ただ想いのままに
「おいおい、冗談はよしてくれよ。せっかく俺たち『狩人』の天下に必要な物と者が揃ったというのに、それをみすみす手放すはずもないだろう?」
荒沢をはじめ、『狩人』たちは殺気だっていた。
鉄パイプや金属バッド、そのほか普段は見慣れない鈍器のようなものを手にしている者もいれば、荒沢やその周りを取り巻く連中は各々『ヨハの恩恵』を手に持っている。
荒沢はさらに畳みかけるように言う。
「見たところ、貴様は武装集団とは違う世界に生きているただの一般人。いくら『ヨハの恩恵』を手にしたところで目当ての女は取り返せまい。だが、一つ感謝するぞ。貴様がもつ『ヨハの恩恵』は攻撃特化型ではない。つまり、一口に『ヨハの恩恵』と言っても様々な用途のものがあるのだな。これは実に大きな収穫だ」
かくゆう、荒沢の手には龍一のそれとは大きく異なる銃が握られている。これももちろんただの銃ではなく、ヨハを自動的に取り込むことによって実弾ではなく、ヨハを圧縮したエネルギー体を放出する特殊武器だ。
だが、それに怯える様子もなく、龍一は再びシューターを向い側にあるコンテナに向けた。
「俺だって、この人数をまともに相手にするつもりはないって言ったろ? あ、そういえばここの格納庫って主に何に使われているか知ってる?」
龍一の言葉に、荒沢をはじめとする『狩人』のメンバーはざわついた。
龍一は構わず続けた。
「第一八エリアを縄張りにしている『狩人』ならよく知ってるだろ? 第一八エリアは他のエリアに比べてブドウ畑が多いって。その用途の一つにワインの生産があるんだと。まあ、バイト先の北里理恵に教えてもらった知識なんだけど。で、この格納庫にはそうやって造られた葡萄酒が置かれてるんでしょ? というか、さっきまでアンタらが飲んでた酒がそうか」
龍一がそこまで言うと、今度は荒沢が鋭い目つきで問う。
「つまり、何が言いたい?」
「つまり、さっきシューターで穴を開けたコンテナの中には何があるって話だよ。もしそこに小さな花火でも入れようものならどうなるかってこと」
「っ!?」
一瞬で、『狩人』たちの空気は凍てついた。そして、それは龍一にある確信を持たせた。
そう。
自分が立っているコンテナの中身はワインだということに。
「鎌はかけてみるものだね。正直、この中身がワインだって確証はなかったから。けど、アンタらの態度を見てこの中身がワインだって分かったことだし――」
龍一はズボンのポケットから小さなネズミ花火を取りだした。そして、一緒にポケットに入れてあったライターで火をボッと付けると、迷わずにコンテナの穴に放り込んだ。
「お前ら、離れろ!」
荒沢の叫びと同時、龍一はシューターのボタンを押した。
向い側のコンテナにワイヤーが突き刺さり、もう一度ボタンを押すことで、まるでターザンロープのようにあっという間に向こう側へと渡る。
直後。
ドッ!! という轟音と共に、つい数秒前まで龍一が立っていたコンテナが木端微塵に吹き飛んだ。
それだけではない。
爆発の衝撃で床に漏れたワインに引火し、格納庫内はあっという間に真っ赤に照らされた。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアア!!」
荒沢の雄たけびが響いた。
しかし、そんなものに構っている余裕など龍一にはなかった。これだけの人数をあの一撃でいつまでも足どめできるはずもない。
現実に、すでに龍一の立っているコンテナの下には数人のメンバーによって取り囲まれていた。
さらには、少し離れたところで荒沢が銃口を龍一に向けている。
(ヤッベ!!)
