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黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と占いを始めるに至った理由
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8話 新

 乗合馬車に揺られること半日以上。陽も落ちて辺りが暗闇に包まれたころ、ようやく雷華たちはソルドラムの町に着いた。

 ソルドラムはこれまでの二つの村とは違い、かなり大きな町だった。町の周りはぐるっと高い壁で囲われており、入口には兵士が数人立っている。道路も舗装されていて、村では見なかった背の高い建物も数多くあった。その中でもひと際高い建物が、町の中央にそびえ立っており、見る者を圧倒させる雰囲気を醸し出していた。


「どうかしたか?」


 きょろきょろと珍しそうに辺りを観察しながら歩く雷華を見て、ルークが聞いてきた。ルークの声は雷華以外の人間には吠えているようにしか聞こえないので、彼が話しかける分には問題ない。


「何でもない。どんな町なのか見てただけ」


 小さな声で返事を返す。今までの村は人が少なかったのであまり問題はなかったが、ソルドラムは夜でもかなり人通りがあるので、ルークと話すにはかなりの注意が必要だった。


 (犬と喋ってるなんて変な人以外の何者でもないからねえ)


 二人は無言のまま、本日泊まる予定の宿に向かった。

 ルークの案内で辿り着いた宿は四階建てのそれなりに高そうな宿だった。看板には『涼風の宿』と書かれている。本当にここに泊まるのかと眼で問いかけたのだが、ルークは一つ頷いて宿の扉の前に行ってしまったので、仕方なく雷華も後に続いた。

 扉を開けると、ふわりと爽やかな香りが出迎える。まるで草原にいるような、嗅いでいると気持ちが穏やかになってくる、そんな匂いだった。


 (なんだろ? すごくいい匂いがする……)


 受付には眩い金の髪をした綺麗な女性が立っており、雷華が近づくと眩しいほどの笑顔を向けてきた。


「いらっしゃいませ! 『涼風の宿』へようこそお越し下さいました。お泊りでいらっしゃいますか?」


「え、ええ。一泊お願いします。犬もいるのですけど、かまいませんか?」


「もちろんでございます。銀貨一枚になりますがよろしいでしょうか?」


 (高っ! 村で泊まった宿の倍もするのね)


「は、はい」


 雷華はバッグからお金の入った皮袋を取り出すと、銀貨を一枚取って受付の女性に渡した。


「ありがとうございます。ではお部屋にご案内致します」


 金髪美人女性はにっこり笑うと、後ろの棚から鍵を取り受付から出てきた。彼女は雷華たちを三階の一室に案内してくれた。


「お食事は一階の食堂で取ることも出来ますし、お部屋でお取りいただくことも出来ます。その場合は食堂の者にお申し付け下さいませ。お部屋までお持ち致します」


「わかりました、ありがとう」


「鍵はこちらになります。では失礼致します」


 女性は最後まで煌びやかだった。


 部屋の中はかなり広かった。大きなベッドにソファが置かれており、壁には小さな絵画、脇の机には花まで飾られていた。大きな出窓もあって外の様子がよく見える。


「今までの宿とは大違いね。でもこんなとこに泊まってよかったの?」


 ソファに座ってうーんと背伸びをしながらルークに問いかける。旅がどれだけ続くのかわからないが、無駄遣いは極力避けるべきではないだろうか。雷華は倹約家ではないが少し不安になった。


「ああ。あまり安い宿だと治安に問題があるからな」


「そっか、わかった。そういえばこの宿いい匂いがするよね。何でか知ってる?」


「これはソルドの花の匂いだ。そこに飾ってあるだろう」


 ルークは部屋の隅に飾ってある百合によく似た白と水色の花を顔で指した。雷華は花瓶に近づくと、くんくんと匂いを嗅ぐ。確かに宿に入った時に漂っていた匂いと同じがした。


「ほんとだ。うん、いい匂い……あれ、今ソルドって言ったわよね? じゃあ、この町の名前と関係あるの?」

 

 確かこの町はソルドラムだったはず。気になったので訊いてみると、思った通り答えは是だった。


「ああ、ソルドはこの町の特産品で町の名前の由来にもなっている。ここの領主の紋章にもソルドが使われているな」


「ふ~ん、領主サマねえ。どんな人なんだろ? まあ会うこともないだろうし、私には関係ないか。お腹空いたからご飯頼んでくるね」


 雷華はそう言って鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。


「会わないに越したことはないのだが……」


 一人になった部屋の中で、ルークはぼそりと呟いた。



「美味しかったあ! 満足、満足」


 宿の人に持ってきてもらった料理を食べ終わった二人は、ソファで食後のお茶を飲んでくつろぐ。この世界のお茶は紅茶によく似た味がした。好みで砂糖を入れたりもするらしい。


「そういえばさ、気になってることがあるんだけど……」


 雷華はルークに自分の役目を説明されたときからずっと引っかかっていることがあった。


「なんだ?」


「《色のない神》ってどうやって捜すの?」


「え?」


 雷華の言葉にルークは固まるが、彼女はそれに気付かずお茶を飲みながら話しを続けた。


「私はルークと《色のない神》とかいう、人だか神だかを見つけ出さなきゃいけないんでしょ? 捜し方はどうするのかなって思って。私は全然わからないし」


 そもそも雷華は《色のない神》が、どんな姿をしているかもよく知らない。というより色がないということは誰にも見えないということなのではないのだろうか。そんな透明な人物をどうやって捜すのか、皆目見当もつかなかった。

     

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