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プロローグ とりあつかいせつめいしょ

○プロローグ とりあつかいせつめいしょ


 毎月のようにかえってくるテスト結果を興味なさげに机に突っ込んだ。興味なさげにとか云いながらもちろん点数は確認したけど。三十五点。うん、悪くない。悪くないよ! だって隣の奴五点だしな!

「はふう」

 隣の五点がため息をついて机に突っ伏した。

「また最低点だ……」

 サイドポニーの房が机からだらん、と垂れる。テストの度に繰り返される光景だ。教室中がさわさわと雑音で満たされる。みんなテストの結果を確認し合っているのだ。教師はまだ生徒の名前を呼んでいる。

「わたし、来年もここにいられるかなぁ……」

「まあ、今まで平気だったんだから平気だろ」

「うん……ありがと」

 そう云ってやっと顔を上げる。サイドポニーが揺れて、上目遣いな大きめの瞳が向けられる。幼く見える顔立ち。その割に胸はげふんげふん。いや、今のは忘れてくれ。超低空飛行(コンタクト・リミット)こと三鶴城凛は力なさげに教室を見渡した。

「あ、そう云えば圭祐くんはどうだったのさ」

「ん? 俺?」

 俺は机に突っ込んだテストを引っ張り出して凛に見せた。三十五点。

「このっ、ブルジョワめっ!」

 凛の大声に教室の視線が集まった。一瞬だけ教室が静かになって、次の生徒を呼ぶ声がやけに大きく聞こえた。すぐにざわざわと「ついに……?」「三鶴城さん……」といった声が教室を満たす。

「ちっ、違うっ、これを見ろぉぉ!」

 自暴気味に凛はテスト結果を掲げた。五点。教室中の視線が五点に集まる。「ああ、やっぱり」「さすが超低空飛行(コンタクト・リミット)」という声が聞こえ始めると、凛は赤くなった顔を覆って机に突っ伏した。俺はその肩をぽんぽんと叩いてやることにした。

 その直後、教師からテスト結果を受け取った少女がうずくまって泣き出した。教師は困った様な顔をしてかけるべき言葉を探している。周りに彼女の友達が集まる。

「あー……」

 何回かに一回はこういう事があるけれど、やっぱり慣れない。来月から一つ席が減る。五点未満で即転校。それが数少ない、全員に等しく課せられるルールだ。


 国立新能力開発室付第一学園。通称ルーレット学園には毎月百問四択テストがある。一問一点で五点未満は即転校。そしてその問題用紙は、白紙。完全に運任せである。幸運強運凶運狂運、運だけが全てのこの学園は実験施設みたいなもので、運命をなんちゃらとかいう大義があるらしいが、もっぱらゆとりも真っ青な教育プログラムで駄目人間を量産する効果くらいしか得られていないに違いない。個人的には大歓迎だが。

 成績(要は運)で待遇も違う。運の良い奴はとことん恵まれて幸運になっていくが勿論一度でも失敗して五点を切れば即退場。狂ってるとしか思えない。個人的には大歓迎だが。

 平均値で決まるランキングが高ければ購買のパンが取り置きできたり、スペシャルな学食メニューを優先的に享受できる。しょうもないな。個人的には大歓迎だが。

 基本的には妥当に二十五点前後をうろうろとするわけだが、勿論おかしな運をもっている奴もいる(むしろ学園側はそいつらを狙っているのだろう)がもれなく微妙な二つ名付きで呼ばれてしまうのであまりオススメは出来ない。個人的には大歓迎だが。いいじゃないか、二つ名。燃えるじゃないか。

 有名なところで云えば、常識外れの高得点、平均九十四をマークしぶっちぎりのトップ、適当に買った株で巨額の富を得た傍若無人の『神のサイコロ(デウス・エクス・マキナ)』八百神姫菜。白紙の問題用紙からパターンを分析し徐々に平均値を上げていく『ラプラスの(ランダム・カルキュレーション)』二宮(下の名前忘れた)。常に必ず平均点をとる『世界の中心(アベレージワールド)』六槻颯汰。及第最低点五点を取り続ける『超低空飛行(コンタクト・リミット)』三鶴城凛。他にも毎回必ず採点に間違いがあり点数が変動する『完璧崩し再回答(チェックシート・パラドックス)』だの常に誰かの丸写しになる『コペンハーゲンの(ラーニングカンニング)』だの『追跡する忠狗(ディティアリアレーション・エピゴーネン)』だの『自陣自閉(フィックスレーダー)』といろいろいるが、生憎俺は本名の方を知らない。まあ縁があればそのうち出会うこともあるだろう。称号持ちクラスの奇人ならどうせ何割かは姫菜が気に入って引っ張ってくるに違いない。実際今までがそうだしな。