龍一はすぐさま別のコンテナに向けてシューターを構えるが、ワイヤーが射出されることはなかった。
というより、ボタンを押す前に誰かの投げた鉄パイプが龍一の右肩に直撃したのだ。
「ぐぁっ!?」
思わず痛みに声を漏らす龍一。そして、それを合図と言わんばかりに荒沢が銃の引き金を引く。
……。
無音だった。
いや、格納庫には炎がパチパチと音を上げていたのだが、銃から音は発せられなかった。
「何故……」
荒沢がポツリと呟く。
周りの『狩人』のメンバーも唖然としていた。いや、龍一も梅雨理も含めてその場にいた全員が。
荒沢は再び引き金をカチャカチャと引く。しかし、結果はさっきと同じで、何も起こらない。
「何故!? 何故作動しないんだ! 壊れているとでも言うのか!? おい女ぁ!」
荒沢の苛立ちは梅雨理に向けられたが、梅雨理にも原因が分からないらしく、激しく首を横に振っていた。
そして、慌てたように他の『ヨハの恩恵』を持つメンバーが武器を使おうとするも、機能するものは何一つない。
「やっぱり壊れているじゃないか!」
荒沢の剣幕に、肩を震わせる梅雨理。しかし、すぐに口を開いて、
「私は知らない! パパとママがあんたたちに殺される前に渡してくれたのは間違いなくそれなんだから!」
「バカなっ! 研究は完成していたはず! ならば何故これは機能しない!?」
荒沢はそう言って銃を地面に叩きつけた。
だが、この状況は龍一にとっては嬉しいハプニング。荒沢だけでなく、『狩人』全体が動揺しているこの瞬間を逃す手は無い。
龍一はこの隙に一気に梅雨理を助け出そうと、彼女の一番近くにあるコンテナにシューターを向ける。
そして、ボタンを押そうとした瞬間。
ゴバッ!! という鈍い音が響いた後、龍一の立っているコンテナがミシミシと崩れ落ちたのだ。
「!?」
何が起きたのか理解するまでもなく、龍一は地面に叩きつけられた。
そして、そこに立っていたのは荒沢。彼はその拳でコンテナを砕いたのだ。
「なめるなよクソガキィ! 俺たちは『ヨハの恩恵』を手にする前から他の勢力と対等に渡り切って来たんだ。その意味は分かるよな? 俺たちは『ヨハの恩恵』がなくとも、元々ある程度の戦闘力は持ち合わせているんだよ。そう。お前のような一般人を潰す程度の力をなぁ!」
荒沢はそう言うと、大きな拳を地面に叩きつけた。
ドバッ! と地面はまるで水のように跳ねあがり、龍一はその破片と同じように地面を何度も転がった。
「かっっはぁ!?」
息を強制的に止められたような感覚と、脳を揺さぶられたような感覚で吐きそうになったが、何とか寸前で食い止め立ち上がる。
そして、今しがた自分がいたところを見てゾッとした。
まるでクレーターのように地面が円状に抉られていたのだ。
荒沢は地面にめり込んだ自分の拳を引き抜きながら言う。
「『筋力増強ギプス』、コイツのおかげで俺の力は三〇〇%発揮できるのさ。一部の土木関係の企業で流通している代物でな。見た目はテープだが、これを腕に巻きつければ腕の筋肉が、脚なら脚の筋肉がこれだけの力を発揮するのさ。もちろん、これは『ヨハの恩恵』じゃあないぜ。楽園外のあらゆる国でも使われている技術だ。もっとも、あまりの破壊力ゆえに俺たちのような輩が手にすることはまず出来ないんだがな」
「おいおい……、聞いてないって……。そんなのアリかよ」
「全然、アリだろ」
荒沢はそう言うと、ニヤリと笑ってもう一度拳を地面に叩きつける。再び地面は呆気なく抉られ、その破片が勢いよく龍一に向って飛ぶ。
「龍一!!」
後ろから梅雨理の声が聞こえたが、今は破片を避けることだけに専念する龍一。
龍一は出来るだけ脚に力を込めて真横に跳ぶが、とはいえ生身の人間が、それもただの一般人ともなればその距離はたかが知れている。
二メートルほどしか飛べない龍一が、『筋力増強ギプス』によって生み出された攻撃を避けきれるはずもなく、小さな破片がいくつか身体に突き刺さる。
「ぐがぁぁああ!?」
痛みと共に、全身が熱く感じた。だが、龍一は止まることをしない。止まればそれこそハチの巣にされてしまう。
