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黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と探偵の真似事をするに至った理由
62/86

62話 談

「くぅぅっ、疲れたーーっ! ってこれ、さっきもやった気がするな……」


 部屋に戻りベッドに腰掛け、そのまま後ろに倒れ込む。ルークを捜しに行く前と全く同じ光景だ。違うのは、ルークがいることと精神的な疲れがさらに増したこと。リオンにもきゃあきゃあ騒ぐ女性たちにも、しばらく関わりたくないとかなり本気で思った。まあ、女性たちはともかく、リオンに関わらずにいるのは不可能なのだが。雷華は大きく溜息をついた。


「ライカ、大丈夫か?」


 ルークがベッドの上に飛び乗り近づいてくる。


「大丈夫」


 (このやり取りも二回目だな)


 ぽふっとルークの頭に手を置いてから、雷華は上体を起こした。部屋に一つしかない椅子に腰かけているロウジュを見れば、何故か武器の手入れをしている。これまで何日も一緒に過ごしてきたが、彼が武器の手入れをしてるところなど見たことがなかったので、雷華は興味本位で訊いてみた。


「へえ、ロウジュって意外とまめなのね。でも、なんで今やってるの?」


「さっきの騎士、ライカに色目使っててむかついたから、殺ろうかなって」


 ロウジュの手の中できらりと鋭く尖った短剣の刃が光る。


「やめんかっ!」


 ぼすっ!


 雷華の投げた枕がロウジュの顔に当たって落ちる。


「冗談」


 (嘘つけ! 結構眼が本気だったわよ)


 投げ返された枕を元あった位置に戻しながら、じとーっと疑いの眼差しをロウジュに向ける。彼は手にしていた短剣をしまうと、椅子から立ち上って雷華の隣に腰を下ろした。


「本当に冗談。殺さない約束、ライカとしたから」


「おや、ちゃんと覚えてたんだ。偉いぞ、ロウジュ」


 妖雷鳥の卵を取り返しに行ったときに交わした、人を殺さないという約束。ロウジュが忘れていなかったことが嬉しくて、雷華はよしよしと彼の頭を撫でた。まるで親が子にするようなやり方だが、彼は少しはにかんだ笑みを浮かべて嬉しそうな表情になった。ことんと頭を雷華の肩に乗せてくる。


 (うーん、ロウジュって実は甘えたがりなのか? そういえば最近口調が変わってきてるわよね。前はもっと冷たい感じだったのに。気を許してくれてるということかしら? ま、それはさておき肩が重いから)


「そろそろ離れなさ、い!?」


 どすっ


「っ!」


 手でロウジュを押し戻そうとした時、彼の上体が大きく前に倒れた。彼の背中にルークが跳び蹴りを入れたのだ。犬の身体でよくそんなことが出来るなと、雷華は感心する。


「ライカに気安く触れるな」


 犬歯を剥き出してルークが吼える。ロウジュも振り返ってルークを睨む。無言の睨み合いを続ける一人と一匹だが、雷華は気にせずベッドから立ち上ると、外していた外套を再び身に纏い、部屋の扉に手をかけた。


「さてと、ご飯食べに行こうっと。二人はどうする?」


「……ああ」


「……うん」


 止めるよりも話題を変えた方が早い、三人で旅をしてきて雷華が出した結論だった。



「ふぅ、美味しかったー。さすが王都といったところかしら」


 宿の目の前にあった『夢見る白猫』という名の食堂に入ったのだが、そこは安くて量が多く味も良いと、言うことなしの店だった。雷華たちは思う存分料理を堪能して部屋に戻ってきた。


「なかなか美味かった」


「満足だ」


 ルークとロウジュもそれぞれ満足そうな顔をしている。


「私、お風呂入りに行ってくるわ。もう四日も入ってないし」


 ゾール村から王都まで最短距離を通ってきたため、ずっと野宿をしていた。湧水や川を見つけては布を濡らして身体を拭いていたが、四日も風呂に入らないというのはなかなかの苦行だった。


「あ、そういえばまだ言ってなかったけど、最低でも六日は王都にいることになったの。私は適当に王都を散策して時間を過ごそうと思うんだけど、ロウジュはどうする?」

 

 外套を脱いで共同浴場に向かおうとしたところで、今後の予定について話していなかったことを思い出す。 


「六日……結構、長い」


「うん。準聖師の試験が終わるまで書庫には入るのは止めといた方がいいって」


 リオンに言われたことを簡単に説明した。


「分かった。じゃあ、町に帰る」 


「そうね、それがいいと思う。きっとお母さんが心配しているわ。そういえばロウジュの住んでる町ってどこにあるの? あの伯爵の領地なのよね?」


 心も体も醜い奴だった。しかし、奴が自分を暗殺しようとロウジュを差し向けなければ、彼と出会うこともなかったのだと思うと少々複雑な気分になる。もっとも、伯爵の罪を許そうなどとは微塵も思わないけれども。


「うん、ライカのおかげで伯爵は爵位を剥奪されるだろうから、そのうち違う貴族が来ると思う……ここから西にある町、アフェダリア。町の中央に大きな泉がある、果実酒も美味い……ライカ知ってる?」


「えっ、と、聞いたことあるような、ないような……さ、お風呂入ってこよーっと」


 ロウジュに町のことを訊いたのは失敗だったかもしれない。雷華は部屋の扉を閉めながら少し後悔した。

 そろそろ誤魔化すのが難しくなってきた。ルークは反対するかもしれないが、今後も彼に協力を頼むことになるのであれば、話した方がいいかもしれない。

 ロウジュならばむやみに言いふらしたりはしないだろう。そう考えると、少し気持ちが軽くなった。


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