 部室がずらりと並ぶ廊下を奥へと歩いていく。天文部や将棋部のようなまともなものからオンラインゲーム研究会、脳内嫁を愛でる会といったキワモノまでが軒を連ねる廊下。部屋が余っているから少人数で名乗り放題。脳内嫁を愛でる会の活動風景はちょっと想像できない。それよりも所属の部活を聞かれたときに困りそうだ。しかし心なしか奥ほどカオス度が増しているのは気のせいだろうか、と奥から二番目の複合属性型メイドさん研究会を通り過ぎたときに思った。ちらっと覗いてみたがメイドさんはいなかった。もう一度見てみたがメイドさんはいなかった! いやまだ部室に来ていないだけだろう。うん、きっと。夢は叶えるものじゃなく見るものなのだ。

 後ろ髪を引かれつつ最奥の生徒会兼セカイ系実現同好会兼二次元愛好会兼ライトノベル部の部室につく。名前が長いのは各組織から姫菜が部員を引っ張ってきたせいだ。俺がどこだったのかはご想像にお任せする。

 扉を開くと、中には八百神姫菜しかいなかった。生徒会長兼以下略部長の八百神姫菜が座る奥の壁には「No MOE,No life」と書かれた紙が貼られている。俺じゃないぞ。

「あ、圭祐っ。テストどうだった?」

 目があうとぱあっと顔を輝かせて姫菜が尋ねてくる。

「私はね、私はね、九十六点だったよ」

 机の上に投げ出された答案を指さしながら、ほめてー、と差し出された頭を撫でてやる。完全に緩みきった顔。おおよそ『神のサイコロ(デウス・エクス・マキナ)』八百神姫菜のイメージにそぐわないおさな……無邪気さである。反動なのか二人だとぽんこつっぷりが前面に出る。それはそうとしてあまり不用意にくっつくのはやめて欲しい。なんというか、いろいろとその。

「ねえね、圭す――」

 ドアが開き、三鶴城凛と六槻颯汰がはいってきた。

 さっ、と姫菜が俺から離れる。

「やっほー。……うわっ、姫菜ん九十六点。すごっ、このブルジョワめっ、食券下さい」

 詰るかたかるかどっちかにしろ、凛。

「いつも通りだもの。どれでも好きなのを持ってっていいわよ、凛」

 無造作に食券をひろげる。ずらりと並ぶ限定食券の数々。九十点以上なんて姫菜以外とらないので、報償がインフレし放題だった。数も制限、値段も高額な食券がありがたみなく並んでいる。あれだ、デッキが全部光りまくってるレアカード、みたいな。どれをひいてもデスティニードロー制度。

 ちなみに俺も一応限定食券は配給されている。姫菜の前じゃ霞むが。「今年度じゃなければ普通に一位」などと慰められる俺の今回の順位は三位、平均だとまだ二位だが、それもそろそろ危ない。あれだ、高速剣とか使えるのかも知れない。死者の烙印。

 平均を下回っている凛には限定通常問わず食券の配給はない。普通に自費である。称号持ちなのに何故か称号ボーナスすらない。

「オペレーショントルネード!」

 唐突に叫んだ姫菜が机の上の食券にダイブする。巻き上げられた食券が生徒会室兼部室に舞う。

「麻婆豆腐!」

「肉うどん!」

「ステーキ!」

 口々に叫びながら適当な食券を掴む俺たち。ちなみに肉うどんや麻婆豆腐は通常食券なので姫菜には支給されていない。つか、

「一人欲望に直結して単に食いたい物云っただろ……」

「圭祐くんが何を云っているのかわからないよ」

 と凛が目をそらすフリをしながらこっちの手元をのぞき込んでくる。俺は気付かない風を装いながらさりげなく手元を隠す。空いた距離を詰めるように身を乗り出して俺の食券をのぞき込もうとしてくる凛。もう一段階ひいてみる。更に身を乗り出す凛。もうさりげなさとか一切なかった。