痛みに耐えながら地面を転がり、その上シューターを離れたコンテナに向ける。そしてボタンを押すと、見事にワイヤーは狙いのコンテナに突き刺さった。
が、そのコンテナは次の瞬間に崩れ落ちた。
もちろん、荒沢の仕業だ。
「芸がないな。もっとも、唯一の武器がそれだけでは無理もないが。しかし、こちらとしてもあまり時間はかけられない。貴様が無闇に放火などしてくれたおかげでな」
「それはどういたしまして」
龍一は痛みに歯を食いしばりながらワイヤーを引き戻す。
(ちくしょうっ! これじゃいずれ全部のコンテナが潰されっちまう! その前に早く梅雨理を助けねーと)
梅雨理は龍一の背後にいる。けれど、梅雨理を助け出そうとすれば必然的に荒沢に背中を向けることになる。
もしそうなれば、わざわざ言うまでもなく結果は見えていた。
だが、このままの現状でいても勝算があるかと言えば、答えは間違いなくノーだろう。
龍一はふと右腕のシューターを見た。
なんとなく、勘付いてはいた。ワイヤーの先端に刃が付いている時点でこれは立派な武器になるのだと。
これを人に向けて射出すればその殺傷能力はなかなかのものだろう。けれど、龍一はどこにでもいるようなただの一八歳だ。おいそれと人に刃など向けられる人間ではない。まして、『ヨハの恩恵』などと呼ばれている特殊武器ならなおさらだ。
葛藤。
龍一はほんの一瞬の間に頭をフル回転させて考える。けど、龍一の目的は梅雨理を助けること。それが頭に過った瞬間にシューターを荒沢に向けていた。
そして、ボタンを押す。
射出口から勢いよく、真っすぐ荒沢に向って刃が付いたワイヤーが放たれた。
「よほどあの女を助けたいらしいな。だが、ギプスで増強した筋肉で出来ることは何も地面を抉るだけじゃないぞ」
荒沢は言いながら、両腕で真横にあった二メートル四方のコンテナを持ち上げ、そのままワイヤーに向って投げつけた。
「っ!?」
そのめちゃくちゃな攻撃に、龍一は慌ててワイヤーを引き戻しながら真横に跳んだ。とはいえ、全身に走る痛みで自分がどれくらいの距離を跳んだのか、跳べているのか分からない状態だった。
直後。
ゴバッ!! という轟音と衝撃が龍一の全身を包みこんだ。
見ると、龍一の爪先わずか数ミリ先にコンテナが地面に沈んでいた。
「な……」
もはや龍一は言葉すら失っていた。
当然といえば当然だ。つい昨日までは普通にバイトして、普通の生活を送っていたのだ。それが今はいつ殺されてもおかしくない極限の状態に身を置いているのだ。
「貴様がどれほどあの女を助けたいかは分かった。が、貴様が言っていた通り世の中にはどうしようもないこともある。それはお前があの女を助けられないことも入っているだろう。だが、その姿勢は嫌いではない。もし、お前の持つ『ヨハの恩恵』を置いて素直に帰れば許してやらないこともないぞ?」
そう言ってくる荒沢の手には直径五〇センチほどの瓦礫が握られていた。恐らくこの要求を断ればあの瓦礫がものすごい勢いで飛んでくるのだろう。
後ろで梅雨理の声が聞こえる。
正直、意識すらなくなりそうな今ではなんて言っているのかよく聞こえない。恐らく「逃げて!」とでも言っているのだろう。
逃げ出したい、という気持ちがないと言えばうそになる。いや、逃げ出してもいいのだ。けれどそれは梅雨理を助け出してから、という前置きが必要になる。
だからこそ、龍一は立ち上がった。
ただそれだけの動作でも意識が飛びそうな激痛が全身を襲う。
そんな龍一を見て、荒沢は目を細めた。
「ほお? あくまでも女を助けるというか?」
「――だ」
「ん?」
「当たり前だ! そのために俺はここに来た! ここで梅雨理を諦めるくらいなら最初からこんなところに来てねぇよ!!」
「残念だ」
荒沢は何のためらいもなく、手に持っていた瓦礫を龍一に向って投げ飛ばした。それはまるで大砲のように凄まじい勢いで飛んでいく。
「龍一ぃいいいいいいいいいいい!!」
梅雨理の叫びも虚しく、瓦礫は龍一の腹部に直撃した。
「っ!!」
