楽園の少女
二〇三〇年、六月一九日。
「いらっしゃいませ~」
外界と完全隔離された人工島『ヨハの楽園』の第三エリアにあるサンスイデパート。全三〇階の高層デパートの二〇階にある書店から青年の声が聞こえる。
特別感情というものが見えるわけでもなく、ただ機械的に挨拶しているようだ。
所々の癖っ毛が目立つ黒髪の青年は書店のレジに立っていた。右胸には『葉原』と書かれた名札が付けられている。
「お客様、カバーの方はおつけしますか? ……かしこまりました」
青年は淡々とレジに並ぶお客をさばいていく。その手際は決して悪くなく、むしろ賞賛するべきなのだが、だからこそ感情のこもっていない対応がより残念に感じる。
一しきり客をさばき終えると、同じくレジに立っていた女が苦笑いを浮かべて青年に話しかけた。
「龍一君さ、仕事テキパキこなすのはいいんだけど、もうちょっと笑顔を見せようよー」
女は綺麗な黒髪ストレートロングで、大和撫子という言葉を絵にしたような美女だった。しかし、龍一と呼ばれた青年はそれに見とれるでもなく、淡々とレジにあるお金を数えながら答えた。
「そういうのあんまり得意じゃないんで。というか、理恵さんが笑っているんだから、別に俺が笑顔を向けなくてもいいでしょ。お客はみんな理恵さんの笑顔があれば満足ですよ」
すると、理恵と呼ばれる女は悪戯に笑みを浮かべて龍一に近寄ってくる。
「ちょ、何をっ……!?」
「ほらほら、龍一君、笑ったら可愛い顔なんだから!」
理恵は龍一の頬を両手でつまんで横に引っ張った。
「ひょ、ひょっとっ! はひふるんへふか!」
数秒の拘束からやっと解放された龍一は理恵の手の感覚が残る頬をさすりながら彼女を見据えた。
しかし、理恵も引くことなく胸を張って、
「そんな可愛い顔出来るんだから笑わなきゃもったいないよ? 龍一君、学校に行ってたら絶対にモテるって!」
「いいんですよ俺は。フリーターで生きていくって決めたんですから」
「まだ一八なのにもったいないな~。私と同じ大学に入ったらいいのに。そうしたら毎日バイト時間以外でも一緒にいられるし!」
理恵は二コリと笑って見せた。その笑顔を見た龍一は少したじろいだようだが、すぐにいつもの無表情に戻り、
「別に付き合ってるわけじゃないんですから、いつも一緒にいなくてもいいでしょ」
すると理恵はプクーっと頬を膨らませて龍一に飛びついた。
「そうやってまたつれない態度とる~! こんなに私が好意剥き出しなんだからちょっとは応えてくれてもいいじゃなーい」
「ちょ、ちょっと!? 理恵さんこそ俺よりも二つも年上なんですから、もっとTPOをわきまえてくださいよ!」
「愛に歳は関係ありませーん! 私も人だから抑えられない衝動くらいあるんですー」
龍一と理恵がレジの中で暴れていると、奥から中年のおじさんが出てきた。
「理恵ちゃん、今日はもうあがっていいよー」
「あ、店長。はーい、じゃあお先に~。じゃあね、龍一君」
理恵から解放された龍一は呼吸を整えながら口を開いた。
「今日はいつもより早いんですね」
「あれー? 私がいなくなって寂しい?」
ここぞとばかりにニヤニヤする理恵から目線を背けた龍一は唇を尖らせて、
「べ、別にんなことないっての……」
「冗談だって! 今日は大学のレポートを片づけなくちゃいけなくてね。だから早めに切り上げてもらったの。あ、そうだ。休憩室にお菓子置いといてあげるから後で食べてね」
理恵はそれだけ言うと、レジの奥にある休憩室へと姿を消した。
「はぁ……、やっと静かになった」
「龍一君、最近理恵ちゃんと良い感じじゃないかー」
レジに残った小太りの店長がニヤニヤと龍一の顔を覗き込んでいた。
「どこがですか……。一方的に絡まれているだけですよ。年下だからって遊ばれてるんですって」
「そうかなー? 僕には良い感じに見えるけど。まあいいや。残り一時間も頑張ってね」
「はい」
それから一時間は、平日の夕方ということもあって、それほど多忙でも暇でもなく、ある意味良い感じで過ぎて行った。
次のシフトのアルバイトと入れ替わりに休憩室に戻った龍一は、机の上にメモと一緒に置かれたクッキーを見つけた。
『私からの愛情だよ☆』
と可愛らしい丸文字で書かれたメモを上着のポケットにしまい、龍一は丁寧に梱包されたクッキーを取り出して口に放り込んだ。
「……うまいな」
しかし、直後龍一は思い出す。
自分が、少しでも乳製品を口にするとお腹を壊すことを。
ギュルルルルル!
