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黒犬と旅する異世界  作者: 緋龍
黒犬と占いを始めるに至った理由
17/86

17話 頼

 あっという間のことに受け身をとることもできずに思わず眼をつぶる。だが、覚悟していたはずの衝撃はいつまでたってもやってこなかった。


 (……あれ?)


 閉じていた眼をそっと開けると、先ほどまでニヤついた顔ではなく、とても真剣な表情をしたクレイの顔が間近にあった。彼は前のめりになった雷華を素早く受け止めたのだ。


「大丈夫か?」


 (この人こんな顔も出来るんだ……って、私もしかしなくても抱きしめられてる!?)


「わっ、すいません! 大丈夫ですから離してください」 


 いくら性格が最悪とはいえ容姿は完璧なのだ。そんな人物の腕の中にいて平常心でいられるほど、雷華の心臓は頑丈ではない。


「すまなかった、悪気はなかったんだ。ライカがルークのことを庇うもんだから、ついからかいたくなっちまってな」


「クレイ様の悪い癖でございます」


 ずっと部屋にいたはずなのに、存在を消して空気のようになっていたバルーレッドが静かに発言する。


 (バルーレッドさんのことすっかり忘れてた……じゃなくて)


「あの、そろそろ離してもらっていいですか?」


「それにしても綺麗な顔してるな。さっきの言葉は冗談のつもりだったけど、本当にしたくなってきたぜ」


 雷華の言葉が聞こえていないのか、クレイは彼女を抱いたまま話し続ける。


 (人の話聞いてよ!)


 右手をぎゅっと握りしめる。助けてもらったので殴るのはやめとこうと思っていたのだが、だんだん怒りが再燃してきてしまった。


「離せって言ってるで――」


 がぶり。クレイの顔面に一発入れようとした時、雷華の腰にまわされていた彼の腕にルークが噛みついた。  


「いっ!?」


 噛まれたクレイは思わず雷華を拘束する力をゆるめる。その隙に彼女はクレイの腕から抜け出した。 


「いつまでライカに触れているのだ!」


「ありがと。助かったわ」


 雷華はルークの前に跪くとぎゅっと彼を抱きしめた。



「それで? 本当の用件は何なんですか?」


 雷華は再び応接ソファに座りクレイと向き合っていた。ルークは彼女の横で放心したようにぼーっとしている。

 あの後、クレイの謝罪とバルーレッドの取り成しにより、しぶしぶ帰るのをやめ彼の話を聞くことにしたのだ。雷華の前にはいい香りのするお茶が、有能な執事の手によって置かれている。


「ああ。実はな、今俺に結婚の話が持ち上がっているんだが、それを断りたいんだ。相手は俺と同じ伯爵家の令嬢でな、面と向かって断れないから困ってるんだ」


 (政略結婚って、本当にあるのね)


 雷華は変なところで感心する。


「何で断りたいんですか? 他に好きな人でも?」


 政略結婚を断る理由といえばこれしかないだろうと思い聞いてみる。


「いや、違う。その伯爵家には暗殺や人身売買なんかの悪い噂があってよ。証拠がないから誰も表立って責めることができずにいるんだが、そんな家の女と結婚なんて出来るわけがねえだろ」


「なるほど、それはそうですね。それで私にどうして欲しいんですか?」


 お茶を飲みながらクレイの答えを待つ。


「あー、その、だな。ライカの占いは絶対に当たるってのは本当か?」


「私、占いなんて出来ませんよ」


「はあっ? だって町で評判になってるって」


「ああ、それは全部サ……ポールのせいで……まあ、もうそれはいいんですけど。とにかく、私は占いなんて出来ません。ただ、少し人の過去が見えるだけです」


 ルークの友達だから別に言ってもいいかなと思い、本当のことを話す。それを聞いたクレイはがばっとソファから立ち上がり雷華の両肩をがしっと掴んだ。


「それは本当か! 本当に人の過去が見えるのか!?」


「え、ええ」


「うおっしゃー! これであのハゲデブオヤジの尻尾が掴めるぜ! ライカは本当に《白い神の宿命を持つ者》なんだな!」


 クレイは興奮のあまり、雷華を掴んだままゆさゆさと前後に揺さぶる。


「ちょ、痛い! 痛いし、気持ち悪っ」


「わ、悪い! 大丈夫か?」


「だ、だいじょうぶ……」


 雷華は机に手をついて深呼吸をして吐き気がおさまるのを待つ。その様子に、今まで意識がどこか遠くの方にいっていたルークが我に返り、クレイに怒鳴った。


「ライカに何をした!」


「ルーク、落ち着けって。俺はちゃんと謝ってるだろ」


「謝ればいいという問題ではない! 気安くライカに触るな!」


「わんわんうるせえ。何言ってるかわかんねえっての」


「ルーク、私は大丈夫だから。ほら、お茶でも飲んで落ち着いて」


 雷華はルークの頭を撫でると、彼の前にお茶の入ったカップを差し出す。バルーレッドがルークに用意したカップはちゃんと(?)人間用だった。


「……ライカがそう言うならば」


 思いきり不満そうではあったが、ルークはおとなしく差し出されたお茶を飲み始めた。


           

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