「八百神さん、こっちにほしいのある?」

 配給された通常食券を姫菜に見せている颯汰。恐らくわざとなのだが、食堂は食券機が行列になりカウンター自体はそのせいかあまりならばない。つまり、配給されている生徒が金額以上に優遇されているのだ。

 普通(俺とか二宮とか、あと普通にたまたまいい点とった生徒)は通常限定両方配給されるのだが、インフレしすぎた姫菜は限定ばかり配給されるので称号ボーナスで通常食券が大量配給されるミスター普通こと颯汰とよくトレードをしている。

「で、お前はいつまで人の手元に興味津々なんだ」

「え? いや、何のことだかわからないよ」

 手を左右に振る。凛の目がそれを追う。猫みたいだ。

 手の動きに合わせてふらふらと彷徨う凛の視線。少し大きく動かすと首も動く。その様子に油断していると。

「ゲットーっ!」

 ぶんっ、と風を切る音を出しそうな勢いで伸ばされた凛の手が空振った。

「…………」

「………………」

「じゃあこれとこれ」

「はい。じゃあ僕はこれを貰おうかな」

「どうぞ」

 向こうでは二人がトレードを成立させていた。

「圭祐くん」

「うん?」

「ステーキ」

「え? ああ、俺が素敵だって話か」

「つまらないよ」

 じとーっとした目を向けられる。

「…………」

「…………っ」

 再び伸ばされた手をひょいっとかわす。

「ちなみにさ」

「え?」

「実はこれステーキの食券じゃないんだけど、とか云ったらどうする?」

「……え? まあそれはそれで」

「いいのかよ」

 俺は呆れたという風に力を抜……手をかわした。

「…………」

「……なんかさ、ひっこみつかなくなるときってあるよね」

「ねえよいいよひっこめよ。目的を見失うなよ」

「逃げられると追いたくなるっていうか」

「獣かよ」

 とかいいつつこちらも同じだった。もう食券は渡してしまってもいいのだが、手を伸ばされると、

「よっと」

「…………っ」

 つい避けてしまう。なんだろうな、つい、としか云いようがない。さっきは猫のようだと云ったが、実のところ犬っぽいかも知れない。小型の室内犬的な。つい構って意地悪したくなる。……それってなんか小学生みたいだな。

「いや、本当に。そろそろ渡していいとは思っているんだよ?」

 もう一度手をかわしながらそう云ってみる。

「なんでそう云いながら避けるのさっ。言動が一致してないよ」

 頬をふくらませて拗ねてみせる凛を見てると、もう少しこうしていたくなる。

「二人とも、随分仲がいいみたいね」

 姫菜がこちらを眺めながら呟いた。

「ひうっ……」

「うん? うん」

 別にその通りなので普通に頷く。対人モードで強き目な姫菜の視線がこちらを向いている。そう云えば猫をかぶると云うが、猫って愛想なくないか? 犬の方がよくない? みんなが居ると強気になる姫菜は虎かぶりだが。何となく今虎の着ぐるみなぽんこつモードの姫菜を想像してしまった。結構似合うかも知れない。

「圭祐、話聞いてる?」

「聞いてるよ」

 嘘だけど。

「……もう一度云ってみて。話聞いてる?」

「聞いてるよ」

 嘘だけど。

「…………はぁ」

 ため息をつかれた。モノローグバレバレである。そう云えば『嘘だけど』ってフレーズで誰を思い浮かべるだろうか? エナメル的な? 青春男的な?