「ッ!!」
案の定、龍一のお腹はすぐに悲鳴をあげた。
(ヤベー! すっかり忘れてたぁ!)
龍一はすぐに休憩室を飛び出して、同じ階にある一般トイレに飛び込んだ。
「フー、何とか事なきを得たか……」
龍一は個室トイレに入るなり、安堵の息を漏らす。そして、数分の後に用をたすと、トイレットペーパーのホルダーに手を伸ばす。
が、龍一の身体は硬直した。
「え……? トイレットペーパーがない……?」
慌てて個室内を見回すも、予備のトイレットペーパーも存在しなかった。
(おいおい……冗談だろ? こんな大型デパートのトイレで下半身露出して扉の外に出られるわけないじゃんか! 隣の個室に行くことさえ許されないって!)
全身、冷や汗でびっしょりになる龍一。
次の瞬間。
バオッッ!! という轟音がデパート内に響いた。
「!?」
トイレにいた龍一にもその音は振動と共に伝わる。直後、外が一気に騒がしくなった。
「どうしたんだ!?」
と言いつつも、便座から一歩も動けない龍一。
そんな龍一に状況を教えるがごとく、デパート内にアナウンスが流れた。
『只今、一五階にて原因不明の爆発が発生。店内にいるお客様は落ち着いて、係員の指示に従って避難してください。繰り返します――』
「ば、爆発!? ヨハの制御でも狂ったか? けどこれはチャンスだ! 今なら人目を気にせずに隣の個室トイレに移れる!!」
龍一は迷いなく個室の扉を開けて、見事な動きで隣の個室へと駆けこんだ。
「よし! ここにはトイレットペーパーがあるぞ!」
だが、そうしている間にまたも爆発音が響いた。
そして、完全に用を足した龍一はさっきのアナウンスをようやく落ち着いて脳内で再生した。
「え……、一五階……? ヤバっ! 早く逃げなきゃ退路が絶たれっちまう!」
そう。
龍一のいる階は二〇階。つまり、下の階で爆発が起きているため、時間が経てば経つほどに逃げられなくなってしまうのだ。
状況を把握した龍一は勢いよくトイレから飛び出す。しかし、フロアには当然人はいなく、それどころか早くも煙と炎が勢いよく上昇してきていた。
「ちょっと、冗談じゃないって……。どこに逃げればいいんだよ!?」
龍一は周りを見回すも、すでに煙でフロアは充満している。
「ちくしょうっ! こうなったら……」
龍一はその場ですうっと大きく息を吸い込んで、そのまま吐きださないうちに煙の中に突っ込んだ。
アルバイトで雇われていたとはいえ、非常階段の場所は教わっていた。だから、そこまで猛ダッシュで駆けぬけようと考えたのだ。
だが、煙によって予想以上に視界が失われていた。
(くそっ! これじゃ前が見えない!)
