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黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と探偵の真似事をするに至った理由
71/86

71話 蔵

 蔵の中は昼間にも拘らずやはり薄暗かった。雷華は、ヴェインがカンテラを持って戻ってくるまでの間、見える範囲のものを調べてみることにする。土埃を被った大小様々な大きさの木箱が何十と置かれているが、その内のいくつかは扉付近にあるので問題なく調べられそうだ。手始めに、一番手前にあった大きめの木箱の蓋を開けて中を覗いてみた。


「土……じゃないわね。何かが干からびたもののような……よく分からないけど、何が入っていたにせよ四十年も経てばこうなって当然か、な」


 雷華はそっと蓋を閉じると、隣の木箱に手をかける。今度は書類がぎっしり入っていた。一番上の用紙を手にとって読んでみると、なんと恋文だった。甘い甘い愛の言葉が延々と綴られている。


「この手紙の主が誰なのか知りませんが、勝手に読んでごめんなさい」


 手紙に向かって頭を下げる姿は、傍から見ればかなりおかしなものだったが、幸いにして蔵にいるのは雷華一人だ。誰にも見られる心配はない。気を取り直して他の書類に眼を通す。


「これは報告書みたいね。こっちは……嘆願書かな」


 適当にいくつか書類を読んでみたが、これといって気になるものはなかった。書類の木箱から離れて他の箱を開けてみても結果は同じだった。ぼろぼろの衣類や錆ついた剣など、とても使えそうにないものばかり。


 (私の予想、というより彼の予想は外れてたみたいね)


 調べられる場所は全て調べたので、手についた埃を払って外に出ると、ヴェインがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「お待たせ致しました。縄はこちらで宜しかったでしょうか?」


 ヴェインが手にしていた縄は、太すぎず細すぎずちょうど良い太さだった。長さも十m以上はありそうだ。


「ええ、大丈夫だと思います。必要になるかはわかりませんけど。あれ、カンテラ二つも持ってこられたんですか?」


 予備かなとも思ったが、違う気がしたので訊いてみる。


「私とライカ様の分を用意致しましたが……」


 何か問題でも? 口に出していないだけで、明らかに眼がそう言っている。ここが二人が消えた現場だと知っている雷華は、当然一人で行くつもりだったのだが、ヴェインが行くと言うのならそれを止めることは出来ない。過去で見たことは言えないし、ここは侯爵家の敷地で彼は執事だ。どう考えても彼の意見に従わなければならないだろう。


 (しょうがない)


 雷華は一人で行くことを諦めた。


「分かりました。では行きましょう。ヴェインさんがいない間に中の様子を調べたので、私が前を歩きますね。暗いですから、足元に気をつけてください」


 カンテラにはすでに火が入っていたので、左手に持つとヴェインの返事を待たずに中に入る。足元を照らしながらどんどん奥に向かって進む。迂闊に進むと危険だと分かっているので、先頭に立つことだけは譲れなかった。


 (カンテラって自分の周りしか照らせないのよね。懐中電灯が欲しいわ……)


 つい、無い物ねだりをしてしまうくらい、カンテラの灯りは心許なかった。心の中でぶつぶつ文句を言っていると、過去で見た二人が消えた辺り、蔵の一番奥に辿り着いた。雷華は立ち止まって注意深く地面を観察する。


 (私の考えが正しければ、この辺りのはずなんだけど)


 雷華の見た二人の過去の最後は同じ。突然姿が消えて、真っ暗になった。そこから推察されるのは……彼らが特殊な能力の持ち主でない限り、一つしかない。


 彼らは落ちたのだ。全く光のない場所に。


「何をされているのですか?」


「ちょっと待って下さいね…………」


 すぐ後ろからするヴェインの訝しむ声に生返事しながら、雷華は慎重に一歩一歩前に進む。


 (懐中電灯なら遠くも照らせるからすぐ分かるのに……あ)


「あった」


「何があったのです?」


 探していた穴は三歩先にあった。ヴェインの言葉を無視して落ちないように気を付けながら、穴の縁ぎりぎりに膝をつく。後ろから息を呑む声が聞こえたので、彼の眼にも穴が映ったようだ。ワンピースが土で汚れたが、どうでもいい。カンテラで穴を照らしながら雷華は大声で叫んだ。


「おーい! 誰かいたら返事して下さーい! カリーナさーん! ニーグさーん!」


 ――――返事はない。


 絶望的な気分になったが、諦めずにもう一度叫んでみる。


「カリーナさーん! ニーグさーん!」


 …………ぃ


 今度は聞こえた。微かにだが間違いない。


「誰かいる! ヴェインさん、縄をかして下さい!」


「ど、どうするのですか」


「こうするんですよ!」


 急な展開に動揺しているヴェインの手からひったくるようにして縄を奪うと、雷華はカンテラの持ち手にくくりつけた。


「よし出来た」


 結び目を確認してから、ゆっくりとカンテラを穴の中に下ろしていく。


 (本当に真っ暗。彼らが突然消えたように見えて当然だわ。松明たいまつかなにか用意してもらわないと、こんなのじゃ駄目ね)


 かつん


 カンテラが地面に当たったようだ。穴の深さは六、七mといったところか。暗闇の中、カンテラの明りだけがぽっかりと浮かんでいる。見える範囲に人の姿は確認出来なかった。倒さないよう気を付けながら、縄を操ってカンテラを動かす。すると、服の一部分らしきものが見えた。しかし、それが限界だった。


 (これ以上は無理か。あとは下りてみるしかないわね)


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