もはや声すら出なかった。代わりに口から血の塊が噴き出し、数メートル後ろに転がってからようやく止まった。
だが、今度は指一本ぴくりとも動かない。
「りゅ、龍一……?」
震えた梅雨理の声だけが格納庫内に響く。その直後に荒沢の低い笑い声が続く。
「バカが。どちらにせよ、『ヨハの恩恵』は俺たちの手に渡るというのに。命の無駄遣いは感心しないな」
荒沢はゆっくりと倒れ込んだ龍一に近づく。
他の『狩人』のメンバーもそれを楽しげに見ていたり、あるいは消火活動していたりと様々だ。
そして、荒沢は龍一の右腕にあるシューターに手を添えながら言う。
「悪く思うなよ少年。『狩人』にも守るべきものがあるのだ。貴様はそのための礎になったに過ぎないのだから」
荒沢が龍一の腕からシューターを外そうとした瞬間。
ガシッと龍一の手が荒沢の腕を捉えた。
「!?」
これには荒沢も驚きを隠せずに、その手を払いのけて一歩飛び退いた。
「龍一!?」
梅雨理の声に反応するかのように、龍一はその血まみれの身体をゆっくりと起こす。もうほとんど意識はないはず。それでもユラユラと左右に揺れながら立ち上がるその姿は荒沢に恐怖すら与えていた。
龍一は半開きの両目で荒沢を見据え、鉄の味でいっぱいの口を何とか動かす。
「お、お前らこそ……、悪く思うな……。俺の、わがままの……ために計画が……狂うんだからな……」
龍一のその言葉に、荒沢は激昂した。
「ほざくなぁああああああ! 死に晒せ、クソガキァァアアアア!!」
荒沢の大きな拳が、またも龍一の腹部を目がけて飛んでくる。
(あ……、もう身体動かねぇや)
避けようにも避けられない。そして、今日何回も聞いた梅雨理の名前を叫ぶ声が聞こえたと思ったら、直後に腹部にとてつもない衝撃を感じた。
「!!!!」
もう残りの血はないのではと思うくらいの量を口から吐き出し、今度はその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……。ったく、手間を取らせやがって。コイツはミンチにしてやらないと気が済まねーな」
荒沢が再び拳を握る。
「嫌……」
梅雨理の小さな声が聞こえた。だが、荒沢の拳が引くはずもない。
荒沢はそのまま意識のない龍一の頭上で拳を構える。
「嫌……!」
「あの世で楽しい日々を送るこったぁな!」
荒沢の拳が空気を斬る。そしてその先には龍一の頭がある。
「嫌……!!」
周りの『狩人』たちのテンションも最高潮に達していた。そしてそれに共鳴するかのように荒沢も歓喜の声を上げた。
「潰れろォぉおおおおお!!」
「嫌ァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
梅雨理のこれまでにないほどの大きな悲鳴が響いた。
だが直後、格納庫内は恐ろしく沈黙した。
何が起こったのか理解した者はそこには誰一人としていなかっただろう。気を失っている龍一はもちろん、荒沢も梅雨理ですらも。
そして、現状を説明するならば『狩人』のメンバーは一人残らずその場に崩れ落ちたと言うべきだろう。いや、中には数メートル先まで転がった者もいる。荒沢はそれに該当していた。
床に転がり落ちている龍一から数メートル先で完全に意識を失っていた。
いや、『狩人』だけではない。
さきほどまで炎上していた火も消え、コンテナもまた凹んだり、ひどいものは瓦礫の山となっていた。
そんな中で唯一意識を保っているのは梅雨理。
「ハァ……ハァ……」
とは言っても、息もだいぶ荒く、さらには目も半分ほどしか開いていない。
「な、何が起こったの……?」
ポツリと呟く梅雨理だったが、ふと自分のロープも切れていることに気が付き、すぐさま龍一の元に駆けつけた。
「龍一!? ねぇ、龍一ってば!? お願い、起きてよぉ!」
梅雨理は血まみれの龍一の身体を揺する。その度に梅雨理の涙が龍一の身体にポタポタと流れ落ちていた。
「ねぇ、起きてってばぁ! 私、龍一がいなかったら行く場所ないよ! 龍一がいなかったら私、全然楽しくないよぉ!!」