それだけではない。目に煙が染みて、次第に目を空けていることすら困難になってきたのだ。
そんな悪状況の中で、いつまでも龍一が意識を保っていられるはずがなかった。
ドサッと。
煙が渦巻く中で、龍一は床に無防備に身体を放り投げた。
(ああ……死んだ……)
薄れて行く意識の中で、最後に思ったことだった。
意識を失ってどれくらいの時間が経ったのだろうか。
次に意識を取り戻したのはドッ! という何かが爆発した音と同時だった。
「ッ!?」
驚いた龍一は勢いよく上体を起こした。
すると、龍一の額に何か固いものがゴツンと当った。
「いっつー!」
反射的に額を抑える龍一。そして、龍一のすぐ横で同じく額を抑えて小さく震える少女の姿があった。
「えっ……、君は……?」
そこにいたのは小学生くらいの女の子で、茶髪の長い髪を後ろで二つにしばっていた。
「……先におでこぶつけたの謝って……」
「あっ! ごめん! 大丈夫!?」
「平気。それよりあなたは平気なの? あんな煙のど真ん中で寝てたんだから」
「あ、そういえば」
先のことを思い出した龍一は改めて当たりを見回した。しかし、そこには煙はなく、薄暗い物置部屋のように見えた。
「こんな小さな身体じゃ運ぶのも大変だったんだから。引きずったのは大目にみてほしいわ」
「あ、ああ。助けてくれてありがとう。え、っと君は……?」
「黒川梅雨理、一三歳。スリーサイズもお求めかしら?」
「……いや、結構」
内心、求めるようなサイズないだろ、などと思った龍一だがそれを心の奥に飲みこんで続けた。
「えっと、ここは?」
「二〇階にある物置部屋。といってもほとんど使われていないみたいだけど。ちなみに救助隊はまだ来ていないみたい。このままここに居ても結局、火に飲みこまれてお終いかもね」
龍一は驚いた。
もちろん、今置かれている危機的状況にもそうだが、それよりも一三歳と言っていた目の前にいる少女が自分より遥かに冷静に、そして的確な状況判断したことのほうが大きい。
「ず、随分大人びているな……」
「そう? ただ小さいときから大人の中に放り込まれていただけ……」
そのときの梅雨理の表情はどこか寂しそうに見えた。が、龍一はいちいち気を止めているだけの余裕がなかった。
「なんとかして下に降りないと!」
そう言って立ち上がると、物置部屋の端に人一人がなんとか出られそうな窓を見つけた。
龍一は急いで窓のほうに駆け寄ると、窓は簡単に開いた。しかし、そんなことはどうでもよかった。
窓から顔を出して下を見下ろした。
「……」
龍一は言葉を失う。
それはそうだ。ここは二〇階。たとえ窓から出られたとしても、その先にあるのはあの世への道だけなのだから。
「さっきここは二〇階って言ったじゃない」
その様子を見ていた梅雨理が冷ややかな目で龍一を見ていた。
龍一は窓を閉めて、トボトボ梅雨理のところまで戻って来た。
「……あのさ、君はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ? 恐くないのか?」
「恐くないわけないでしょ。けど、ここから出ても私に居場所なんてないから……」
「? それってどういう――」
その時、ドガッ! という轟音が二人の耳に突き刺さった。
「もう時間もないみたい……」
龍一の耳に梅雨理の声が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、物置部屋の扉が炎によって壊されていた。
「なっ!?」
動揺した龍一に、梅雨理は背中にあったリュックサックを差し出した。
「この中に逃げるための道具があるわ」
「えっ!?」
梅雨理はそういうとリュックサックの口を開けて見せた。
その中にはぱっと見だが、龍一の見たことのないようなものばかりが入っていた。中には拳銃っぽいものまである。
「何だ、これは……?」
「パパとママが造ったもの。『ヨハの恩恵』って呼んでた」
「いや、そうじゃなくて……」
「これを使えばこの高さからでも逃げられるわ」
