に送り込まれたのだ」

 「……」

 「それから私は医者として、黒川は研究者としてそれぞれ生きることを決めた。黒川には娘と嫁がいる。やはり家族を支えるには政府に従って研究を続けるしかなかったのだろう」

 医者は足を組み、ふっと息を漏らして続ける。

 「そんなある日、黒川は私にある研究成果を持ってきた。それが『ヨハの恩恵』だ。しかもよりにもよって、その該当者が自分の娘と言うのだから酷な話だ。黒川は何とか政府にばれないように細工を手伝ってほしいと私に願った。対象を『者』から『物』に移すという提案は私が黒川にしたものだった。そして、優秀な彼はそれを容易くやってのけた。が、それは結局政府の言う戦力を作ったに過ぎない。もしこんなものが出回れば無用な犠牲者が多発してしまう。そう考えた彼は武器にあるロックを仕掛けたんだ」

 「ロック?」

 「そう。それは、彼が造った武器は黒川梅雨理の許可なくしては発動しない、というものだ」

 「!!」

 医者の言葉に龍一は思い当たる節があった。

 格納庫で『狩人ハウンド』と戦ったとき、何故か彼らが持っていた武器は何も意味を為さなかった。それなのに龍一のシューターだけは問題なく動いたのだ。

 それは、梅雨理と出会った日にデパートから脱出する際に医者のいうロックが外れたからなのだろう。具体的にどうするか、というのは分からないが、そう結論を出せば納得がいく。他の武器に関して梅雨理がどうしろと言った記憶はないのだから。

 けどおそらく梅雨理自身もこのことには気が付いていなかったのだろう。だからこそ『狩人ハウンド』の意表をつけたというのもある。

 「今回、君が生きて帰ってこられたのは間違いなくこのロックのおかげだ。黒川という研究者はどこまでも優秀だ。死んでもなお、人を守ることが出来るのだから。私にはそんなことが出来る自信はないというのに」

 龍一はなんて言葉をかければいいか分からなかった。医者もそれを察したのかいつもの柔らかい表情に戻った。

 「あ、そうだ。格納庫に行ったときに拾ったんだがね、君が持っていたほうがいいと思うから渡しておこう」

 医者はそういうと白衣のポケットから一対のグローブを取りだした。皮のような手触りだが皮ではない、というより龍一には何か分からない材質のグローブ。黒を基調とした色合いだが、手の甲の部分から指先にかけて一本の青いラインがデザインされていた。

 「これも黒川の研究成果の一つだ。君の持つシューターと同様にね」

 「え、じゃあこれもヨハの力を……?」

 「恐らくは。だが私が持っていたも仕方ないだろう。あの子に返すと言ったんだが、それは君に渡してくれと言われたのでな。多分ロックはすでに外れていると思うから使う際にはくれぐれも注意するように」

 「……はい。あの、あなたは俺たちの味方なんですか?」

 龍一のその質問に一瞬呆気に取られた医者だが、すぐに笑い声をあげて、

 「それはどうだろうか。私は医者だ。ここに運ばれてきた患者なら善人だろうが悪人だろうが治す。もし私が治したやつが君を襲うことになれば、私は君の『敵』という見方も出来ないことはないだろう?」

 「それはそうですね」

 「そんなことよりも、早く家で待つ人のところへ帰りなさい」

 龍一は医者に急かされるように病院を後にした。

 空は雲ひとつない青空が広がっていた。

 梅雨理を助けに行くときにも晴れていたが、あの時は青空を味わう余裕などなかった。そう考えると実に久しぶりの青空に感じられた。

 龍一は医者がわざわざ運んでくれた車でアパートの帰路を走る。

 いつもなら誰もいないアパートに、梅雨理が待っていてくれていると想うだけでなぜか心が浮ついていた。

 楽園内の車道を走る乗用車はいつもより軽快に見えた。







 同時刻。

 日本の首都・東京の銀座にある政府議会所。

 ヨハの発見とほぼ同時に建設されたこの建物では主に政府の権力者たちが楽園内の研究やそれに関連した事項について話し合うことがほとんどだ。しかし、その割に建物は巨大で、レンガを基調とした建物はどこか西洋のそれを感じさせていた。

 そして、そんな議会所の一室。

 一室と言っても八〇畳はくだらない大きな部屋で、部屋の真ん中に長テーブルとそのサイドにはそれぞれ二〇余りの椅子が置かれている。

 そして、その椅子を余すことなくスーツ姿の中年の男たち、あるいはマダムのような格好の女性が座っていた。

 そんなメンバーの一人が重たい空気をさらに加速させた。

 「さて、今日の議題だがわざわざ言うまでもあるまい」

 「先日楽園内で起こった騒動ですね?」

 「デパート爆破から始まった『狩人ハウンド』の動きか」

 一人の言葉を皮きりに各々が勝手に発言するものだから一気に騒然と賑わった。だが、そんな中、一人の男が小さくテーブルを一度叩くと瞬時に静まり返る。

 「確かに、今回の『狩人ハウンド』を活動を黙認することは難しい。だが、それ以上に注目すべきところがあるだろう。楽園内の住民、葉原龍一。そして、黒川の娘だ。たった二人で『狩人ハウンド』を壊滅寸前に追い込んだことはどう考えてもイレギュラーな出来ごとだ」

