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黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と旅するに至った理由
3/86

3話 話

 雷華はスポーツバッグと木刀を持って宿に入ると、受付らしきところに立っている女性に紙を見せた。足元には黒犬がちょこんと座っている。宿屋の中は外とは違い、かなり涼しかった。40代くらいに見える恰幅の良いその女性は、胡散臭そうに文章を読んでいたが、読み終わると一転してにこやかな顔に変わった。


「~~~~~~~~~~~?」


 話しかけられたが、雷華には何を言っているのかさっぱり理解できなかった。なので言われた通りこくこくと頷いてごまかす。すると女性が手を差し出してきたので、一瞬握手なのかと思ったが、お金を払えという仕草だと気づき、あわてて持っていた二分の一銀貨とかいう硬貨を渡した。


「~~~~~~~」


 女性はお金を受け取るとまた何か話しかけてきて雷華に鍵を手渡し、部屋の中央にある下りの階段を指差した。おそらくあの階段を下った先に部屋があるのだろう。そう判断した雷華は、女性に軽く頭を下げると階段を下りていく。すると、そこには外からでは想像できない広さの地下空間が広がっていた。どうりでどの建物も低いわけだと、雷華は納得する。


「部屋はこっちだ」


 今まで黙っていた黒犬が、雷華に話しかけてきた。


「そうなの?」


 自信たっぷりに案内する黒犬におとなしくついて行く。一度廊下を曲がったところで黒犬は歩みを止めた。


「この部屋だな。渡された鍵で開くはずだ」


 扉の取っ手の下にあった鍵穴に鍵を差し込んで回すと、かちっという音が聞こえた。


「ほんとだ。開いた開いた」


 扉を開けて中に入る。中はベッドが一つとテーブルに椅子という、至ってシンプルなものだった。地下なのでもちろん窓はない。とりあえず荷物を床に置くと、ベッドに腰掛けた。本音を言えば今すぐにでも寝たいのだが、そうもいかない。寝るのは黒犬から話を聞いてからだと、雷華は自分を叱咤した。


「話を聞かせてもらいましょうか」


「いいだろう。だが、その前に名前を教えておく。俺の名はルークウェル。ルークと呼んでくれればいい」


 黒犬はベッドの上に飛び乗り、雷華と少し距離をとって座ると自己紹介をしてきた。そういえば名前を訊くのも名乗るのもすっかり忘れていた。まあ、自分の身に起きたあり得ない事象の数々を思えば、それも仕方ないだろう。


「ルークね、わかった。私の名前は紫悠しゆう雷華らいかよ。雷華って呼んで」


「では、ライカ。お前の聞きたいことに答えよう」


「じゃあ、一番肝心なとこから。ここは一体どこなの? 何故私は砂漠にいたの?」


 雷華はもっとも知りたかったことをまず聞いた。


「ここはヴォラヒューム大陸南部にある国、マーレ=ボルジエだ。この村はアゾルという。そしてお前が砂漠にいたのは俺がんだからだ。ここはライカがいた世界とは違う」


「……は?」


 ルークからは驚くべき答えが返ってきた。文字や言葉から国が違うことは予想がついていた。しかし世界が違うとは……雷華はしばらく口を開けたまま固まってしまった。思考が事実に追いつかない。しかし、いつまでも放心しているわけにもいかず、とりあえず現状を把握しようと雷華は口から出ていた魂を無理矢理自分の中に戻した。


「世界が違うなんて、俄かには信じ難いけど……それよりも俺が喚んだってどういうこと」


 私がここにいるのはあんたのせいなのかと雷華は、黒犬、いやルークに詰め寄る。


「お、落ち着け、今から説明する。この国には昔から語り継がれている伝承があってな……」


 雷華の迫力に押されながらもルークは語りだした。結構な長さだったので、途中何度もあくびを噛み殺し、眠気と戦わなければならなかった。


 彼の話を要約するとこうだ――昔この世界には黒い神がいた。黒い神は長い間、世界をよりよい方向に導いていたが、ある時色のない神によって姿を変えられてしまう。色のない神は色のある黒い神が羨ましかったのだ。だが、黒い神の姿を変えたところで、色のない神に色がつくはずもない。そのことに気付いた色のない神は、黒い神を元の姿に戻すこともせず、姿を隠してしまった。それを知った違う世界の白い神は、黒い神を元の姿に戻すため、黒い神の世界を旅して色のない神を捜すことにした。そうして長い年月が経ったある時、二人の神は漸く色のない神を見つけるに至ったのだった――


 (意味がよくわからないけど、まあ昔話なんてこんなものなのかな……)


「で、結局どういうことなの?」


 伝承とやらを聞かされただけで、どうして自分がここにいるのかという答えを聞いていない。雷華は眼をこすって眠気を追い払いながらルークに結論を促す。


「黒い神が俺で、白い神がお前だということだ」


「……は?」


 ルークの爆弾発言に眼をこすっていた手が止まる。眠気も一気に吹き飛んだ。

 自分が神? そんな馬鹿な話があるのだろうか。雷華の頭の中で混乱と混乱が手を取り合って暴れ始めた。


「正確にはその宿命を与えられた人間だが」


「人間って……ルークは犬じゃないの?」


 どこからどう見ても黒い犬にしか見えない。まさか実は人間などと言うつもりなのだろうか。


「俺は人間だ。数百年に一度、黒い神の宿命を背負った人間が生まれるらしい。詳しいことは俺にもよくわからん。ついこの前まで俺はこんな姿ではなく、普通の人間だったのだ」


 そのまさかだった。


「ある日突然犬になったってこと?」


「ああ、朝起きたらこの姿になっていた」


 ルークは、まるで今日の天気を話すように淡々と話す。


 (何でそんなに落ち着いて話せるのかしら。私だったら、きっとものすごく取り乱してるわ)


「呪いを解かないと人間の姿には戻れない?」


 少しルークのことが気の毒に思えてきた。


「いや、少しの間だけなら可能だ」


「そうなの?」


「ああ」


 ルークは頷くと立ち上り、全身に力を入れ始めた。そして――


 ぼふんっ!


 そんな音とともにルークの姿が消え、代わりに見知らぬ黒髪の男が現れた。が、なんと彼は生まれたままの姿だった!


「これが俺の本来の姿だ。疲れるからあま……」


「公然わいせつ現行犯んんんっっ!!!」


 雷華は素早く立ちあがり、叫びながら回し蹴りを放つ。


「ぐっ」


 雷華の蹴りを鳩尾にくらった男は、うめきながら前屈みになり再びぼふんっ! と犬の姿に戻ったのだった。  

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