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黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と旅するに至った理由
6/86

6話 休

「すっかり忘れてたわ……」


 雷華は再びがっくりと肩を落とした。


「ライカに預けた荷の中に小剣が入っている。それで俺を斬ってくれればいい」


「ええっ! 私がやるの!?」


「当たり前だろう」


「いや……でも……」


 (ど、動物虐待になるんじゃないの? いや、それ以前にこんな可愛い犬を傷つけることができようか? いや、できまい。でもお腹空いたしな……でも……う~~ん)


 雷華の頭の中では、天使と悪魔が激闘を繰り広げていた。


「早くしなければ、飯を食べ損ねるぞ」


「…………」


「おい、聞いているのか?」


「…………」


「ライカ!」


「……う、うにああああああぁぁぁぁぁっっっ!!」


「っ!?」





「ごちそうさまでした。美味しかったです」


「ああ、皿は置いといていいよ! 治ってよかったね!」


 食堂でパンとチーズ、それにポトフのような野菜たっぷりスープを食べた雷華は、受付で応対してくれた女将(食事する前に女将さんということが判明した)にお礼を言って食堂を後にした。


 さんざん悩んだ挙句、結局雷華はルークの血を飲んだ。この世界で生きていくためには、どうしても必要なことだという結論に至ったのだ。けして空腹に負けたからではない。


「ただいま。はい、パンとチーズもらってきたよ」


 部屋に戻るとルークが床に寝そべっていた。雷華の声で立ち上り、椅子の上に飛び乗る。机の上にパンとチーズを置いてやると、彼ははむはむと食べだした。


「ねえ、本当に痛くない?」


 向かいの椅子に腰を下ろして、食事中のルークを眺める。


「ああ、こんな傷なんともない。俺はこう見えても騎士だからな」


 (こう見えても、って黒犬にしか見えないんですけど。いや、でも人間の姿ルークって筋肉ついてたな……何を思い出してるの私は!)


 雷華はぶんぶんと首を振って、頭に浮かびかけたルークの人間の姿(全裸)を振り払う。


「ルークって騎士なのね。騎士って言えば、国に仕える武の達人ってイメージだけど……合ってる?」


「まあ、そうだ。騎士団は国王直属の精鋭部隊だ。簡単になれるものではない」


「へえっ、ルークって実は凄いんだね?」


「何故疑問形になる」


「だって実際にこの眼で見たわけじゃないし。ルークが人間になって私と勝負して、もし私が負けたら凄いって素直に認めるわ。私だって結構腕には自信あるんだから」


 雷華は力こぶしを作ってにやりと笑った。


「人間に、戻れたらな」


 ルークはぼそりと呟くと、椅子から飛び降りて部屋の隅に丸まった。


「あ、ちょっと。……ほらお水。パンとチーズじゃ喉乾いたでしょ」


 グラスに水を注いでルークの前に置く。


「……感謝する」


 ルークは気まずそうにしながらも、水を飲みだした。


「全く、犬の姿じゃ自分で出来ないんだから、遠慮せずに言いなさいよ。これから一緒に行動するんでしょ?」


「……善処する」


 (ルークって人間のときは融通の利かないカタブツだったんじゃないかしら)


 雷華は感情の読めない彼の顔を見ながらこみ上げてくる笑いを必死にこらえた。



「そろそろ、寝るわ」


 女将に教えてもらった宿の共同浴場で、汚れを落とした雷華は再びベッドの中に潜る。睡魔が再び彼女のもとへと訪れていた。


「ああ、明日はもうこの村を出るからゆっくり休んでおけ」


 ルークは先ほどと同じ部屋の隅で丸まっている。昼間はあんなに暑かったのに、今は肌寒いくらいだ。床は石で出来ているので、かなり冷たいだろう。小さく丸まる彼の姿を見て雷華は、スポーツバッグの中から昼間砂漠で頭に被っていたスポーツタオルを取り出した。


「ルーク、これの上で寝なさいな」


 雷華はタオルを二つに折って床に敷いた。ルークは細い眼をくりっと大きくして、まじまじとタオルと雷華を交互に見つめた。


「しかし、これは雷華の物だろう」


「気にしないで。砂漠で頭に被せてたからあんまり綺麗じゃないかもしれないけど、ないよりましでしょ。ルークが本当の犬ならベッドの中に入れてあげるんだけど……悪いけど、それで我慢してね」


「本当にいいのか?」


「もちろん。さ、ほら乗った乗った」


 雷華は躊躇するルークを両手で抱えると、ぽすんとタオルの上に置いた。


「お、おい!」


「はい、じゃあお休み~」


 タオルの上にルークを置いた雷華は、満足げにうなずくとベッドの中へと戻る。ルークはしばらく茫然としていたが、彼女の好意に甘えることに決め、初めて見る布の上に寝そべった。


「……ありがとう、ライカ」


 ルークの小さな小さな囁きは、夢の中にいる雷華に届かなかったが、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

  

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