「九十九君は思考が飛びまわるよね」

 そう云うお前は思考が読めないぞ、颯汰。

「そうかなぁ、結構普通だと思うけど」

「いや、ナチュラルにモノローグと会話すんな。そんなキョ○みたいな描写システムとってねえよ」

 そのシステムがあるかないかの明示は後々きいてくる。叙述トリック的な部分で。あ、まあもちろん云ってみただけだけど。

「私は圭祐の考えてることが結構わかるけどね」

「付き合い長いからな」

「あれっ? 僕のターンもう終りなの? 短くない?」

「ターンってなんだ、ターンって」

「九十九君の数少ない男友達なのに」

「口に気をつけろ口に。数少ないとか云うな」

 友達は数じゃない。そんな知り合いレベルの友達が百人いたところでなんだというのだ。別に負け惜しみじゃない。

「――人間強度が、下がるから」

「出来ないのが、友達なの?」

 新本格化物少女。いやなんか混ざっておかしな事に。ネタ的に何でもは知らなくていいです。知っていることだけで。

「僕たち、ずっと友達だよね?」

「エンディング早い!」

 会話が勢いだけの切り貼りである。どいつもこいつも思いついたネタを考えずにぶち込むから……。ついてこられるのか、これ。

「ググってわかる程度のネタは内輪ネタとは云わないわよ!」

「いきなり喧嘩腰!?」

「って平○読先生があとがきに書いてたわ」

「作家を巻き込むな!」

 虎モードの姫菜……恐ろしい子! やっていいことと悪いことがある! 悪ノリよくない! 他人の言葉を都合よく解釈するな!

「っていうか私、伏せ字ってあまり好きじゃないのよね。ハ○ヒ、エンジェ○ビーツ、戯○シリーズ、バカが○裸でやってくる、僕は友○が少ない、かの○ん、生徒○の一存、風に○りて歩むもの、ナハ○イェーガー、零と羊○い、渚のロブ○ター少女、蟲と眼○とテディベア。テト○ポッド、○急便、ホッ○キス。何よ。何で隠すのよ。何が後ろ暗いのよ。パロってはいてもパクってはいないんだから堂々としていたらいいじゃない!」

 権利とかいろいろあるんだよ! よくわからないが。長いものと伝統にはとりあえずまかれとけよ! 無意味に攻めの姿勢を取るな!

 ところで全裸とまる裸じゃ意味が同じだ。

「姫菜っ」

 頬に手を添えてこっちを向かせる。俺以外が姫菜の視界に入らないように。今の姫菜は背伸びしすぎてテンパって暴走している。いろいろと危険すぎだ。落ち着かせる必要がある。

「…………」

「………………ふにゃー」

 姫菜の頬が緩んでタレ目になる。よし、とりあえず大丈夫だ。

「うぅ……圭祐ぇ、凛ちゃんばかりじゃなくて私もかまってよぅ……」

「とりあえず今日はコイツを連れて帰る。これ以上はいろいろと危険だ」

 荷物と姫菜を掴んで帰宅準備をする。とりあえず一度落ち着いたからもう大丈夫か?

 部室に鍵をかけて、四人で出る。

「あ、ナナちゃん」

「おにいちゃんだー」

 校門のところでナナちゃんと出会った。幼さの残る――というか実際幼いのだが、ナナちゃんが俺を見つけて駆け寄ってくる。

「え?」

「…………」

「圭祐くん……」

 三人が微妙な目線をこちらに向ける。

 いや、違う、云いたいことはわかるがそうじゃない。俺は決してロリコンというわけでは。

「ロリコン……」

 ぼそっと姫菜が呟く。

「いや、違うから」

「いつの間にこんなこと知り合ったのよ……っていうかどういう接点……ロリコン」

「幼女と知り合いだからと云ってロリコンとは限らないだろう」

「でも……」

 三人が少し離れて俺を見る。

「うん、どっからみてもロリコンだよ」

「…………ナナちゃんはロリコンとか云わないよねー?」

「ねー?」

 可愛らしくそう答えるナナちゃん。ああ、純粋さに癒される。

「…………」

「…………」

「…………僕たち、ずっと友達だよね?」

「何故だ、何故今そのセリフ。しかもこのタイミングで疑問って意味が」

 その後語るも涙(適当)な弁明をしつつナナちゃんと別れた。いや、別れたって云うのは帰路についたという意味で決して元々付き合っていたとかそう云うことではないのである。と、思わず付け足してしまうような時間でした、はい。


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