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第三話 観測者の孤独(颯汰) 3

 その後は野郎二人でどうでもいい話をしたりして、夜が明けると颯汰と別れた。放課後には部室に顔を出す、と告げながら自宅に戻る颯汰を見送って、学校が始まってテスト返却が終わり、鷲見さんとの会話が終わる時間頃までを適当に過ごす。風呂と着替えだけ、自分に見つからないようこっそりすませたが。今朝不審は感じなかったから大丈夫だろう。それに、それこそ運がいいのだし。

「さて、そろそろか」

 戻ってきた、という実感も特にないまま(当たり前だ、たった一晩だし)、遅刻しただけみたいな気分で学校へ向かう。

「伝聞は観測か否か。匣の中の猫がどうなったか、伝える人間はまだ匣の中だろう? どこまでが本当なんだろうね」

「お前は友人か」

 お得意様用のVIPルームから出てきた自分にそう声を掛ける。昨日自分が云われたセリフを思い出しながら……思いだし……思い……ま、まあきっと大丈夫だろう。

「相変わらず気にくわない美形面だな」

「そう云うお前も顔だけはいいぜ」

 どう考えてもナルシストだな、この会話。しかしまあ、しょうもないな、いろいろと。俺もこいつも。いやこいつも俺だが。

「もう韜晦もいいだろうよ。ぼろ出したのは自分だしな」

「かっこ悪すぎるだろ……。もっとこう、ピンチの時に、とかじゃないか普通。睡魔って……」

 しかめっ面で昨日の俺がそう吐き捨てる。そこには同意だがね。

「睡魔だって魔だぜ。試験中に眠いとかピンチだぜ」

 とかなんとか。もう解決したことだしな。なかったことだ。

「まあ、運が尽きたらどうせ終りだしな」

「そうそう、危機感なんて意味ないぜ。死ぬときゃ死ぬだろ」

「……死んでも電気ショックとかで蘇生しそうだけどな」

「案外、日常に飽きたらそのまま死ぬんじゃないかって思うけどな」

 退屈こそが現代の死に云いたる病ってな。

「ああ、まあ……。まあいいや、で、戻ってそのまま?」

「ああ。ここで選手交代。客観的には一日分寿命が縮むな」

「嫌な云い方すんな」

 こいつにとってはこれからだから仕方ないのだろうけれど、こいつしかめっ面しかしてないな。

「久しぶりだな、運命アクセスの縦軸使うの」

「まあ、基本は余波(こううん)だけでどうとでもなるしな。バック……つうか本物以外は概ねみんな気付いちゃいないし」

「…………」

「…………」

 目の前で昨日へ跳ぶ自分。それを確認すると俺は廊下を後にする。

 そのまま教室に戻って、何食わぬ顔で授業を受ける。一日分だけ老けたクラスメートに気付く奴はいない。当たり前だが。もしかしたら、という凛は教室に居なかった。二宮がこちらを注視していたが、何かあったのだろうか?


 放課後、生徒会兼以下略の部室へいくと七花が居た。

「うす」

「こんにちは、先輩」

「あ、……ああ、間違えた、そうか、うん」

「はい? 先輩、どうしたんですか?」

「ああ、いや、そうだな、これからか」

 ここにいる七花はこれから昨日へ行くから、えーっと、昨日の説明か。

「七花、相談があるんだが」

「なんです?」

 ちょこん、と首を傾げる七花。素の時にするそう云う表情が可愛……げふんげふん!