「――り」
「えっ!?」
確かに龍一の声が梅雨理の耳に聞こえてきた。梅雨理は慌てて手で涙を拭うと、龍一の顔を覗きこんだ。
すると、わずかに、けれど確かに龍一の唇が動いた。
「梅雨理……、無事でよかった」
「無事じゃないのは龍一だよ……」
また梅雨理の目から涙が溢れだした。安堵と嬉しさからくる涙。
龍一はそれを見て、フッと柔らかな笑みを浮かべた。そして、梅雨理の頬に手を添えると、
「はは。そうだな。病院に戻ったら、あの医者に怒られるだろうな」
「その時は一緒に謝ってあげる!」
梅雨理もまた笑顔を見せた。
たった一日しか会っていないのに、龍一にはその笑顔がとても懐かしく思えた。
「梅雨理」
「何?」
梅雨理の顔を見て、そして痛みを堪えながらはっきりと言う。彼女の耳に届くように。
「おかえり」
その言葉に、梅雨理の身体はピクッと反応した。
梅雨理が求めていた言葉。
家族だからこそ言ってもらえるその言葉に、梅雨理はとても温かい気持ちになった。そして、ギュッと龍一の手を握りしめて、
「ただいま!」
さすがに火事やら爆発音の連続もあり、誰かが通報したのか救急車やパトカーのサイレンが格納庫に向っていた。
いつもは静かな人気のない場所もあっという間にお祭り騒ぎといったところだろう。
そんな第一八エリアに二人の影があった。
格納庫から少し離れた高台に立つ二人。
一人は背中まである藍の長髪の女。もう一人は肩までの茶髪のショートヘアの女。
だが、二人に共通するものは服装。
動きやすさを求めたのか、脚のラインをくっきりと強調するジーパンに、トップスはシャツの上にカーディガンという簡単な服装だ。シャツこそそれぞれ違うが、黒のカーディガンはどうやら揃えているらしい。
格納庫の周りに集まるパトカーやら救急車を眺めながら茶髪の女は言う。
「最近、『狩人』が不穏な動きを見せたっていうから偵察に来てみたはいいですけどぉ、なんかやられちゃったみたいですねぇ?」
すると今度は藍の長髪が言う。
「詳しいことは分からないけど、こんな分かりやすい方法を『獅子団』が取るとは思えないしね。これはある意味面倒な方向に転がったかもね」
長髪の女は淡々と澄んだ声で言う。
だが、茶髪の女は言葉の意味がよく分からなかったのか、小さく首を傾げて問う。
「面倒ってどういう意味ですかぁ?」
「今回の騒動を引き起こした元凶を調べないと何とも言えないけど、仮に武装集団に恨みを持っている、あるいは否定派の人間の仕業なら、いずれ『月下指揮』にも何かしら仕掛けてくるかもって話よ」
「えー、確かにそれは面倒そうですねぇ。というか面倒ですぅ。ただでさえ他の勢力との均衡とかでピリピリしてるのにぃ」
茶髪の女はブーブー言いながら高台の手すりに顎を乗せた。
長髪の女は茶髪の頭にポンと手を乗せると、優しい笑みを浮かべ、
「大丈夫。『月下指揮』は私が必ず守って見せるから」
「私たちは何も心配してないですよぉ? 女帝と呼ばれている花柳時雨ならどこの馬の骨とも分からないヤツになんか負けませんからぁ。それにぃ、いざとなれば右腕の峰彩夏が何とかサポートしますからぁ」
「頼もしい限りね、彩夏。私はあなたたちを誇りに想うわ。だから絶対に勢力争いには負けないし、今回の騒動を起こしたヤツらにも負けない。私たちが女だからって舐めてる連中は全員痛い目に遭わせてやるのよ」
「それ賛成ぃ。というかぁ、男でも時雨さんに勝てるやつなんてそうそういませんよぉ。時雨さんはなんて言ったって楽園内最強の女の子なんですからぁ」
「あら? もしかしたら私より強い女の子はいるかもよ? 男に負ける気はないけどね」
「あははぁ。もし時雨さんより強い女の子がいるならぜひ会ってみたいですねぇ」
「ええ。私も同感よ」
こんばんは、いづるときです!
さあ、いよいよ来週で『狩人追討篇』もラストでございます!
まあ、『~篇』と言っても数話で終わったりする構想でしばらくいく予定なのでどうかその辺はご了承くださいませ笑
次回は3月1日に更新予定です。
ではでは、また次話に!