 「ですが、だからと言って私たちにどのような処置が出来ると? 彼らはあくまで一般市民。普通に見れば彼らは『狩人ハウンド』の脅威から住民たちを救った英雄です。それに、今回の騒動の一部始終を見ていたわけではないので、あまり強行策というわけにもいかないでしょう」

 「加えて彼らは未成年者だ。いくら楽園内の独自の法が存在するからといって乱暴をすればそれこそ楽園内で暴動が起きかねない」

 「そんなことは分かっている。だから、今回は見張りをつけることにした」

 男の言葉に一同は互いに顔を見合わせる。しかし男は構わずに続けた。

 「我々としてもイレギュラー分子を野放しというわけにはいくまい。かと言って今のままで我々が手出しできる余地もない。ならば、分子を把握するためにも見張りを付けるのが妥当だろう」

 「しかし、一体だれが?」

 「私は赤嶺遥あかみねはるかを推薦する。監督課の中で最年少だがその実力は間違いない。それに対象ターゲットにもっとも歳が近い方がなにかと警戒されにくいだろう」

 「若すぎる気もしますが……」

 「問題はないだろう。別に他国のスパイ調査というわけでもあるまい? 我々はただ楽園内のイレギュラーを把握しようとするだけだ。何も彼らに危害を加える気など毛頭ないよ」

 「分かりました。では、赤嶺を楽園に送り込む手続きを進める形でよろしいのですね?」

 「ああ、頼む。出来るだけ二日以内に送り込めるよう進めてくれ」

 






 

 龍一はアパートの駐車場に立っていた。

 医者から受け取ったグローブをズボンのポケットに突っ込んで、片手にシューターを持っている。

 「やっと帰って来たって感じだな」

 龍一が自分の部屋の前まで来るとなにやらいい匂いが鼻腔を刺激した。よく耳を済ませれば梅雨理の鼻歌が聞こえてくる。

 機嫌良く台所に立つ梅雨理を想像すると自然と龍一の顔は綻んだ。

 そして、ガチャッと玄関のカギを開けて中に入ると、

 「あ、おかえりなさい!」

 梅雨理の元気な声が聞こえてきた。

 龍一もまた元気に、

 「ただいま!」

 梅雨理は自分で買ってきたのか、ぴったりサイズの可愛らしいピンクのエプロンに身を包み、お玉を片手に持っていた。

挿絵(By みてみん)

 どうやら、鍋の中にある味噌汁を作っていたらしい。

 そんな梅雨理を見て、龍一はいつの間にか彼女の頭を優しく撫でていた。嬉しそうに目を細める梅雨理に龍一も笑顔になる。

 「とっても似合ってるよ」

 「えへへ。龍一のためにいっぱいご飯作ったんだよ! 早く中に入って入って!」

 龍一は梅雨理に急かされるまま奥の部屋に入った。

 すると、テーブルに並べられた料理を見て龍一は感嘆の声を漏らした。

 大皿に盛り付けられたカラ揚げにハンバーグ、卵焼きに海老フライやらポテトサラダまであった。

 そんな御馳走に息を飲んでいると、キッチンから味噌汁をお盆に乗せた梅雨理が得意げな顔でやって来た。

 「すごいでしょー? 私、これでも料理には自信があるんだ!」

 「マジですごいな! すっげー美味そうじゃん!」

 まるで子供のようにはしゃぐ龍一を見て、梅雨理も照れくさそうに頬を赤らめた。

 「今度は龍一が作ったご飯を食べさせてね?」

 「い、いいけど、俺はこんな美味しそうなもの作れないぞ? チャーハンとか野菜炒めとかホント簡単なものしか」

 焦る龍一に、梅雨理はゆっくり首を左右に振って、

 「龍一が私のために作ってくれる料理なら絶対に美味しいよ。それに気持ちが伝わってくれば私はそれだけで幸せなんだもん」

 「そ、そっか? じゃあ、次は俺がご飯当番だな」

 「やった!」

 「でもまずは、梅雨理が俺のために作ってくれたこの御馳走を味わうとするか!」

 「うん!」

 龍一と梅雨理はそう言うとテーブルを挟んで向かい合うように座った。

 顔を上げればそこには梅雨理がいる。

 梅雨理もまた、すぐ近くに龍一がいることを実感していた。

 こうやって誰かと一緒にご飯を食べられる幸せを二人はこれほど実感したことはなかった。

 窓の外から蝉の声が聞こえてくる。そんな小さなことですら幸せに感じていた。

 そして、龍一と梅雨理はお互いに顔を見合わせて自然と笑顔になる。

 お互いにこの時間を守りたいと心の底から想っていた。

 絶対に失いたくないものがある。そのことに対する幸せを噛みしめて二人は口をそろえて言う。


 「「いただきます!!」」



こんばんは、いづるときです!

今回で『狩人追討篇』が終わりです!!

五話構想ですが、一週間おきだと一カ月以上かかるとは……笑

イラストとともに文章もよくなるように頑張っていきますのでこれからもよろしくお願いします!


次回は三月八日に更新予定です!

ではでは、また次話に!!

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