 ともあれ。

 昨日の事を七花に話す。鍵のことや梯子のこと。あとは……大丈夫か、うん。テストを書き換えたらここに戻ってくるようにだけ付け加えておく。

「はぁ……わかりました。回りくどいんですね」

「いえ、七花さんがね……」

「それは先輩が云ったんでしょう?」

「ウロボロスだなー」

「それじゃ、いってきます」

「おう、よろしく」

 そのまま昨日へと消える七花を見送る。

「……」

「ただいまもどりました」

「おかえり」

 一瞬だった。消えた、と思った直後にはもう戻ってきた。ただし位置は少し変わっている。

「七花も位置指定って上手くいかないの?」

「へ? いいえ?」

 七花が先ほど自分が消えた所を指さす。

「いたらグロになるじゃないですか」

「…………」

「…………」

「……ま、まあ、グロの話はいいです」

「ところでグロと、あ、いややっぱなし」

「云いかけてやめないでくださいよ!」

「いや、適さない話題だから。失言だ」

「実現だ!」

「え? 聞いてる人いないのにそれやるの?」

「え? って素に戻らないで下さいよ! これ元々先輩が……」

 ああ。卵が先か鶏が先か。七花自身が俺にこうさせるのか俺がこうしちゃったのか……。ナナちゃんの教育が未来から決定されていく……。

 ……ん?

「あのさ、七花」

「はい?」

「七花って何でこんなタイミングでこの時代に……ん? 七花がこの時代に来たタイミングっていつ?」

「普通に入学時ですね」

「ああ、じゃあキリがいいからか。でも何で同級生じゃなく後輩? 多分だが、俺、そこは伏せるはずだよな?」

 性格的には。うっかり云ってる可能性もあるが。

 っていうか、そうか。もしかして七花は未来の俺を知ってるのか。

「禁則事項です♪」

「……殴っていい?」

「未来の先輩に口止めを……」

「しないな、俺は」

「いやはや……あれ? 未来の私って何処に居るんですか?」

「は?」

「いえ、あの、私、未来の自分にちゃんと会ってないかもです」

「いや、俺が未来の俺のことを聞いているんだが……」

「っていうかおにちゃんは殆ど無駄話しかしてませんでしたね……」

「あー、まあ、うん」

 七花が云うおにいちゃんってナナちゃんが云うおにいちゃんだから俺だしな、それ。そんな感じだよね。成長してないって事がよくわかったよ。

 あとちゃっかりおにいちゃんとか云うな。

「きっとそのうちわかりますよ、おにいちゃ……先輩」

「今わざと間違っただろう!?」

「失礼。噛みました」

「無理がある!」

「いえ、先輩。真面目な話、あまり未来は確定させない方がいいですよ?」

「俺の未来は知らない方がいいくらい暗いの!?」

「いえ、むしろ眩しいでしょうか」

「頭髪撤退!?」

 思わずおでこを押さえる。

「噛みまみた」

「タイミングがおかしい!」

 それより俺のおでこの話だ!

「まあそれは嘘ですけどね」

「じゃあ云うなよ!」

 未来怖い! っていうかナナちゃんと俺の年齢差を考えると……いや、まだ平気だろう。多分、多分な、うん。

「悩んでばかりいるとハゲますよ?」

「お前のせいだよ!」

「ってことは頭は使わない方がいいんでしょうか? むしろ髪が多いのは悩みの無いようなお気楽野郎ってことですか?」

「いきなり口悪いなぁ!」

 頭髪に何か思うことでもあるのか、七花。もしくは年上好きとかな。

「まあ、先輩に格好良く居てもらいたいとは心から思いますけどね」

「ん? なんで?」

「気付いてると思いますけど……私の初恋は先輩ですから。初恋の人には格好良く居てもらいたいじゃないですか」

「あー、まあ、うん」

 そうだけど。なんか微妙ーな気分だ。いや、別に、そんな、ねぇ? もにょもにょする。使い方あってるのか?

「二人しかいないんだ?」

「あ、おはようございます、六槻先輩」

「こんにちは、七花ちゃん」

 部室に入ってきた颯汰が自分の席に座る。

「そう云えばお二人を今日は見てませんね」

「凛は教室で見たが……テスト返却を終えてバックとあって教室に戻ったら居なかったな」

「ふうん? どうしたんだろう?」

 颯汰は何か考えるようにした後、『視点ずらす?』とアイコンタクトを送ってきた。

「ああ、そうか」

 今、この部室にはそっち側だけが固まってるのか。

「どう思う……? 普通の私用だと気が引けるというか……」

「その辺の判断は、僕には出来ないんだよね。だからほら、九十九君に聞こうと思って」

「うん? 先輩達は何の話を?」

「運に愛された人間と、運命を弄ぶ人間(バケモノ)の違いの話、かな?」


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