梅雨理はそう言いながら、何やらリュックサックの中を漁りだした。そして、中から取り出したのは、長さ二〇センチほどの円筒。漆黒のそれは少女がもつとなんとも異様な存在感を醸し出していた。
よく見ると、円筒の上部になにやら何かの噴き出し口のようなものが取り付けられていた。
「よく映画なんかであるでしょ? ここからワイヤーが飛び出すの。パパとママが言うにはヨハを応用した物だって。だから映画のよりも優秀なはず」
「なんか、よく分からないけど、今はこれに頼るしかないってことはよく分かる気がする。どうやって使えばいい?」
「それを腕に装着するだけでいいはず。あとは、側面にあるボタンを一度押せばワイヤーが飛び出して、もう一度押せばワイヤーが自動でしまわれるって」
「こう、か」
龍一は梅雨理から受け取ったそれを右腕に装着した。
「ほら、君も早く! 炎がそこまで来てるって!」
窓まで駆けた龍一だが、梅雨理はその場から動こうとはしなかった。
「私はいいの……。言ったでしょ? 私は助かっても居場所がないんだって……」
「……」
龍一は見逃さなかった。
梅雨理がそう言いながら龍一から目を背けていたこと。そして、その横顔には涙が一粒流れていたことに。
「戯言ならあとでいくらでも聞いてやる」
それだけ言うと、龍一は少女のリュックサックを背負って、左腕で少女を抱きかかえると、再び窓に向った。
「ちょ、ちょっと!? 私はいいって言ってるでしょ!?」
「なんか、お前、俺と似てるんだよな。素直になれないとこ」
「へっ!?」
梅雨理の言葉を最後に、龍一は迷いなく窓から飛び降りた。
だが、直後に気が付いた。
ボタンが押せない。
右腕につけているものを右手で押せるはずもなく、左手は梅雨理で塞がれていた。
「っ、ぎゃぁああああああああああ!!」
空に龍一の雄たけびが響いた。
容赦なく重力によって地面に引きずり込まれるなか、梅雨理の声が耳に飛び込んだ。
「右腕をこっちに!」
「えっ!?」
訳も分からず、龍一は右腕を梅雨理に近づけると、梅雨理がボタンを押した。
バシュッ! と小さな音が聞こえた直後に、右腕に取り付けられた円筒から勢いよく柄のついたワイヤーが放たれた。
ワイヤーはどこまでも伸びて、デパートのすぐ横にあるマンションの屋上に引っ掛かった。
そして、そのまま龍一と梅雨理の二人はマンションの壁に張り付くことに成功した。
「んっ!」
梅雨理がもう一度手を伸ばして円筒のボタンを押すと、今度は勢いよくワイヤーがしまわれて、その勢いで二人はマンションの屋上へと運ばれた。
「ハァ……ハァ……。死ぬかと思った……」
右腕から円筒を外しながら龍一は言う。そんな彼を見ながら、梅雨理はポツリと呟くように言った。
「どうして助けたの……」
「……見捨てる理由がなかったから、かな。それに俺自身を見てるみたいでほっとけなかった」
「……何、それ」
「だって、お前泣いてたじゃん? 本当に死にたかったら泣かないんじゃないかなーって思っただけだよ。俺と一緒で素直になれないんじゃないかって」
一瞬、驚いたような表情を見せた梅雨理だったが、すぐに不機嫌そうな表情に戻って、
「私には居場所がないって言ったじゃない……。助けられても迷惑なの……。それにこの爆発だって……」
「居場所って、親のところに帰ればいいじゃねーか?」
「……死んだわ」
「えっ?」
「パパとママは殺されたのよ。そして、外界から完全隔離されたこの島では私は一人ぼっちってわけ」
「……、それで居場所がないって……」
「そうよ。それから私はさっきの物置部屋で暮らしてたの。あそこはほとんど使われてなかったし、仮に人が来ても隠れる場所には困らなかったから」
「マジかよ……、それでこんな大人びているのか……」
「そうかもね。これで分かったでしょ? 私が死にたかった理由が」
「俺さ、さっきから言ってるけど素直になれないんだよ」
「?」
龍一のその唐突な言葉に、梅雨理は一瞬キョトンとした。だが、龍一は構わずに続けた。
「バイト先でもそう。俺は早く自立したくて学校も行かずにバイトに専念してるって周りには言ってるんだけど、ホントは違う。行きたい大学に落ちて、それから何もやる気が起きなくてな。ホントは学校に行きたくて仕方ないはずなのに。それに、バイト先に年上の女の人がいるんだけど、こんな俺に好意を向けてくれるのもすごい嬉しいんだ。けれどそれに素直に向き合えない自分がいる。だからかな、何となく分かるんだよ。素直じゃないやつの気持ちが」
そう言って龍一は梅雨理を見た。
唇が小刻みに震えている。
「もう一回聞いてもいいか? 本当に死にたかった?」
「……」
梅雨理は俯いて顔を上げない。
しかし、屋上の地面にポタッと一粒の涙が落ちた。
「俺はすごい感謝している。君がいなかったら今頃俺は焼け死んでただろうし。こうやってここで話せるのも全部君のおかげだと思ってる。だから、こんな俺でも素直になるよ。ありがとう」
「……」
「だから君も今だけでも素直になってくれないかな?」
龍一のその言葉に、ゆっくりと梅雨理の唇が動いた。
「――たくない」
「ん?」
「死にたくない!」
梅雨理がやっと顔を上げた。
そのクリっと大きな瞳からは溢れんばかりの涙が流れていた。龍一が初めてみた梅雨理の子供らしさだった。
その表情を見て龍一は決心した。
この子には素直になろうと。
龍一は自分でもほとんど見たことの無い満面の笑みを浮かべて言った。
「良かった」
「……けど、私はどうやって生きていけばいいの……?」
とても小さく、ちょっと触れただけで壊れてしまいそうな少女。龍一だって決して裕福ではない。一人暮らしで、その家計はバイトできりもりしているのだから。けれど、自分はこの子に助けられた。だから、この子を今度は助けてあげたい。心からそう思った。
そして、考えるよりも先に龍一は口を動かした。
「もし、もし君さえ良ければ俺の家に来るか……?」
「えっ!?」
「あ、いやいや! 無理にとは言わないけど! というか、会ったばかりのやつの家に来るなんて安心できないよな!」
「……」
しかし、龍一の予想とは裏腹に、梅雨理は一瞬嬉しそうな顔を見せた。だから、すぐに龍一の言葉に顔を俯かせた。
「あ、いや……。俺もバイトで生活してるし、贅沢は多分させてあげられないと思うけど、それに狭いアパートでもいいって言うなら、来るか?」
「……いいの……?」
「お、おう! 君は命の恩人だし、それに女の子一人をこんな街中に放り出すのは危険すぎるっていうか」
「けど、迷惑になるし……」
「家事!」
「え?」
「家事を手伝ってくれる人ずっと欲しかったんだよなー。どこかに家事を手伝ってくれる優しい子いないかなー?」
龍一は横目でチラリと、座りこんでいた梅雨理を見た。
一瞬、キョトンとした梅雨理だったが、そんな龍一を見てクスッと笑うとようやく立った。
そして、とても子供らしい無邪気な笑顔を見せて言う。
「ここに家事が得意な可愛い女の子がいるけど?」
マンションの屋上から、青年と少女の笑い声が少しの間、心地よく響いた。
すっかり消火作業が済んだデパートの入り口に二人の屈強な肉体を持った男が立っていた。
全身、黒のスーツに身を包んでいるが、その筋肉の塊はそれでも威圧感があった。
「石松、ターゲットは仕留められたのか?」
ドスの効いた低い声が響く。
石松と呼ばれた男も巨体だが、それ以上の巨体の男が上からそんな声をかけてくるのだ。威圧感は計り知れない。
だが、石松という男もたじろぐことなく、淡々とした口調で言う。
「下で待機していたメンバーによると、ターゲットが降りてきた様子はなく、おそらく、上層部で焼け死んだかと」
「あまり理想的ではないな。本来の目的である『ヨハの恩恵』の回収に手間取りそうだ」
「……そうですね。アレを手に入れさえすれば、我々、『狩人』が一気に優勢になります。が、他勢力に渡るとこれ以上面倒なこともないですからね」
「他のメンバーに伝えろ。『ヨハの恩恵』の回収を最優先しろ、と」
「御意」
「ヨハの楽園」いかがでしたでしょうか?
まだ世界観が掴めないという方もいらっしゃるかもしれませんが、回を重ねるごとに理解していただけるように頑張っていきます!
ちなみにすでに二〇話以上のストックはあるんですよ?(笑)
ではでは、次の更新は二月八日を予定していますので、またお会いしましょう!!